『融資地獄』連載
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2019年3月22日(金)
第5回 ローン返済を滞納したら取り立て地獄になるのか?対処法を紹介
スルガ銀行、レオパレス21……。名だたる企業が今ニュースに登場し、惨憺たる不動産業界の現状が露呈しています。しかし、これらは不動産業界において公表されていなかった氷山の一角に過ぎません。
本連載では、全ての不動産投資家がこれらを対岸の火事として受け止めず、自らが融資地獄への一途を辿らぬよう、事件の発端を振り返りながら、万が一の際の救済方法を伝授します。
※本連載は2019年4月、幻冬舎より発売予定の書籍『融資地獄「かぼちゃの馬車事件」に学ぶ不動産投資ローンの罠と救済策 』の内容を一部抜粋・改編したものです
返済不能に陥っても、すぐに「身ぐるみはがされる」ことはない
多くのサラリーマン大家さんは、漠然と「返済不能になれば何か怖いことが起きる」と考えて、怯えているのではないでしょうか。
本来、銀行は「無理せず返せる金額」を審査で見極めて貸し出しています。ですから返済不能に陥ったということは、そもそも銀行側が無理な貸し出しをしている可能性があります。
また、ローン返済ができなくなったとき、何が起きるのかということにも誤解があるように感じています。
銀行には事故率という言葉があり、あらかじめ事故(返済不能になること)を見込んでいるものです。
たとえ、ローン返済ができなくても、焼きゴテで“破産者”と刻印を額に押されることはありませんし、刑務所に行く心配もなければ、強制労働させられることもないのです。
たしかにひと昔前の消費者金融であれば、返済が滞ったらすぐに、債務者の職場に電話をかけて「金返せ!」と怒鳴ることもありましたが、今の時代にそうしたことはできません。乱暴な取り立てをすれば捕まってしまいます。
それくらい債務者の人権は手厚く保障されているのが現実です。
そもそも、不動産投資をしている人は、物件を担保として差し出しています。簡単にいえば、読者の皆さんが所有するアパート、マンションは「借金のカタ」なのです。
万が一、支払い不能となれば、借金のカタは取り上げられ競売にかけられます。
いってしまえば、国家が運営する巨大な「ヤフオク」や、「メルカリ」のようなところで換金されることになるのです。競売では、普通より安い価格でしか売れません。
物件が1億、2億円の価値であっても5〜7割でしか売れないので、ローンが残ってしまう可能性が高いです。そして、その残ったローンに対して、預金や財産、給料に対する強制執行が行われる可能性が出てきます。
「そうなると身ぐるみはがされてしまう!」と慌てることはありません。
競売や強制執行もまた時間がかかるものです。返済が滞ってから1年を超えて、ようやく徐々に動き出すというスケジュール感です。
とはいえ、1週間、1カ月ほどの急な展開で、いきなり地獄に転げ落ちることはなくとも、放置しておけば確実に事態は悪化していきます。
手の施しようもないくらい行き詰まった状態に陥る前に、打つべき具体的な対策とはどのようなものがあるのでしょうか。
借金を返済せず、放置し続けたあとに起こること
借金を返済せず、あるいは返済用の引き落とし口座に十分な資金がないまま支払いをせず、放置していたらどうなってしまうのか解説します。
もちろん、債権者である銀行は訴訟を起こすこともできますが、「訴訟」するにしても費用対効果を考えなくてはいけません。
もしも、あなたが友人に1億円を貸したところ、まったく返してもらえないという事態になったとします。
だからといって訴訟を提起すれば、弁護士費用・裁判所に納める印紙代(裁判所利用料)など、トータルで100万円以上かかる可能性があります。
また、差押えをしようにも、差押さえる財産そのものがなかったらどうなるでしょうか。十数万円の費用をかけて強制執行に赴いても、処分するのに却って費用がかかる廃棄物しかない……なんてこともありえます。
銀行側からしても、支払いが滞るのは避けたい事態です。そのため、まず考えるのは「支払いの遅延は何かの間違いなのでは?」ということです。
1カ月滞ると現状を心配する連絡を入れますが、大半の銀行では丁寧な口調で問い合わせをします。
「お支払いがないようですが、何かありましたか?」とためらいがちにお伺いする、というイメージです。
とはいえ、返済できないものはできません。「申し訳ありませんが返済できません」と答えるしかないのです。
もちろん、「賃貸経営が苦しくて……」と理由を伝えてもいいでしょうし、「鋭意努力している」と伝えるのも一手です。
返済が滞った場合、銀行としては債務者に対して事情聴取を行ったうえで、なんとか正常化できないかと努力します。
それでもどうしようもない場合、サービサーによって回収をしていくことになります。なぜなら銀行は「お金を貸す・集める」ことに対してのプロフェッショナルであり、債権回収についてはプロではないからです。
債権回収は弁護士に外注したり、あるいは債権回収会社という回収専門の子会社(サービサー)に丸投げして処理しているのが現実です。
銀行が関連会社にサービサーを持つ理由は、不良債権が増えて自己資本率が低くなるのを防ぐため、いわば「健全な経営体質を維持するため」です。
サービサーは、法務大臣の許可や5億円以上の資本金が必要など、設立にあたってさまざまな要件を満たさなければなりません。
サービサーで働く人も、回収スキルと使命感はあるとはいえ、法務省の強い管轄に服しており、弁護士が取締役にいて目を光らせているため、悪質、強硬な回収はできません。
ですからローンの返済ができなくなっても、現実はゆっくりと温和に進んで行きます。銀行によって異なりますが、長い場合だと1年くらいかかることもあります。
事態の深刻化を防ぐための、具体的な対策とは
もちろん、十分余裕をもってローンを払えるなら、払うべきです。払えるのに払わないのではなくて、払えない状況で無理をして、払わなくてはいけないと思い込むのは避けましょう。
そして、事態が深刻化する前のなるべく早い段階で法律のプロに相談することをお勧めします。
トラブル全般にいえるのは、「弁護士に依頼するタイミングは早ければ早いほうがいい」ということです。
何もわからない状況で自分の常識で判断すれば、事態をより悪化させる可能性があります。実際に、弁護士に相談したタイミングでは、すでに手の打ちようもないほど行き詰まった状態に陥っている方も珍しくありません。
「どうしてこうなる前に相談をしなかったのですか?」と尋ねると、「誰に相談すべきか分からなかった」と同じくらい、「相談をどのようなタイミングですべきか分からなかった」という人が多いです。
人間には楽観バイアスや正常性バイアスという、認知や解釈の歪み(端的にいえば脳をバカにする働き)があります。
どう考えても、投資用物件のローンが返済できないレベルに設定されているのに「満室になりさえすればなんとかなる(実際には1年以上空室が続いている状態)」「超インフレになって不動産価格が高騰するかもしれない」などと思ってしまうのです。
この種のバイアスを克服するためには、「不安に感じる」ことが大切です。つまり、あなたが現状を不安に思う気持ちこそ「正常」なのです。
一例として破産を挙げれば、「人生において何度も破産したことのある、百戦錬磨の破産経験のプロ」という人はまずいません。
要するに、何もかもが初めてで意味がわからないのは普通なのです。
「借金が払えないから、もう何もかも終わりだ……」なんて、絶望する必要はありません。
まずは、なるべく早く自分の状況を正確に把握しましょう。そして、打てる手を確実に打っていきましょう。
【執筆協力】
畑中 鐵丸
【法律監修】
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
埋まらない空室、度重なる修繕、重いローンの負担……。
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著者紹介
小島 拓小島 拓
一般社団法人首都圏小規模住宅協会 代表理事
大学卒業後に不動産会社の営業職に従事し、以来10年以上にわたって、不動産投資のプロとして個人投資家の資産形成をサポートしてきました。しかし不動産投資の初心者を狙った悪質な業者の話を耳にすることや、自身が勉強不足なまま、先行き不安な物件に投資しようとする人を目の当たりにするにつれ、投資用不動産業界をもっとクリーンで、多くの人が正確な知識を持って安全に投資できるようにする必要があるという思いが募り、2018年度より、不動産業者としての立場に一旦区切りをつけ、投資用不動産業界の健全化を目的とした「一般社団法人首都圏小規模住宅協会」を発足しました。不動産投資による被害や失敗を減らしていく取り組みを随時行ってまいります。