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石川貴康の超合理的不動産投資術

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売主側の親子・家族・税理士などの意見相違で振り回されたときの対処法

目次

最近、1件の物件で売買の合意が成立したにもかかわらず、売り止めになった物件がありました。
口頭での合意でしたが、合意は合意ですから契約に準ずる行為のはずなのですが、あっさりとダメになりました。

これまでもたびたび、売主ではなく税理士などの周りの人の意見が売買を妨げるケースに遭遇してきました。
実際に私が経験した、金額交渉において利害関係者からの影響を受けたこうしたケースを元に考察し、対策が可能かどうかを考えてみましょう。

親の物件を息子が「売り止め」にして買えなかったケース

この物件は区分所有です。古いマンションの1戸、2LDKでした。室内はきれいにリフォームされており、共用部分もきれいでしたがRC造で築40年を経過し、老朽化が激しくベランダ手すりは錆だらけ、といった物件です。

この物件は賃貸に出されていたものの、なかなか入居者がつかずオーナーが業を煮やして売りに出した物件でした。
賃貸付けも弱い上に、今後立て替えか大規模修繕を迫られるのが目に見えていますから、投資的には魅力がないと判断するのが普通の考えでしょう。

実際に、私は不動産業者からは買わないほうがいいと言われました。投資としては不適格だというわけです。
ところが、オーナーは強気の価格設定でした。私は20%引きの指値を入れ、紆余曲折ありましたが、その指値が希望通りになりました。

なぜこの物件を買おうと思ったのかというと、ずばり景観の良さです。この物件の眺望は素晴らしく、これだけでも買うに値すると思いました。
老朽化による将来のリスクを考慮したとしても、この景観は得難いと思ったのです。最悪、自分で使ってもいいと思ったほどです。

しかし、金額合意に至って契約日程を詰めていた段階で、突然売り止めに至ったとの連絡が入りました。不動産業者も契約書を作っていて、あとは売買契約をするだけでした。
オーナーが遠方に住んでいるため、契約の日程調整に手間取っていたのですが、オーナーも「切符も買ったので行きます」と言っていた矢先でした。

その後、オーナーは不動産業者の連絡をメールも留守電もすべて無視するようになりました。
私は銀行から預金をおろし、手付まで用意していたため、きちんとした説明を求めました。

その時のオーナーの回答は、「息子が反対している」とのこと。息子が海外から帰国し、使う可能性があるので反対していると言うのです。理由はそれだけでした。

早めに売買契約を結び、手付を打ってしまうことが大切

買い付け時にほかの人を申込者に加え、反対があったので買い付けを取り下げるという手はよく使われます。
しかし今回は逆で、売主側で突然の家族の登場でした。こうなるともう手が出せません。
こうしたことを防ぐためには、早めに売買契約を結び、手付を打って物件を確保してしまうしかないでしょう。

売買契約が成立した後に、売主都合で売却を取りやめる場合、“手付倍返し”の取り決めができます。「手付金の2倍の金額を払うくらいなら、売ってしまおうという」という気持ちにさせるための“縛り”です。

人間は、一度手にしたものを手放したがらないものです。一度手にしたものを失うことは、元に戻るだけなのに痛みを感じますし、手間もかかります。
そういう意味で“手付倍返し”は、なかなか良い手だと思います。

しかし、世の中は良い人ばかりではないため、まじめに“手付倍返し”してくれる人ばかりでもありません。下手すると返ってこないリスクもあります。
供託するかどうかは金額の過多と合意が必要で、誠実な売主でないと成り立たない可能性もあります。

結局のところ、売主の心変わりや家族の介入を防ぐには、「早めに売買契約を結び、手付を打ってしまう」ことしか手が思いつきません。
買主側は売主の意思決定をそう簡単には覆せないので、魔法の打ち手はないのが正直なところです。

税理士の介入で売り止めに!? 厄介なケースに対処は可能か

買い付けを入れた際に、税理士が売主の意思決定に影響を及ぼすことがあります。先に結論を言うと、これはほぼ覆せません。
私は税理士のアドバイスで売り止めになったことと、売買価格に占める建物割合で合意した内容をひっくり返されたことがあります。

少し前になりますが、豊島区に条件の良い一棟物が出たとの連絡を受け、早速見に行きました。まだレインズにも載らない、業者だけが媒介契約を結んだばかりの段階です。
訪れてみれば、目の前が公園で見晴らしも良く、素晴らしい環境でした。江古田駅の近くで、1DK6戸のアパート、表面利回り8%です。

一時は取り壊しでも考えたのか、現況は全空室でした。しかし、私は入居は堅い物件と踏みました。この時期なかなか良い条件の物件がないこともあり、すぐ買い付けを入れ、そのまま金融機関へ足を運びました。

金額も合意し、金融機関も融資の検討をするとの回答で、買付証明書を作成し、不動産業者には物件資料の収集と売買契約書の作成を依頼しました。

ほどなくして、不動産業者から電話があり、「物件の売り止めをしたい」と売主からの連絡が入ったと聞きました。
どうしても買いたかったので、その売り止めを覆せないかと思い、理由を聞いてもらいました。

返ってきた答えは「マイナス金利が発表され、税理士が売らないほうが良いと言っている」とのことでした。

ちょうどその頃、日銀に対する金融機関の預金金利をマイナスにすると報道が流れたばかりでした。
私はマイナス金利による影響範囲は金融機関にとどまり、一般の預金者の預金には影響がないと思っていたので、この税理士のアドバイスは意味が分かりませんでした。

今思えば、金利がないに等しい中で、「不動産があれば収入になるから売らずに預金代わりに持っておきましょう」、とでも言ったのでしょう。
全空室にしていたので、取り壊して土地を売ることも考えていたのでしょうから、そもそも処分することが前提の動きだったはずです。

ところが、全空室で再び入居者を募集する苦労、その間の費用負担、売却で入ったであろう大金をわざわざ無駄にしてしまう心理的な損失を、乗り越えるだけの影響があったのでしょうか。
それほど、高度経済成長やバブルといった良い時代を過ごした老齢の売主にとって、マイナス金利は恐ろしかったのでしょうか。

長い付き合いで税務相談をしてきた税理士への信頼は大きなものです。税理士は世の中のビジネスや動きに疎く、帳簿屋でしかない場合も多いものです。
しかし、依頼主も会計や税務がまったく分からないので、言われるままになるのでしょう。こうなると、もうどうしようもありません。あきらめるしかないのが実態です。

同様に、つい最近も買い付けを入れた物件で、税理士が介入してきて売買価格における土地と建物の案分割合に意見を入れてきたことがありました。

古い不動産で、特に土地の取得価格が不明確な場合は、それなりの方便があります。
簡易的に固定資産税評価額の土地・建物の金額比率で案分することです。今回は、売主が古くから持っている土地のため、簡易的にこの簡便法で案分して、売主・買主・不動産業者で合意していました。

ところが税理士が介入し、消費税支払いが多くなるので建物価格を落としてくれと言います。
計算の根拠はわかりませんが、建物価格を1,000万円落とし、その分で土地値を上げてくれの一点張りです。

買主としては、建物の割合が大きい方が減価償却費がとれてうれしいのですが、今回は特に計算根拠もなく「上げてくれ」の一点張り。
よくよく聞いてみると、建物は法人所有で消費税負担が発生し、固定資産税評価額割合で案分すると消費税が増えるので、下げてくれということでした。
つまり、売主の都合の良いように土地、建物の価格を変えてほしいとのことでした。

今はまだ、売手市場で買主としての私は弱いので受け入れることにしましたが、もう少しして不動産が売れなくなれば、こうした要望も受け入れる必要がなくなるでしょう。

しかし、ここでも税理士の影響力は絶大です。
こちらの税理士は先の豊島区の案件での税理士よりはまだまともで、クライアントの利益が最大になるように、きちんと数値でもって判断ができるようにしています。

こうなると対抗手段もないので、買付をやめるなどのブラフが使えない限り、受け入れざるを得ないでしょう。
もちろん、理不尽な要求ははねつけるなり、交渉するなりすべきですが、今はスピード勝負の時代で、まだ売主優位なので買主側は弱いものです。なかなか交渉術による対処ができない状況です。

もう少ししたら、売手市場も終焉するでしょう。そうなれば税理士が介入したとしても、売買を成立させるためのビジネス交渉が可能になります。
そうなって初めて、交渉という手が使えるようになるでしょう。

金融機関の影響力はあるものの、残債が残るかは運次第?

あまり表には出てきませんが、売買価格の合意に対して、金融機関の影が見える時があります。
売主が資金繰りに窮していて、売却させてローンを回収しようとしている場合です。

こうした時は、ローンの残債が残らないように少しでも高く売ろうとするので、ローン残債を割り込んだ交渉は拒否されます。
売主に問題がなく損切りで売って、残債は別な資金で完済する時は別ですが、残債があるとなかなか金額が妥結しません。

以前、知人から上野の物件を持ち込まれました。資金繰りに窮していたので、「4,500万くらいなら買う」と答えたのですが、金融機関に話したら、「最低でも6,500万でないと売ってはいけない」と言われたと返事がきました。

要は、残債をゼロにしないとダメだということです。しかし、狭小な土地に償却期間が過ぎた古い鉄骨3階建ての建物がのっていて、このままでは利用できないのです。

結局、この話は流れました。持ち主は自己破産したのではないかと想像します。
この物件は、その後誰かの手に渡りましたが、今も有効活用されていません。たまに入居があってもすぐ出ていくようで、あの物件を6,500万円で買ったとすると、買主は相当苦労しているでしょう。

金融機関はローンを回収しなければならないため、おそらく任売、下手すると競売になり、売主は悲惨な状況になることもあります。
私の知人がその後どうなったのか分かりませんが、金融機関に振り回されていたので、可哀想でした。
しかし金融機関は強いので、残債が残っても売っていいかどうかの判断に介入するのも仕方がないですね。

売主の資金が潤沢で、損切りの意味で残債があっても売るという物件に出会えれば価格交渉もしやすいので、そうしたチャンスは大事にしなければなりませんね。

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著者紹介

石川 貴康
石川 貴康

外資系コンサルティング会社、シンクタンクに勤務し、現在は独立の経営コンサルタント。大手企業の改革支援を今も続ける。対製造業のコンサルタントでは業界第一人者の一人。会計事務所も経ており、経理、資産評価、相続対策にも詳しい。2002年から不動産投資を始め、現在は15棟153室ほか太陽光3箇所、借地8箇所を経営する。著書に『いますぐプライベートカンパニーを作りなさい! 、サラリーマンは自宅を買うな(東洋経済新報社)』『サラリーマン「ダブル収入」実現法 、100円ちゃりんちゃりん投資、(プレジデント社)』など

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