石川貴康の超合理的不動産投資術
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2019年1月26日(土)
中古物件の耐用年数の見極め方
中古の物件を買うときは、築年数も大きな判断材料になりますが、古くてもお得な物件など、その見極め方はあるのでしょうか。
耐用年数の経過年数は、購入後の減価償却が可能な期間に影響し、税金に影響します。金融機関の融資期間にも影響します。
中古物件の購入時に耐用年数に関し、どのように判断すべきか難しいところです。一律の判断基準はなく、投資姿勢に依存した判断になると思われます。
今回は、耐用年数に対する考えを書いてみたいと思います。
耐用年数とは?法定耐用年数と実態のかい離はどれくらい?
耐用年数というのは、文字の通りだとすると「用に耐える年数」でしょう。
使用することが可能な期間です。不動産でいえば、用に耐える期間ですから、賃貸に出せる、居住に耐える期間です。
たとえば、我が実家は既に40年住んで、使われています。まだまだ使用に耐える感じがします。
構造は鉄骨です。しかし、法定耐用年数は過ぎています。
耐用年数については「法定耐用年数」という取り決めがあります。税金計算をする際に、「損金(税務会計上の費用にあたり、売上などから控除できる)」計上をする減価償却費の計算の根拠となる年数です。
木造の居住用住宅は22年、RCは47年と規定されています。
「耐用年数(建物・建物附属設備)」参考:国税庁より
我が実家は重量鉄骨造りで耐用年数は34年です。
しかし、先に書いたように既に40年が経過しています。
でも、耐用年数を大幅に経過していても、まだまだ使えます。おそらくは、80年くらいたっても大丈夫ではないかと思っています。
法定耐用年数の意味と税金へのインパクト
法定耐用年数は建物や設備の実際の耐用年数を意味するものではなく、損金算入できる減価償却費の計算期間ということができます。
たとえば、居住用の木造住宅では22年間にわたって、建物価格の残存価値(最後に残る価値で取得価格の5%)を差し引いた95%の金額を減価償却費に計上できます。この間、損金にして税金を減らす効果があります。
中古資産を買った場合は、以下の考え方になります。
「耐用年数(建物・建物附属設備)」参考:国税庁ホームページより
(1) 法定耐用年数の全部を経過した資産
その法定耐用年数の20%に相当する年数
(2) 法定耐用年数の一部を経過した資産
その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20%に相当する年数を加えた年数
わかりにくいので計算例が載っています。
計算例
法定耐用年数が30年で、経過年数が10年の中古資産の簡便法による見積耐用年数
(計算)
(1) 法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数
30年 - 10年 = 20年
(2) 経過年数10年の20%に相当する年数
10年 × 20% = 2年
(3) 耐用年数
20年 + 2年 = 22年
この計算はまだ法定耐用年数が残っている計算例です。法定耐用年数がすべて経過した場合は、法定耐用年数の20%ですから、木造なら、
22年 × 20% = 4年
となります。
中古資産を購入しても、単なる差し引きでの残期間ではなく、経過年数の20%の期間を加算してくれたり、法定耐用年数の20%が使えたりするのです。
耐用年数期間がすべて経過してしまうと、損金になりませんから、それだけ利益(課税所得)が増えて、税金の支払いが多くなります。
法定耐用年数を経過しても家賃収入が続いているので、急に税金の支払いが増えるインパクトがあるわけです。耐用年数が影響することがらはまだあるので、確認しましょう。
耐用年数のインパクト①融資期間
耐用年数が影響するもので大きなものは融資期間です。
以前は比較的ゆるやかだった金融機関の融資期間は、最近では法定耐用年数の残存期間程度になりつつあります。
私がこの2,3年で購入した物件は、木造新築の場合で法定耐用年数マイナス2年の20年、中古の場合は残存期間ぴったりでした。
融資期間が長い方が返済額と支払利息の合計額が低くなるので、キャッシュフローとしては楽になり、短いと短期間に返済となり大変です。
融資期間に影響するため、最近中古物件を買う際は、できるだけ残存期間の長い物件を買おうと考えています。
耐用年数のインパクト②減価償却費と税金
既に書いた通り、減価償却費があれば損金算入できて、課税所得が下がり、税金が下がります。
ローン返済がある場合は、税金が減ってもローン返済でキャッシュが流出しているのでキャッシュフローはさほど潤沢ではありません。
もし、ローン返済期間が残っているのに法定耐用年数を過ぎてしまうと、ローン返済+税金アップで相当にキャッシュフローが苦しくなります。
返済期間と残存耐用年数が一致している方が、法定耐用年数の経過終了によるキャッシュフローひっ迫を避ける融資姿勢になって、より保守的な融資になるわけです。
耐用年数のインパクト③修繕費と設備費
耐用年数が経過していると、当然建物や設備は、それだけ老朽化しています。
修繕費は上がりますし、設備の入れ替えも発生します。新しい物件では、それだけ修繕費や設備費を抑制できます。
耐用年数の経過年数はキャッシュフローに影響するので、新しい物件や設備の方が好ましいわけです。
耐用年数のインパクト④入居との関係、空室リスク
また、入居者にとっても耐用年数が過ぎているモノよりは、新しい方が好ましいわけです。
耐用年数が経過している物件ほど老朽化し、設備も古く、魅力がないと考えてもいいと思います。
最新設備と意匠、デザインで建てられる新築に比べ、中古物件は不利です。
中古物件を検討する場合、私が最初に見るのが利回りと構造、築年数なのです。
理由は、築年の古さや、法定耐用年数の残期間によって、入居に影響があると考えているからです。
とはいえ、古いからといって入居が皆無になるわけではありません。
それなりの修繕や投資を重ねることで、魅力ある物件は維持できます。
一概に古いから、耐用年数が残っていないからといって敬遠するわけではなく、要は長く収益が上げられるかどうかが問題なのです。
耐用年数の見極めはできるのか
それでは耐用年数の見極めはできるのでしょうか。私なりの考えを述べます。
まず、耐用年数が残っているほど良いと考えます。
理由は、①融資期間も長くなり、②損金算入期間が長く税金を減らすことができ、③追加の修繕費・設備費がかからず、④入居付けが楽だろうと考えるからです。
実際何年くらい残存期間が残っていればいいのかという問いも聞こえてきそうですが、この問いへの明確に「○年」といった正解はありません。
収益性が高く維持できるのであれば、古くても買いですし、そうでないなら新しくても、耐用年数が長く残っていてもNGです。
長期的な収益見込とキャッシュフロー見込の一要素が耐用年数なのですから、収益性とキャッシュフローを鑑みてできるだけ有利な耐用年数と残存期間を選べばいいのです。
この辺が、不動産は一品もので、それぞれに検討しなければならない所以です。
法定耐用年数が長いRCが有利?短い木造は良いの?
単に法定耐用年数が長い方が良いのであればRCの方が良いとなります。
RCの法定耐用年数は47年ですから、建物のなかでは最長です。
しかし、相当の費用がかかる場合があるので注意が必要です。
RCは建物の固定資産税が高くなります。私が以前持っていたRC物件は年間の固定資産税が150万を超えていました
。堅牢でいいのですが、それだけ建築費が高く、取得価格で見積もる固定資産税が高くなっていました。
150万円は1か月分の家賃を超えていたため、キャッシュフローに多大なマイナスでした。
また、RCは規模が大きくなると管理費もかかります。
特にエレベーターや共用部分の電気代、掃除代などは負担が重く、消火器などもたくさん揃えなければなりません。受電設備の点検、上水道の点検も必須です。
また、大規模修繕時は相当なコストを考えなければなりません。外壁塗装、屋上防水、エレベーターの入れ替えなどは大きな出費です。
このような出費をあわせても収益性とキャッシュフローが高ければ、問題ないでしょう。つまりは、バランスなのです。
逆に木造ではどうかというと、法定耐用年数が短いので、NGかというとそうではありません。
RCとは逆に構造が単純なため、経費がかからないのです。固定資産税も安い。収益性に問題がなければ、キャッシュフローは楽になります。
しかし、RCであろうと木造であろうと、残存期間が短いと、減価償却費として計上できる期間が短くなるので、あまり短いとローン支払い中に税金支払いが増えて大変です。
ですから、残存期間が長い方が良いし、できればローン返済期間をできるだけ長く取れて、返済期間同などの残存期間があることが望ましいでしょう。
とはいえ、現実は理想的な物件はそうありませんから、やはり探して探して、バランスが良く、収益性とキャッシュフローに問題が生じない物件を見つけるしかありません。
たくさんの物件を見て、鑑識眼をあげていきましょう。
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著者紹介
石川 貴康石川 貴康
外資系コンサルティング会社、シンクタンクに勤務し、現在は独立の経営コンサルタント。大手企業の改革支援を今も続ける。対製造業のコンサルタントでは業界第一人者の一人。会計事務所も経ており、経理、資産評価、相続対策にも詳しい。2002年から不動産投資を始め、現在は15棟153室ほか太陽光3箇所、借地8箇所を経営する。著書に『いますぐプライベートカンパニーを作りなさい! 、サラリーマンは自宅を買うな(東洋経済新報社)』『サラリーマン「ダブル収入」実現法 、100円ちゃりんちゃりん投資、(プレジデント社)』など