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竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所

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相続時、不要な土地に対して取れる行動は何があるのか

目次

被相続人Aさんの死後、亡Aさんの子であるBさんが、亡Aさんの遺産を調査したところ、住所地と非常に離れたZ県に、亡Aさんの兄弟と山林を共有していたことが分かりました。亡Aさんの遺産は、Z県の山林以外にも、Bさん家族が住む土地建物や預貯金などがあり、Bさんは相続放棄をするつもりはありません。しかし、Z県の山林だけは相続したくないのが本音です。Bさんはどのような手段を取りうるのでしょうか。

一部の遺産だけ相続放棄できますか?

設例のBさんが希望するように、遺産の一部を相続しないということはできるのでしょうか。

この点、相続とは、亡くなった方(被相続人)の権利や義務の全てが相続人に帰属する制度です。

遺産の一部だけ放棄することが認められると、例えば預貯金などプラスの財産は相続しますが、借金などマイナスの財産は相続しません、ということができてしまい、被相続人にお金を貸していた人に大きな打撃を与えることになります。このため、遺産の一部のみを相続することは認められていません。

したがって、設例の場合、Bさんが亡Aさん名義の不動産だけを相続放棄することはできません。Bさんが亡Aさん名義の預貯金や,自宅の土地建物などを相続したいならば、Z県の山林もすべて相続しなくてはならないのです。

Bさんとしては、Z県の山林を相続することのデメリットと、自宅の土地建物や預貯金等を相続することのメリットを慎重に判断して、亡Aさんの遺産を相続するか、相続放棄をするか、検討しなくてはなりません。

なお、相続放棄は相続開始から3か月以内に行わなくてはなりません。このため、遺産の調査や相続するかしないかの検討に時間がかかる場合には、家庭裁判所に対して、3か月の期間(これを「熟慮期間」といいます。)の伸長を申し立てるべきでしょう。

いらない不動産は自治体に寄付できますか?

いろいろな事情を勘案し、Bさんは亡Aさんの遺産を相続することにしました。しかし、Z県の山林は、一旦相続するとしても、自治体に寄付することを検討しています。このようなことはできるでしょうか。

一部の自治体では、土地の有効活用のため、地域を限定的に指定して土地の寄付を受け付けている場合もあるようです。しかし、これは非常に例外的なものであり、一般的に土地の寄付を受け付けている自治体はありません。

というのも、自治体が土地の寄付を受けても、税金で土地の管理などを行わなくてはなりません。しかし、せっかく費用をかけて土地の管理をしても、自治体の利益のために有効に活用できる見通しもありません。つまり、個人にとっていらない不動産は、自治体にとってもいらない不動産なのです。

Bさんの場合は、Z県内の不動産をZ県などに寄付することはほぼ不可能であると考えていいでしょう。

なお,この点について、財務省が不要な不動産の国への寄付について検討しているとの報道があります。しかし、基本的には高齢者の自宅敷地を想定しており,設例のBさんのような場合にまで寄付が可能であるかは疑問であることに注意が必要です。

共有状態の解消について

設例のBさんは、亡Aさん名義の不動産を相続することにしました。しかし,やはりZ県の山林をBさんが管理するのは無理があります。そこでBさんは、自分の持分を、亡Aさんの兄弟である他の共有者に譲渡できないか検討することにしました。

共有不動産の共有状態を解消するには、共有持分の譲渡と,共有持分の放棄という2つの方法があります。

共有持分の譲渡とは、他の持分権者に自分の持分を譲渡、すなわち売ることを指し,共有持分の放棄とは言葉のとおり、自分の持分を放棄することを指します。共有持分を放棄した場合には、Bさんの持分は,他の持分権者に帰属します。

共有持分の譲渡と、共有持分の放棄はどのように異なるかといえば,譲渡の場合は、持分を譲り受ける側、すなわち亡Aさんの兄弟との間で、譲渡の価格や日時などの条件について、合意ができなくてはなりません。しかし,共有持分権の放棄には,他の持分権者の合意はいらないとされています。

そうすると、Bさんの場合も亡Aさんの他の兄弟と話し合いをすることなく、Z県内の不動産の共有持分権を放棄してしまえば、結局、相続財産を一部放棄したのと同じ状態になれるといえそうです。

しかし、共有持分の「放棄」それ自体は、他の持分権者の同意を得なくてもできますが、共有持分の「放棄の登記」は、他の持分権者の協力がなくてはできません。したがって、事実上、共有持分の放棄には他の持分権者の同意が必要となります。

また、持分権者のうちの1人(設例ではBさん)が、共有持分の放棄を行った結果、他の持分権者(設例では亡Aさんの兄弟)の持分が増える関係になるので、税務上はBさんから亡Aさんの兄弟に対して贈与が行われたとみなされ、場合によっては亡Aさんの兄弟に多額の贈与税が課せられる可能性があります。

したがってBさんの場合、亡Aさんの兄弟がBさんの持分の放棄に協力することはあまり期待できません。

持分を放棄しても、その旨の登記ができないのでは意味がないので、Bさんとしては、不動産の共有状態を解消するには、亡Aさんの他の兄弟に持分を売却することを考えなくてはなりません。

Bさんが取り得る行動は?

しかし、亡Aさんの他の兄弟も、Z県の山林は持て余している状態かもしれません。そうなると、不動産が共有のまま、次の世代、次の世代へと引き継がれていき、今よりももっと関係が複雑になるおそれがあります。
このような事態を回避するためには、共有持分権者が協力して,Z県の不動産を隣地の所有者などに売るということも検討しても良いかもしれません。

所有者としての責任

しかし、Z県の山林は,そんなに簡単に売れることは期待できないでしょう。それではZ県の山林が売れるまでの間、BさんにはZ県の山林に対してどのような責任が生じるのでしょうか。

不動産の所有者としての責任の中で最も大きなものは、その不動産に対する管理責任です。不動産の管理が行き届いていなかったことを原因に,誰かに損害を与えた場合、土地の所有者は発生した損害に対して賠償しなくてはなりません。例えば、Z県内の山林の木の枝が伸び放題であったために通りがかりの人をケガさせてしまった場合、Bさんら所有者が損害賠償をしなくてはならないおそれがあります(民法717条1項,2項)。

このためBさんとしては、適宜、Z県内の山林が適切に管理されているか確認しなくてはなりません。これは遠方に住むBさんにとっては、大きな負担となることは明らかです。また、管理自体はZ県の近くに住む他の亡Aさんの兄弟に依頼することができたとしても、管理費用は持分割合に応じて負担しなくてはなりません。

さらに、毎年の固定資産税も所有者が支払っていく必要があります。

このように,有効に活用できない土地は、買い手もなかなか見つからずお金ばかりが出ていくため、土地を手にしたはずなのに、実際にはほとんどマイナスの遺産になってしまうことがよく見られます。

また、設例の場合、Z県内の土地はBさん以外にも共有者がいる状態ですが、仮に外に共有者がいない場合、Bさんが相続放棄をしたとしても、相続財産管理人が選任されるまでは、土地の管理を行わなくてはならないことに注意が必要です(民法940条1項)。
 
このように、遺産相続はしたいけれど、遺産のうちいらない不動産がある状態は、非常に頭の痛い問題です。遺産を相続した場合と、相続しなかった場合のメリットとデメリットをよく検討して、慎重な判断をすることが大事です。

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著者紹介

竹村 鮎子
竹村 鮎子

弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
http://www.fudousan-bengoshi.jp/

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