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石川貴康の超合理的不動産投資術

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自宅は買うべきか、否か?「サラリーマンは自宅を買うな」に書き切れなかったこと

目次

自宅は買うべきか、買わずに賃貸で行くべきか。

長く答えが出ず、あちこちで今も議論や論評が行われています。そもそも、この論争に“正解”などあるのでしょうか?

私には「サラリーマンは自宅を買うな」(東洋経済新報社)という書籍があります。何刷も増刷を重ね、今も売れ続けています。このような題名をつけた書籍を書いた著者と見られると、私は賃貸派で自宅を買うべきではないと考えている一人と思われるでしょう。

私は15棟156室7借地1駐車場を持つ不動産投資家です。不動産をたくさん所有していますが、自分の住居は賃貸です。たくさんの不動産がありますが、自分では住んでおらず、自宅は家賃を払っての賃貸暮らしなのです。

なぜ、そうするのかを書いていきたいと思いますが、その前に、こうした論を聞く・読む際の注意点を述べたいと思います。

“購入派”、“賃貸派”のポジショントークに気をつける

多くの方が“自宅を買う派”、“賃貸派”で論を重ねていますが、純粋に論じられているのか、それとも背景があるのか良く確認をすべきです。多くの場合、自分のビジネスに優位になるように、ポジショントークを展開しているからです。

「この人は、なぜ執拗に自宅購入が正しいというのか?」、「自宅を買う方が優位というが、なぜマンションに限定するのか」といった点が気になったら、その人のビジネスを見てみるといいと思います。たいていはマンションを分譲したり、仲介したりすることをビジネスにしています。つまり自分のビジネスとして、自宅用のマンションを買ってもらうことで収益を得ている、もしくはその仲介で収益を得ていたら、その論は批判的に見なければなりません。

一方、賃貸を勧める人の背景にも注意が必要ですが、こちらは大したことはないでしょう。世に捨てるほど賃貸物件はあります。もしその人が賃貸を勧めても、その人の賃貸物件に住む人など確率的に微々たるものです。でも、批判的には見るべきです。

不動産投資ばかりを勧める人も、背景を検証した方が良いと思います。たいていはセミナーを開いていたり、コンサルをしていたりで、仲介することで報酬を得ているはずです。

こうした利害を背景にした人たちの発言は、自らのビジネスの収益をあげるためのトーク、つまりポジショントークになっているので、よくよく批判的に見て、自分で判断すべきことです。

ちなみに、私は不動産売買や仲介で儲ける仕事は一切していません。セミナーは呼ばれたらしゃべることもありますが、滅多に請けません。まして、自分で開催してセミナーで儲けるなどといったことは一切しません。また、絶対にコンサルなどしませんし、フィーを受け取ることもありません。

私の本業のコンサル業は、大企業相手の企業改革です。不動産は全く無関係。不動産投資は単なる副業なのです。そうした背景での発言ととってください。

「サラリーマンは自宅を買うな」のメッセージと本に載らなかったこと

「サラリーマンは自宅を買うな」という書籍名は刺激的ですが、この書籍名は著者である私がつけた訳ではありません。たいてい、書籍名は出版社の会議で決まるのです。この書籍名は内容を吟味し、出版社がエッジを効かせた名前として付けました。

実際、この書籍では自宅を買うことのリスクをたくさん書いています。しかし、賢明な読者なら気づいたはずですが、自宅を買うことがダメと書いてあるのではありません。

書いてあるのは、ずばり「あなたは自宅を買うことのリスクに耐えられるのか?」ということなのです。自宅を買ってしまうことによるリスクには、以下のようなことがあります。

①思ったより費用がかかる
賃貸でなくなったので住居費はゼロかというと、そうではありません。一歩間違うと購入時の想定外の費用、購入後も下手すると家賃相当額がかかり続ける可能性があるのです。あなたは大丈夫?

②35年もの長期のローンに耐えられるのか
あなたの会社は35年も持つのか、あるいはあなたは35年稼ぎ続けられるのか、という問いです。

③買った自宅は足かせにならないのか
自宅が足かせでヘッドハンティングの応諾や転勤、留学ができないなどの問題は起きないのでしょうか。子どもが苦労して遠くに通学する羽目にならないでしょうか。故郷の親の面倒を見たくとも、自宅があって無理な行き来にならないでしょうか。

④老後、その家はいつまでも住みやすく、資産価値があるのか
私の知人の多くは、今では売れない老朽化した家を抱えています。二人暮らし、一人暮らしで大きな家を持て余し、2階には登れず、荒れていくに任せて暮らしている家もたくさん知っています。あなたが一生をかけて手に入れた自宅は、価値があるのでしょうか。

上記のようなことが書かれていて、逆に言えば、上記のようなリスクが問題なければ自宅を買うことは問題ない訳です。

家族と暮らす家が自分の所有というのは悪いことではない

また、「サラリーマンは自宅を買うな」には掲載されなかった原稿部分もあります。それは、「家族で時間を共有し、思い出を刻む家が、自分が所有する家であることは悪くない」という文章です。ほぼ一項目がこうした論でしたが、ページが多くなったため、削除となりました。

私が育ったのは、いわゆる家族で所有する自宅でした。今でも、その思い出は強く残っていますし、所有されていた家だったことは心理的にもとてもプラスでした。良い思い出、よい影響があるので、私は自宅所有肯定派なのです。

しかし、私は今賃貸に住んでいます。これは先にあげたリスクを考えた上で、自宅を所有せず、賃貸で済ますことに決めたのです。

所有か賃貸かの損得勘定は、個人的な背景によって変わり正解はない

あちこちで、所有と賃貸で損得勘定が語られていますが、どの論考も良く読むと矛盾が多いうえに、ほとんどがポジショントークです。

特に、儲かるかどうかは、トータルキャッシュフローがプラスかマイナスかで検討すべきなのです。しかし、そうした論ではなく、10年程度の短い年数で資産価値が上がった・下がった、あるいは何十年も先の話なのに「資産価値が下がらない物件を買えば勝ち」とか「売るときにいくらで売れる」とか、空想のような仮定を置いています。

35年とか40年もたったマンションが、購入時より価値が上がると思える根拠はどこにあるのでしょう。まもなく私が買う区分所有のマンションは40年たったものですが、購入価格は新築時の1/6以下の価格です。これは私の実例ですが、多くの場で語られるシミュレーションは、果たして現実的な内容なのでしょうか。

家賃で消える分が資産になると言いますが、その資産のかなりの部分が消えてしまいます。また金利がかかる分、正味の価格以上の支払いが生じているのに、そうした消えるお金についても多くの場合触れられていません。意図的なのか、単に頭が回らないのか。

所有なら家賃を払わなくていいと言いますが、出費はゼロではありません。下手すると管理費、修繕積立金で家賃相当、それなりのマンションなら5万円、あるいはそれ以上かかり続けます。固定資産税もあります。追加大規模修繕費もあります。

最後は、住人同士で揉めて建て替えができず、老朽化マンションにずっと住まなければならないリスクもあります。老人だけで広い家に住み、持て余すリスク。売るに売れず、越すに越せず、苦労している人はたくさんいるのです。

もちろん、賃貸派も払った費用は何の資産にもなっていません。消えてしまいます。しかしその分、ダウンサイジングして住み替え、家賃を下げていくこともできます。
とはいえ、高齢になった時の賃貸リスクはつきまといます。一方、自治体の対策もあり「高齢賃」などの補助もあります。

実際に大家の身である私にとって、高齢だから貸さないと言うことはありません。今は供給過剰ですから、大家も競争です。私は入居確保のため高齢を理由に断ることはありませんし、そういう大家も多いと思います。
こうしたリスクを勘案した時に、自分がどちらを取るべきかが重要であって、答えが先にある訳ではないのです。

私が「自分が住んでもいいと思う不動産」を買って、賃貸に出す理由

私は、今の住まいでは賃貸派です。住宅ローンを組んで自宅を買うことにリスクを感じるからです。また、家族構成の変化などに合わせて自由に住み替えたいので賃貸でいきます。

最後に賃貸が難しくなっても、自分が投資している不動産のどれかを自己使用として住めば、住居は確保できます。これが前回のコラムでも書いた「自分が住んでも良い」不動産を買っている理由です。

とはいえ、自分の祖母などの例をみると、最後の数年は施設、ほんとに最後の最後は病院でした。果たして、最後まで自宅を所有することは意味があるのかどうか、考えどころです。

「自宅を買うべきか、否か」は自分で判断すべき。「これが正解」に気をつける

金銭を計算して「どちらが得」などと言うことにあまり意味はありません。不動産とは一品モノであって、平均やモデルで計算しても仕方がないのです。また、自分の置かれた前提、制約によっても計算が変わります。つまり個別に考え、判断すべきことなのです。

最初に戻りますが、「これが正解」などということはないのです。もし、そう言う人がいたら、そういうことで収益をあげるスキームにいないかどうかを見抜いてください。「これが正解」などという言葉には注意が必要です。

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著者紹介

石川 貴康
石川 貴康

外資系コンサルティング会社、シンクタンクに勤務し、現在は独立の経営コンサルタント。大手企業の改革支援を今も続ける。対製造業のコンサルタントでは業界第一人者の一人。会計事務所も経ており、経理、資産評価、相続対策にも詳しい。2002年から不動産投資を始め、現在は15棟153室ほか太陽光3箇所、借地8箇所を経営する。著書に『いますぐプライベートカンパニーを作りなさい! 、サラリーマンは自宅を買うな(東洋経済新報社)』『サラリーマン「ダブル収入」実現法 、100円ちゃりんちゃりん投資、(プレジデント社)』など

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