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『融資地獄』連載

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第8回 物件を手放すと何が起こる?知っておきたい「競売」と「任意売却」

目次

スルガ銀行、レオパレス21……。名だたる企業が今ニュースに登場し、惨憺たる不動産業界の現状が露呈しています。しかし、これらは不動産業界において公表されていなかった氷山の一角に過ぎません。

本連載では、全ての不動産投資家がこれらを対岸の火事として受け止めず、自らが融資地獄への一途を辿らぬよう、事件の発端を振り返りながら、万が一の際の救済方法を伝授します。

※本連載は2019年4月、幻冬舎より発売予定の書籍『融資地獄「かぼちゃの馬車事件」に学ぶ不動産投資ローンの罠と救済策 』の内容を一部抜粋・改編したものです

不動産投資失敗の最終清算段階にやってくる「競売」と「任意売却」

不動産賃貸経営がうまく立ちいかなくなったとき……。不動産投資で失敗した結果、借金返済が困難になり月々のローン払いきれなくなれば、銀行の担保に入っている不動産(「大家業」の事業用不動産やマイホーム)の換金処理をして、借金を返すことになります。

その際の手段として「競売」と「任意売却」があります。

不動産投資失敗の成れの果てともいえる「競売」「任意売却」ですが、こうした物件を安く購入する不動産投資手法もあり、耳にしたことのあるサラリーマン大家さんもいるのではないでしょうか。

そもそもローン返済が滞ったとき、銀行は担保である不動産の処分を考えるものです。裁判所に競売申し立てをして、一番高い値札を入れた人に売却するというのが競売のルールですが、これはあくまで教科書的な説明です。返済が滞ったとしても、すぐさま「一分一秒を争って競売にかけられる」というわけではありませんから、ご安心ください。

「少しでも高く売りたい!」という銀行の本音

競売は官製オークションで、より高い値段を付けた人が落札できる仕組みです。

とはいえ、相場よりも安い値段で売られてしまいますから、前述したように競売物件を割安で購入して投資をしようという手法もあるくらいです。7,000万円の物件なら5,000万円で売られるようなイメージです。

銀行としては少しでも高く売りたいので、いきなり競売にかけるのではなく、少しでも高く買ってくれる先を探すことになります。これが「任意売却」です(任売で物件を高く売る方法は、『競売にかけずに高値で「任意売却」し、借金を返済する方法』で解説しています)。

ただし、任意売却がうまく進むとは限りません。というのも、競売よりはマシだとはいえ、債務以上の金額で売れる保証はまったくないからです。

そもそも売買とは、所有者にしかできない処分行為です。例えば、不動産を所有するサラリーマンのAさんがどんなにモラルがなく、いい加減でどうしようもなくダラしない人間であったとしても、Aさんは所有者であり、Aさんの協力なしには任意売却は一切できないことになります。

物件の所有者であるAさんの情報は登記簿の甲区欄に、抵当権や所有権以外の権利の情報は乙区欄に載っています。このとき、例えばB銀行が2億円の債権について抵当権(第一順位)を持っていて、不動産の価値が1億2,000万円だったとします。

B銀行ができるのは競売にかけることですが、ここで競売を実施し1億2,000万円でXさんが競り勝ち、無事競落したとしましょう。この場合、B銀行の債権2億円のうち1億2,000万円が弁済され、Aさんには残りの8,000万円の借金が残ります。
B銀行の債権全額は回収できないことはもとより、仮に2番抵当権者(ノンバンクC)、3番抵当権者(知人D)がいても、1円も返済してもらえません。

一方で、落札したXさんはC、Dに交渉することなく、すべての抵当権が消えたキレイでまっさらの不動産の所有者になれます。このように競売手続きにより、抵当順位2位以下の債権者がばっさり消えることを「消除主義」といいます。

ただし、そもそも2億円の債権が時価で1億5,000万円になるのだとすると、競売ではさらに安く買い叩かれてしまう可能性があります。その上、時間的なコストや弁護士費用もかかります。

任意売却は「銀行からの低姿勢のお願い」であり、あくまで「任意」

そんなタイミングにB銀行の取引先である超優良企業のE社が、このAさんの不動産に興味を抱いて、「1億8,000万円でぜひ買いたい!」という申し入れがあったとしましょう。

B銀行としては、競売を行う場合の「時間・コスト・手間」から解放されますし、何より弁済額が6,000万円も増加します。こんなにうれしい話はありません。願ってもない話です。

しかし、Aさんが「任意売却? イヤですよ。そりゃあ~、競売というなら仕方がありませんが、任意売却は、あくまで『任意』でしょう」などと言って拒否をされてしまったら打つ手なしです。

所有者であるAさんの了解をもらわなければ売却できませんし、できたとしても時価より安くなり、時間や手間もかかってしまいます。そのうち、任意売却を申し出たE社がうんざりして、興味をなくしてしまって取引はお流れです。この交渉を成立させるために理想的なのは、Aさんがギブアップする。そしてCやDも了承するということです。

また、B銀行にとっては高く売却できたほうがいいので、新しい買主のE社が1億8,000万円で買ってくれたら、時間もお金も手間もかからないで済みます。

Aさんにとっても残った債権が6,000万円から2,000万円に減ります。この例のように、基本的には競売に進むことが多いのですが、もし高く買う人が出てくれば任意売却につなげられます。

新しい買主E社が1億8,000万円で買うオファーを持ってきたら、B銀行としてはAさんの債務の一部減免や残債務の超長期のリスケを聞ける範囲で聞いてあげて、なんとか所有権移転の協力を取り付け、同様にCやDからの「後順位抵当権者(順位が後ろの抵当権者)はこれを放棄します。登記簿の記載の抹消に協力します」という協力を取り付けることが、最も経済的に正しい行動となります。

債権者で抵当権者であるB銀行にとっては、大変に腹立たしい状況ではありますが、それもこれも抵当権が「質草を預からない、中途半端でぬるい質権」という構造的欠陥によるものです。

また、原則論を振りかざして競売をして時間や手間やコストを費やした挙げ句、得られる成果は、さらに腹立たしいくらい経済的に容認できない額であるという以上、仕方がないわけなのです。

【執筆協力】
畑中 鐵丸
【法律監修】
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所

 
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著者紹介

小島 拓
小島 拓

一般社団法人首都圏小規模住宅協会 代表理事
大学卒業後に不動産会社の営業職に従事し、以来10年以上にわたって、不動産投資のプロとして個人投資家の資産形成をサポートしてきました。しかし不動産投資の初心者を狙った悪質な業者の話を耳にすることや、自身が勉強不足なまま、先行き不安な物件に投資しようとする人を目の当たりにするにつれ、投資用不動産業界をもっとクリーンで、多くの人が正確な知識を持って安全に投資できるようにする必要があるという思いが募り、2018年度より、不動産業者としての立場に一旦区切りをつけ、投資用不動産業界の健全化を目的とした「一般社団法人首都圏小規模住宅協会」を発足しました。不動産投資による被害や失敗を減らしていく取り組みを随時行ってまいります。

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