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石川貴康の超合理的不動産投資術

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日本人の4人に1人が65歳以上……賃貸物件の「孤独死リスク」を避ける方法は?

目次

国内雇用者の4割近くが「非正規雇用」という現実…

こんにちは、石川貴康です。ここ数年のアベノミクスにより、株式市場や経済は活性化したような気がしていましたが、賃貸業界に恩恵があったのかどうか、私には分かりません。しかし、不動産投資には、明らかなトレンドがあります。一つは前回書いた、「少子化、地方の人口減、都内集中」です。もう一つのトレンドは、『高齢者の増加、定職に就かない若者の増加』でしょうか。

総務省は2019年4月13日に、2017年10月1日現在の人口推計を発表しています。総人口は前年より22万7千人(0.18%)減の1億2,670万6,000人で、7年連続の減少。なんと、65歳以上の高齢者は56万1千人増の3515万2千人となり、総人口に占める割合は過去最高の27.7%です。4人に1人が高齢者です。

また、総務省の労働力調査によれば、2017年の正規の職員・従業員は3423万人と56万人の増加、非正規の職員・従業員は2036万人と13万人の増加です。正規雇用も増加していますが、非正規雇用も増加しています。

割合でいうと、被雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は 37.3%と 前年比0.2ポイント低下したものの、依然として高水準です。非正規雇用の割合は2002年に29.7%だったものが、2017年には37.3%ですから、増加の一途です。

雇用の4割近くが非正規雇用なのです。もちろん、非正規雇用が定職についていないという意味ではありませんが、有期雇用である点で、正社員に比べて不安定な状況であるのではないかと思います。

非正規雇用を定職といえないかどうかは議論の余地がありますが、定職に「つけない、つかない」といった理由はさまざまだと思います。本コラムはそうした理由を詮索することが目的ではないので追求しませんが非正規雇用の増加、あるいは安定した定職につけない、つかないといったトレンドは続いているということです。

高齢者、定職がない人、外国人…大家が貸したがらない「リスクの高い入居者」

高齢者や安定した定職がない人、そして外国人に対して、大家は部屋を貸したがらないというのが昔からの定説です。理由は一言でいえば「リスクが高い」ということに尽きるでしょう。

まず高齢者ですが、収入が途絶え、家賃を滞納される「リスク」があります。そして、最大のリスクは「孤独死」です。孤独死されると、事件性がなくとも家賃は大幅に下落します。大家にとっては貸しにくい相手なのです。定職がない人も、想定されるのは「家賃滞納」のリスクでしょう。そして外国人は、習慣の違いから、「近隣への迷惑」などのリスクがあったのでしょう。

こうした人たちに貸したがらないということも残っているでしょうが、多くは貸し手が有利な市場であった時代の話です。大家が入居者を選別していた時代はとうに終わっています。今は、入居者を探してでも入ってもらわなければならない時代になりました。いつまでも昔の感覚で賃貸業をしていては、空室は埋まりません。

確かに、古い大家やリスクをとるのが嫌な大家は、前述の人々を敬遠しているのかもしれませんが、それは「古い価値観」と言いきれます。賃貸業を営んでいけませんし、少なくとも私はそんな古い感覚は持ち合わせていません。実際、こうした「リスク」を低減する策がいくらでもありますので、これらを使わないのは賃貸経営上の怠慢だと思います。

高齢者に限らない「孤独死リスク」を避ける具体的な方法とは

さて、大家に敬遠されているという高齢者ですが、私は気にせず貸します。もちろん、賃貸の際は保証会社の審査を通します。審査がOKの人なら貸します。もし、滞納といった事態になっても保証会社を通じて契約しておけば、対応してくれるからです。これで、滞納のリスクはクリアです。

もうひとつ、最大の心配ごとといえる「孤独死リスク」ですが、こればかりは、老若男女にかかわらずあるので、完全に避けることはできません。現に私の物件では若い方が亡くなりました。

孤独死リスクは常について回ります。絶対の回避は無理ですが、私は回避策の一つとして、「管理会社に定期的に巡回してもらうこと」で対応しています。まだ、実施はしていませんが、自治体の見守りサービスなどもあります。しかし、完全に回避は困難ですから、こうしたできる限りのリスク回避策を敷いたうえで、賃貸するかどうかを判断しましょう。

前述のとおり、いまや人口の3割近くが65歳以上ですから、それなりのボリュームになっているわけです。逆に考えれば、この層を敬遠すれば、自動的にその3割の見込顧客を失うということになるのです。

なんともったいない!

保証会社を通じ、かつ、管理会社の定期巡回を合わせることでこのボリュームゾーンが取れるのですから、気にせずこのような入居者を受け入れるべきです。繰り返しになりますが、私は貸します。

また、賃貸が難しい高齢者に対して、自治体が支援をしている例もあります。例えば文京区の「文京すまいるプロジェクト」。このプロジェクトは、高齢者への貸し渋りをしないことに協力する家主を募集し、文京区に物件を登録します。登録後、高齢者が入居すると、部屋の設備に応じて最大で月2万円の助成を大家に行う制度です。

そして、高齢者のさまざまなリスクを低減するための “見守り支援” を区が行うのです。こうしたセーフティネットがある自治体もまれではありますが、出てきているのです。

「サ高住」、「サ高賃」…近年拡充している「高齢者向け住宅サービス」とは

民間事業者やUR都市機構が運営し、都道府県単位で認可登録を行っている高齢者向け住宅もあります。一つは、「サービス付き高齢者向け住宅」です。これは、「サ高住」といわれる高齢者専用バリアフリー構造の民間賃貸住宅です。

常駐する生活相談員が、入居者の安否確認や生活支援サービスを担ってくれます。入居に掛かる費用や月額費用は、事業者や地域によって差がありますが、一般の賃貸住宅と比較して高く設定されているのが難点で、かつ、入居の競争も激しくなっています。

もう一つは、「サ高賃」と呼ばれる「高齢者向け優良賃貸住宅」です。「サ高住」のような相談員の常駐はありませんが、バリアフリー構造で個室内に緊急通報装置が設置されていることが特徴です。家賃補助制度があるため申込者が多く、入居は抽選で選ばれる上に高倍率です。

どちらの住宅も、入居できるのは60歳以上の高齢者か、軽度の要介護者です。介護認定をされていなくても入居ができるようです。これら施設を新築で建築する際には、「サ高賃」の条件を満たすことで、さまざまな助成が受けられます。

ただし、「サ高賃」であっても連帯保証人が必要であったり、自分の身の回りの管理ができることが前提であったり、認知症には対応しない、介護レベルが上がると住み続けられないなど、入居者には不利な条件があります。

高齢者は「最後は一人で住み続けられなくなる」のが現実

ご紹介したような高齢者向けの住宅制度も出てきていますが、当然すべての希望者を受け入れるわけではありません。そうなるとやはり、高齢者といえども、普通の賃貸での暮らしにならざるを得ません。

高齢者が一人で住む点については、賃貸だろうが、所有している自宅だろうが、実は同じ問題をはらんでいるのです。それは結局、「最後は一人で住み続けられなくなる」ということです。

独居老人の場合、結局最後は病院や施設に移ることになると想定します。例えば私の祖母です。長く自宅で暮らしていたものの、やはり最後は施設に移り、亡くなったのは病院でした。祖母の入院中にも、何人もの高齢者が病院に搬送され、亡くなりました。話をする機会もあり、聞いてみると、自宅、賃貸に関わらず祖母と同様のプロセスを踏んでいました。孤独死や突然死でない限りは施設に移る、入院する、のプロセスを経るのがいまや一般的のようです。

そのような状況を鑑みれば、施設に移るまでの居住を提供するのは、私は問題ないと考えています。

私の物件では、高齢者はいるものの、後期高齢者で独居の方はいません。もし、入居ということになれば、管理会社と協議し、自治体の見守り制度の導入を検討するでしょう。いよいよ自立した生活が困難になれば、場合によっては特養老人ホームなどの施設への転居を勧めるでしょう。

これからの時代に求められる「誰にもでも貸す」という基本姿勢

定職がない人のなかでも、完全失業者で収入がなければ、そもそも賃貸に住むことさえできない可能性があります。一方、非正規雇用者で、かつ保証会社の信用チェックがOKであれば、私は問題なく貸しています。

いまや被雇用者に占める非正規雇用者の割合は 37.3%です。高齢者への賃貸の考え方同様、この層に賃貸を渋るというのは戦略としても考えられません。信用があれば、私は貸し手になりますし、多くの大家も貸しているはずです。

定職がないという意味では、生活保護者の方はどうでしょう。自治体の保障があるので、問題なく貸すことが可能なのです。私は何人にも貸しています。要は大家側の「リスクが低減できる準備」と、借り手の「信用」です。

外国人も同様です。以前は貸さない大家もいました。いまや多くの外国人が日本に住んでいますし、一部の国の人は日本人よりもマナーがいい場合もあります。外国人を専門に仲介する会社もあり、ニーズは高いのです。私は、現在、ベトナム人、中国人に賃貸していますし、過去には、イラン人、韓国人、スリランカ人に賃貸をしましたが、まったく問題ありませんでした。

さて、一般には敬遠されがちといわれる高齢者、定職につかない若者、そのほか、生活保護受給者、外国人であっても、「リスクを低減」し、かつ、きちんと「信用を担保」できるのであれば問題はないのです。私はこれらをきっちり行います。それだけで、賃貸する層が増えるのですから、逆にチャンスともいえるのではないでしょうか。

不動産賃貸をするならこうした当たり前の努力はすべきだと思います。そこをさぼり、入居者を選別していては、こうした層の今後の増加トレンドについていけなくなるでしょう。

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著者紹介

石川 貴康
石川 貴康

外資系コンサルティング会社、シンクタンクに勤務し、現在は独立の経営コンサルタント。大手企業の改革支援を今も続ける。対製造業のコンサルタントでは業界第一人者の一人。会計事務所も経ており、経理、資産評価、相続対策にも詳しい。2002年から不動産投資を始め、現在は15棟153室ほか太陽光3箇所、借地8箇所を経営する。著書に『いますぐプライベートカンパニーを作りなさい! 、サラリーマンは自宅を買うな(東洋経済新報社)』『サラリーマン「ダブル収入」実現法 、100円ちゃりんちゃりん投資、(プレジデント社)』など

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