竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所
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2019年1月30日(水)
円滑な不動産投資の実現において、重要な法律『借地借家法』について②
円滑な不動産投資の実現において、最も重要な法律の1つが借地借家法です。
借地借家法では、建物所有目的の借地契約と、借家契約について特別に定められています。そこで前回に引き続き、借地借家法について解説いたします。
前回は借地借家法の沿革と借地部分についての規定についてご説明いたしました。
そして本項では、借地借家法のうち「借家」部分、つまり建物賃貸借に適用される規定について解説いたします。
借地借家法の解説(借家編)
基本のおさらい
借地借家法は、借りた土地や建物を生活や営業の拠点とする借主の立場を守るための法律です。
不動産投資家の方は「貸主」としての立場にありますので、借地借家法の規定の多くは、「貸主」である不動産投資家の方には不利益なものとなることに注意が必要です。
法定更新(借地借家法26条)
賃貸借契約について期間の定めがある場合、当事者が期間の満了の1年前から半年前までの間に、相手方に更新をしない旨の通知をしない場合には、それまでの契約と同じ条件で更新がされたものとみなされます。
ただしこの場合、期間については定めがないものとなります。
また、仮に更新をしないことを伝えた後でも、賃貸借契約の期間が終了した後、建物の賃借人が建物の使用を継続している場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかった場合にも、建物賃貸借契約は期間の定めなく更新されたものとみなされます。
つまり建物賃貸借において、貸主から更新を拒絶するには、手続き上①期間満了の1年から半年前までの間に更新をしない旨を通知し、②期間満了後も借主が建物を使用している場合には速やかに異議を述べることが必要です。
貸主からの①の更新をしない旨の通知や、②の異議は口頭でも問題ありませんが、後にトラブルになった場合に備えて、内容証明郵便で行っておく方が良いでしょう。
なお借地借家法26条によって、賃貸借契約が法定更新された場合、前述のとおりその期間には定めがないものになります。
この場合、賃貸借契約を終了させるには、解約の申し入れをする必要があります。
解約の申し入れをしてから6カ月後に賃貸借契約は終了します。(借地借家法27条)
ただし、賃貸借契約書で更新について「更新手続きを行わなくても、期間満了後も借主が建物を使用している場合には、自動的に従前の契約期間、契約内容で更新されたものとみなす」という趣旨の条項が定められている場合があります。
この場合には、借地借家法ではなく契約書の条項が優先され、契約期間満了後の賃貸借契約の期間は従前のものと同じとなりますので、注意が必要です。
更新拒絶の要件(借地借家法28条)
借地借家法26条の定めるとおりに手続きを踏んだとしても、無条件に更新拒絶が認められるわけではありません。
借地借家法28条には、更新拒絶が認められる場合の要件が定められています。
なお、借地借家法27条の場合において、解約の申し入れをする場合も同様の条件が必要とされています。
具体的には、「建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情」「建物の賃貸借に関する従前の経過」「建物の利用状況」「建物の賃貸人が建物の明渡の条件または明渡と引き換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする申出」などを考慮して、「正当の事由があると認められる場合」でなければ、更新拒絶は認められません。
借主は実際に建物で暮らしていたり、事務所にしていたりするわけですから、突然それを奪われると生活設計が一変してしまいます。
したがって、貸主の側から更新拒絶が認められるには「正当事由」が必要なのです。
なお、「財産上の給付」とはいわゆる立退料のことであり、立退料の支払は、「正当事由」を補完するものと位置づけられています。
貸主の方の中には契約期間の満了後、次の更新をしなければ、建物から出て行ってもらえると思っている方もおられるかもしれません。しかし、それは大きな勘違いで、「一度貸したら出て行ってもらうのは大変」というのが実際のところなのです。
なお借地契約についても更新拒絶を行う場合には、借家の場合とほぼ同余の考え方が採られています(借地借家法6条)。
賃料の増減額(借地借家法32条)
賃料が「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減」「土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により」「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」には、将来に向かって建物の賃料の額の増減を請求することができます。
更新を繰り返している建物にありがちなのですが、長期間家賃を据え置いていると、気が付くと賃料が周囲の賃料相場よりも、かなり低額になっていることがあります。このような場合、賃料の増額を請求することができることがあります。
詳しい注意点や手続きについては、こちらのコラム(※賃料の増減額)をご参照ください。
なお、借地契約についても地代の増減額については、借家の場合とほぼ同様の考え方が採られています(借地借家法11条)。
造作買取請求権(借地借家法33条)
建物の賃貸人の同意を得て、建物に付加した畳、建具、その他の造作がある場合には、建物の借主は賃貸借契約が終了するときに、貸主に対して、その造作を時価で買い取るように求めることができます。
飲食店などの店舗用建物の賃貸借契約では、厨房の設備や空調設備などは、通常「造作」に該当しますが、賃貸借契約終了時にこれを買い取るとなると、貸主には非常に大きな負担となります。
このため、賃貸借契約締結時に、「借主は造作買取請求権を行使しない」などと特約を定めておくことが一般的です。
定期建物賃貸借(借地借家法38条から40条)
更新拒絶の項目でもご説明しましたが、建物を一度誰かに貸すと事実上、貸主側の都合で建物を明け渡してもらうことは大変です。
しかし、「2年後に再開発の予定があるが、その間空室にしておくのももったいないので、2年間だけ誰かに貸したい」というニーズがあることは事実です。
そこで借地借家法には、「定期建物賃貸借」の制度が定められています。
定期建物賃貸借の制度を利用すれば、契約期間が満了すれば正当事由がなくても賃貸借契約は終了し、建物を明け渡してもらうことができます。
定期建物賃貸借を行うには以下のとおり、借地借家法で定められた手続きに従う必要があります。
①契約書は公正証書等の書面によって行うこと(借地借家法38条1項)
通常の契約は、口頭の契約(いわゆる口約束)でも有効とされていますが、定期建物賃貸借の場合には、必ず書面で契約を行わなくてはなりません。
契約書は公正証書とすることが望ましいですが、必ずしも公正証書にしなくてはならないということではありません。
②契約書とは別に、あらかじめ契約の更新がなく、期間満了によって建物の賃貸借が終了することを明記した書面を、貸主から借主に交付すること(借地借家法38条2項)。
さらに、契約書に借主からの中途解約が定められていない場合には、転勤・病気療養・介護などの理由がない限り、借主からの中途解約は認められていません。
定期建物賃貸借期間が1年以上の場合には、賃貸人は契約期間の満了の1年前から半年前までの間に、賃貸借期間が満了することを通知しなくてはなりません(借地借家法38条4項)。
定期建物賃貸借契約は、貸主にとって設定された期間だけ建物を貸すことができるという点で、メリットがあります。
しかしその反面、借主にとっては同じ建物を長期間利用できないというデメリットも大きいので、賃料は普通賃貸借の場合よりも低額に設定されることが一般的です。
以上、大まかではありますが、借地借家法の概要についてご説明いたしました。
法律を正しく理解・適用して、より良い不動産投資を実現してみてください。
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著者紹介
竹村 鮎子竹村 鮎子
弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
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