加藤隆が実際に体験した不動産投資の罠
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2018年12月21日(金)
不動産投資において「出口戦略」は本末転倒!?
私は、1986年(28歳)から不動産経営を始めました。当時は、調達金利も高く、家賃のみでローンを払えるといった発想はなく、区分所有のワンルームマンションを所有し、毎月、数万円の持ち出しが発生していました。
それでもなぜやっていたかというと、やがてローンが終われば、家賃がまるまる手残りとなり、年金代わりになるという発想でした。ローン残高がどんどん減っていくため、貯金感覚があったのです。また、団体信用生命保険(団信)という生命保険機能もありますし、減価償却費や不動産関連経費といった節税機能もあります。さらに、景気も良かったので、家賃・不動産価格も上昇していました。その一方で、世の中の風潮として、売却すればキャピタルゲインも得られるという、安易な考え方も蔓延していました。
今回はこのような昔話から、物件を売却してしまう「出口戦略」について、私なりの考えを話したいと思います。
誰も見向きもしなかったバブル崩壊後の不動産経営
1990年にかけて平成バブルが始まり、家賃はさほど上がらないのに、物件価格のみがどんどん上がっていき、利回りは低下していきました。ところが1990年、平成バブルが崩壊しました。
総量規制などの不動産融資禁止令が出て、物件価格は大暴落。「不動産冬の時代」どころか、「不動産氷河期」の時代の到来です。本屋に行っても、「不動産経営」の本は皆無。セミナーなども行われません。不動産なんて、誰も見向きもしなくなったのです。
そして、競売物件、任意売却(任売)物件がゴロゴロしていました。利回り20%以上の物件もありましたが、融資は付きませんし、誰も見向きもしません。ところが、家賃はほとんど下がらないのに、物件価格のみが大暴落したので、利回りが良くなっていきました(どんな不景気であっても、人は住むところが必要なので、家賃は下がりにくい傾向にあります)。さらに、不景気なため、調達金利が下がっていきました。
結果、家賃のみでローンが賄える、インカムゲインという発想が出始めたのです。この頃、資金調達が難しい中、金融市場を開拓したり、現金を駆使したり、勇気を振り絞って不動産経営を始めた人達が、やがて成功し始め、世に出るようになりました。
今、名が知れている先駆者的な有名大家さんのほとんどは、この頃に始めた方達です。
売却して利益を上げる「出口戦略」はもったいない
一方、2012年末、アベノミクスによるミニミニバブルが始まり、売り手市場となりました。すると、「出口戦略」という言葉が流行りだしました。
不動産経営は、家賃収入によるインカムゲインだけではなく、売却することでキャピタルゲインを得て、初めて投資が完結するといった考え方も主張されました。
何か、1990年前の平成バブルを思い起こさせます。確かに、いくら家賃収入があり、インカムゲインがあろうとも、ローン返済による借入金減少以上に資産価値が下がり、自己資本が減っていくのでは問題です。
特に、資産より負債の方が大きいと、債務超過であり不健全です。不動産をすべて売却しても、借入金返済には満たず、借金だけが残るということです。かといって、わざわざ不動産を売却して、キャピタルゲインを得なければならないというわけではありません。
不動産は、売却すれば、諸経費(仲介手数料、収入印紙代、銀行手数料、抵当権抹消費用・司法書士手数料等。約7%)がかかります。
そして、一旦、売却益が出ても不動産譲渡税で税金を取られてしまいます(売却後の元日起算より5年以内で約4割、5年超で約2割)。
諸経費や税金によって、手残りはぐっと減ってしまうのです。なお、譲渡益は「売却価格-簿価-諸経費」となります。「売却価格-取得価格-諸経費」ではない点に注意です。つまり、減価償却が進んでいれば、簿価が低くなっており、見せかけ上の利益が多めに出てしまうのです。
そして、ローン返済中であれば、せっかくいい資金調達をしたのに、あえて、「期限の利益」を放棄し、早期に繰り上げ返済することになります。
また、いい資金調達ができても、いい物件を割安価格で購入できる保証はありません。もちろん、あまりにひどい物件を、ひどい資金調達で購入してしまい、資金繰りが回らないといった事情があれば別です。もしくは、減価償却費計上のメリットが薄くなり、資産入替など、前向きな計画があれば問題ありません。
ところが、昨今の、S社・S銀行によるシェアハウス事件をきっかけに、金融庁から、不動産融資禁止令に近いものが発令されました。ですので現状、特に不動産経営に経験や実績のない無経験者にとっては融資が難しいようです。
また、高属性の人が、優良物件を割安価格で購入したり、別件共同担保を付ける場合などにおける、オーバーローン(物件価格+諸経費)、フルローン(物件価格)も難しいようです。
さらには、自己資金1割では足らず、2、3割まで要求されるようになっているそうです。そういった意味では、なおさら今までの資金調達はお宝であり、大切にした方がいいですね。
ちなみに私の場合は、108戸所有していますが、長期保有スタンスで、売却事例はありません。
リノベーションなどで資産価値を維持するのもポイント
その「出口戦略」を避けるためには、経費をかけて修理やリフォームによって現状維持させ、資産価値を維持させておくのも大切なことです。
特に「リノベーション」については、現状維持以上に資産価値を高めるものです。
例えば、鍵をディンプルキーにする、カメラモニターを付ける、インターネット設備を付ける、トイレをウォシュレットにするなどの細かい点から、システムキッチンにする、洗面所をワンレバーにする、バリアフリーにする、洗濯機置き場を室内にする、屋外を砂利にするなど、さまざまな要素があります。
多少は経費がかかりますが、廊下やトイレ・風呂などに手すりをつける、風呂を追い炊き機能付きにするといったことも有用です。
経費がかかる場合には、国・地方公共団体から補助が出たり、あるいは、ローンが活用できる場合もあります。なお、原則として現状維持、あるいは低額の場合には、一時費用ですが、価値が向上し、かつ、高額の場合(原則20万円超)には、固定資産となって、耐用年数に応じて費用処理となります。
さて、究極のリノベーションとしては、基礎・柱数本を残しての全面リノベーションがあります。S友不動産の「S築そっくりさん」がそうです。
再建築不可物件(幅4メートル以上の道路に2メートル以上接していない場合など)であったり、既存不適格物件などで、その後に規制強化され、建ぺい率・容積率オーバーとなった物件の場合には、再建築そのものができなかったり、できても小さくなってしまう場合に効果的です。
コスト面だけで考えれば、新築で建て直した方が割安だと思われますが、建て直しそのものができなかったり、建物面積が狭くなってしまうのであれば仕方がありません。ちなみに、私も、自宅で活用させていただきました。
不動産経営者の中には、あえて再建築不可物件や建ぺい率・容積率オーバー物件を割安価格で購入し、このリノベーションで再生させてから賃貸物件として活用している人もいるようです。
場合によっては建て直したほうが割安に!?
再建築不可物件や、建ぺい率・容積率オーバー物件でなければ、いっそのこと建て直した方が割安な場合も多いです。ただし、区分所有マンションの場合には、区分所有者8割以上の合意が必要です。それぞれの資金繰りや状況が異なりますし、合意を得るのは難しい場合が多いです。
公団のように、建ぺい率・容積率について余裕を持たせて建てており、より大きな建物に建て替えられているならともかく、もともと建ぺい率・容積率にギリギリ建てている民間のマンションにおいては、建て直しの成功例はほとんどないようです。
強いていえば、よほど好立地のエリアで、規制緩和で建ぺい率・容積率がアップすれば別です。あとは、実際問題として、建て直す場合には、現入居者の方に退去してもらわなければいけません。
旧法借地借家法では、借地人の権利が強く、自分自身でそこに住まわざるを得ない場合であったり、建て直ししないと安全ではないといった事情でもない限り、退去してもらうことはできません。
順次、定期借家契約にするか、家賃を値上げしたりして、徐々に空室になるのを待つかしかなさそうです。
最後の手段「売却」での注意点は?
最後の手段としては、諸経費・税金は取られますが、「売却」です。よほどひどい物件を割高価格で購入した場合や、減価償却メリットが少なくなった場合、あまりに古くなった場合などで資産入替する場合において、売却という選択肢もあるのかもしれません。
あと、相続では分割・節税・納税資金も視野に入れておく必要が出てきます。特に、配偶者以外の子孫が複数で共有することを避けたい場合や、子などに不動産経営に関する興味や経営リテラシーがない場合においても、売却が考えられるでしょう。
ちなみに、建て直しや大規模なリノベーションなどの手続きや手間を考えると、出口戦略を取りやすいのは、区分所有マンションより、一棟そのものを所有する一棟物(アパート・マンションや戸建て)といえるでしょう。
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著者紹介
加藤 隆加藤 隆
サラリーマンのままで、経済的・時間的・精神的自由を目標に、預貯金・外国為替・貴金属・株等の資産運用を経て、不動産経営歴31年。数々の失敗・バブル崩壊を生き抜き、リスク分散をモットーに、東京・博多・札幌・名古屋・京都・小樽・千葉に、区分所有マンション・一棟物アパート・一棟物マンション・戸建等、物件108戸を運営。総資産7億円・借入5億円・自己資本2億円、年間家賃収入4,100百万円・借入金返済3,100万円・キャッシュフロー1,600万円。節税で、所得税・住民税ゼロ。