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竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所

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不動産相続の際に起こりうるトラブルとは?

目次

Aさんの親であるBさんは不動産投資を行っていましたが、先日急死してしまいました。慌しく葬儀を終えたものの、離れて暮らしていたこともあり、AさんはBさんがどこにどんな物件を持っていたのか、まったく分かりません。
本稿では、Aさんのような場合に起こりうるトラブルについて説明します。

はじめに

「相続」とは、ある人が亡くなったとき、その人(「被相続人」といいます)が有していた権利や義務を特定の人物がすべて引き継ぐ制度です。亡くなった人の権利や義務を誰が引き継ぐのかについては、法律で定められていますが(これを「法定相続人」といいます)、遺言書によって、法律で決められている人以外に、権利や義務を引き継がせることを定めることもできます。
 
従って、Aさんの場合、仮にBさんが遺言書を残していなかった場合、Bさんの子=法定相続人として、法律が定める割合(これを「法定相続分」といいます)に応じて、Bさんの権利や義務をすべて相続することになります。
相続の対象は、被相続人のすべての権利や義務で、不動産や預貯金などのプラスの財産、借金などのマイナスの財産、また、不動産の貸主としての地位も引き継ぐことになります。
 
とはいえ、被相続人の借金があまりにも多いなど、相続人が相続をしたくないと思うこともあるでしょう。このような場合、相続人は、被相続人のすべての権利義務を相続する「単純承認」、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しない「相続放棄」、Bさんのプラスの財産の範囲でマイナスの財産を支払う場合には「限定承認」という手続きが選択できます。

何が遺産かわからない

それではAさんの場合を見てみましょう。
Bさんは遺言書もなく、また財産の状況をAさんに伝えることなく亡くなってしまいました。このため、Aさんは何がBさんの遺産であるのか分かりません。Bさんの遺産を調べるにはどうしたら良いでしょうか。
 
この点、例えばどこか照会機関があって、そこに問い合わせればBさんの財産状況がすべて判明するというようなことはありません。
従って、Bさんの遺品の中から預金通帳や印鑑、不動産の権利証などを探し出し、一つ一つ調べていかなくてはならないのです。
 
借金については、Bさんの死亡により支払いが滞った場合には、債権者からの問い合わせがありますので、それによって明らかにしていく必要があります。
また、Bさんが所有していた不動産については、登記簿を確認し、抵当権が設定されていれば、抵当権者に対して残債務の確認を行うべきでしょう。
 
また、不動産の固定資産税の納付書が届いて初めて、Bさんがその不動産を所有していたことが判明することもあります。

先に説明した「相続放棄」や「限定承認」の手続きは、相続が開始してから3カ月以内に行わなくてはならないこと(これを「熟慮期間」といいます)が原則です。
 
しかし、何が遺産であるかわからない状態では、相続すべきなのか、相続放棄をするべきなのか、判断がつかないこともあることでしょう。そのような場合には、家庭裁判所に対して申し立て、相続放棄や限定承認ができる期間が3カ月より伸ばしてもらうべきです。
ただし熟慮期間中、遺産である預貯金を引き出して使うなどは、被相続人の遺産を引き継いだとみなされる行為となり、「単純承認」したものとして、相続放棄や限定承認はできなくなるので、注意が必要です。
 
この点、本件のように、Bさんが所有する不動産を賃貸に出していた場合、遺産を調査している間に、賃借人からの賃料を受け取るべきか否かが問題となります。賃料の支払先を、Aさん名義の銀行口座に変更するなどして、Aさんが賃料を受け取ると、「単純承認」とみなされ、後の相続放棄や限定承認が認められない可能性があります。
そのようなリスクを避けるため、賃借人には事情を説明したうえで、賃料を法務局に供託してもらうべきでしょう。

誰が相続人かわからない

Bさんが遺言書を残していなかった場合、Bさんの遺産を相続するのは法定相続人となります。
この点、誰が法定相続人であるかについては、民法第887条以降に以下のとおり規定があります。

①被相続人の子は相続人となる
②被相続人の子が相続の開始以前に死亡したときは、その者の子が相続人となる(これを「代襲相続」といいます。)
③被相続人に子がいないときには、被相続人の親など、直系尊属と、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる
④被相続人の配偶者は常に相続人となる

そこで問題となるのは、AさんはBさんの後妻の子であり、Bさんが前妻との間にも子どもがいるようなときです。この場合、Bさんの前妻は「配偶者」ではないので、法定相続人ではありませんが、前妻との間の子は相続人となります。
また、もし仮に前妻との間の子がすでに死亡していた場合には、そのまた子(Bさんにとっては孫)が相続人となります。
 
例えばBさん名義の預金を解約するにしても、相続人間で協議ができていなければなりません。つまり、Aさんは、Bさんの戸籍を取り寄せて、相続人が誰であるか突き止めなければ、相続の手続きを始められないのです。

あとから借金が判明した

遺産である預貯金を引き出して使うなど、被相続人の遺産を引き継いだとみなされる行為をすると、相続放棄や限定承認はできなくなることは、前述のとおりです。
それでは、Bさんの死亡直後に行った遺産の調査では、債務の存在は明らかにならなかったため、Aさんは単純承認をしたところ、あとになって多額の債務が判明した場合、どうなるでしょうか。Aさんは相続放棄をすることができるのでしょうか。
 
この点、最高裁昭和59年4月27日判決では、「3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかったのが、相続財産がまったく存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である。」としています。
 
つまり、熟慮期間の3カ月を超えたあとに、相続放棄ができるのは、①相続財産がまったくないと信じたこと、②①のように信じるについて、相当な理由があるときに限られると考えられます。
具体的にどのような場合に「相当な理由がある」と判断されるかはケースバイケースではありますが、例えば、債権者から『被相続人の借金はない』と嘘をつかれていたような場合などが挙げられるでしょう。

また、相続財産がまったくないと信じたこと、という点について、厳密にいえば、預貯金などプラスの財産の存在を知っていた場合には、熟慮期間経過後の相続放棄は認められないことになります。とはいえ、この点は裁判所では柔軟に解釈されているようであり、わずかな預貯金については知っていたというような場合には、相続放棄が認められることもあります。
いずれにしろ、上記裁判例は、特に相続するものは、ほとんど何もないと考え、何もしないまま3カ月が経過した場合のものです。

しかし、Aさんの場合では、遺産についてある程度の調査を行っていて、実際にBさんの賃貸経営を引き継いだ事情からすると、あとから予想外の借金が発覚したからといって、相続放棄をするのは難しいのではないかと思われます。
従って、遺産の調査はできる限り慎重に行うべきであり、3カ月の熟慮期間中に調査が終わらなければ、熟慮期間の伸長を裁判所に申し立てるべきだといえるでしょう。

あとから遺言書が見つかった

それでは、遺産分割協議がすべて終了したあとから、Bさんが作成した遺言書が見つかった場合はどうしたらよいでしょうか。
遺言書の効力は何年たっても続きますので、基本的には遺言書どおりに遺産分割をするため、遺産分割協議を最初からやり直す必要があります。この点、相続人全員の同意があれば、遺言書の内容と異なる遺産分割をすることもできます。
 
しかし遺言書に従い、もっと多くの遺産を相続できる相続人がいるような場合にも相続人全員が、遺言書と異なる内容の遺産分割に同意していなくてはなりません。このため、相続人全員の意見を一致させるのは難しいかもしれません。
なお、Bさんが自分で書いた遺言書が見つかった場合には、開封せずに家庭裁判所で検認という手続きを行わなくてはなりません(民法1004条)ので、ご注意ください。

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著者紹介

竹村 鮎子
竹村 鮎子

弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
http://www.fudousan-bengoshi.jp/

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