経験から過去・現在・未来を語る「大家座談会」
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2019年2月26日(火)
第3回 賃貸市場、これからの動向は?
不動産投資について、現場で起こっているリアルな声を聞く本企画。最終回となる今回のテーマは「これからの賃貸市場に対する見解」です。融資の確保や人口減少・高齢化の問題など、これから大家さんを始める人が押さえておきたいポイントについて、複数の物件を所有する大家さん3人に語ってもらいました。
長期のインカムゲインで投資額を回収していく
これからの賃貸市場や大家さん事業についてどんな見解を持っていますか?
加藤 直近だと融資が受けづらい状態になっていますから、資金繰りの面で買える人の数が減っていくでしょう。そういう状態の時は自己資金を多く持つ必要がありますので、手元に現金ある人は属性が上がり、有利になるだろうと考えられます。
大長 そうですね。また、金利が上がっていく可能性があるので、購入するにしてもフルローンはリスクが大きくなると思います。サラリーマン大家さんのように本業があって収入が安定しているとしても、フルローンを組んで金利が上がると生活費を削ることになるかもしれません。融資を受ける時点でもそうなのですが、ある程度の現金を持っておくことは大事になるでしょうね。
星野 物件としても金額が大きい一棟建てなどはリスクが大きくなりますので、ワンルームマンションなどの区分所有が増える可能性もありますよね。また、物件はいつ修理が必要になるかわからないので、その点でも現金は持っておく必要があると思います。従来のように資産として物件を管理だけでなく、大家業を続けていくための資金管理も重要になってくるのではないでしょうか。
大長 大家業で失敗する人たちを見ても、物件に関するトラブルより、オーナー自身のお金の使い方などに原因があるケースが多いように思います。
加藤 必要以上に使ってしまい、物件のローンが払えなくなるようなケースですね。
大長 はい、そのトラブルが多いと思います。不動産は入居者さえつけばすぐに収入が入ります。それを副収入と捉えて使ってしまうわけです。
星野 翌年から住民税などが上がったりしますからね。修繕費も積立てていかなければなりませんし。
大長 そうですね。利益を食べずに残していけば徐々に現金が増えていきます。10年くらいかけてしっかり貯めていく意識が必要だと思います。
加藤 税金関連では相続税も考える必要がありますよね。数年前に税制が変わっていますが、今後もまた変わる可能性があります。残債があれば相殺できますが、金利が上がっていくなら早く返済した方が得になります。団信をつけるかどうかを含めて返済方法は悩むところです。団信をつけると返済期間が短くなるので、その点から見ると現在のように融資が厳しくなっている状況では団信なしの方がいいようにも感じますし。
大長 掛け金で考えるのであれば、自分で生命保険に入った方が良いかもしれませんよね。そういった方法も含めながら対策していくことが大事だと思います。
星野 融資が厳しくなることによって、比較的短期の売買も難しくなりますよね。売却できたとしても、次の物件を買うための融資が受けられるかどうかわからないわけですから。
大長 そうですね。そもそも私は出口戦略を作らず、永久保有を前提にしています。実際、過去に買った物件の中には条件が悪いものもありますが、そういう物件もまだ手放さずに持っています。
加藤 私も物件を手放すという考えはないですね。保有していれば収入源になります。最近、ちょっとしたトラブルに巻き込まれて6,000万円ほど損しましたが、その際も物件だけはどうにか減らさないようにしようと思っていました。
大長 出口戦略がある投資も良いとは思うのですが、たいていの場合、何年後にいくらで売りたいという出口は決めても、その後の計画がありませんよね。10年後に5,000万円で売ったとして、その5,000万円をどうするかという戦略がないわけです。それならずっと持っておく方が良いと思うのです。インカムゲインで投資額を回収できれば、あとは子供に渡せますし、税制でも優遇措置がありますし。
加藤 現金化した場合、その瞬間から減っていくというのも私はリスクだと思っています。いくらあるかより、いくら入ってくるかの方が大事かなと。
星野 そうですね。私が不動産投資を始めたのも、当時、仕事が忙しくて過労死しそうだったので、不労所得として実業とは別の稼ぎがほしかったのが理由です。安定的な収入が見込めるのは大きな利点だと思います。
大長 退職金で1億円もらっても80歳で5,000万円になると怖いですからね。5,000万円は大金なのですが、減り続けているという点が怖い。長生きして困ったり、長生きの不安が生まれるというのがそもそもおかしな状況なのだと思います。
加藤 定期収入という点では株の配当などもありますが、金額的にみてまとまった額の収入が見込めるのは不動産だけなのではないかと思います。
大長 事業として営んでいく際に労力がかからないという点も大きいですよね。会社員が大家になれるのもそこが大きいと思います。小売りや飲食店などは仕入れがありますし、その他の事業でも何かしら手間がかかるものです。その点、不動産は星野さんがおっしゃったように不労所得の要素があります。購入してから手間がかからない反面、その礎となる物件選びなどが重要になり、最初に大金を使うというリスクもありますが。
都市部と地方の格差は広がっていく
星野 安定収益という点では、当たり前ですが入居者を確保することが大事ですよね。その点で考えると、将来的な人口減少と少子高齢化は業界や市場に大きく影響します。
大長 人口動態に関しては地方差もあります。例えば、東京は物件数が多いのですが、その分、人もたくさんいます。だから、属性が良い人が入るのを待つことができます。実際、良い物件は常に満室に近い状態が続いていますし、焦って入居してもらわなくても次に来る人を待つという選択ができます。
星野 私はマンスリーで貸している家具付き物件がいくつかあるのですが、東京は長期滞在する外国人旅行者やビジネスマンも増えている気がします。
大長 そうかもしれませんね。問題は地方だと思います。
加藤 私は札幌に物件がありますが、1万円で貸しています。ほとんどボランティアです(笑)。
星野 それでエアコンが壊れて修理代や交換代が発生したりするわけですよね。
加藤 その通りなんです。賃料よりエアコンの方が高いんです。しかも地方は東京のように家電量販店がたくさんあるわけではないので、競争がなく、家電が高い。また、札幌は除雪が必須ですし、落雪の保険などが必要になります。最近は温暖化の影響で暖かくなっているようですが、それはそれで問題があり、北海道にはほとんどいないと言われていたゴキブリが出て退去した人がいたのです。
大長 地方都市は繁華街から少し離れるだけで家賃相場が急激に安くなりますからね。それで相場が壊れている面もあると思います。名古屋は電車で30分くらい行くと田園地帯になりますし、仙台や福岡も同じで、物件数に対して人が少ないのが現状です。
加藤 私も名古屋に物件がありますが、名古屋駅から歩ける範囲でないと厳しいですよね。札幌の物件についても、東京のように健康のために30分歩くなどといった発想はありません。現地の人に「脳みそが凍るからやめなさい」と言われたほどです(笑)。
大長 私も過去に地方に物件を買って失敗したことがあります。最初に都内に建てたのと同じ新築物件を、宇都宮にも建ててしまったのです。
星野 建物が同じでもエリアの収入が違うと収益性が変わりますよね。
大長 そうなんです。土地の坪単価が安かったという点が着目した理由だったのですが、東京との年収の差を考えて、本来は地域に見合ったものを建てるべきでした。設計、施工に言われるがまま建ててしまい、家賃が高くて入らなかったんです。
加藤 いくらの物件だったのですか。
大長 当時で月7〜8万くらいで、今は5万円くらいで貸しています。現地で7万円くらい出すと、50平米、2人住まい、駐車場2台の物件が借りられます。地方は車社会ですから1人1台車を使います。そういう点も調査不足でした。
星野 高齢化も大きな社会変化ですよね。
加藤 そうですね。私はその点については悲観的に見ていて、住む場所が確保できない年寄り難民が溢れるのではないかと思っています。収入がなく、年金で暮らせず、住むところがなくなる。身寄りといえるような、助けてくれる人もいない。そういう人が増えることでスラム化する可能性もあるのではないでしょうか。一般的には外国人が増えることで治安が悪化すると言われますが、もしかすると、国内の事情によって治安が悪くなっていく可能性もあるかもしれません。
大長 空き家が増えれば治安は悪くなりますから、都市部に関しても物件が増えすぎるのは問題ですよね。
加藤 そうですね。人が多いとはいえ、都市部でも需給バランスは崩れつつあると思います。乱立しているタワマンがその例ですよね。
星野 供給過多の状態を修正する規制も必要だと思います。アメリカなどには土地が十分にありますが、物件数が増えすぎないようにする規制があると聞きます。都内でも、例えば土地を何平米以下に分筆してはいけないといった規制がありますが、将来的にそのような制限も必要になってくるのではないでしょうか。
加藤 需給バランスという点では移民を含む外国人が増えれば需要も増えるのでしょうが、その点はどうなのでしょうね。
大長 都市部近郊や大きな工場があるエリアなどでは、すでに外国人が過半数を占めるようになった地域もあります。大家側の視点で見ると、空室になるよりは住んでもらう方が良いはずです。外国人の街として機能しているという現状を踏まえると、大家も収益が出ているのだと思います。
星野 私は民泊用の物件も所有していますが、外国人が長く入居していたことがあります。大家さんの中には言葉の問題や生活習慣の違いなどを不安視する人もいますが、トラブルがあってもきちんと話せばたいてい通じます。木造なので足音に注意してくださいねというと、翌日から摺り足みたいにして歩いたり(笑)。
加藤 イメージ先行で敬遠しているところがあるのかもしれないですね。
星野 そう思います。むしろトラブルという点では日本人の方が面倒な時があります。日本人は国民性としてはっきり言わなかったり察してくれるのを期待するところがあるので、トラブルについて話を聞いていても、要領を得ないことも多いのです。その点、外国の人ははっきりしていますからわかりやすいですよね。
大長 あとはどういう外国人が増えるか、ですよね。現状は日本語を勉強した外国人も多いですし、日本に来る時点である程度のお金持ちやエリートなのだと思います。しかし、これから受け入れ範囲を広げるとすれば、日本語や日本の文化をまったく知らない人が入ってきます。車を例にすると、彼らは現地で国際免許を取ったりしてレンタカーなどに乗るわけですが、日本語がわからず、標識も知らない状態で走ります。一時停止をそのまま突っ走るといったことが頻繁に起きるかもしれません。これまでは街で外国人を見かけることがあるくらいの社会でしたが、今後はあり得ないことが当たり前に起きる社会に変わっていくかもしれませんよね。
高齢者向け賃貸が伸びていく可能性あり
星野 高齢者の住居については、私も問題になるだろうと思っています。実は先日マンションを購入したのも高齢の父のことを考えてのことでした。もともと高齢者向けのマンションは高いですし、介護付き物件などは人気があって順番待ちです。そこで住むところは確保しておいた方が良いだろうと思って。
大長 東京の高齢者向け住宅は不足していますよね。ただ、最近の60歳、70歳は若いので、施設に入るほどでもない。
星野 そうなんです。私の父は80歳なのですが、最近は80歳でも若いと感じます。先日、久々に高齢者施設を訪れた時も、女性たちに「久しぶり」と声をかけられて喜んでいましたし(笑)。
加藤 個人的には高齢者向けのシェアハウスなどおもしろそうだなと思います。
大長 そういう施設が増えるといいですよね。私もその案に賛成ですし、国などが助成金などの補助をつけるとさらに良いと思います。
星野 そうですね。ただ、現状はルールがついてきていません。経営者のような視点を持つという点で、そういう物件づくりや運営は民間がやった方が良い場合も多いと思います。
大長 大家業はそういった社会貢献ができるのも魅力ですよね。むしろ、社会にどう貢献しているかが大家としての差別化にもなりますし、オーナーとしてのやりがいにもなるのではないでしょうか。
加藤 自分が高齢になった時のことを考えると、物件を持つことが自己救済にもなりますよね。少子高齢化が進むほど若者の年金負担が大きくなるわけですが、年寄りが未来ある若者を食い物にしてはいけないと思います。それを防ぐには、自分と自分の家族を自力で守る視点が必要です。
星野 そうですね。不動産投資は投資としての一面が注目されがちですが、世の中に対して貢献しているところもあり、もっと貢献できることもあると思っています。高齢者や外国人の住居対策などがその一つですが、行政とは違って視点で物件を通じた貢献をしていきたいですね。
加藤 同感です。苦労もあり、うまくいくことばかりではありませんが、そういった可能性を秘めているという点で、大家業は魅力ある事業だと思います。
大長 そうですね。融資が厳しい時もありますが、それも変わっていくものです。マラソンのように長い目でみながら、うまく不動産と付き合いたいですね。
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著者紹介
不動産投資塾編集部不動産投資塾編集部
投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾新聞社」を介し、公平な情報をお送りいたします。