『融資地獄』連載
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2019年3月19日(火)
第2回 シェアハウス投資に続く、地方一棟マンション・アパート投資「失敗」の実情
スルガ銀行、レオパレス21……。名だたる企業が今ニュースに登場し、惨憺たる不動産業界の現状が露呈しています。しかし、これらは不動産業界において公表されていなかった氷山の一角に過ぎません。本連載では、全ての不動産投資家がこれらを対岸の火事として受け止めず、自らが融資地獄への一途を辿らぬよう、事件の発端を振り返りながら、万が一の際の救済方法を伝授します。
※本連載は2019年4月、幻冬舎より発売予定の書籍『融資地獄「かぼちゃの馬車事件」に学ぶ不動産投資ローンの罠と救済策 』の内容を一部抜粋・改編したものです
低利益の物件を融資限度額で買ってしまうサラリーマン大家たち
マスコミでは「新築シェアハウス投資」の問題ばかりがクローズアップされていますが、取り返しのつかない失敗投資はそれだけではありません。
そもそも「スルガ銀行だから失敗」したのではなく、「返済能力を超えた融資を受けてしまうから失敗」なのです。
特に問題となっているのは、利益の少ない物件を個人の評価で融資限度額いっぱいまで買ってしまったサラリーマン大家です。
融資を受ける先もスルガ銀行のように組織ぐるみで不正をしないまでも、銀行が関与していないところで不動産業者による不正があり、失敗投資を行ってしまっているケースもあります。
その結果、「買ってはみたものの、想定していた儲けが出ない」というサラリーマン大家があとを絶ちません。
「かぼちゃ」以外の失敗投資①【ハイリスクな地方高利回り投資】
少しでも不動産投資の勉強をしたことがあれば、「地方高利回り投資」を耳にしたことがあるかと思います。
地方や郊外にある中古の木造アパートは、安価で高利回りということもあり人気を集めていますが、買ってから後悔しているサラリーマン大家が多いのも特徴です。
具体的には地方で利回り15%の中古アパートを買ったものの、不良入居者に家賃滞納されてしまい、高利回りどころかローン返済に影響する失敗例があります。いくら高利回りでも、家賃が入らなければ意味がありません。
また、長期の入居者のなかには賃貸借契約書がないような人もいますし、家賃滞納のあげくに入居者が夜逃げする、ゴミ集積所が荒れ果てるなど、解決の難しいトラブルが購入時点で発生していることもあります。
そもそも家賃が3万円を切るような低家賃であれば、原状回復費(入居前の状態に戻すための最低限のリフォーム費)ですら赤字になります。
目の前の利回りだけにつられて購入するのはとても危険です。普通に考えて、高利回りで売られているということは、その物件に何らかのリスクがある可能性が高いわけです。順調に運営できていれば、わざわざ売る必要はないからです。
そもそも築古のアパートは融資付けが難しいものです。この2、3年前であれば、政府系金融機関である日本政策金融公庫が15年融資を出していましたが、最近は10年がマックスです。
もちろん、こうした物件に融資を付けるノンバンクなどもありますが、一般の銀行に比べて高金利ですから収益を圧迫する可能性が高いのです。
見せかけの高利回りに騙されて、実際には自転車操業状態になっているサラリーマン大家も珍しくないのが現実です。さらに融資が付きにくい……つまり、「出口」の確保も難しいということです。
「かぼちゃ」以外の失敗投資②【致命傷となりえる地方の大規模マンション】
今でこそ融資が厳しくなりましたが、2、3年前までは地方の大型物件が買いやすい市況でした。普通のサラリーマンでも、自己資金を使うことなく数億円の物件を買うことができたのです。
不正融資問題では「かぼちゃの馬車事件」が大きく取り上げられていますが、実際のところ地方のRC造マンションに関しても「スルガスキーム」と呼ばれる、スルガ銀行で融資を受けることを前提としたグレーな手法が横行していました。
そのため、流通しているのが「良い物件」ではなくて、「銀行から評価が出る物件」という基準となっていました。具体的にいえば、地方にある築20年程度、利回り8%以上の物件です。
空室だらけの部屋にカーテンをつけることで入居率が高いように見せかける「カーテンスキーム」を使い、大規模マンションを空室が多い状態で買うわけです。
家賃も相場家賃よりも高めに設定され、融資を目一杯引くようなやり方をしますから、パッと見は「建物の状態も良い、入居率も良い、利回りもそこそこに良い物件」に見えます。
実際には入居率が低く、家賃を下げなければ入居付けできない地雷のような物件であることが多いのです。
加えて、大型物件は戸数が多く、修繕費やメンテナンスが非常に高くつきます。特に、地方のエレベーターありの築古物件は高コストになりがちです。
これでは、表面利回りが10%あっても、実質で見れば7%程度というのも珍しくありません。
こんな物件をスルガ銀行の4.5%の金利で借りてしまえば、キャッシュフローがほぼ残りませんし、急な修繕や退去が重なるなど、何かしら想定外の事態が起これば手持ち資金が尽きて、月々の収支がマイナスになってしまうのも当然でしょう。
不動産投資はキャッシュのないサラリーマンが借金して行える事業ではない
そもそも不動産は高額商品です。法定耐用年数が過ぎた安いボロ戸建てや、旧耐震基準の区分マンションのような物件であっても数百万円はしますし、一棟物件ともなれば数千万円は当然のこと、1億円を超える物件も珍しくありません。
もちろん、高額の物件が購入できるのは、それだけ個人属性が高いのかもしれませんが、サラリーマンは所詮サラリーマンです。
かつ、不正融資を受けているようなサラリーマン大家は、年収だけは高くても現金はほとんど持っていないような方ばかりといいます。
本来の不動産投資――「家賃を稼ぐマシーン」としての不動産を建てたり買ったりしてお金を稼ぐ営みは、先祖代々の土地を引き継いでいる地主や、事業で成功を収めた資産家など、選ばれた人たちが行うものでした。
融資を受ける場合であっても、その銀行とは先代からの付き合いがあり、多くの資金を預けていたり、または事業での取引実績があることが前提です。
そうしたなかでは、サラリーマン大家は少数派です。収益不動産を融資で購入するのであれば、頭金を最低でも1割、時期によっては2割、3割と出して融資を受けているケースも珍しくありません。
だからこそ市況の変化で家賃が下落しても、空室が続いても、修繕費がかかったとしても、資金繰りが行き詰まる可能性が少ないのです。
大きな成功はなくても取り返しのつかない失敗をしない……これはビジネスの基本でもあります。大きな儲けが出なくても、収支がプラスであれば、そのビジネスは継続します。
その継続が金融機関に対しての信頼となり、次の融資、そしてその次の成功に結びついていくのです。
埋まらない空室、度重なる修繕、重いローンの負担……。
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著者紹介
小島 拓小島 拓
一般社団法人首都圏小規模住宅協会 代表理事
大学卒業後に不動産会社の営業職に従事し、以来10年以上にわたって、不動産投資のプロとして個人投資家の資産形成をサポートしてきました。しかし不動産投資の初心者を狙った悪質な業者の話を耳にすることや、自身が勉強不足なまま、先行き不安な物件に投資しようとする人を目の当たりにするにつれ、投資用不動産業界をもっとクリーンで、多くの人が正確な知識を持って安全に投資できるようにする必要があるという思いが募り、2018年度より、不動産業者としての立場に一旦区切りをつけ、投資用不動産業界の健全化を目的とした「一般社団法人首都圏小規模住宅協会」を発足しました。不動産投資による被害や失敗を減らしていく取り組みを随時行ってまいります。