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加藤隆が実際に体験した不動産投資の罠

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売値の裏事情の見抜き方と指値の付け方

目次

不動産の売値というのは、通常一義的には売主による売買希望価格です。

過去に割高価格で買った場合や借入金残高が多めに残っていたり、特に売り急ぎでないとき、自己居住用物件の場合、そして不動産の相場を知らない場合においては、割高になりやすい傾向にあると思います。

以下に、それぞれの傾向をまとめます。

売主の売買希望価格:割高な場合

・平成バブル期(1990年以前)に割高価格で買った場合
過去の購入価格がトラウマになっており、安く売ると損した気分になるため、割高に設定している。
・借入金残高が多めに残っている
そもそも借入残高・諸経費以上で売れなければ売却損が発生し、手元の資金を吐き出さなければ抵当権も抹消できず、売るに売れない。
・売り急ぎでない
特に資金繰り等で困っているわけでもなく、割高で売れたらめっけものくらいに考えているため、価格を高くしている。
・自己居住用物件の場合
自分が自己居住用で住んでいたことから、主観的な愛着があり、不動産経営に慣れているわけでもなく不動産の相場観にも乏しいため割高になってしまっている。
・不動産の相場を知らない
そもそも積算法・収益還元法・取引価格比較法等といった分析もせず、特に根拠もなく適当な売却希望価格をつけている。

売主の売買希望価格:割安な場合

逆に、過去に割安価格で買った場合、借入金残高が少ないか無い場合、売り急ぎの場合、不動産経営用物件の場合、不動産の相場を知っている場合等においては、割安価格で出る可能性もあります。
・過去に割安価格で買った場合
既に得した気分になっており、そこそこの価格で売れれば無理しなくても充分といった考え方から割り安な価格になっている。
・借入金残高が少ない、または無い場合
抵当権抹消というハードルが低いか、無いために割安価格でも売却しやすい。
・売り急ぎの場合
資金繰りに困っている場合、決算期末で利益を出し調整したい場合、相続絡みで10ケ月間以内に分割・納税せざるを得ず、また共有を嫌がったり、不動産経営自体を嫌がったりする場合もあり、割安に設定されている。
・不動産経営用物件の場合
自己居住用程は主観的な愛着も無く、売却に抵抗が無い場合も多いことから、売却希望価格が安い。
・不動産の相場を知っている
積算法・収益還元法・取引事例比較法等、客観的な手法も考慮し、あまりに非実現的な価格は出さない傾向にあるため。

購入時のチェック

不動産を買う立場から言えば、

売主はいくらで買ったのか(なかなか教えてはくれないでしょうが、登記簿謄本からわかる。当初の抵当権設定価格=借入ローンは一つの目安になります)

借入金残高(現状残っている抵当権以下であること、抵当権設定日等は一つの目安になります)

売却理由(物件不良、悪質入居者問題、資金繰り困難、期末決算損益調整対策、相続絡み、減価償却節税メリット低減、資産入替等)

その他、自己居住用だった、不動産経営用だった、不動産経営実績などを調べることにより、ある程度、割高か割安か判断材料になりますし、値引き指値交渉の判断材料にもなります。

不動産会社の立場

今度は、不動産会社の立場で考えてみましょう。

不動産会社の立ち位置としては、仲介(媒介)契約と買取(転売)があります。仲介(媒介)契約の場合には、仲介手数料として、原則として、上限、物件価格の3%+6万円+消費税がかかります。
売主・買主それぞれから貰えます。売主・買主両方仲介する場合には、両方から貰えます(両手)。

通常は、双方代理のようで利益相反になりますが、何故か日本の宅地建物取引業法(宅建業法)では認められています。

買取(転売)の場合には、仲介手数料は取られませんが、通常は早期に割安価格で買い取られます。買取業者は、自分で運用するというよりは修理・リフォーム・リノベーションしたり、多少は時間がかかってもより高めで売却し、売買差益を狙う場合がほとんどです。

しかし不動産会社にしてみれば、買って転売する迄の間に景気過熱や金融業界・不動産業界等での不祥事等が原因となって融資禁止令が出たり、不景気になって不動産が売れなくなると、資金ショートするリスクがあります。その場合は、割安価格でも処分しようとする場合もあります。

購入する立場から言えば、所有者・売主は誰なのか、所有者は一般人で不動産会社の仲介なのか、不動産会社が所有者・売主なのかを確認します。

また、所有者は一般人だが、不動産会社が一旦購入し、同時に転売するという形を取る場合もあります。その際、手間暇・諸経費の節約のため、所有権移転登記は所有者から不動産会社を経由させず、買主に直接移転させます。

いわゆる三為業者(第三者の為にする業者)による、他人物売買・中間省略登記です。これは、不動産会社が仲介手数料よりも、売買差益を狙おうというものです。悪質な場合には、間に自社の取締役・従業員等を個人として入れてくる場合もあります。ここまですれば、売買差益のみならず、さらに仲介手数料迄請求できるからです。

さらに言えば、売主が宅建業者でなくなる形にしておけば、特約で瑕疵担保責任も排除可能ですし、万一トラブルになった場合、クーリングオフも適用できなくさせるのです。実は私も、以前このやり方をやられ、手付金・違約金詐欺のような目に遭い、6千万円の損失を出しました。皆さんも充分気を付けて下さい。

ところで、不動産会社にしてみれば、まずは売買物件の案件を確保したいので、売却想定額を高めに設定するものです。最初から安めの価格を提示すると、他社に逃げられてしまうからです。そして、ほとぼりが冷めた頃、値下げして出しましょうと来るわけです。

そういう意味では、物件売却開始時期も参考になります。あまりに長期間に亘っている場合、どんどん値下げしてきている場合には、売主も弱気になっているものだからです。

ただし、この物件広告開始時期は売出価格等条件変更をしたり、一旦引っ込めて、また出したりと広告操作される場合もありますので、実態を見抜くように注意が必要です。

長期間、広告に晒されているのに、いつ見ても「NEW!!」と表示されている場合もあります。ひどいものになると、おとり物件もあります。優良割安物件で既に売却予定済物件をいつまでも乗せておくのです。私が購入した物件も、他社(一般媒介の場合)で、いつまでも掲載されていたものでした。問い合わせ客に対して、別の物件を紹介していくのです。

仲介の場合には、一般媒介・専任媒介・専属専任媒介契約がありますが、不動産会社としては物件を抱え込み、仲介手数料を確実なものにしたいがため、専任媒介・専属専任媒介契約にしたがります。敢えて情報を他に流さず、両手手数料を狙う会社もあります。

値引き指値交渉

これまで書いたことのように、売値はあくまで売主の販売希望価格です。逆に言えば、買主には買主の購入希望価格があるものです。そして不動産会社にしてみれば、物件価格が高くなる程仲介手数料は増えます。

したがって、駄目もとでも値引き指値交渉はした方がいいと思います。

ただし、ケースバイケースで、売り手市場にあって優良物件が割安価格で購入できそうで、買取希望者が多い場合には満額購入希望の方が優先してもらいやすいです。現金購入、融資の内定が出ている場合も、同様に優先してもらいやすいです。

購入価格の目安

購入価格の目安は、まずは表面利回り(年間家賃収入÷物件価格)です。私の場合には、できれば10%以上、少なくとも8%を目安にしていました。

次いで、イールドギャップ(運用利回りー調達金利)です。私の場合は、少なくとも5.5%を目安にしていました。

次いで、キャッシュフロー(受取現預金―支払現預金)です。私の場合は、少なくとも物件価格の5~10%は目安にしていました。あくまで優良物件を割安価格で購入、必要に応じ別件担保も供した上でフルローン・オーバーローンも前提にした上での、ざっくりとした目安です。自己資金をある程度手出しする場合には、もっといい数字が出やすいのではないかと思います。

指値の付け方指値は、「ぼろいから安くして」と物件をけなしたり適当にするのではなく、ある程度根拠を持ってやった方がいいと思います。

「本当は修理・リフォームした上で引き渡してほしいところだけど、こちらでするのでその分勉強してほしい」とか、「利回り・イールドギャップ・キャッシュフローで回らないが、長く安定的に使わせてもらいたいので、ある程度勉強してほしい」とか、「気に入ったのでぜひ購入させていただきたいけれど融資受け・自己資金の関係でもう少し勉強してほしい」、といった感じだと印象がいいようです。

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著者紹介

加藤 隆
加藤 隆

サラリーマンのままで、経済的・時間的・精神的自由を目標に、預貯金・外国為替・貴金属・株等の資産運用を経て、不動産経営歴31年。数々の失敗・バブル崩壊を生き抜き、リスク分散をモットーに、東京・博多・札幌・名古屋・京都・小樽・千葉に、区分所有マンション・一棟物アパート・一棟物マンション・戸建等、物件108戸を運営。総資産7億円・借入5億円・自己資本2億円、年間家賃収入4,100百万円・借入金返済3,100万円・キャッシュフロー1,600万円。節税で、所得税・住民税ゼロ。

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