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竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所

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円滑な不動産投資の実現において、重要な法律『借地借家法』について①

目次

不動産投資にはいろいろな方法がありますが、基本的には所有する不動産を第三者に貸すことが大原則です。

不動産賃貸借の場面で、重要になってくる法律が「借地借家法」です。

とはいえ、この法律はどのような法律なのでしょうか。本項では借地借家法の概要についてご説明いたします。

借地借家法とは

そもそも借地借家法とは、何なのでしょうか。

お金の貸し借りや物の売買など、人と人との関係を規定した法律には「民法」があります。

民法は人が社会生活を営むに当たっての基本的なルールを示したものですが、あくまで「基本的なルール」ですので、それぞれの契約の特性には対応しきれない部分があります。

賃貸借契約でいえば、建物の貸し借りもレンタルDVDも、すべて民法上の「賃貸借」となります。

しかし生活や営業の拠点となる建物と、娯楽的な要素の強いDVDを同じ「賃貸借」だからといって同列に扱うことには違和感があることでしょう。

このように建物賃貸借におけるトラブルと、DVDをレンタルする場合のトラブルを、同じ法律の規定で解決するには無理があるのです。

このため民法上の賃貸借契約を土台として、さらに建物などの賃貸借契約で起こり得る問題に特化した法律が「借地借家法」なのです。

借地借家法が適用される契約

それでは、借地借家法はどのような類型の賃貸借契約に適用されるのでしょうか。

法律の名前が「借地借家法」というくらいですので、「借地」と「借家」についての規定であることは確かです。ただし、ここで注意が必要なのは「借地」の場合「建物所有目的」の場合に限られるという点です。

このため例えば同じ借地契約であっても、駐車場や家庭菜園用の農地を借りるような場合には借地借家法は適用されません。

なぜ、このような区別があるのでしょうか。そもそも、借地借家法はどのような趣旨の法律なのでしょうか。

この点、民法における賃貸借契約では、貸主・借主は平等であるように規定がされていますが、実際には目的物を貸している貸主の力が強くなりがちです。

DVDや駐車場を借りる場合にはそれでも良いかもしれません。

しかし借地上に自宅建物を建てていたり、建物を借りて生活をしていたり店舗を経営していたりする場合、DVDのように簡単に賃貸借契約を解除されると、借主は困ってしまいます。

つまり借地借家法は、借主の生活や営業の拠点を守るため「建物所有目的の借地」と「借家」について特別に保護を図るものなのです。

実際に借地借家法の条文を見ても「この規定に反して借主に不利なものは無効とする」という文言が何回も出てきます。

不動産投資家の方は「貸主」の立場でいることが多いかと思いますが、上記のとおり借地借家法においては、借主の保護が図られていることに注意が必要です。

例えば賃貸借契約において、自らに有利な特約を設定しても、「借主に不利」として特約が無効になるリスクもあるのです。

したがって、リスク要因をできるだけ排除し、円滑な不動産投資を実現させるには、借地借家法の知識は不可欠であるといえます。

なお借地借家法は、施行日である平成4年8月1日以降に締結された賃貸借契約に適用されます。

平成4年8月1日以前に締結された賃貸借契約については、「借地法」「借家法」(以下、「旧法」といいます)が適用されます。

これは初回の契約日を基準とするので、更新が平成4年8月1日以降であったとしても、初回の契約日が平成4年7月31日以前である場合には、旧法が適用されます。

契約期間の長い借地の場合には特に、今でも旧法が適用される場合が多いかもしれません。

とはいえ、旧法下でも借主保護の原則は異なりません。

借地借家法のポイント~借地編~

借地借家法の主なポイントのうち、借地にかかわるものについてご説明します。

期間

通常の賃貸借契約では、賃貸借の存続期間は20年を超えることができない(民法604条1項)とされていますが、借地借家法においては借地契約の存続期間は原則として30年、またこれよりも長い期間を特約で定めることもできるとされています(借地借家法3条)。

更新する場合、民法では更新後の期間は20年を超えることができないとされていますが(604条2項)、借地借家法では更新の日から10年(ただし、初回の更新については20年)とされています(4条)。

なお、旧借地法では借地上の建物の構造を、「堅固建物」と「非堅固建物」に分けて存続期間にも違いを設けていましたが、借地借家法では建物の構造による契約期間の違いについての規定は撤廃されています。

法定更新(自動更新)(借地借家法5条)

借地契約の更新については、借地借家法5条に以下のような規定があります。

①契約期間が満了する場合、借主が「更新したい」旨を貸主に伝え、貸主から異議が出なければ、土地上に建物がある場合に限り、これまでの契約と同じ条件で更新したとみなされます(期間は借地借家法4条の定めによります)。

②契約期間が満了した後も、引き続き借地上に建物があり、借主がそれを利用している場合には、借地契約は更新したものとみなされます。

したがって、貸主が借地契約を終了させたいと考える場合には、契約期間が満了する前に、更新拒絶の手続きを取る必要があります。

更新拒絶については、借家契約の項でご説明いたします。

対抗力(借地借家法10条)

貸主が借地を契約期間中に第三者に売却した場合でも、借地人名義で登記された建物があれば、借地の買主に借地権を主張できます。

つまり、借地人は引き続き、新しい借主から土地を借り続けることができます。

建物買取請求権(借地借家法13条)

借地契約の契約期間が満了して、更新を行わない場合において、借主は借主に対して、借地上の建物を時価で買い取るように要求することができます。

とはいえ建物買取請求権は、契約の更新ができなかった借地人と、その建物を保護する規定です。

したがって、借地人の方から更新をしない旨を求めてきたような合意解約の場合には、借地人保護の必要性に乏しいといえますので、建物買取請求権は発生しません。

なお通常、借地契約は契約期間が長く、建物の価値も年数に応じて下落しますので、仮に借主から建物買取請求権を行使されたとしても、貸主側にそれほど大きな経済的な影響はないことの方が多いと考えられます。

増改築の許可(借地借家法17条)

借地契約において、借主が借地上の建物の増改築を希望する場合には、貸主の許可を得なくてはならないことになっていることが通常です。

仮に借主が貸主に無断で建物の増改築を行った場合、借主の債務不履行として借地契約の解除事由にもなり得ます。

このため借主は貸主に、借地上の建物の増改築を行う場合には貸主の承諾を得なくてはならないのですが、折り合いがつかない場合には、借地人が裁判所に対して、増改築の承諾にかわる許可を求めることができます。

この場合、裁判所は借地権の残存期間、土地の状況、借地に関する従前の経過その他一切の事情を考慮した上で、必要があるときには財産上の給付を命じて増改築の許可を出すことになります。

財産上の給付とは、すなわち増改築承諾料のことであり、借主からの承諾料の支払を条件に、増改築の許可が出されることが一般的です。

転貸の許可(借地借家法19条)

借地契約においては、借地を第三者に転貸することが禁じられていることが一般的です。

したがって借主が借地を第三者に転貸したい場合、貸主の許可を得なくてはなりません。

両者での協議が整わない場合には、増改築の許可と同様、借地人は裁判所に対して転貸の許可を求めることができます。

この場合、借地人から転貸についての承諾料の支払を条件に、転貸の許可が出されることが多いですが,誰が土地を借りているかは,貸主にとっては重大な問題ですので、「転貸をしても貸主が不利になるおそれがないこと」が転貸の許可の条件になっています。

なお、借地の場合にも後述する借家の場合と同様に、契約の更新拒、,地代の増減額についての規定もあります。これについては、借家の場合と考え方に大きな違いはありませんので、そちらをご参照ください。

次回は、借地借家法中の「借家」の規定についてご説明いたします。

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著者紹介

竹村 鮎子
竹村 鮎子

弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
http://www.fudousan-bengoshi.jp/

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