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竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所

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不動産を相続することになったら知っておきたい、不動産の分割方法

目次

Aさんの死後、亡きAさんの遺産である自宅不動産(土地建物)は長男Bさんと、長女Cさんが相続しました。しかし、BさんとCさんは遠方に居住しているため、亡きAさんの遺産である土地建物は、現在、空き家の状態です。
また、Aさんの遺産は不動産がすべてで、預貯金などはありません。このような場合、遺産はどのように分けたら良いのでしょうか?

なお、そもそも相続は被相続人や遺産に対する相続人の思いや、それぞれの生活によって、取るべき方法は異なります。たとえ手続きが煩雑であったとしても、それがご家族にとって最も納得のいく方法であるならば、その方法が最良であることに違いありません。
本稿では、皆様の相続にお役に立てるよう、それぞれの方法のメリットやデメリットを説明します。
どの方法が相続にとってより良いものであるかは、本コラムや、専門家への相談などを通じて、ご自身が納得のいくものを選択するのが最善かと思います。

不動産の分割方法

不動産の分割方法としては、一般的に以下のものが挙げられます。
 ① 現物分割
 ② 換価分割
 ③ 代償分割

それでは、具体的に個々の分割方法についてご説明します。

①現物分割とは
文字どおり、不動産そのものを分ける方法です。民法上、共有状態は望ましいものではなく、分割をすることが原則と考えられています。従って、現物分割が不動産分割の基本となります。
現物分割とは、文字どおり、不動産をそのまま分ける方法です。具体的には、土地は持分に応じて分筆し、それぞれの相続人が分筆した土地を一筆ずつ所有することになります。
 
ただし、土地をどのように分筆すればよいのかは、非常に難しい問題です。例えば、分筆によって、道路に面しない土地ができてしまうなど、土地の価値に大きな差ができてしまうような場合などには、現物分割はあまり現実的ではないかもしれません。
 
また、建物については、マンションなどの区分所有建物であったり、各部屋が別個独立していて区分所有が可能なものであったりすれば、建物そのものを分けることができますが、普通の一軒家のような、区分所有ができない建物は、事実上、現物分割はできません。
つまり、現物分割は法律上「原則」とされていますが、実際にはあまり採用されていない方法だといえるでしょう。

② 換価分割とは
不動産を売却して、売買代金を相続人の間で分割する方法です。
例えばモデルケースの場合、不動産の売却益が3,000万円だったとすると、BさんとCさんの相続分はそれぞれ2分の1ずつになるので、1,500万円ずつ分けることになります。

③ 代償分割とは
代償分割とは、誰かが不動産を相続する代わりに、不動産を相続しない人に対して代償金を支払う方法です。
モデルケースの場合、例えばBさんが不動産を相続したとすると、Cさんが一切遺産を相続できなくなりますので、BさんがCさんの相続分を別途、代償金として支払うことになります。

どの手続きを選ぶべきか?

それではモデルケースの場合、Bさん、Cさん兄妹はどのようにして不動産を分割したら良いのでしょうか。
それではBさん、Cさんの事情を聞いてみましょう。

Bさん「私は遠方に住んでいるので、不動産をもらっても管理できないし、固定資産税の支払いも負担となります。また、これから子どもの学費などがかさむこともあって、この際、売ってお金に換えたいと考えています」

Cさん「私も今は遠方に住んでいますが、現在、夫と不仲のため、夫とは別居することを考えています。近いうちに夫と住んでいる家から子ども2人を連れて出て、母のAが住んでいた実家に引っ越そうと考えているので、家は手放したくありません」

不動産はいらないからお金が欲しいというBさんと、不動産が欲しいというCさん。この二人の考えに一番かなう形の分割方法は、「不動産はCさんが相続して、CさんがBさんに代償金を支払う」形の代償分割の方法といえます。

それでは、実際に代償分割をする場合を考えてみましょう。
先ほどもご説明したとおり、不動産の時価が3,000万円だとすると、Bさん、Cさんの相続分はそれぞれ半分ずつ、すなわち1,500万円ずつとなります。

しかし、Cさんが不動産全部を相続する場合、Bさんは一切何も相続できないことになるので、CさんがBさんに別途、代償金として1,500万円を支払う必要があります。従って、この方法はBさんにまとまった現金がないと利用しづらい方法といえるでしょう。

もちろん、代償金を必ずしも一括払いにする必要はないので、兄妹で支払い方法について話し合いをする余地は十分にありますが、あまり長期間の支払いになるようだと、Bさんも納得しづらいところがあるかもしれません。

このように、代償分割は不動産を取得したい相続人が、代償金を用意できるかできないかが大きな問題となる分割方法です。仮に代償金を用意できたとしても、不動産を取得する相続人(設例ではCさん)が、手持ちの現金をすべて吐き出すことになり、遺産分割協議終了後の生活資金に困ることもあります。
 
モデルケースの場合、Cさんが代償金の支払いは難しいとして、これを断念し、遺産である不動産を売却して、売却益を分割する方法、すなわち換価分割を行うことにしました。

Bさんは希望どおり、現金を手にすることができますし、Cさんも、夫と別居するにしても、ある程度まとまったお金が手に入るので、新しく部屋を借りるなど、当面は生活していくのに困らないでしょう。従って換価分割による分割は、完全にとはいえませんが、BさんもCさんもお互いにある程度納得したものといえるのではないでしょうか。

しかし、不動産が先祖代々続いたものであるなど、一族のアイデンティティーの象徴になっているような場合があります。このような場合、簡単に売却するのは難しい場合があるかもしれません。
「不動産は簡単に売れないし、売りたくもないけれど、代償金も用意できない」というような場合には、現物分割を検討してみるべきでしょう。

建物を現物分割することができない場合には、建物は相続人一人が相続するものとして、土地を相続人全員で分筆することが通常です。現物分割の場合には、分筆後のそれぞれの土地の評価額の調整や、測量などの手間と費用がかかりますが、その負担はやむを得ないものとして、手続きを進めていくほかないでしょう。

「わざわざ測量などの手間をかけたくないし、そこまで手間をかけなくても、今、特に困っていない」などの理由で、きちんとした遺産分割手続を行わないこともあるでしょう。

このため、不動産を共同相続人の間で共有にしたままにしてしまうこともよく見られます。
モデルケースの場合でいえば、BさんとCさんが、それぞれ不動産について2分の1ずつの持分を持っている状態のことです。そして、例えばCさんが建物に住むのであれば、Bさんの持分相当を「使わせてもらう」という形になるので、Bさんに対して、不動産の家賃相当額を支払うことになります。

しかし、不動産を共有にしておくことは、法律関係を複雑にすることになり、後のトラブルの原因となりかねませんので、あまりおすすめはできません。

とはいえ、遺産分割については、どのように分割するのが良いのかは、それぞれの相続人の利害があることから、単純に決めきれないことも多くあります。

そのような遺産分割に伴う相続人の負担を避けるためにも、遺産をどのように分けたらよいか、生前に遺言書を作成して、きちんと決めておくことも必要なのかもしれません。

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著者紹介

竹村 鮎子
竹村 鮎子

弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
http://www.fudousan-bengoshi.jp/

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