加藤隆が実際に体験した不動産投資の罠
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2019年10月10日(木)
「借地・借家法」の功罪……いまだに入居者“過”保護がまかり通る理由
収益物件の「空室」問題への対処法はある程度考えられるが…
不動産経営は、「家賃」が入ってなんぼです。空気に部屋を貸しても、家賃を払ってはくれません。空室だと、収入は「ゼロ」というより「マイナス」になります。空室でも、固定資産税・都市計画税は取られ、火災保険料が必要だからです。さらにそれが「区分所有マンション」の場合には、管理費・修繕積立金も取られます。もちろん、ローン返済も容赦なくやってきます。
例えば月家賃5万円の部屋が空室の場合、当然ですが毎月の家賃が入ってこないわけで、そのまま機会損失、マイナスとなるのです。
お金がないのか、無関心なのか、最低限必要な修理・リフォームもせずに、空室のまま放置している大家もいますが、これでは本末転倒になってしまいます。
仮に、リフォーム費用が10万円だとすると、月家賃5万円の2ヵ月分です。最低限必要なリフォームもしなければ、いくら家賃を下げても、下手をしたら、永遠に入居付けはできません。
逆に考えれば、最低限必要なリフォームをして、入居付けしたら2ヵ月で元は取れるということになります。さらにリノベーションをすれば、価値が高まり、家賃をアップさせることさえ可能になります。私の場合も、アクセントクロス、おしゃれな電灯、トイレのウォシュレットなどのリノベーションで、家賃アップできました。
このように、不動産経営では、長期的・大局的なバランス感覚も重要になってくることはいうまでもありません。
不動産経営者にとって、空室は大問題ですが、空室以上に大問題となるものがあります。それが「家賃滞納」です。空室対策として、修理・リフォーム・リノベーション、条件緩和(礼金・敷金、フリーレント、家賃、更新料等)、賃貸経営力向上など、いろいろな努力によって、ある程度解消することは可能です。しかし、家賃滞納されると、回収が大変です。最悪家賃滞納のまま居座られると、入居者“過”保護の日本ではむげに追い出すわけにもいかず、ただで住まわすこととなります。かといって新規入居者募集もできず、お手上げ状態にもなりかねないのです。
ではなぜ、日本はこのような入居者“過”保護がまかり通るようになったのでしょうか。
「家賃滞納」で受ける大家側のダメージは注目されない⁉
日本は昔、今と逆で人口の割に不動産物件も少なく、需要過多・供給難、貸し手市場の時代がありました(今は、人口減少、需要減・供給過多、借り手市場です)。
第二次世界大戦ごろになると、多くの男性が戦争に駆り出されるようになりました。男性(夫)が戦争に行って留守になったり、仮に戦死したりしたとしても、残った女性(妻)と子どもだけでも安心して暮らすことができ、借家から追い出されないように、「借地・借家法」などで保護したのです。
近年になると人口は減少し、物件が増え続け、供給過多・借り手市場(有利)の時代になりました。しかし、時代錯誤ともいえる発想が今もなお残っているのです。この「借地・借家法」の考え方をざっくり説明すると、一旦、人に家を貸したら、「居住権」が発生し、契約いかんにかかわらず、半永久的に貸さなければならないというものです(よほどの特殊事情が無い限り、明け渡し請求はできません)。
最近「定期借地・借家契約(※1)」という期限付きの制度もできましたが、実務上は、ほとんど認知もされておらず、機能していません。いまや、借り手市場であり、物件所有者(大家)こそ実質弱者ではないかと思えるほどです。
※1 普通借家契約では、借地借家法上、オーナーによる更新拒絶に正当事由が必要とされ、原則として更新が義務づけられている。対して、下記に定期借家契約の場合、更新に関する規定の適用を排除する特約の有効性が借地借家法上、認められている。
「税金・社会保険料、物価」は上がり続けるのに、給料・家賃は下がり続けています。下がり続けるわずかな家賃の中から、建物管理費・賃貸管理費、修理費・リフォーム費用、固定資産税・都市計画税等の諸経費、およびローンを支払い、手残りどころか、持ち出しになっている大家の方が多いのではないでしょうか。
私は今でこそ、以前買った物件のローンが終わり、金利引き下げ、借り換えなどして、やっとキャッシュフローを出せるようになりましたが、昔は「持ち出し」も多く、大変でした。所有する札幌の築古狭小マンションは、今でも赤字続きですが、半ばボランティアのつもりでやっています。
この「借地・借家法」的発想は、家賃保証契約・一括借上げ契約等、所有者対借主(不動産会社)においても悪用されています。個人ではなく会社である不動産会社=借主不動産会社のほうが弱者と見なされ、保護されているのです。借主(不動産会社)からのみの家賃減額・契約解除等が正当化されてしまっているのです。これが、昨今話題になっている家賃保証問題です。しかし、政治家・裁判官等の偉い方々は、そういった俗世間のことを気づいていない、あるいは理解すらしていないのか、いまだに「時代錯誤の発想」をし続けているように思えます。
「家賃滞納」が発生……大家の適切な対処法とは?
家賃滞納を放置しておくと、後回しにしてもよいと考えられてしまいます。従って、すぐに確認することが重要です。
通常は、賃貸管理会社経由ですが、まずは大家が穏便に電話で「家賃が入金になっていないようなのですが」と切り出しましょう。うっかり忘れてしまった場合や、タイムラグによる行き違いの可能性もあるからです。つい最近ですが、2019年5月のゴールデンウィークは、10連休もあったため混乱したようです。
うっかり忘れた未払いや、タイムラグ・行き違いの場合はともかく、そうでない場合には、すぐに厳重に対処することが重要です。そうでないと、優先順位が下がり、後回しにされ、ほかに浪費されかねません。
電話のあとは、電子メールや、郵便、訪問をします。それでもらちが明かなければ、配達証明付き内容証明郵便をします。さらにそれでも解決しない場合は、法的手続きとして少額訴訟等となっていきます。
大体の場合、家賃の未払いは3ヵ月が限度といわれています。1ヵ月の家賃も払えない人が、3ヵ月分も滞納してしまえば、「支払い不能」状態に陥ってしまうは明白だからです。したがって、遅くとも3ヵ月分までにはなんとか大家が手を尽くし、決着をつけるようにしましょう。それを過ぎたら、もはや法的手段へと移行するしかないと思います。
繰り返しになりますが、日本は借主過保護なため、裁判官によれば、家賃滞納が3ヵ月程度になって初めて信頼関係が喪失となり、明け渡し請求ができるとしています。服を盗んだら「窃盗罪」、食い逃げをしたら「詐欺罪」なのに、家賃不払いは「罪にもならない」とは不思議ですね。海外で家賃不払いを起こしたら、警察官によって強制退去させられます。
法的手続きとしては、滞納家賃支払い、家賃不払いに基づく賃貸借契約解除、明け渡し請求告訴を提起します。残置物を残したままの夜逃げの場合には、残置物処分も請求します。また夜逃げの場合には、訴状送付先が不明ですので、公告手続きも取ります(裁判所・官報に掲示などで、誰も見てはいませんが)。
このように、数十万円程度であれば、少額訴訟として、司法書士でも対応可能です。弁護士に依頼すれば、通常着手金だけで100万円~数百万円取られ、わりに合いません。
私は法令について多少詳しいのかも知れませんが、不動産・金融のことは、ほとんど知りません。不動産・金融業界特有の異常な業界慣習のことは、理解できません。
例えば、宅地建物取引業法上は、売主・買主の仲介・両手取引で、双方代理が認められているとか、金銭消費貸借契約では、借主だけが署名捺印し、金融機関に差し出すのみで、金融機関は署名捺印しない(結果、金融機関によるドタキャンも可)とか、通常のリーガルマインドでは考えられないことが平気でまかり通っているのが、日本の不動産・金融業界なのです。
入居者の「夜逃げ」……大家の泣き寝入りケースが多いワケ
建物・賃貸管理会社さんからはよくお中元・お歳暮をいただくのですが、ある日札幌の知らない方からお中元が届きました。札幌の建物賃貸管理会社さん2社に聞いてみましたが、心当たりがないとのこと。「ひょっとして入居者さん?」と思い、調べてもらったら札幌の築古狭小区分マンションの入居者さんからでした。
私は30年以上、108戸運営していますが、入居者の方からお中元やお歳暮をいただいたのは、あとにも先にも、この1回のみです。最初は「律儀な方だな」と思っていましたが、単に変わっている方だったということが判明しました。
その後、玄関に変な飾り付けをしたり、お清めの塩をまいたり、奇声を発して騒いだり、近所の人から気味悪がられ、管理会社経由で所有者である私に「退去させてくれ」と苦情が来たりしました。
さらに家賃の滞納も始まりました。賃貸管理会社経由で、電話、訪問、手紙で通知してもだめで、配達証明付き内容証明郵便を出してもだめです。どうしたものか、法的手続きにせざるを得ないかと、各方面の関係者と相談していたころ、ある日、管理会社から電話がありました。
「喜んで下さい、退去完了です! 正確には、夜逃げですが……」
部屋は泥まみれで、台所は崩壊状態。残置物も放置されていました。連帯保証人はお兄さんでしたが、「兄弟は他人の始まり」というがごとく、「わしゃ知らん!!」の一辺倒です。
退去立ち合いもすっぽかされました。
残置物だけはなんとか廊下に出し、撤去してもらいました。法的手続きにするには手間や経費が掛かり、費用対効果で、わりに合わず、結局泣き寝入りです。リフォーム会社には、「ここで馬でも飼っていたのですか?」と言われるほど部屋は荒れ果て、泥まみれ状態です。リフォームの見積額は何と50万円! 部屋が泥まみれなのは、どうやら趣味の陶芸のためで、ついでに台所も崩壊していたのでした。
ほかの会社に相見積もりをとり、何とか40万円でリフォーム費用を抑えることができました。その後建物管理会社から連絡があり、夜逃げした入居者は、水道光熱費まで滞納していたことが判明しました。水道代については、使用無制限で定額だと勘違いしていたのか、陶芸で使いたい放題。数年分で数万円にまで達していました。それを所有者である私に請求してきたのです。
どうも管理組合で勝手に作った「管理規約」とやらでそうなっているとのことでした。管理組合も、数年間放置し、こちらには何の連絡もないまま、突然数年分も払えというのはひどい話です。しかし費用対効果的にやっていられないので、支払って終わらせました。もしこの事案に対し、裁判等法的手続きを行使することになれば、数年間という多くの時間と、数百万円以上の膨大な経費が掛かります。裁判は、費用対効果的にわりに合わないのです。正義感をかざしてとことん戦っても、時間とお金の無駄です。頼りにならない裁判所をあてにして、話が通じない人を相手にしたところで何も生まれません。結局泣き寝入りです。
「負けるが勝ち」という発想もあります。「名」を捨てて、「実」を取るのです。ツワモノに至っては、そこまでの我々の状況を熟知したうえで、数十万円分ほど家賃滞納しては、ほかに移り歩いている輩(やから)もいるそうです。
昨今では、そういった家賃踏み倒し・夜逃げ人などのブラックリストもあるようなので、入居者審査の際は、活用もできます。
ちなみにこの事案の後日談ですが、管理会社宛に、警察から行方捜査が入ったようです。こちらが知りたいくらいですが、何かやらかしたのでしょうか?
夜逃げや孤独死で発生する「残置物」……スムーズに撤去するには?
前述した不景気の札幌で所有している築古狭小区分マンションの場合、正直属性が悪い入居者も多く、家賃滞納等トラブルは日常茶飯事です。今後日本は、ますます少子高齢化・人口減が進み、街は下流老人で溢れかえることとなりそうです。家賃滞納も今以上に発生することが想定されます。
さて、昨今は連帯保証が制度的に問題視され、代わりに「家賃保証」が一般化してきました。家賃滞納があった場合には、原則、保証してくれます。ただし、刑事事件を起こし警察に逮捕されたり、孤独死が発生したりした場合、免責になる場合もあるため要注意です。家賃滞納がある程度続くと、家賃保証会社の費用負担で、法的手続き(明け渡し請求訴訟など)をしてくれます。私も現在進行中の案件があります。
夜逃げや孤独死・自殺等の場合、滞納家賃回収より重要なことは「残置物撤去」です。残置物は勝手には撤去できません。一定期間保管した上で法的手続きを取らなければならず、通常半年以上は掛かります。その間新規入居者募集もできず、大家側のダメージは甚大です。したがって入居の際には、やはり連帯保証人を立てるか、少なくとも法定相続人・身寄り・緊急連絡先は確認しておくべきです。
通常、連帯保証人は責任が重いので嫌がられますが、確認書・緊急連絡先程度であれば、比較的受け入れられやすいものです。
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著者紹介
加藤 隆加藤 隆
サラリーマンのままで、経済的・時間的・精神的自由を目標に、預貯金・外国為替・貴金属・株等の資産運用を経て、不動産経営歴31年。数々の失敗・バブル崩壊を生き抜き、リスク分散をモットーに、東京・博多・札幌・名古屋・京都・小樽・千葉に、区分所有マンション・一棟物アパート・一棟物マンション・戸建等、物件108戸を運営。総資産7億円・借入5億円・自己資本2億円、年間家賃収入4,100百万円・借入金返済3,100万円・キャッシュフロー1,600万円。節税で、所得税・住民税ゼロ。