竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所
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2019年8月9日(金)
不動産所有者の「終活」は遺言書の書き方を知り、相続争いに備える
「終活」について社会的に関心が高まっています。突然親が亡くなって、印鑑や通帳のありかが分からなくて困る子どもの様子を、ニュースなどで目にする機会が増えています。また、終活の中でも最も重要なのが、遺産をどのように分けるべきかを決めておくことだと言えます。財産の分け方で、子どもたちがトラブルになることも多く、また何より、自分が生涯かけて作り上げてきた財産を、誰に、どのような形で引き継がせるのかは、人生の締めくくりとして、自分で決めるべきではないでしょうか。
法律では遺産の分け方について規定がありますが、これと異なる分け方を遺言書で決めることもできます。しかし、法律で決められていることとは異なる分け方をするのですから、遺言書の書き方については、法律上、厳密に決められています。
本コラムでは遺言書の書き方や、それにまつわるトラブルについてご説明いたします。
遺言書の種類
ひと口に「遺言書」といっても、その種類は多様です。
民法では、遺言書の種類について、以下のとおり規定しています。
①自筆証書遺言(民法968条)
自分で紙に遺言の内容を書く方法による遺言です。
よくイメージされる「遺言書」はこの方式によるものではないでしょうか。
この方式で遺言書を作成するには、その全文、日付、氏名を自書し、これに印を押さなくてはならないとされています。
これはすなわち、遺言書を作成したい人が、全て手書きでその内容を書き、署名押印をする必要があるということです。この度改正された民法において、遺産の目録については、手書きでなくても良いことになりましたが、そうだとしても、例えば「遺産目録第1項の不動産は○○に相続させる」ということを手書きにしなくてはならず、大変な手間を必要とします。
また、誤記があった場合には、「遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ(民法968条3項)」なりません。
具体的には、例えば遺言書の5行目で、「不動産」と書くべきところを「預金」と書いてしまったような場合、「預金」と書いたところは二重線で消し、その近くに印鑑を押し、横書きの場合には上部に、縦書きの場合には左側に「不動産」と書き、その行の近くの余白に「この行2字削除、3字加入 (氏名)」と書かなくてはならないのです。
これは非常に煩雑ですが、基本的にはこの方式を守らないと「その効力を生じない(民法968条3項)」ため、重要な点を間違えた場合には、再度、書き直すべきであるといえます。
また、日付についても、正確に記載することが必要であり、例えば「令和元年9月吉日」のような書き方は無効となりますので、注意が必要です。
また、自筆証書遺言は、相続人が勝手に開封することはできず、家庭裁判所で検認の手続きを行わなくてはなりません(民法1004条)。検認を行わずに遺言書を開封するなどした場合には、5万円以下の過料に処せられます(民法1005条)。
実務上も、検認を行っていない自筆証書遺言に基づいての預金の引き出しや、不動産の相続登記などは認められていませんので、必ず検認手続きを行う必要があります。
②公正証書遺言(民法969条)
公証役場で遺言書を作成する方式です。
証人2人以上を立ち会わせ、遺言書を作成したい人が公証人にその内容を口頭で伝え、公証人が口頭で伝えられた遺言を書き留めて作成します。
③秘密証書遺言(民法970条)
遺言書があることを、公証役場で証明してもらう方式の遺言です。遺言を作成した人が、遺言書を公証役場に持参し、遺言書を入れた封筒に、公証人が、確かに遺言者が作成した遺言であることを証明する事項を記載するものです。
この方式で遺言書を作成すれば、遺言書の内容は公証人にも知られることはありません。しかし、積極的なメリットがそれほどないため、あまり利用されることはないようです。
自筆証書遺言は、要求される形式が非常に厳格であり、せっかく書いても誤りがある場合には無効になってしまうため、個人の方が作成するのは非常にリスクが高いものとなっています。
このため、遺言書の作成を検討される方には、公正証書の方法で遺言書を作成されることをお勧めしております。
亡くなった後に、メモ書きのような形で遺言書が見つかることもあります。しかし、メモのような文書が、自筆証書遺言の形式を満たしていない場合には、その文書は、遺言書としての意味を持ちません。
遺された相続人は、遺言書のようなメモに拘束されることなく、遺産分割を行うことができますし、もちろん、故人の遺志を尊重して、メモの趣旨どおりに遺産を分けても構いません。
遺言書の内容は必ず守らなければならないのか?
遺言書の内容は、必ず守らなくてはならないわけではありません。
相続人全員の同意があれば、遺言書と異なる内容の遺産分割協議を行うことも可能です。
また、遺言書の中に、例えば「預金はすべてヘルパーである○○さんに相続させる」などと、法定相続人ではない人が含まれていた場合、遺言書の内容と異なる遺産分割協議をすることについて、その人の同意を得る必要があります。
また、民法では、「遺留分減殺請求権(いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん)」という規定があります(民法1042条)。これはどういうことかというと、民法上、相続財産のうち一定の割合の財産(これを「遺留分」といいます)については、遺言書の内容にかかわらず、相続人に保障されているのです。
これは、相続が相続人(配偶者や子どもたちなど)の生活保障の趣旨もあることに鑑みて、相続人の相続財産への期待を保護する趣旨の規定です。平たく言うと「全然遺産をもらえないのは遺族がかわいそうだよね」「遺産を期待して生活設計していたかもしれないよね」「だったら少しくらい渡してあげないとね」ということです。この相続人に確保された相続財産に対する割合を「遺留分」といいます。
遺留分は、相続人が亡くなった人の親である場合には3分の1、配偶者または子である場合には2分の1と定められています。なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。
例えば、Aさんが妻Bさんと2人の子ども、Cさん、Dさんを遺して亡くなったとします。この場合、Bさん、Cさん、Dさんの法定相続分はBさんが2分の1、CさんとDさんがそれぞれ4分の1ずつですが、Aさんが「全財産は娘のDに相続させる」という遺言を残していた場合、Bさん、Cさんは何も遺産を相続できなくなってしまいます。
このため、Bさん、Cさんは、遺留分として、自分の法定相続分の2分の1を、遺留分として主張できるのです。すなわち、Bさんの法定相続分は2分の1ですから、この2分の1の4分の1、Cさんの場合は法定相続分4分の1の2分の1にあたる8分の1が、遺留分となります。
したがって、例えばAさんの遺産の総額が4000万円であった場合、Bさんは1000万円相当額、Cさんは500万円相当額について、遺留分としての権利を有することになります。
この場合、Dさんは、たとえ全財産を自分に相続させるという遺言があったとしても、2500万円相当額しか相続できないことになります。
このように、たとえ遺言書があったとしても、その内容が他の相続人の遺留分を侵害している場合には、遺言書どおりに遺産分割ができないこともあることに注意が必要です。
遺留分については、家庭裁判所の許可を得て、相続人にあらかじめ放棄をしてもらうことも可能です。どうしても特定の相続人の遺留分を侵害する遺言書を作成する必要がある場合には、遺留分の放棄も選択肢の一つとなるでしょう。
ただし、遺留分の放棄が認められるには、その相続人に対して、遺留分の放棄に見合うだけの何らかの補償をしていることが必要ですので、ご注意ください。
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著者紹介
竹村 鮎子竹村 鮎子
弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
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