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竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所

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第3回 賃料未払いの賃借人に請求を行うには? 裁判の流れから決着まで

目次

このコラムでは、大家が頭を悩ませる賃貸未払いの賃貸人への対応について、経緯から決着までを順を追って3回に分け、貸主をA、借主をBとして解説しています。前回、第2回のコラムはこちらをご覧ください。

今回は、第3回目。Aさんはマンションの1室をBさんに貸していますが、Bさんからもう3カ月、家賃の支払がありません。このため、Aさんは期限を定めて家賃の支払を求める内容の内容証明郵便を発送しましたが、Bさんからは特になんの回答もないまま、支払期限は過ぎていきました。

Aさんは裁判を起こしてBさんに出て行ってもらうため、賃貸借契約の解除と建物の明け渡し、未払賃料の回収をするために裁判を起こすことにしました。

第4段階 訴えの提起

Aさんは裁判所のホームページから「建物明渡請求」を調べ、そこに掲載されている記載例を参考に訴状を作成しました。
また、必要書類として賃貸物件の固定資産税評価証明書と不動産登記簿を用意しました。さらに建物賃貸借契約書とBさんに出した内容証明郵便と配達証明書を証拠とすることにしました。

Aさんが裁判所の事件受付に訴状と証拠を持って行くと、裁判所の書記官から「郵便切手と収入印紙を用意してください」と指示がありました。

Aさん「何のために必要なのですか?」

書記官「郵便切手は、Bさんに訴状や証拠を送るために使います。使わなかった分は後で返却しますので、あらかじめ一定の金額の切手を裁判所に預けてください。また、収入印紙は裁判の申し立て手数料です。裁判所の売店で売っていますので、買ってきてください」

Aさんは書記官から言われたとおりの金額の切手と収入印紙を購入し、書記官に渡しました。

書記官「それではこれで受け付けをします。第1回の裁判期日については、追って日程調整の連絡をしますので、しばらくお待ちください」

訴えを提起するには、自分の言い分をまとめた書面である「訴状」を裁判所に提出する必要があります。訴状には、自分の請求(裁判所にどのような判決を求めるか)を根拠付ける事実を記載し、またそれを裏付ける証拠を作成します。

訴えを提起する裁判所は、基本的には賃貸物件の所在地を管轄する地方裁判所です。
また、賃貸借契約書に「合意管轄」として、それ以外の裁判所に訴えを提起すると決められている場合もありますので、契約書の記載を確認してください。

不動産についての訴えの場合、訴額(訴え提起のための手数料)の計算のために、当該不動産の固定資産税証明書が必要です。また、明け渡しを求める建物を特定するため、建物の登記簿も必要となります。

訴え提起時には、郵便切手も裁判所に納める必要があります。切手代は訴えを提起する裁判所によって異なりますが、賃借人が1人の場合、5,000円から6,000円程度かかります。

第5段階 第1回口頭弁論

訴状を裁判所に提出してからしばらくして、裁判所から第1回の口頭弁論期日の調整の連絡がありました。Aさんが自分の都合の良い日を伝えると、第1回口頭弁論の日が決定しました。

第1回口頭弁論当日、Aさんが裁判所の法廷に入ると、裁判所の法服を来た職員から出頭カードに署名をするよう求められました。
それからしばらく傍聴席で待機していると、法廷にBさんが入ってきました。AさんはBさんとは数える程度しか会ったことはありませんでしたが、それでもBさんがかなりやつれている様子は目に見えて分かりました。

指定の時間になり、裁判所の職員から事件番号と事件名、Aさん、Bさんの名前が呼ばれ、Aさんは原告側の席に座るように言われました。

まもなくして裁判官が法廷に入ってくると、皆、起立の上一礼し、第1回口頭弁論が始まりました。

裁判官「それではAさんの言い分は、提出された訴状の通りでよいですね」

Aさん「はい」

裁判官「Bさんからは答弁書が提出されていませんが、何か言い分はありますか?」

Bさん「家賃の支払いができていないことは申し訳なく思っています。病気で体調を崩して、仕事を辞めざるを得なかったので、支払いができませんでした。Aさんには何を言っていいのかわからなくて、手紙などは無視していました。家族と相談して半年後には故郷に帰る予定ですので、それまで部屋から出ていくのは待ってもらえないでしょうか」

裁判官「Bさんはこう言っていますが、Aさんのお考えはいかがですか?」

Aさん「今日初めてそういう話を聞いたので、ちょっと考えがまとまりません。少し時間をもらえないでしょうか」

裁判官「分かりました。それでは次回は弁論準備期日としますので、主に両者の話し合いを行いたいと思います」

次回の期日は約1カ月後に指定され、その日の口頭弁論はそれで終了しました。

民事訴訟において、裁判の期日のことを「口頭弁論期日」といいます。
第1回の口頭弁論は原告側から出された訴状を陳述します。また、被告から言い分をまとめた「答弁書」が提出されていた場合、答弁書も陳述されます。

設例の場合は、被告であるBさんも口頭弁論期日に出頭しましたが、第1回の口頭弁論期日は被告の都合は聞かないで決定されるため、事前に答弁書を提出しておけば、第1回の口頭弁論期日には出席しないこともできます。

ただし、これは被告の場合だけで、原告は必ず第1回の口頭弁論期日には出席しなくてはなりません。
実際の口頭弁論期日は、「訴状を陳述します」「答弁書を陳述します」と言うだけで、5分ほどで終わってしまうことも珍しくないので、実際に出席されると面食らうかもしれません。

第6段階 第1回弁論準備期日

第1回口頭弁論期日から約1カ月後。第1回弁論準備期日が開かれました。
弁論準備期日は口頭弁論期日とは異なり、法廷ではなく裁判所内の会議室のような場所で行われます。裁判官も黒い法服ではなく、普通のスーツを着ていて、ずいぶんリラックスした雰囲気です。

裁判官「前回の期日では、Bさんは半年後には出て行くつもりだということでしたね。個別に話を聞きたいと思うので、まずはAさんからお話を聞かせていただけますでしょうか」

部屋からBさんは出て行き、Aさんと裁判官と2人きりになりました。

裁判官「Bさんのお話を聞いて、Aさんのお考えはいかがですか?」

Aさん「出て行ってくれるならば、早く出て行ってほしいです」

裁判官「Bさんの話では、あと半年で出て行くつもりとのことですが、あと半年待つことはできますか?」

Aさん「必ず出て行くと約束してくれるならば、あと半年くらいは待ってもいいです。だけど、未払いの家賃はどうなるのですか? 半年の間、まったく家賃が支払われないのは困ります」

裁判官「例えば、未払い分の支払いは、分割にすることはできますか?」

Aさん「Bさんの体調が悪いのは事実だと思うので、分割になることは仕方ないと思います。でも、あまり長期の分割だと困ります」

裁判官「分かりました。それではBさんと話をしますので、Bさんと交代していただけますか?」

Aさんは部屋から退室し、代わりにBさんが裁判官と話をすることになり、15分くらいしてから、Aさんも部屋に入るように言われました。

裁判官「Bさんは、半年後には必ず出ていくお気持ちのようです。また、未払いの家賃は支払っていきたいとのことです。しかし、一括では難しいので、毎月の分割でお願いしたいそうですが、いかがでしょうか?」

Aさん「支払い回数は何回くらいですか?」

Bさん「2年で完済したいと思っています」

Aさん「誰か保証人をつけることはできますか?」

Bさん「それは難しいです」

裁判官「裁判で和解になったら、和解調書というものができます。それがあれば、Bさんから分割金の支払いがなくなった場合、Bさんの資産を差し押さえることもできますので、大きな効果があると思いますよ」

裁判は常に法廷で行われる訳ではなく、「弁論準備」として裁判所内の会議室のようなところ(弁論準備室)で行われることもあります。
これは、当事者から話を聞いて争点を明確にしたり、和解についての話し合いをしたりするようなときに利用されることが多い手続きです。
しかし、弁論準備手続を行うかどうかは裁判官が判断するので、すべての裁判においてこの制度が利用されるわけではありません。

弁護士をつけないでご本人で裁判を行う場合には、弁論準備手続が利用されないことも多くあります。
またAさんのように、弁論準備手続において和解の話をする場合には、裁判官が原告、被告それぞれから話を聞いて、双方が納得する形での解決を探ることが一般的です。

仮に裁判で和解が成立したら、和解調書が作成されます。
和解調書の条項に違反して、和解金などの支払いがなされない場合には、支払いを行うべき債務者の預金や不動産などの財産を差し押さえて換価することができます。

AさんとBさんとの間では、半年後に建物を明け渡してもらうこと、未払いの賃料は全額を2年間の分割で支払うとする和解が成立しました。

Bさんは約束通り半年後に建物を明け渡し、また未払いの家賃も繰り上げて支払ってくれました。
Aさんは、もしあのとき裁判で和解に応じなかったら、どうなっていたかと今でも考えることがあります。

まとめ

今回は、大家が頭を悩ませる賃貸未払いの賃貸人への対応について、経緯から決着までを解説しました。

マンションの1室をBさんに貸しており、Bさんから3カ月間家賃の支払がなく、裁判を起こしたAさん。
Aさんの場合は、賃貸人Bさんとの和解が成立し、無事に未払金を回収することができました。

それでは、もし裁判所で和解が成立していなかった場合は、どうなっていたのでしょうか?

その場合、最終的にAさんは裁判所から判決をもらうことになります。
Aさんの場合は、Bさんが家賃の未払いについては認めていますし、未払いの期間も長期に渡っているので、Aさんの請求を認める内容の判決、いわゆる勝訴判決が出されることでしょう。

しかし、Aさんが裁判に勝ったからといって、自動的にBさんが建物から出て行くわけではありません。
仮にBさんが建物から出て行かない場合には、Aさんは建物の明け渡しについて、強制執行をしなくてはならないのです。

本件でいう強制執行とは、文字通り建物からBさんを追い出し、荷物を搬出するなどして、建物を強制的に明け渡してもらう手続きのことです。
これを行うためには、Aさんは裁判所で強制執行を行ってもらうように申し立てをする必要があります。強制執行には、裁判とは別に費用がかかります。

また未払いの家賃についても、AさんはBさんの財産を特定して、差し押さえなどの強制執行を行う必要があります。例えば預金口座の差し押さえを行う場合、Aさんは「○○銀行△△支店のBさん名義の口座」と、そこまで特定しなくてはなりません。

また、仮にBさんの取引銀行を特定できたとしても、その口座に未払い家賃分の預金がないと差し押さえの意味がありません。

裁判を起こすにはそれなりの経費と時間がかかり、たとえ裁判には勝ったとしても、持ち出し金ばかりが増え、事実上1円も回収できないことも珍しくありません。
大家にとっては悩むところではありますが、賃料未払いの請求を賃借人行うために、裁判が必要かどうかは事前にしっかりと検討することが大切と言えるでしょう。

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著者紹介

竹村 鮎子
竹村 鮎子

弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
http://www.fudousan-bengoshi.jp/

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