専門家コラム竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所
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2019年6月20日(木)
不動産経営における終活~相続について~
少子高齢化が進む現代社会において、「終活」すなわち「人生の終わりのための活動」は、もはや社会現象といえます。それでは、所有する不動産を使って賃貸経営をしているオーナーの「終活」は、どのような点を意識したら良いのでしょうか。
不動産を誰に相続させるのかを家族間で話しておく
まず、所有している不動産を誰に相続させるのかという問題について掘り下げていきましょう。
不動産賃貸借契約において、貸主が死亡しても賃貸借契約自体は当然終了しません。賃貸借契約の貸主としての地位も、相続人である配偶者や子どもに引き継がれます。
例えば貸主が亡くなり、相続人がその妻と子が2人である場合、相続人の地位は遺産分割協議が終了するまでは、法定相続分に応じて相続することになります。
すなわち、妻が2分の1、子がそれぞれ4分の1の割合です。
お金や土地ではなく、「貸主の地位」を相続するというのは目に見えるものではないので、イメージがしにくいかもしれませんが、貸主の地位という状態を相続人が貸主の地位を共有することになるのです。
同様に、オーナーが所有している物件についても遺産分割協議が終了するまでは、それぞれの法定相続分に応じて共有することになります。
したがって、賃貸契約している不動産は、誰に相続させるかを生前にはっきり決めておく必要があります。
賃料の支払先が亡くなった貸主名義の銀行口座である場合は、支払先の変更手続きなどを行わなくてはならないという点以外は、賃借人との間で困ることは特にありません。
面倒なのは、不動産が共有である場合、賃貸借契約を解除したり、賃料の増減額を行ったりするときは、逐一共有者である相続人間で協議を行わなくてはなりません。
また、家賃の受け取り、物件の管理を誰が行うのかを、相続人の間で決めなくてはなりません。これもまたトラブルの火種になります。
そうでなくとも、相続は「争続」という字があてられるように、相続によって家族の関係が悪化するケースが多いものです。
このような事態を回避するためにも、オーナーとしては生前から賃貸物件は誰に引き継がせるかを、家族間で話してから遺言書を作成するという「終活」を行うべきでしょう。
遺言書の内容については、基本的にはオーナーの自由です。しかしながら配偶者、息子、娘といるような場合、「全財産を息子に相続させる」という遺言書を作成してしまうと、配偶者と娘の遺産に対する最低限の権利である「遺留分(いりゅうぶん)」を侵害していると法的にみなされます。
息子が相続する不動産に対しては、配偶者と娘それぞれが不動産の遺留分に応じた割合の持分を取得することがあるので、不動産を相続する息子以外の相続人それぞれの遺留分に配慮する必要があります。
遺言書の書き方は複雑で、法律が求める要件を満たしていないと無効になってしまいます。このため、専門家に相談し、相続人それぞれの合意のもと公証役場で公正証書の方式で作成することをおすすめします。
一方、相続対策として、賃貸経営の事業を法人化するという方法もあります。
賃貸経営の事業を法人化すると、所得税や相続税の節税が期待できるといわれています。しかし、法人設立や運営にコストがかかるというデメリットもあります。
法人化のメリット・デメリットについては、実際の賃貸経営の規模によっても異なってきます。税理士の先生などに相談した上で検討するべきでしょう。
相続前には不動産契約書の確認を
遺言書を作成した後、オーナーは現在の賃貸借契約書がきちんとそろっているかを確認しましょう。
特に契約期間が長い借地契約でよく見られることですが、そもそもの賃貸借契約が古い場合、契約書がきちんと保管されていないこともあります。
また、当時の賃貸借契約書と違い、いつの間にか賃料額が変わっているということがあると、その経緯を知らない相続人は、何がどうなっているのか分からないという例が多くあります。
例えば、契約書上の賃料と比べ、明らかに少ない額しか入金されていないという場合、相続人がそれを賃借人に指摘すると「先代と賃料を減額することで話がついている」などと説明されれば、トラブルのもとになりかねません。
長い賃貸借契約の期間中に、賃貸人と賃借人との間で、口約束のみで賃料額を変更して、特に覚書などを交わさなかったために起こる事態です。
賃料額以外にも、賃借人が土地や建物を転貸しているといったこともあります。
相続を考えているオーナーは、賃貸借契約書で定められたことと実際の状態が異なるような場合、現状について確認する内容や、なぜこのような事態になったのかを説明する覚書を賃借人との間で作成し、相続人が混乱しないようにしておくべきでしょう。
この機会に賃料の見直しを行う
賃貸借契約が長期間にわたる場合に起こりがちなのが、賃料額が契約当初から一切見直されていないということです。
このため、賃料額が周辺の同程度の不動産と比較しても高すぎる、または安すぎるということがよく起こります。
借地借家法上、契約期間中でも賃料の増減額を求めることはできます(借地借家法11条、32条)。
賃料の増減額請求によって認められる賃料額は、これまでの賃貸借契約の経緯などが重視されるので、必ずしも周辺の相場通りの賃料額が認められるわけではありません。
しかし、賃料額があまりにも安すぎるような場合には、後のトラブルを避けるために賃借人に対して賃料の増額を申し入れても良いかもしれません。
敷金や保証金の確認が必要
賃貸借契約が終了すると、貸していた不動産の明け渡しと引き換えに賃借人に対して敷金や保証金を返還しなくてはなりません。
居住用建物の場合、敷金の額は家賃1カ月分から2カ月分程度になります。敷金は、明け渡しの際に貸借人に返金しなくてはならないことに違いはありませんが、それほど高額ではありません。
他方で事業用建物を賃借していた場合には、敷金や保証金として賃貸借契約締結時に賃料の半年分から1年分程度の金額を預かっていることがあります。
すなわちオーナーは建物の明け渡しを受けるときに、多い場合には家賃1年分もの保証金相当額を賃借人に対して返金しなくてはなりません。これは大きな負担となります。
賃貸借契約において、賃借人からの解約は原則として自由です。預かった敷金や保証金の返還をいつ迫られるとも限りません。
したがって、相続人が困らないように、預かった敷金や保証金は十分にプールされているかを確認しておきましょう。さらにそのお金をどこに保管されているのかを明確にしておく必要があります。
なお、「保証金」という名目で賃貸借契約締結時に授受された金銭は、厳密には敷金(すなわち「賃貸借契約における未払い債務の担保金」)とは異なる場合があります。
例えば契約書に「退去時に10%償却」などと定められている場合、預かった保証金の10%は貸主に返還しなくても良い性質の「償却金」となります。
要するに、「保証金」のうち退去時に賃借人に対して返還するのは「敷金」の性質を持つ部分のみであり、「償却金」の性質を持つ部分については返金する必要はありません。
契約期間が長期間にわたっている場合には、時代背景もあって厳密に契約書を取り交わしていなかったり、金銭の授受が現金であるのに領収書を発行していなかったりと、現在の価値観から見れば、ずさんな管理がなされていたことも多いかと思われます。
そのような場合でも、後に続く世代が困らないように、終活を意識し始めたオーナーは、これまでの賃貸経営を見直し、必要に応じて子に相談するなど、円滑な世代交代を意識してみてください。
まとめ
不動産賃貸借契約において、相続人を決めておかない場合、貸主が死亡しても賃貸借契約自体は終了しません。賃貸借契約の貸主という立場は、法定相続分に応じて相続人である配偶者や子どもに引き継がれ、相続人が複数の場合には相続人間で共有することになります。
しかし、複数の相続人で不動産を共有することは、のちのトラブルのもととなります。このため、賃貸物件を誰に引き継がせるかは、生前に遺言書を作成しておいたほうが安心です。遺言書の内容については、基本的にはオーナーの自由ですが、「遺留分の侵害」とみなされないように、不動産を相続する人物以外の相続人の不動産の遺留分にも配慮が必要です。
遺言書を作成するためには、法律の専門家に相談し、公証役場で公正証書の方式で作成することが望ましいです。
また、賃貸借契約書で定められたことと実際の状態が異なるような場合、現状について確認する内容の覚書や経緯を説明する文書を用意し、準備を進めておきましょう。そして、この機会に賃料の見直し、敷金や保証金の確認をするべきです。
相続人が引き継いでから混乱することがないように、不動産経営における終活についても一度しっかりと考える時間をつくってみてはいかがでしょうか?
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著者紹介
竹村 鮎子竹村 鮎子
弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
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