『融資地獄』連載
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2019年3月23日(土)
第6回 「リスケ」と「任意整理」を解説。返済が困難な場合に最初にすべきこと
スルガ銀行、レオパレス21……。名だたる企業が今ニュースに登場し、惨憺たる不動産業界の現状が露呈しています。しかし、これらは不動産業界において公表されていなかった氷山の一角に過ぎません。
本連載では、全ての不動産投資家がこれらを対岸の火事として受け止めず、自らが融資地獄への一途を辿らぬよう、事件の発端を振り返りながら、万が一の際の救済方法を伝授します。
※本連載は2019年4月、幻冬舎より発売予定の書籍『融資地獄「かぼちゃの馬車事件」に学ぶ不動産投資ローンの罠と救済策 』の内容を一部抜粋・改編したものです
まだ巻き返せる? 返済困難になったら始めに打つ一手
アパートローンの返済が困難となったとき、どのような対策を取ったらよいのでしょうか。
最終手段を自己破産として、そこに至るまでに打つ手はいくつかあります。ここでは「リスケ」「任意整理」について解説します。
リスケジュール(リスケ)は、「借金の返済のタイミングや返済計画そのものの見直し」です。
本来、金融機関と債務者は金銭消費貸借契約を結んで、融資条件を細かく取り決めていますが、いったんそれは置いておき、新たに条件を決め直すのです。
なぜこんなことができるのでしょうか?
その理由は単純明快です。破産されるくらいだったら無理のない計画に変更して返済してもらったほうがダメージは軽く済むからです。
対して、任意整理は「減免」(軽減と免除)を狙ったり、担保不動産の売却の際に取られる手段です。
その種類は、元本が減る、利息が減るなどさまざまですが、リスケだけでは追いつかない……というときや、返済額や担保を売却しないと解決できないときに任意整理が検討されます。
大きな特徴としては、リスケはビジネスマター。任意整理はリーガルマターです。しかし、必ず弁護士が介在する、というわけではありません。
また、リスケを金融機関から提案することはあり得ますが、金融機関から任意整理を提案してくることは、まずありません。
なぜなら金融機関の立場からすれば、任意整理は自分たちが持っている債権を放棄することになるからです。
それを口にするということは「会社の大事な商品を、自己判断で廃棄する」ことと同じになってしまうのです。
リスケは末期がんの治療と同じ、延命措置
リスケは末期のがんの治療と同じです。「治る」わけでもなく、延命措置=支払い時期を延ばすことです。その分の金利も取れるため、金融機関にとって決して悪い話ではないはずです。
リスケの際は、「いかに無理なく毎月のローンを返済できるようになるか」がポイントです。正確にいえば、月々の家賃から修繕費や管理費といったランニングコストを引いて残った分で返済ができるか、ということ。
ほとんど残らないケースでは給与からも補填することになりますが、そのような生活が長期に渡って可能なのかどうかが大切です。
例えば、50万円の給与をもらっている人の返済額が45万円であれば、生活していくことができません。
リスケは、本人から持ち掛けるケース、金融機関から提案されるケース、それに弁護士が指導して行うケースもあります。
なお、金融機関からリスケ提案をされた場合、意に添わぬ内容であれば断ることができます。金融機関ソフトランディングを前提とする限り、譲歩を考えるほかありません。
いずれにせよ、リスケは交渉ですから、下手な立ち回りをすると不利益を被ることになります。
任意整理は借金自体を「まけて」もらうこと
任意整理は、任意整理法という法律があるわけではなく「和解」の手段の一つです。法律上の和解とは、お互い条件を譲歩して合意をするということです。
月々のローン返済が厳しくなり、最初に契約したとおりの約定金利を払えなくなると、遅延損害金が発生します。
稀なケースではありますが、親が借金の一部を支払うから、残債免除ということもあります。
つまり、「返済できなくなったのなら仕方がない」という前提のもとに、今できる範囲で最良の着地点を見出すことが任意整理なのです。
多くの場合、任意整理は債務者側の弁護士から金融機関へ打診します。
「民事再生や破産などになってしまうと、そちらの取り分がなくなりますので、お互い痛み分けでいかがでしょうか」という交渉を持ちかけるわけです。
ただ、金融機関はなかなか任意整理に応じてくれません。なぜなら「返済する金がない!」と言われても、それが本当なのか確認する方法がないからです。
そのため、特定調停や再生、破産などの手続きによらずに強引に応じるだけの複雑な事情がなければ、やすやすと任意整理をしてくれません。
だからこそ、法のプロの力を借りることをおすすめします。とはいえ、このあたりは法律で厳格に定められているわけではないので、いわば何でもありの世界です。
一定の知識と情報と経験があり、自己にとって有利に事を進めるスキルのある弁護士に依頼できるかどうかで結果が大きく変わってくるのです。
債権者との有利な交渉テクニック
任意整理をしようとしても、銀行はリスケならまだしも、債務を減らすような一部免除などはなかなか応じてくれません。
銀行の立場からすると、さしたる理由がないにもかかわらず、自主的に債権を放棄することは、店舗事業で例えると「売り物の商品を、勝手に廃棄する」のと同様、背信的な行為であり、株主を裏切る行為であるからです。
ただし、債権者の属性によっては、「ネゴあり」の可能性が出てきます。
すなわち、銀行ではなく、銀行から債権を買ったサービサー(委託ではなく買い取ったもの)の場合は、例外的に債権免除の可能性が出てくるのです。サービサーとは、ローンの管理、回収を行う債権管理専門業者です。
例えば、会社と個人連帯保証人付きのバブル期の不良債権(10億円)があったとします。それを中小企業の経営者が返せなくなった場合、ただ金融機関のバランスシートに乗っていると、いつまでたっても自己資本比率が改善しないので、経営の足を引っ張ることになります。
そのとき10億円の債権をサービサーが買うのです。
名実ともに債権の本来の所有先もサービサーに変えるということです。このとき債権を買い取る金額は、元が10億円であっても、50万円、100万円の世界です。これは「ポンカス債権(ポンコツで、カスの債権)」などと呼ばれています。
もともと値段がつかないので1円でもいいわけですし、銀行としては放置しておくと毎期資産勘定になってしまい、会計士の手間とコストがかかるので、安くてもいいので片付いてほしいわけです。
サービサーからのアプローチは最初、サービサーが債権譲渡通知を送付し、「今後は銀行ではなく、当社(サービサー)が債権者なので、当社に返済してください」という督促状が送られてきます。
ここで、お金がないから督促されても払えず放置して5年経過すれば、事業用の債権のため5年の時効が完成してチャラになります。
サービサーに「こんな額、払うのは難しいです」と対抗すれば、サービサーから「いくらなら払えますか?」という譲歩の交渉をされる可能性もあります。そこで「10億円のうち1000万円なら」などと返答すると、債権を100万円で購入したサービサーからすると900万円の儲けになります。
これは良い交渉ではありません。
そういうときは「本当にお金がありません。いくらなら、いいですか?」などと言って相手からの条件を聞きましょう。明確な着地点が決まっていない交渉では、先に条件を言ったほうが損する場合が多いのでご注意ください。
サービサーとの交渉が上手に成立すれば、あなたの債権は驚くほど少額になる可能性があります。
【執筆協力】
畑中 鐵丸
【法律監修】
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
埋まらない空室、度重なる修繕、重いローンの負担……。
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著者紹介
小島 拓小島 拓
一般社団法人首都圏小規模住宅協会 代表理事
大学卒業後に不動産会社の営業職に従事し、以来10年以上にわたって、不動産投資のプロとして個人投資家の資産形成をサポートしてきました。しかし不動産投資の初心者を狙った悪質な業者の話を耳にすることや、自身が勉強不足なまま、先行き不安な物件に投資しようとする人を目の当たりにするにつれ、投資用不動産業界をもっとクリーンで、多くの人が正確な知識を持って安全に投資できるようにする必要があるという思いが募り、2018年度より、不動産業者としての立場に一旦区切りをつけ、投資用不動産業界の健全化を目的とした「一般社団法人首都圏小規模住宅協会」を発足しました。不動産投資による被害や失敗を減らしていく取り組みを随時行ってまいります。