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『融資地獄』連載

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第7回 最後の返済交渉「特定調停」と「民事再生」とは?

目次

スルガ銀行、レオパレス21……。名だたる企業が今ニュースに登場し、惨憺たる不動産業界の現状が露呈しています。しかし、これらは不動産業界において公表されていなかった氷山の一角に過ぎません。

本連載では、全ての不動産投資家がこれらを対岸の火事として受け止めず、自らが融資地獄への一途を辿らぬよう、事件の発端を振り返りながら、万が一の際の救済方法を伝授します。

※本連載は2019年4月、幻冬舎より発売予定の書籍『融資地獄「かぼちゃの馬車事件」に学ぶ不動産投資ローンの罠と救済策 』の内容を一部抜粋・改編したものです

任意整理でもまとまらない時のための、破綻回避テクニック

前回のコラムでは「リスケ」と「任意整理」について解説しました。ここでは、次の段階である「特定調停」「民事再生」をテーマにしています。

その前に「任意整理」と「特定調停」の違いから説明しましょう。任意整理ではお互い立場を譲らず、話をぶつけ合うだけでうまくまとまらない場合もありえます。
そんなときは、仲介役がいたり、それなりの舞台装置があった方がうまく運ぶ可能性が高いです。

そんなときに役に立つのが「特定調停」なのです。
簡単にいうと「仲介役と場所」です。特定調停は簡易裁判所で、裁判官と民間のお世話役である調停委員も交えて(実際は、裁判官は滅多に調停の場に出てきませんが)行います。

以前、任意整理から特定調停に発展したケースがありました。銀行を相手とした任意整理から始まりましたが、銀行側も強硬な姿勢で無理な提案ばかりしてきて暗礁に乗り上げました。
強硬な対応に債務者側は困ってしまい、簡易裁判所に「特定調停」を持ち込みました。すると、銀行員の態度は一変。個室では強気になる銀行員でしたが、裁判の場では無茶を言わないようになりました。

また、特定調停中であっても、債権者は取り立てや差し押さえを行えます。もしそれを避けたいのなら、特定調停の中で「執行停止の申し立て」をしなければなりませんが、これには担保が必要なので、あまり使われることがありません。

とはいえ、仮にも裁判所を仲介役として真摯に話し合いを行うという過程で、差し押さえといった強硬な手段を行えば、裁判所から睨まれかねません。
つまり、執行停止の申し立てをしなくても、差し押さえリスクの低減が期待されます。

特定調停を使った任意整理は弁護士の存在が不可欠

リスケは前述したとおり、あくまで経済的に健全な債務者による正常な取引プロセス、ビジネスマターにおける交渉です。

ここでは取引自由の原則、すなわち誰とどのような条件で、どのような取引をするのかも当事者間の自由と考えられます。その結果、多重債務者がリスケを行う場合、金融機関ごとに返済条件が異なることになり、不平等感が出る可能性があります。

とはいえ、「経済的に健全な債務者による正常な取引プロセス」であり、最終的に「すべて債務が返済できる」という期待が持てますので、不平等感があったとしても、「約束どおり返済されたのだから文句ないでしょ」という形で、法的に問題は生じにくいのです。

ところが、債務の減免を伴う任意整理段階に至ると、もはや「経済的に健全な債務者による正常な取引プロセス」ではなく、「約束どおり行動していては経済的に破綻しかねない、破綻者ないし破綻者予備軍の約束を捻じ曲げての例外処理」となり、リーガルマターと判断されます。

リーガルマターとなった場合、破綻処理ないし破綻者予備軍のための解決において、絶対的なルールとして、頭をもたげてくる原則があります。「債権者平等の原則」と言われるもので、「同じ立場の債権者の間において不平等の扱いはご法度」というルールです。

このような債権者平等の原則があるため、債務者が勝手な判断で「両親の借金は優先して全額返すが、後の債権者は5割カット」といったことをしないよう、窓口を一本化して条件を平等にする必要があります。
このため弁護士が窓口を管理して、全体を制御することが必要となるのです。

この点でいえば、特定調停では最終的な話し合いの決着について、守るべき絶対的ルールが明確に存在する訳ではありません。しかし特定調停を使ってリスケを行う場合、債権者に減免をお願いするような任意整理の趣旨を含めた処理が必要なケースもあります。

その際には債権者平等の原則を守るため、弁護士や法律のプロが介入します。そして偏頗弁済(ある特定の債権者にだけ返済する行為)にならないよう、注意をしながら進める必要があります。

民事再生では、法的に有効な債権を一部チャラにする

民事再生と自己破産をまとめて「法的整理」といいます。

法的整理は、要するに裁判所という国家権力を使って、「借りたものは、約束通り、きっちり返す」という契約法理を捻じ曲げて、有無を言わせず債権を大幅カットする、という鎌倉時代などの徳政令に似た強権手段を意味します。民事再生は債権の一部カット(一部チャラ)、自己破産は全額カット(全額チャラ)です。

特定調停も裁判所を舞台にし、裁判官が出てきますが、あくまで仲介役であり「契約に基づき、法的に有効に存在する債権をぶっ飛ばす」という強権的な手段は使えません。
あくまで、「債権をカットしたらいかがでしょう」という提案です。その意味で、特定調停は「任意整理のプレミアム版」という位置づけです。

民事再生にはいろいろな特殊パターンが存在します。

例えば、5,000万円以下の無担保の債権がある場合、原則3年間で返済する「再生計画案」を作成して許可されたら、借金がなくなります。「3,000万円のうち2,000万円をカットするので、年間330万円を3年間返済して、残りはチャラ」というイメージです。

また民事再生で、マイホームを残したいという場合、「マイホームの清算価格分だけ支払い、残りはチャラに」という柔軟な交渉も可能です。

例えば、5,000万円のマンションのローン残額が1,200万円だったとしましょう。この場合「1,200万円についてはきっちり返すので、家だけは手元に残して、その他のローンは、チャラにしてください」という要望が通る可能性がある、というわけです。

したがってマイホームなど、どうしても残したい生活基盤を別枠にして借金チャラの交渉をしたいときや、「破産」だけはどうしても避けたいときに民事再生を検討すべきです。

逆に言えば、「家は賃貸でいいし、車も必要ない。今の生活家財だけで十分」そして「全額チャラにしてもらって、すっきり再スタートを切りたい」ということであれば、むしろ破産を選びましょう。

【執筆協力】
畑中 鐵丸
【法律監修】
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所

 
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著者紹介

小島 拓
小島 拓

一般社団法人首都圏小規模住宅協会 代表理事
大学卒業後に不動産会社の営業職に従事し、以来10年以上にわたって、不動産投資のプロとして個人投資家の資産形成をサポートしてきました。しかし不動産投資の初心者を狙った悪質な業者の話を耳にすることや、自身が勉強不足なまま、先行き不安な物件に投資しようとする人を目の当たりにするにつれ、投資用不動産業界をもっとクリーンで、多くの人が正確な知識を持って安全に投資できるようにする必要があるという思いが募り、2018年度より、不動産業者としての立場に一旦区切りをつけ、投資用不動産業界の健全化を目的とした「一般社団法人首都圏小規模住宅協会」を発足しました。不動産投資による被害や失敗を減らしていく取り組みを随時行ってまいります。

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