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『融資地獄』連載

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第1回 融資引き締めのきっかけをもたらした「かぼちゃの馬車」事件を振り返る

目次

スルガ銀行、レオパレス21……。名だたる企業が今ニュースに登場し、惨憺たる不動産業界の現状が露呈しています。しかし、これらは不動産業界において公表されていなかった氷山の一角に過ぎません。本連載では、全ての不動産投資家がこれらを対岸の火事として受け止めず、自らが融資地獄への一途を辿らぬよう、事件の発端を振り返りながら、万が一の際の救済方法を伝授します。

※本連載は2019年4月、幻冬舎より発売予定の書籍『融資地獄「かぼちゃの馬車事件」に学ぶ不動産投資ローンの罠と救済策』の内容を一部抜粋・改編したものです

エリートサラリーマン大家たちを返済不能に陥れた「かぼちゃの馬車」事件

「購入したのは2016年です。販売価格は土地と建物を合わせて1億円程度で、スルガ銀行の金利は3.5%。高額なローン負担に迷いもありましたが、営業マンから『家賃収入が保証されているからリスクは少ない』という説明を受けて購入に踏み切りました」

そう語るのは、2016年に「かぼちゃの馬車」を購入した大手製薬会社に勤めるAさん。30代半ばにして、返しきれないほどの借金を背負ってしまいました。

新築シェアハウス「かぼちゃの馬車」。

タレントのベッキーさんをイメージキャラクターにして、「女性のシンデレラストーリーを応援する」をキャッチコピーに、テレビCMが大々的に流れていたのを覚えている人も多いかもしれません。

問題が明るみになったのは、スマートデイズが2018年4月9日に民事再生法を申請したときのことです。同年1月には、サブリース賃料の支払いが停止したことにより、すでに社会問題化していましたが、そうした最中での破綻劇でした。

スルガ銀行による融資が止まったことが破綻の大きな要因です。シンデレラをお城に連れて行くはずのかぼちゃの馬車は、実はとんだ「毒かぼちゃ」だったわけです。

2012年8月に創業以降、2013年7月期には売上高4億4,500万円だったものが、2017年3月期には316億9,600万円と勢いよく成長していたスマートデイズ。設立わずか5年で、約800人に1万1,259戸以上の新築シェアハウスを販売していました。

そのターゲットは医師、士業、上場企業の会社員などいわゆる「高属性」で、年収の高い世間的にエリートといわれる人たちでした。

悪徳な業者から言わせれば、高額融資が引きやすい、いわば「美味しいカモ」です。

ノーリスク・ハイリターンと謳われた「長期間サブリース契約」の罠

スマートデイズは、投資の強みとして「長期間のサブリース契約」を押し出していました。ここで、ご存知ない方のために、サブリース契約の仕組みを解説します。

まず物件オーナーとサブリース会社があります。
サブリース会社は、オーナーから物件1棟すべてを借り上げて、毎月まとめて家賃を支払います。これをサブリース賃料(家賃保証)といいます。
つまりオーナーからしてみれば、サブリース会社が入居者となり、毎月の家賃を支払ってくれるというわけです。
 
サブリース会社はオーナーから一括借り上げした物件をさらに別の入居者に貸し出す「転貸」を行います。どのような契約状況なのか、基本的にオーナーからはわかりません。
たとえ空室があっても家賃が入るため、実態はガラガラであっても、そこに気が付かないのです。

このようなサブリース契約は、区分マンションはもちろん、地主を対象とした新築アパートメーカーでも一般的に行われているもので、長期契約を謳いながらも途中で家賃の引き下げがあったり、契約内容をよく読めばオーナーにとって不利な条件になっていたりすることは、かねてから指摘されて問題となっていました。

「かぼちゃの馬車」では、高額な家賃保証が30年間にわたるということで、投資家の関心を高めていました。
特に一般的なサブリースとスマートデイズのビジネスモデルが異なるのは、入居者の紹介料収入によってオーナーに一定の賃料を保証すると主張していた点です。

同社の入居ターゲットは地方から職探しに上京してきた女性で、スマートデイズ側の説明によると、「企業に対して入居者を人材紹介することで紹介料を得て、サブリース家賃も保証する」としていました。

実際にはこのスキームはうまく稼働せず、シェアハウスはガラガラで空室だらけでした。
これは隠された秘密でもなんでもありません。数年前からインターネットで「かぼちゃの馬車」と物件検索すれば大量の空室が溢れており、私が前著を執筆していた2017年時点でも「ググれば、わかる」事実でした。

なお、全国賃貸新聞の調べによれば、人材派遣会社への紹介手数料は年収の25%、年収300万円であれば、75万円が同社に入ると説明されていました。そのため、相場よりも高い家賃であっても、紹介料によって黒字になるというのがスマートデイズの提案するビジネスモデルだったのです。

しかし、このビジネスモデルは失敗に終わっていました。

シェアハウスは入居者ゼロなのに、なぜ賃料がもらえたのか?

破綻したビジネスモデルに加え、新たにシェアハウスをどんどん建てていったため、需給バランスが崩れていくのは当然の結果といえるでしょう。

こうしてガラガラのシェアハウスは、入居者からの家賃収入が見込めないまま、満室時以上のサブリース家賃をオーナーに支払い、さらに次々と新たに物件の販売を続けるという、まさに自転車操業状態に陥っていったのです。

この後、スマートデイズは経営が困難となり、2017年10月にはオーナーに対して一方的にサブリース賃料の減額を通知。さらに、2018年1月の中旬にはオーナー向けの説明会を開催し『経営が窮地に陥り、返済額さえ支払えない』と発表する事態に陥りました。

「2018年の1月からは入金が完全にストップしました。そのときのショックは忘れられません。妻に責められながら、その後、月40万円を超えるローン返済を2カ月間続けました。ようやくサブリース契約の解除ができて物件に向かったところ、10室あって満室と聞いていたのに、実際に入居者は誰もいませんでした」

冒頭に登場した大手製薬会社に勤めるAさんも、「かぼちゃの馬車」を購入し、被害にあった一人。
なんでも、数部屋は使われた形跡があるものの、何室かは新築以来まったく使われていない状態であったそうです。
誰一人住んでいないシェアハウスを見てAさんは、その場でへたり込み、号泣してしまったといいます。

このような事態はオーナーからすれば、想定外でした。入居者はあくまでサブリース会社であったため、サブリース会社から毎月きちんと入金があったことで、経営状態が苦しいことに気づかなかったのです。

そもそもスマートデイズでは、人材紹介による収益ではなく、「下請けである建築会社からのキックバック」で収益を上げていました。
スマートデイズは、オーナーに対して相場より高い値段(例えば、実際の不動産価値は6,000万円のところ、1億円以上)で物件を販売します。そして「コンサル料」という名目で50%の紹介料を受け取り、そのお金を家賃保証の原資として使っていたのです。

このスキームを継続するためには、常に新しいシェアハウスオーナーが必要です。
そのオーナーの条件を満たすためには、物件購入のために融資を受けなければなりません。だからこそ、スルガ銀行とスマートデイズの「不適切な蜜月関係」があったのです。

作り続けなくてはいけないスマートデイズ、貸し続けなくてはいけないスルガ銀行は、なくてはならないパートナーであったと想像します。

そして「かぼちゃの馬車」破綻をきっかけに、スルガ銀行不正融資問題の露見と事態は発展していくのです。

 
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著者紹介

小島 拓
小島 拓

一般社団法人首都圏小規模住宅協会 代表理事
大学卒業後に不動産会社の営業職に従事し、以来10年以上にわたって、不動産投資のプロとして個人投資家の資産形成をサポートしてきました。しかし不動産投資の初心者を狙った悪質な業者の話を耳にすることや、自身が勉強不足なまま、先行き不安な物件に投資しようとする人を目の当たりにするにつれ、投資用不動産業界をもっとクリーンで、多くの人が正確な知識を持って安全に投資できるようにする必要があるという思いが募り、2018年度より、不動産業者としての立場に一旦区切りをつけ、投資用不動産業界の健全化を目的とした「一般社団法人首都圏小規模住宅協会」を発足しました。不動産投資による被害や失敗を減らしていく取り組みを随時行ってまいります。

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