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専門家コラム竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所

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民法改正が賃貸借契約に及ぼす影響とは?

目次

2020年4月1日に改正民法が施行されます。現在の民法の規定の多くは約120年前に制定された時のままであり、制定当初とは社会情勢も変わってきています。

現代社会では、民法制定当時には想定もされていなかったようなトラブルも多くありますが、それらについては判例や法解釈などの積み重ねに合わせて対応してきました。

しかし、今回の改正でこれまで判例や法律の解釈に委ねられてきた部分についても、分かりやすく条項化されます。

それでは、民法改正が賃貸借契約にどのように影響するのでしょうか。本項では賃貸借契約に関する改正民法のうち、主なものについて解説いたします。

改正民法が適用される契約は?

そもそもどの契約は改正民法の対象となるのでしょうか。

改正民法は2020年4月1日から施行されますが、施行日よりも前に契約された賃貸借契約については、原則としてこれまでの民法が適用されます。

一般的な借地や借家の場合、更新時期が2020年4月1日以降である場合も、最初の契約が2020年4月以前ならば現行の民法が適用されます。

すなわち、改正民法が適用されるのは2020年4月1日以降に新しく締結された契約となります。

敷金の明文化

賃貸借契約締結時に、当たりまえのように授受されている「敷金」。しかし敷金の取り扱いについて、実はこれまで民法に明確な規定がなされていませんでした。

このため、改正民法では敷金を「いかなる名目によるかを問わず…賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しました。

すなわち、敷金とは未払の賃料や原状回復費用について未払いがあった時に備え、あらかじめ担保として差し入れておく、いわゆるデポジットであるということです。

デポジットですので、賃料の未払いや原状回復費用の未払いがあった場合には、賃貸人は賃貸借契約終了時に、敷金から未払い分を差し引いて賃借人に返還します。

しかし、これは現行民法下でも実務上、すでに同様の取り扱いがなされていますので、これまでの賃貸経営に、特段大きな影響を与えるものではありません。

建物の一部滅失等による賃料の減額

賃貸借契約において、貸している建物の不具合により建物が一部使用できないというような場合に、従前の民法の規定では「その割合に応じて、減額を請求することができる」とされているだけでしたが、建物の使用ができなくなった割合に応じて、賃料が「当然に減額」されることが明文化されました。

現行の民法下でも、建物の一部が使用できない場合には、その割合に応じた賃料の減額が請求できますが、賃料の減額が「当然に」なされることになった点に注意が必要です。

したがって、建物に不具合があった場合には賃貸人としては速やかに修繕を行い、被害を最小限に食い止める必要があるといえるでしょう。

しかし、具体的にどのような不具合の場合にはいくら減額されるのかなどについては、明確な基準はなく、前例も乏しいと言わざるを得ないため、今後の実務の趨勢を見守る必要があるといえます。

退去時の原状回復

賃貸借契約が終了し建物から退去する際には、借主は建物を原状に復さなくてはなりませんでした(これを「原状回復」といいます)が、どの程度が「原状」なのかについては明確に定められておらず、トラブルの種となっていました。

そこで改正民法では、条文で明確に原状回復を行う範囲について「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」と定義づけられました。

しかし、これも敷金の場合と同様、現行民法下でも独自にガイドラインが作成されるなど、同様の取り扱いがなされていましたので、賃貸経営に特段大きな影響はないものといえるでしょう。

連帯保証人

これまで見てきたとおり、改正民法における「賃貸借」の条文については、現行の慣習などを条項化したものが主であり、賃貸経営にはそれほど大きな影響はないものといえます。

しかし、賃貸経営においては契約の際に、借主の賃料未払いのリスクを分散させるため、連帯保証人や保証会社による保証をつけていることが一般的です。今回の民法改正では、連帯保証人についての規定が大きく変わるので、注意が必要です。

 具体的な変更点は以下のとおりです。

① 極度額の設定が必要
② 主債務者(借主)から連帯保証人への情報提供義務
③ 連帯保証人に対する債権者(貸主)の情報提供義務

これらの点について、順を追って説明しましょう。

①極度額の設定が必要
極度額とは連帯保証人が保証する金額の上限のことです。賃貸借契約において家賃の滞納が起こった場合、滞納額は借主が家賃を支払わない限り、天井知らずに増えていきます。

このため、連帯保証人は貸主から思いもよらない金額の請求を受ける恐れがあります。この不具合を避けるため、改正民法では連帯保証人が支払うべき債務の上限を定めるように規定したのです。

具体的に言うと、これまで連帯保証人は借主が支払わなかった家賃例えば1年分であろうと10年分であろうと全額支払わなくてはならなかったのですが、改正民法では、あらかじめ契約時に支払わなくてはならない上限額が定められることになります。

したがって、借主の家賃の未納額が10年分であったとしても、契約書で上限が1年分と定められている場合には、連帯保証人は家賃の1年分を支払えば足りるということです。

極度額をいくらに設定するかについては、まだ実務の蓄積がありません。一般的には賃料未払いの際の平均的な未払い額を基準にして決定がなされるものと思われますが、保証するべき金額が明記されることにより、連帯保証人になることを躊躇する人が出てくることが考えられます。

個人を連帯保証人にするのが従来の賃貸借契約では一般的でしたが、民法改正により保証人のなり手がいないという状態が進んでいくことが予想されます。そこで、今後は家賃保証会社による保証がより多く利用されることになるでしょう。

なお、保証会社を利用する場合には入居者の審査がより厳しくなったり、賃料未納の場合の対応が厳しくなったりすることが予想されるので、賃借人にとっては負担が大きくなることもあるかもしれません。

②主債務者(借主)から連帯保証人への情報提供義務
借主が会社などの事業者で、個人を連帯保証人として事務所用などのテナントビルや店舗用の建物などを借りる場合、借主から連帯保証人に対して、借主が他にどのような借金をしているかなどの財務状況などを伝えなくてはなりません。

③連帯保証人に対する債権者(貸主)の情報提供義務  
連帯保証人から貸主に対して、借主の家賃の支払状況などについて問い合わせが有った場合には、借主はこれに応じなくてはなりません。

以上のとおり、今回の民法改正では貸主と借主との間の関係ではこれまでの実務とそれほど大きな変わりはありませんが、連帯保証人のありかたには大きな変化があります。

特に、極度額の設定については賃貸借契約書に記載がないと、連帯保証契約自体が無効とされますので注意が必要です。

 さらに、賃貸借契約書のひな型をそのまま使っている貸主の方は、契約書の記載の見直しが必要です。すでに国土交通省の賃貸住宅標準契約書も、改正民法に合わせて改定がなされています。オーナーの方は現在の契約書の内容を確認して、適宜利用する契約書を改正民法に対応したものへと切り替えていってください。

なお、民法改正前に改正前の民法に対応した契約書を利用しても特に問題はありません。

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著者紹介

竹村 鮎子
竹村 鮎子

弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
http://www.fudousan-bengoshi.jp/

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