加藤隆が実際に体験した不動産投資の罠
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2019年10月30日(水)
不動産経営の失敗…「効果的なリカバリー方法」はあるのか?
不動産経営のメリット・デメリット
「かぼちゃの馬車」事件や「スルガ銀行」騒動をきっかけに、融資基準が厳しくなるなど、不動産投資の環境は目まぐるしく変化しています。そのような新しい環境のなかで、例えば「急激なキャッシュフロー悪化」などの状況に陥った場合、どのような対処を行えばいいのでしょう。今回は、3つのポイントに絞り、リカバリー方法を解説していきます。
不動産経営における「リターン」や「メリット」とは具体的に何を指すのでしょう。以下、基本的なものを挙げてみます。
●家賃収入というインカムゲインがある
●場合によっては値上がり益によるキャピタルゲインもあり得る
●借入金を活用できること
●生命保険機能があること
●節税機能(所得税・住民税・相続税)があること
…代表的なものですが、ほかにも、法令、会計・税務、不動産などの「知識」や「人脈」が手に入ることや、あるいは「社会貢献(住宅供給・自力救済)」ができることなども挙げられるでしょう。
一方の「リスク」や「デメリット」はというと、
●自然災害(地震・火災・建物倒壊・津波など)
●不景気などによる家賃下落・資産価値下落
●借入金返済不能のリスク
●修理費・リフォーム費用・大規模修繕費用
●家賃滞納、空室(資金返却・リフォーム・空室フリーレント時家賃なし・広告費・家賃下落)のリスク
などでしょうか。
このように、不動産経営におけるメリット・デメリットはいろいろ挙げられますが、最も重要なポイントは、「例月の資金繰り・キャッシュフロー」といえるでしょう。いくら会計・税務上黒字で、かつ自己資本が厚くなっても、資金繰りがショートすれば、即行き詰まり、黒字倒産だってあり得ます。
この資金繰りですが、
<受取り現預金−支払い現預金=手残り現預金>
の式で表すことができます。
不動産経営でいえば、受取家賃から、諸経費・ローンの支払いをしたあと、いくら手元に残るのかということです。手残りが無くなり、マイナスともなれば、給料や預貯金から取り崩し、補わざるを得なくなります。それでも足りなければ破綻はまぬがれず、自己破産となります。
ローンの場合、支払い不能となれば、抵当権を行使され、競売にかけられ、二束三文で売却され不動産を失ってしまいます。さらにそれが債務に満たない場合は、借金のみが残ってしまいます。
キャッシュフロー悪化への打開策…3つのポイント
このような事態に陥らないために必要なのが「キャッシュフローを改善する」ということになります。どういうことか? 重要になるのが以下の3つの要素になります。
1 「収入を増やす」
2 「諸経費を減らす」
3 「支払いローンを減らす」
一つひとつ具体的に見ていきましょう。
1つ目は「収入を増やす」について説明いたします。
なんといっても、家賃収入として、敷金・礼金、家賃、更新料を増やすことです。しかし日本は、少子高齢化・人口減、不景気、物件の供給過多などで、借り手市場となっている現状があります。
以前は入居時に、敷金2ヶ月分、礼金2ヶ月分、前払家賃1ヶ月分、仲介手数料1ヶ月分が発生し、合計6ヶ月分の収入がありました。ところが昨今は、敷金なし、礼金なし、フリーレント1ヶ月、仲介手数料なし(その代わり、賃貸人による広告費)、合計ゼロ、いわゆる「ゼロゼロ物件」、更新料なしがスタンダードになっています。例えば下手に更新料などを請求しようものなら、家賃減額を要求されたり、転居されたりしかねません。
「敷金」・「礼金」・「仲介手数料」・「更新料」は、もはや死語になりつつあります。不動産経営者としては、そもそも、立地・環境のいいエリアの物件を購入し、へき地のように、値下げ競争に巻き込まれないようにすることが先決です。
そして、修理・リフォーム(現状維持)はもちろん、時にはリノベーションをして、物件自体の価値を高め、家賃アップを狙うくらいの気持ちが必要です。私もクロスやライト、トイレなどを変えることで、家賃アップを実現してきました。
収益物件評価方法には、収益還元法、積算法、近隣価格比較法などがあります。例えば収益還元法であれば、家賃のアップに伴い、資産評価額も上がります。逆にいえば、家賃を下げると、資産評価額も下がってしまう場合もあります。この場合、担保余力にも関わり、追加で融資を受ける際にも影響してきます。同時に、売却する際にも影響してきます。
また、一棟物の場合には、安易に家賃を下げると、ほかの入居者からの値下げ要求にもつながりかねません。入居者同士が親しくなければ分からないと思うかもしれませんが、ネット社会である今、新規募集家賃の情報は、簡単に分かります。それを元に、値下げ要求してくる入居者もいるかもしれません。不景気な昨今、値下げ競争・値下げスパイラルに落ち込んだら、大変です。昔のハンバーガー・牛丼のように、やがてはビジネスとして破綻してしまうかもしれません。
以上のようなことから、敷金・礼金・仲介手数料をなしにすることや、フリーレントを付けること、家賃の値下げは最終手段にするべきだと考えます。現在の入居者の方を常に大切にし、「更新料はなし」とするなど、なるべく、退去・空室につながらないように工夫しましょう。故障・クレームなどは、多少は割高でもすばやく対応しましょう。
空室になると、敷金返却、リフォームが必要となり、当然フリーレント時は家賃なし、広告費、家賃下落などが一挙に押し寄せてきます。やむを得ず空室になった場合には、迅速に退去手続き・精算、リフォームをしつつ、早期に次の入居者の方を確保することです。家賃滞納・空室は、不動産経営にとって大敵なのです。
また、不動産経営で収入を増やす手段として、なにも家賃だけに頼る必要はありません。そのほかの収入も積み上げていくことが可能です。例えば、駐車場、自動販売機、コインランドリー、電柱用土地賃貸料、キャリア基地局使用料、看板設置料などがあります。これらを活用すれば、結構な額になります。
「所得税を圧縮」すれば、翌年の住民税も節税可能
2つ目は「諸経費を減らす」についてです。
手元のキャッシュを増やすには、現預金だけではなく、各種支払い(経費)を減らすことも重要です。最大の経費は、税金でしょう。
【税金】
効果的なのは、減価償却費の活用です。不動産は、購入時支払い済みですが、建物は耐用年数に応じて劣化していくという考え方に基づき、各年の支払いはないものの、経費に計上することができます。
ほかに日常家事関連費として、不動産経営に関連するものを経費化しましょう。修理費・リフォーム費用・リノベーション費用、支払い金利、建物管理費・賃貸管理費、人件費、事務所関連経費、光熱費、損害保険料、租税公課、車両関連費、交通費、通信費、図書調査費、備消品費、交際費、諸雑費…など、各種経費を積み上げていきます。
このような不動産経費を算入し、不動産所得を赤字にすれば、給与所得と損益通算して、源泉徴収された税金の還付を受けることも可能になります。所得税を圧縮すれば、翌年の住民税も節税することができ、保育園料、各種手当、奨学金なども有利になります。
【損害保険料】
損害保険料は、長期間契約すると、割安になります。また、今後、保険料が値上がる予定ですので、その前に保険契約を変更(解約・新規)するという手もあります。
【団体信用生命保険(団信)】
不動産経営用の団体信用生命保険(団信)は、性別・年齢にかかわらず同額で、一般の生命保険に比べて割安(半額程度)です。なるべく団信を活用し、その代わり、一般の生命保険を解約します。病気・怪我のケアには、割安の都民共済、勤め先の団体割引保険程度で十分です。
金融機関の借り換えによって、金利の引下げ・融資期間を延長する
3つ目の「支払いローンを減らす」についてです。
まずは直接、金融機関宛てに、ローンの金利引下げ交渉をしましょう。交渉だけなら手間や経費もかかりません。
ほかの金融機関への借り換えによって、金利の引下げ・融資期間を延長することが可能です(私も交渉後、金利の引下げに成功したことがあります)。この場合は、諸経費(抵当権設定付金銭消費貸借契約書用収入印紙、解約違約金、融資手数料、登録免許税、司法書士手数料)がかかりますので、まず長期的な損得を試算します。
定期預金・定期積立預金などがある場合、ほかの金融機関への借り換えを機に、これら経費を不要にすることも視野に入れます。不動産経営が億単位の規模になってくると、これらローンの見直しだけで、例月百万円、トータルにして億単位の支払い削減も可能になります。
今後、不動産価格は下がっていくが、利回りは向上する!?
大小、波の大きさは変わるものの、景気の歴史は繰り返すものです。
日本は、1999年平成バブル崩壊、2000年ITバブル崩壊、2008年サブプライムローン・リーマンショック、2018年アベノミクスミニミニバブル崩壊…と10年間隔で、好景気(バブル)とその崩壊を繰り返しています。
一般的に、景気がいい時には家賃は上がらず、不動産価格のみが上がり、利回りは悪化するといわれています。その代わり、融資は受けやすくなります。
一方、景気が悪化すると、家賃はさほど下がらないのに、不動産価格は暴落し、利回りは向上します。その代わり、融資受けは困難となります。このあたりの微妙な変化は、どんな時期であっても、注意深く観察すべきでしょう。
2018年は、「最後にスガル銀行」・「ズルガ銀行」・「4.5銀行」という皮肉めいた愛称がつけられた金融機関による取引事件なども発生し、金融庁が不動産融資禁止令を出しました。そのような背景もあり、今後、不動産業界・金融業界の融資も徐々に絞られていくのは明白で、それに伴い不動産価格も下がっていくものと想定されます。しかし、前述のとおり、家賃はさほど下がらないので、利回りは向上していくのではないでしょうか。
また、今後の“不動産融資禁止令”のなかにあっても、高属性で資金調達ができる人、現金購入できる人は、バーゲン価格で選り取り見取りで好物件を買えるようになるでしょう。
1990年平成バブル崩壊後も、不動産氷河期の時代がありました。不動産経営関連の書籍・セミナーもなくなり、不動産などは誰も見向きもせず、投げ売り状態で、競売、任意売却が流行り、利回り20%といったものもゴロゴロしていました。
今また家賃はさほど下がっていないのに、物件価格のみが下がり、いまだ調達金利も低い時代に突入しつつあります。リスクを取り、なんとか資金調達し、優良物件を割安価格で購入できれば、キャッシュフローを向上させられます。
ただし、長期的で大局的なトレンドとして、紙幣・国債増刷などによるインフレにより貨幣価値下落・物件価格上昇があれば、相対的に不動産価格は上がっていく可能性もありますので、くれぐれも楽観は禁物です。
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著者紹介
加藤 隆加藤 隆
サラリーマンのままで、経済的・時間的・精神的自由を目標に、預貯金・外国為替・貴金属・株等の資産運用を経て、不動産経営歴31年。数々の失敗・バブル崩壊を生き抜き、リスク分散をモットーに、東京・博多・札幌・名古屋・京都・小樽・千葉に、区分所有マンション・一棟物アパート・一棟物マンション・戸建等、物件108戸を運営。総資産7億円・借入5億円・自己資本2億円、年間家賃収入4,100百万円・借入金返済3,100万円・キャッシュフロー1,600万円。節税で、所得税・住民税ゼロ。