石川貴康の超合理的不動産投資術
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2019年10月10日(木)
賃貸物件の大家にとって「消費税増税」が圧倒的に不利であるワケ
「失われた30年」、スタートは消費税導入であったが……
こんにちは、石川貴康です。ようやく涼しくなりましたが、今年は猛暑で大変でした。毎年「猛暑」が普通になっていますが、ここまで暑いと外で過ごせなくなります。これは、深刻な気候変動の現れですかね。
さて、景気は一向に上向きませんが、いよいよ消費税増税が導入されましたね。世界各国では、減税や低金利政策で景気刺激策を打っているときに、日本は増税です。過去の例では、消費税増税後景気が大幅に冷えこんでいます。そもそもこの「失われた30年」のスタートは消費税導入でした。その後30年、OECD加盟国で成長していない唯一の国が日本なのです。
内需主導の日本で、それを冷え込ませかねない消費税増税とはどうしたことかと思いますが、今後、大きなリセッションを覚悟しなければなりません。
ところで、大家になっている人は気づいているかもしれませんが、この消費税、大家にとって著しく不利な税制になっています。本来、大家も団結してこうした不利益をなくすべきなのですが、社会的に大家は富裕層と見られていて、妬みの対象にもなっているので支持されにくいでしょう。大家も本当は大変なのに、そうでない人には分からないでしょうね。
では、どういう点が不公平なのか、見ていきましょう。
消費税とは、モノやサービスの最終消費者が担う税金です。中間の事業者は、仕入時に消費税を仮払いし、売上時に仮うけし、その差額がプラスであれば納税、マイナスであれば還付をうける制度です。
例えば、ある人が材料100円に8円消費税を乗せた商品を仕入れたとしましょう。その商品を150円に12円の消費税を乗せて売ったとします。消費税の計算は、
仮うけ消費税12円-仮払い消費税8円=差額4円
……となり、この4円が消費税として納付されます。
逆に、最終消費者が150円+12円で買ったものが、実は200円+16円で仕入れたとすると、仮うけ消費税12円-仮払い消費税16円=差額-4円となり、4円の消費税の払い過ぎが還付されます。
つまり、消費税は、途中の事業者にとっては売上、仕入、原価に影響せず、仮うけ、仮払いの税金となります。
「居住用家賃」は非課税!大家は「消費税」を預かることはできない…
居住用の家を貸す大家は事業者で、入居者が最終消費者になります。本来であれば、家賃に消費税を乗せて家賃を収受できるのですが、居住用住宅の家賃は非課税です。消費税をとることができません。
非課税では、消費税は転嫁できません。しかし、不動産を経営する際に発生する経費はすべて課税なのです。賃貸管理委託料、修繕費等の経費は容赦なく課税分が乗せて請求され、消費税分は仮払いではありません。完全に大家の負担となるのです。大家は事業者で最終消費者ではないのに、消費税担税者にされます。
同じことが、医療法人にも起きています。医療法人の保険診療は非課税なのですが、同じように医療法人が購入する医薬品や備品等の経費は消費税課税です。居住用の住宅を貸す大家と同じで、「収入は非課税、経費は課税」という構造です。
仮うけのない状態で仮払いが生じているなら、本来仮払い分は過剰負担として大家に還付されるべきですが、その負担は大家に押し付けられているのです。ほかの事業ではそんなことはないのに、大家は医療法人同様の不利益を被っています。
大家も病院も、儲けているのだから多少の税負担をさせても構わないと思われているのかもしれませんね。多くの医療法人の赤字は放漫経営が原因ではなく、こうした不公平な税負担も原因でしょう。同様に大家が大変なのも、税負担が重いことも理由の一つなのです。
不公平!? 仮払い消費税分が「輸出業者」には還付されるカラクリ
一方、非課税でない事業者で、消費税の仮うけができない事業者は、仮払い分の消費税が還付されます。例えば、輸出業者です。
自動車を扱う会社で考えてみましょう。日本国内で自動車を仕入れ、海外に売った場合、仕入れには消費税がかかっていますが、輸出した際は、購入者が外国の事業者になるので、消費税はとれません。しかし、この場合は、売り主が消費税をとれないため、仮払いした消費税分は還付がされるのです。
自動車を製造している会社もそうです。日本の自動車会社は莫大な消費税還付をうけています。輸出比率が高く、国内製造・調達が主の会社も消費税還付がうけられます。
何という不公平でしょう。
大家と医療法人は、国の政策で消費者のために非課税にされ、本来事業を営む際に仮払いした消費税はまるまる負担させられるのです。繰り返しますが、これは、とんでもなく不公平な税制です。
「居住用賃貸の経費」に掛かる消費税は還付対象にすべき!!
この構造は、厳しいものです。今後、消費税10%の増税分は直接大家の負担となります。本来、仮払いと仮うけの差額を支払い、最終消費者が負担することになる消費税を、事業者である大家が負担する構造になっているのです。
不動産経営の経費は、不動産管理費、修繕費、水道光熱費、清掃費、備品費、雑費などさまざまです。私の賃貸経営では、不動産収入に対する経費率は20%に及びます。
仮に、1,000万円の家賃収入があれば、約200万円の経費で、消費税が8%であれば16万円の負担です。本来、この仮払い消費税は仮うけ消費税と相殺して負担ゼロになるのですが、そうならず、すべて大家負担です。
今回、消費税が10%になりましたので、経費200万の消費税は20万になります。増税分はストレートに効いてきます。この20万円の負担は重いものです。この分を設備投資に使えれば、どれほど良い経営ができるでしょう。入居者を保護する非課税は理解します。そうであるなら、居住用賃貸の経費に掛かる消費税は還付対象にすべきです。
「課税上の不公正」を是正する動きは出ているが……
受益と負担のバランスが取れているからこそ、公平な税制なのです。輸出業者は輸出先から消費税がとれないからと国内で支払った消費税が還付されます。しかし、大家は強制的に免税にされたうえに、消費税の還付はうけられず、負担だけさせられているのです。
この構造に対して、「行動する大家さんの会」というグループなどは消費税の不公正に対して是正の運動をしています。しかし、そうした動きはほとんど取り上げられず、大家以外では、大家の肩を持ってくれる人もあまりいないのが実情です。
事業用の賃貸は、仮うけ消費税がとれて、仮払い消費税と相殺して納税します。したがって、事業用賃貸の場合、大家は消費税を負担しないのです。しかし、居住用大家は、文句を言っても誰も聞いてくれません……。
とはいえ、先に挙げたような「行動する大家さんの会」などの課税上の不公正を是正する動きは出ています。同様の動きは一部の医療法人でも始まっています。
私たち大家は、良好な不動産を提供し、入居者が快適で文化的な生活を営めるように努力をしているのです。政策として、居住用の家賃が非課税なら、仕入れや経費に関わる消費税も非課税として、過払いになっている消費税は還付すべきです。最終消費者が負担しない輸出業者が、支払い分を還付されるなら、そもそも消費税をとれない大家も還付されるのが公平というものです。
「全国の大家よ、団結せよ」、とでも言いたくなる事態ですし、医療法人のように、同じ構造の事業者とも“連帯”したくなる事案です。
こうして愚痴っているだけでは、何も変わらず、とれるところからとるという税制が続くのでしょう。さてさて、大家は厳しい状況になってきましたね。
消費税増税で日本経済が「停滞」することは明白⁉
普通、世界の国々では、「増税」はデモや暴動に繋がるほどインパクトが大きい事案です。最近のフランスがそうですし、アメリカが独立したのもイギリスによる課税が原因でした。日本人はおとなしいですね。
また、最近マレーシアでは消費税が廃止されました。あまりに逆進性が強く、軽税に悪影響があったので、マハティール首相が返り咲き英断で消費税が廃止されました。このような例もあるということです。
さて、わが日本はどうなっていくのでしょう。私は、消費税増税後の日本経済の行方は“大凶”と踏んでいます。経済がさらに停滞するでしょう。さて、そうなったらそうなったで、何らかの対処が必要ですね。自分の身は自分で守らなければなりません。
多くの人は、大家は富裕層で大儲けみたいなイメージがいまだになるようです。しかし、すでに賃貸業を営んでいる皆さんなら多くの方が直面しているでしょうが、今後は少子化、高齢化、人口減、可処分所得の低下、景気のさらなる悪化で、ますます大変な事態に陥ります。
どんな困難が起きようとも、めげずに頑張ってまいりましょう!
※なお、話が複雑になるので、今回は免税業者や簡易課税業者の話を絡めないようにしました。あしからず、ご了承ください。
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著者紹介
石川 貴康石川 貴康
外資系コンサルティング会社、シンクタンクに勤務し、現在は独立の経営コンサルタント。大手企業の改革支援を今も続ける。対製造業のコンサルタントでは業界第一人者の一人。会計事務所も経ており、経理、資産評価、相続対策にも詳しい。2002年から不動産投資を始め、現在は15棟153室ほか太陽光3箇所、借地8箇所を経営する。著書に『いますぐプライベートカンパニーを作りなさい! 、サラリーマンは自宅を買うな(東洋経済新報社)』『サラリーマン「ダブル収入」実現法 、100円ちゃりんちゃりん投資、(プレジデント社)』など