石川貴康の超合理的不動産投資術
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2019年5月10日(金)
ワンルームマンションは儲かるのか?
大家にとっては繁忙期が終わりました。ほかの大家の皆さんはどうだったでしょう。
私はすべて満室とはなりませんでしたが、まあまあと思える成績でした。
入居が不安定で問題物件だったマンションが満室になり、長く入居のない物件をトランクルーム扱いとして、入居となりました。
一方、一つ残念だった物件もあります。
某大学の近くにある物件で、3月で満室になったのですが、4月に退室があり、1室空きとなってしまいました。
別の大学の近くにある一棟は満室になりました。
今年はだいぶテコ入れをしたので、空室がある物件は3棟ほどになりました。テコ入れの方法については、いつか当コラムでお伝えしますね。
さて、今回はちょっとしたブームに近い状態だった、ワンルームマンション投資について書きたいと思います。
ワンルームマンション投資は過熱気味、バブル末期の症状か
ここ数年ワンルームマンションの投資は過熱気味だった印象があります。
東京都内の中古ワンルームは1,500万円ほどで、家賃は6~7万円が多く、表面利回りが4~5%であっても買う人がいるのを見て驚きました。
私もつい最近までワンルームを持っていましたが、この過熱気味の時期に売却しました。4~5%の表面利回りでは、まったくペイしないと感じたからです。
ここ数年、不動産投資はブームのようになっていました。私は、バブルに近い状況だったと思っています。
なぜそう感じたのか?
理由の一つに、まず融資があります。
金融機関の不動産への融資残高は、バブル期を超えていたことが何度か報道されています。
つまり、政府の方針で、資金がジャブジャブ流れ込み、田舎のアパートをはじめ、都心のワンルーム、湾岸地域のタワーマンションなどが次々と作られ、売られていきました。
そして、「かぼちゃの馬車事件」です。
ずさんな融資が行われたことにより、買い手として多くの初心者が参入し、不動産を高騰させていったと思います。
それなりの経験者は、かぼちゃの馬車になど投資しないと思いますが、まさに「素人が儲け話をしだしたら、バブルも末期と思え」という格言の通りの状態でした。
おかしな投資手法が登場したのもこの時期です。
金融資産残高の改ざん、売買契約書を複数作ることで融資額を膨らます手法(「巻き直し」といいます)、複数投資を申告せずにいくつもの金融機関から一度に融資を受ける手法など、まともな行為ではないのに、不動産欲しさにおかしな手法が横行していました。
そして、ノルマを背負った素人営業マンのしつこい電話勧誘や、うさんくさいコンサルティングを称するブローカーのセミナーなどがたくさんありました。
「簡単に買えて誰でも儲かる」、「素人なのに資産何億」などというメッセージであおって物件を買わせて、手数料を稼ぐビジネスが大手を振っていました。
かぼちゃの馬車事件は表面化しましたが、今後問題化するのは、田舎の相続税対策のアパートとワンルームマンションでしょう。
ワンルーム・バブルはもう終わります。高値で収益性の低い物件を借金などして買っていたら、資金繰りが窮していくでしょう。
ほんとに儲かるの? ワンルーム投資の収益構造とリターン・スピードの遅さ
そもそも、ワンルームは儲かるのでしょうか?
私の答えは、「NO」。
たいして儲からないし、キャッシュも残らないと思います。
それはワンルームの収益構造によるところが大きいといえます。仮に、1,500万円で買って、家賃が毎月7万円入るとしましょう。年間家賃は84万円です。
これで、表面利回り5.6%となります。想定される費用は、管理費・修繕積立金で月1万5,000円ほどと不動産会社に支払う管理手数料が月5,000円ほどあり、月2万円が家賃から引かれます。このため年間家賃は76万8,000円になると考えられます。
さらに、固定資産税が7万円ほどかかるので、最終的に年間家賃は70万円、実質利回りは4.6%という計算になります。
もちろん、投資開始の1年目は不動産取得税や売買時の費用でほとんど利益は出ませんし、キャッシュもさほど残りません。
2年目以降、月5万円ちょっと、年間70万円ほど残りますが、もし全額現金で購入していたとすると、回収するのに21.5年もかかります。これは遅いといえるでしょう。
ローンを組んだとしましょう。
1,500万円を全額ローン、返済期間15年、金利1.5%とすると、月の返済額は元利合計で9万3,111円。毎月持ち出しです。
年間では、111万7,000円程度の返済をすることとなり、負担が40万円を超えます。
儲かると思ったら、とんだ持ち出しになります。
では、500万円を頭金に1000万円だけ借りたとします。
そうすると、月の返済額は元利合計で6万2,740円。かろうじて現金が7,000円程度残りますが、固定資産税でほぼ消える金額です。
運よく融資期間が20年になれば、月の返済額は元利合計で4万8,255円。手残りが2万円ほどになり、年間で約24万円のキャッシュフローがあります。
7万円ほどの固定資産税を引いて17万円くらい残るでしょう。
しかし、このシミュレーションでは所得税、住民税を考慮していません。儲かっている場合、この儲け分に税金がかかります。
減価償却の影響があるので、仮に半分くらい減価償却費で所得が減り、税金で合計30%くらい差し引かれると想定すれば、手元に残るのは、年間12万円くらいとなります。
12万円のキャッシュフローで1,500万円の元を取るには125年、自己資金500万の元をとるには約42年もかかります。でも、少しでもキャッシュが残れば、御の字でしょう。
自分の給料以外に資産が稼いでくれるスキームを作ったという点では素晴らしいと思います。
ワンルーム投資のリスクを知らないと痛い目に遭う
しかし、ワンルーム投資が1室だけだったら、とてもこの収益さえおぼつかなくなります。空室があるからです。
空室の時は家賃がゼロですが、一方で経費は必ず出ていきます。先の例では、管理費・修繕積立金で月1万5,000円くらい。不動産会社に管理手数料月5,000円くらい。合わせて月2万円が出ていきます。
固定資産税年間7万円も避けられません。毎月2万円の出費+固定資産税7万円の出費、年間で19万円が固定的に出ていくのです。
さらに、入退室が繰り返されると修繕費がかかります。
安ければハウスクリーニング程度ですが、大きいと数万円から数十万円かかるのです。こうなると、ワンルームの儲けなど、一気に吹っ飛びます。
実際、私の知人は、1,500万円フルローンでワンルームを買い、本当に苦労していました。
空室、修繕のリスクを考えておかなければならず、こうしたリスクがあることを知ると、不動産投資収入で贅沢しようと思いません。
このように、ワンルーム投資の副収入でリッチになるのは簡単ではないのです。
ワンルーム投資は初心者向けの不動産投資“練習台”として考えよう
ワンルーム投資で富を得るのは難しいことを述べましたが、勉強と割り切って投資するのはよいのではないかと思っています。
「ワンルーム投資は初心者向けの不動産投資の“練習台”」とし、ワンルーム投資で不動産投資のお金の流れとリスクを知って、その後、本格的な不動産投資へ進むのがよいと思います。
ワンルーム投資を重ねて、メガワンルーム大家になる手もあります。
実際に、私がワンルームを買っていた2000年の前半にはこうした人が結構いました。複数持てば、分散によって空室リスクも低減できますし、“チリも積もれば山となる”わけですから、それなりのキャッシュも残るでしょう。
その上、ワンルームは楽ちんです。安価で購入でき、入居さえつく物件であれば、不動産管理会社に任せっぱなしで“チャリンチャリン投資”となります。
しかし、たいして儲からないのでお金を稼ぐスピードが遅く、リスクがあります。ここでストップし、無理をしないという選択肢もあります。学びも多いですからね。
学びとしては、上に述べた、不動産投資のお金の流れとリスクを知ることができる利点は大きなものです。
さらに、減価償却の影響や税金の影響、利益とキャッシュフローの違いなどを学べれば、投資リテラシーがどんどん高まります。ワンルーム投資は、不動産投資の“練習台”としては最適です。
なんといっても、いきなり大きな物件をフルローンで買うと、そのリスクは巨大なモノになります。小さい失敗や学びもなく、いきなり大きな物件に行くから、かぼちゃの馬車事件などでつまずくことになるのです。
ワンルームは不動産投資の“練習台”として最適ですし、少しでも儲かり続ける物件が手に入れば御の字なのです。
私がワンルーム投資から手を引いた理由
一方、私はこの高騰期にワンルームをすべて売り払いました。
そのワンルームは2002年ごろに買ったものですので、家賃のインカムゲインで投資金をかなり回収し、売却でキャピタルゲインまで得ることができました。
私がワンルーム投資から手を引いた理由は、収益性の高い一棟建築物や戸建てに投資をシフトしていて、そちらへの資金とするためでした。
同じ資金を投じているなら、より収益性が高く、資産性が高いほうが良いからです。
さらに言うと、この高騰期なら高く売れるというのも理由でした。実際にキャピタルゲインを得ることができました。
不動産価値が下落していく日本において、キャピタルゲインを得るタイミングはなかなかないので、高く売れるこの時期に売っておこうと判断しました
もう一つ売却した理由があります。それはワンルームに限らず、マンションは老朽化すると対応が難しくなると感じるからです。
大規模修繕の費用高騰、修繕積立金を滞納する入居者の負担増、管理費不足によるマンションの荒廃、建て替え時のもめ事などを見てきました。
マンションのライフエンドに近づくにつれ、さまざまなリスクが顕在化してくるからです。
結果が吉と出るか凶と出るかはわかりません。
けれども、リスク対応こそ不動産投資の大きなカギですから、私はワンルームから撤退する判断をしたのです。
とはいえ、最近、高台で最高の景観を持つ魅力的なワンルームを見つけて、購入を検討しました。物件の資産価値やリスクを超えた景観があると思ったからです。
景観によって、入居も堅いと踏みましたし、あの景観が手に入るなら自己使用してもいいと思いました。
不動産投資は、まずは儲けることが最重要ですが、出口として自己使用も考えると少し視点も変わってくるものです。
まとめ
さて、この数年ワンルーム投資を行った方々は、儲けが出ているでしょうか。
出ているならすばらしいことですし、そうでないなら、リスクに気をつけてなんとか投資収益をあげる努力をされていることでしょう。
ワンルーム投資で利益を出すのは簡単なことではなく、マイナスになる場合もあるので注意が必要です。リスクや経費から収益を計算した上で着手すべきだと考えます。
とはいえ、不動産投資の中では安価で購入でき、管理もしやすいので、「お金の流れとリスクを知る今後の投資生活への勉強」と割り切って経験することをおすすめします。
不動産投資は常に学びがあります。ゆっくりと資産を増やし、ゆっくりと豊かになって行きましょう。
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著者紹介
石川 貴康石川 貴康
外資系コンサルティング会社、シンクタンクに勤務し、現在は独立の経営コンサルタント。大手企業の改革支援を今も続ける。対製造業のコンサルタントでは業界第一人者の一人。会計事務所も経ており、経理、資産評価、相続対策にも詳しい。2002年から不動産投資を始め、現在は15棟153室ほか太陽光3箇所、借地8箇所を経営する。著書に『いますぐプライベートカンパニーを作りなさい! 、サラリーマンは自宅を買うな(東洋経済新報社)』『サラリーマン「ダブル収入」実現法 、100円ちゃりんちゃりん投資、(プレジデント社)』など