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『融資地獄』連載

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第3回 不動産投資業界に混乱を招く「身の丈に合わない」融資の実態とは

目次

スルガ銀行、レオパレス21……。名だたる企業が今ニュースに登場し、惨憺たる不動産業界の現状が露呈しています。しかし、これらは不動産業界において公表されていなかった氷山の一角に過ぎません。本連載では、全ての不動産投資家がこれらを対岸の火事として受け止めず、自らが融資地獄への一途を辿らぬよう、事件の発端を振り返りながら、万が一の際の救済方法を伝授します。

※本連載は2019年4月、幻冬舎より発売予定の書籍『融資地獄「かぼちゃの馬車事件」に学ぶ不動産投資ローンの罠と救済策 』の内容を一部抜粋・改編したものです。

個人評価を重視し、限度額ギリギリまでの融資を行なったスルガ銀行

融資というと難しく聞こえますが、簡単に言えば「借金」のことです。

手元にお金がないときに銀行から用立ててもらい、借金をして『稼ぐマシーンとしての不動産』を買って、マシーンが稼いだお金を使って借金を返すという話です。

貸してもらえる金額の算出法は「物件の評価」と「個人評価(=属性)」の組み合わせで決まります。
「稼ぐマシーンとしての不動産」のスペックの優劣と、買う人間の経済的信用の有無の総合判断というわけです。

「物件の評価」には種類があり、大きく分けて積算評価(土地の価格と建物の価格を足した銀行評価)と収益還元評価(その物件からどれだけ利益が出るかを算出する評価)がありますが、不正融資が問題となったスルガ銀行では収益還元評価を主としていました。
つまり個人の評価を重視しており、勤め先や年収から算出された限度額ギリギリまでお金を借りられたわけです。

しかし大半の銀行では、自分の属性だけでお金を借りることは難しいでしょう。

やはり「物件評価」と「属性」の両方が必要とされます。

「第三者委員会報告書」に赤裸々に書かれた銀行のエゲツない商売

ここでは、スルガ銀行の公表した「第三者委員会報告書」を私自身の視点で噛み砕いて紹介します。そもそも「第三者委員会」は、いろいろな企業が不祥事を起こす度、よく耳にする言葉です。

これは企業が不祥事を起こした場合、利害関係のない第三者(たいていは弁護士の先生)の目で事件を調べ、原因を分析・解明し、その原因を解消するための解決策を提言してもらう、という組織です。

上場会社の企業不祥事については、ほぼ例外なく第三者委員会が立ち上がり、その報告書が公表されますので、これを読むと企業のやらかした不祥事の実体が克明に判ります。

以下に第三者委員会報告書から、とくに代表的な不正の手口を紹介します。

【債務者関係資料の偽装】

ここで目につくのは、「偽装」という言葉の数の多さです。

詐欺を専門にするプロの犯罪集団のことではありません。金融庁の免許を得て、株式を上場する、銀行の内部の業務実体です。

一見すると難しく書いてありますが、翻訳すると「資産もないし収入もイマイチの、借金して不動産投資なんて絶対やっちゃいけないサラリーマン」を「資産もあって収入も多い、リッチで余裕のある不動産投資にふさわしい、勝ち組サラリーマン」に仕立て上げたという話です。

【物件関係資料の偽装】

購入者となる「サラリーマン大家」、すなわち借金をする買い手の偽装に続いて「物件の偽装」です。

実際よりも入居率を高く見せたり、家賃も実際より高額にしたりと、事実と異なる数字を並べるようなことが横行していました。

中古物件の空室にカーテンをつけて満室に見せかける手法は、「カーテンスキーム」として有名になりました。まるで「オーシャンズ11(プロの詐欺集団の映画)」顔負けのえげつない偽装ですが、このスキームの連携プレーにも行員が一役買っていた、という衝撃の事実が書かれています。

要するに、「誰も借り手がつかない、僻地のお化け屋敷のような無人マンション」が、「稼ぐマシーンとしての不動産」のスペックをきっちり持っているかのような偽装が行われた、ということが赤裸々に書かれているのです。

【契約書の偽装】

極めつけは、二重売契と呼ばれる売買契約書の偽装です。

これは金融機関用と、実際の契約用の2つの売買契約書を作成するものです。
そもそもスルガ銀行は90%の融資が最大で、自己資金10%が求められます。そこであらかじめ10%の金額を乗せた売買契約書を作成して満額融資を受ける手口です。

ただ、この偽装については、2通の契約書に署名捺印が必要ですからサラリーマン大家側も関知していると思われます。
契約関係の書類偽造に関していえば、「知らないうちに被害者になっていた」という言い訳は通りません。

とはいえ、普通の社会生活をしていて、契約書をきっちり読んで疑問を解消するために、いろいろ突っ込んだ質問をするようなサラリーマンの方はほとんどいないでしょう。
不動産取引は初めてか、数回しか経験したことのないサラリーマンにとっては、業者から「契約書は二通ありますが、これは普通のことなので気にしなくて結構です」と堂々と言われると、信じてしまうのが普通だと思います。

銀行員だってノルマに追われる「営業マン」である事実

この報告書を見る限り、スルガ銀行の内部では営業成績を残すために、通常ではありえないほど緩い基準で融資をしていたことが分かります。

目の前の方が銀行のバッジをつけ、きっちりした肩書でメガネをかけて、髪も七三分けして品の良いスーツを着て、高いネクタイをぶら下げて柔らかい物腰で、ジェントルな話し方であっても、これが本質的実体です。

第三者委員会の報告書は、このことを空想や思い込みや邪推の類いではなく、事実として克明に示してくれています。

本来であれば買うべきでない物件を、借りるべきではない借金をしたサラリーマンが購入し、購入時点で破綻が確実な「なんちゃってサラリーマン大家」が数多く誕生してしまったのです。

「どこか遠くの世界の、自分には関係のない話」と考えて意識から遠ざけるのか、「自分が買おうとしている不動産取引に関わっている銀行の内側は、こんな状況かもしれない。だからこそ正しく疑い、きっちりと計算をして、返済可能性について真剣に、現実的に、慎重な見方でしっかりと考えよう」と我が身に置き換えて教訓とするのか。

「不動産取引の勉強をしましょう」というのは、今回の事件をきっちりと把握し、教訓としてリテラシーに加え、後者のような想像力を働かせ、賢く対応する癖をつけることなのです。

 
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著者紹介

小島 拓
小島 拓

一般社団法人首都圏小規模住宅協会 代表理事
大学卒業後に不動産会社の営業職に従事し、以来10年以上にわたって、不動産投資のプロとして個人投資家の資産形成をサポートしてきました。しかし不動産投資の初心者を狙った悪質な業者の話を耳にすることや、自身が勉強不足なまま、先行き不安な物件に投資しようとする人を目の当たりにするにつれ、投資用不動産業界をもっとクリーンで、多くの人が正確な知識を持って安全に投資できるようにする必要があるという思いが募り、2018年度より、不動産業者としての立場に一旦区切りをつけ、投資用不動産業界の健全化を目的とした「一般社団法人首都圏小規模住宅協会」を発足しました。不動産投資による被害や失敗を減らしていく取り組みを随時行ってまいります。

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