専門家コラム竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所
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2019年6月20日(木)
不動産賃貸借契約書の見方を解説
「賃貸借契約書」とは、不動産投資を行う上では避けて通れないものです。 しかし、賃貸借契約書の内容をきちんと理解されている方は、どのくらいいるのでしょうか? 難しい言葉ばかりで、じっくり内容を読んだことはないという方も多いかもしれません。
今回は、国土交通省の「賃貸住宅標準契約書(改訂版)」に即した、不動産賃貸借契約書を読み解くための 基本的なポイントを説明していきたいと思います。
「賃貸借の目的物」とは?
頭書の次に書かれているのは、「賃貸借の目的物」です 。
「賃貸借の目的物」では、「貸す」「借りる」のはどのような建物であるかについて、特定して記載しています。
現実としては想定しがたいことですが、契約とまったく違う建物を貸し借りしていた、ということがないように、物件を詳細に特定しておくのです。まったく物件が違っていたというような極端な例ではなくても、例えば住戸部分の設備について、契約書上、冷暖房があることになっているのに実際にはなかった場合、オーナー側の契約違反となり、損害賠償責任を負うことがあります。
このため、物件についてはきちんと設備まで確認した上で、特定するように注意しましょう。
「契約期間」について
「契約期間」には、賃貸借契約の期間を記載しています。
ここで気をつけなければならないのは、契約期間が終了すれば賃貸借契約が終了するわけではないということです。オーナー側が更新せずに、賃借人に出て行ってほしいと思い、いわゆる「更新拒絶」をするには、借地借家法上、正当事由が必要となります(第 28 条)。
正当事由では、通常「立退料を支払った」事実が必要となることが多いといえます。立退料の金額はケースバイケースで決定され、非常に高額になることもあります。
このように、更新拒絶ができるのは非常に限られた場合です。 賃貸借契約は、賃借人が「出て行く」と言わない限り、何度も更新されるのが一般的です。オーナーは一旦賃貸に出したら、オーナー側の都合で賃借人に出て行ってもらうのは、非常に大変だと思ったほうが良いでしょう。
ある限定された期間だけ賃貸に出して、どうしても更新をしたくないという事情がある場合には、「定期建物賃貸借(借地借家法第 38 条)」とする必要があります。 定期建物賃貸借契約を締結すると、更新しないことを定めることができます。更新できないことは、賃借人には不利益になるため、その分賃料は低額に抑えられますが、短期間だけ貸したいという賃貸人のニーズにはかなう制度です。
「賃料」や「共益費」など
賃料や共益費などについてのルールを記載しています。支払期限について、前月末までに当月分を支払う前家賃なのか、当月に当月分を支払うのか、などについて定めることが大切です。
⺠法の原則からいえば、賃料は当月払いとなります。このため、前家賃にしておきたい場合には、特別に定めておく必要があります。
賃料の増減額については、特に賃貸借契約書に定めがなくても借地借家法第32条によって定められているので、賃貸借契約期間中であっても、賃料の増減額を求めることはできます。
なお、賃貸住宅標準契約書では4条2項で賃料の増減額について定められています。
「賃借人及び管理業者」とは
賃借人と管理業者、及び建物の所有者について記載しています。
建物の所有者と賃借人が違う場合は、所有者から賃借人が建物を借りていて、オーナーから借りた建物を賃借人が再度借主に貸す(オーナー→賃借人→借主)、という転貸の形式を取っていることになります。
転貸借の場合、オーナーが所有者に対して転貸を行うことについて承諾を得ていないと、「無断転貸」として所有者とオーナーとの間の賃貸借契約が解除できます。転貸をしていた賃借人は、所有者から建物の明け渡しを求められ、借主に出て行ってもらわなくてはならない事態となります。
転貸をする場合は、きちんと所有者の承諾を得てからにする必要があります。
「賃借人及び同居人」とは
どのような人が建物を借りるのか、また建物を何人で使うのかは、オーナーにとっては非常に重要な関心事です。
契約書の記載と異なる場合には、賃借人側の契約違反になり、契約の解除原因になり得ます。賃借人及び同居人の数は、正確な記載をしましょう。
また、賃貸住宅標準契約書の第3条では、使用目的について定められています。 建物をどのようにして使うかは、事前に契約で定めておく必要があります。
建物をどのように使用するのかによって、建物の傷みの度合いや防犯、賃料支払いの確実性などを判断するのに重要になり、オーナーにとっては非常に大切な問題です。
例えば、賃貸住宅標準契約書では使用目的が「居住のみ」とされているのに事務所として利用すると、居住用とは異なる用法で建物を使用になり、「用法違反」で賃貸借契約の解除原因となります。 しかしながら、用法違反を理由に賃貸借契約を解除できるかどうかは、その違反によってオーナーと賃借人との間の信頼関係が破壊されているかどうかを基準に判断されます。
毎日事務所として使用していたのではなく、自宅で週1回料理教室を開くような場合では、用法違反として、賃貸借契約が解除できるかどうか判断するのは難しいといえます。「用法違反によって信頼関係が破壊された」となるかどうかは、その行為の程度や賃貸借契約の経緯、原状回復の困難さなどの点から、総合的に判断されます。
そのほかの本文には何が書いてある?
そのほか、本文部分から理解しにくい部分を抜粋して解説します。
1第6条
敷金について定められています。 敷金は「本契約から生じる債務の担保」という性質を持つことが明記されています。すなわち、賃料や共益費の未払いがあったとき、建物の明け渡し時に敷金から未払いの賃料などを相殺するための預り金ということです。
しかし、あくまで明け渡し時に相殺が認められるもので、賃貸借契約期間中に賃借人から「今月家賃払え ないから、敷金から差し引いておいて」というような依頼はできません(6条2項)。
また、明け渡し時に敷金から原状回復費用を差し引くことはできますが、賃借人が負うべき原状回復の範囲は、通常の損耗の範囲を超える、特別損耗に限られているので注意しましょう(14条1項)。
2第8条
禁止または制限される行為について定められています。
ここでは無断転貸の禁止(1項)、無断増改築の禁止(2項)などに加えて、事前にオーナーの許可を得る必要があることや、オーナーに通知する必要があることなどを定めています。
3第9条
建物の修繕について定められています。⺠法の原則上、建物の使用に必要不可欠な部分についての修繕は、オーナーが行うことになっています。第9条の規定は、その原則を確認した内容となっています。
オーナーが必要な修繕を行わず、賃借人は借りている建物において使用ができなかった部分があった場合、割合に応じて、賃借人は賃料の支払いを拒むことができます。
また、水漏れの場合など、オーナーが修繕を行わなかったことにより賃借人が受けた損害について、賠償しなくてはならないこともあります。このためオーナーは、所有する建物の必要な修繕を適時に行うべきでしょう。
4第10条
契約の解除について定められています。各条項を見ると、オーナーから契約解除ができる場合は、非常に限定されたものとなっています。
借地借家法における賃貸借契約の基本的な考え方は、オーナーは「自分で使わない建物を貸している」の に対して、賃借人は「自分の生活や仕事に必要だから借りている」というものであるため、賃借人の保護 に重点が置かれています。
したがって、賃貸借契約を解除できるのは、単に契約違反があるだけでは足りません。違反によって両当事者の信頼関係が破壊されている必要があります。
第10条の各項の規定は、「信頼関係が破壊されている状態」の例示であるといえますが、仮に第10条各 項の規定に一致していたとしても、裁判になった場合に「信頼関係は破壊されていない」と判断がなされることもあります。
5第11条
賃借人からの解約について定められています。 定められているのはあくまで「賃借人から」の解約であり、オーナーからの解約ではないことに注意しま しょう。契約期間中にオーナー側から賃貸借契約を解約することは、基本的に認められていないのです。
6第14条
原状回復について定められています。 建物の明け渡し時に、賃借人が負うべき原状回復義務の範囲は、トラブルが多くありました。2020年から施行される予定の改正⺠法では、特別損耗に限る旨を規定される予定です。
賃貸住宅標準契約書でも、賃借人が負うべき原状回復の範囲については、「通常の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き」と、規定がされています。このため、賃借人が負うべき原状回復義務の範囲は狭いものといえます。
7第16条
連帯保証人について定められています。オーナーにとっては、賃借人の賃料未払いのリスクを少しでも軽減するため、連帯保証人はぜひ確保して おきたいところです。
ただし、2020年から施行される改正⺠法では保証の規定が大きく変わり、契約時に連帯保証人が保証する 金額の上限である極度額を決めなくてはならないとされています。
すなわち、契約時に連帯保証人に対して請求できる未払いの家賃額の上限を、1年ならば 1年、10年ならば10年と、あらかじめ決めておかなくてはならないのです。
この金額をあらかじめ設定することで、「連帯保証人のなり手がいなくなるのではないか」ということが危惧されています。このため、オーナーは保証会社の利用についても検討するべきでしょう。
まとめ
契約書の「賃貸借の目的物」は、どのような建物を貸すのか、設備まで特定して明記するべきです。さらに、賃借人と管理業者、及び建物の所有者について明確に記載しましょう。転貸借の場合、オーナーの承諾が必要です。また、賃借人及び同居人の数、使用目的も契約書に明確な記載が必要となります。
用法違反を理由に行う 賃貸借契約の解除は、オーナーと賃借人との間の信頼関係が破壊されているかどうかが判断の基準となります。例え用法違反であったとしても、そこまで至らない場合は解除ができませんので、注意してください。
今回は、不動産投資を行う上で必ず大家が扱う「賃貸借契約書」の内容について解説しました。
難しい言葉が並んでおり、理解するのが難解なイメージがありますが、賃借人との取り決めを交わす大切な書類ですから、記載されている内容はしっかりと理解して契約に進むようにしましょう。
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著者紹介
竹村 鮎子竹村 鮎子
弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
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