Column

石川貴康の超合理的不動産投資術

16,703 view

不動産投資は個人事業主や法人として行うことで、節税効果が生まれる

目次

不動産を継続して買い続け、個人である程度の規模になったら、個人事業主として税の優遇があります。個人事業主には白色事業者と青色事業者があり、青色事業者の方がより優遇策があります。事業規模と呼ばれる「5棟10室」を超える規模になったら、積極的に青色事業者になりましょう。

日本は累進課税の国ですから、個人で不動産を買い続けると、とんでもない税金になります。したがって、あまり個人に集中させず、タイミングを見て法人による購入をしていきましょう。

税金だけではありません。経費が使えるという点でも、個人事業も法人も一緒です。サラリーマンのような税引き後の給与からモノを買うのとは違って、事業経費として課税前のキャッシュで買えるメリットは大きなものです。課税前で経費化できる事業や法人を活用しない手はありません。
今回は、個人事業主による不動産投資、法人による不動産投資の話をしていきましょう。

個人事業主で買い続けると税金がどんどん上がっていく

私は当初、個人で不動産を買い進めてきました。1棟、2棟と増えていき、その結果、所得税、住民税がとんでもなく増えていきました。日本は累進課税の国なので、課税所得が増えれば増えるほど、税“率”が上がっていきます。

現在、私の税負担イメージは、所得の40%くらいになります。つまり、100のうち、40が税として取られるイメージです。

 頑張って稼いでも、その頑張り分のかなりの部分が税金で持っていかれるので、なんともやるせない。納税をきちんと行うのは当たり前ですが、個人に所得を集中させると、税率が上がって、思ったほど手残りは増えません。

個人事業主への登録、白色事業者と青色事業者、メリットとデメリット

そうはいっても、嘆いてばかりはいられません。法治国家に住む我々は、不満がある法律でも、一応は遵守しなければなりません。きちんと税金は支払いましょう。

一方で、きちんと申告納税をしていれば、税の優遇も受けられます。年間20万を超える収入が定期的にあるのであれば個人事業主として税務署に届け出ましょう。

個人事業主には、白色事業者と青色事業者があります。青色申告には条件がありますが、白色申告は、簡易な帳簿をつけることを前提に、簡単にすることができます。白色事業者で不動産事業を営む場合は、帳簿をつけて、確定申告時に不動産事業の収入、経費、利益を表す計算書をつけて申告します。この時、10万円の白色事業者控除が認められます。

不動産収入の利益から10万円を差し引いてくれるのです。やってみるとわかりますが、年間で10万円の経費を追加で積むというのはなかなか難しいものです。10万円でも経費化してくれて、節税できるメリットは小さくありません。概算で、所得税率が10%なら1万円、20%なら2万円所得税が少なくなるのです。

一方、それなりの手間もかかります。帳簿をつける、確定申告をするといった作業が発生します。しかし、この手間を惜しむことはできません。規模が大きくなれば、事業として帳簿をつけるのは当たり前です。帳簿をつけ、申告納税をするのは当然と考えましょう。

事業規模になると青色事業者になれます。こちらは、事業規模という条件と、複式簿記による帳簿作成、貸借対照表と損益計算書の添付が義務づけられます。

そのかわり、65万円の「青色申告特別控除」が認められています。65万円の控除は大きなものです。

また、「専従者給与」というのが認められています。専従者とは、家族などが事業のために働いた場合、支払った給与が経費に認められるということです。白色では認められていない家族への給与支払いが認められて、経費化できるのです。

このほかに、白色でも青色でも共通の優遇策があります。「欠損金の繰越」といってある年の赤字を次年度以降の黒字で相殺し、黒字を減らして税金を安くしてくれるのです。個人事業の場合は3年間の繰り越しが認められています。

さらに、事業主なら小規模企業共済や中小企業退職金共済掛金といった節税を伴った共済制度もあります。

面倒ですが、事業主になるメリットは、様々な優遇策による節税です。国は、こうした優遇策を与える一方で、きちんと申告納税をしてほしいのです。堂々とメリットを享受して納税しましょう。

法人投資に対する思い込みと環境の変化

私は長い間、不動産投資を法人で行うには、融資のハードルが高いと思いこんでいました。そのため、最初の法人投資が2014年になってしまいました。初めて不動産投資を開始した2002年から12年もたっていました。

この間の私の思い込みは、「同族会社での不動産投資への融資はハードルが高く、ほぼ門前払い」というものでした。実際、何度か法人での投資を打診しましたが、どの金融機関もいい顔をしてくれませんでした。

しかし、あまりに個人の税率が高くなったので、担当者と支店長が変わったタイミングで法人での投資を打診してみたところ、あっさりOKが出たのです。拍子抜けでした。

ただし、個人と法人は一体で与信チェックされること、事業主保証(要は、代表取締役である私が連帯保証人になること)を要求されました。それでも、法人で投資できるメリットは大きいので、以降、1件を除き、すべて法人投資に切り替えました。

また、最近では起業を推奨しようとしてか、より簡単に法人設立ができるようになっています。合同会社という仕組みです。合同会社の仕組みや設立については必要があれば調べてほしいのですが、そうした制度ができたことでより法人設立、法人での不動産投資のハードルが下がっています。

法人による投資とメリットとデメリット

個人事業主以上に、法人投資にはメリットがあります。まず、法人税率が所得税率のような急激な累進性がないということです。

所得税では4,000万円を超える所得がある場合、所得税率は45%になります。これに加算して住民税、事業税などがかかるのでとても重税です。一方、法人率は23.2%です。もちろん、これに加算して地方税、法人事業税などがかかります。ある程度の規模を超えると、差は歴然です。

法人は今後も優遇されます。復興税がすぐに廃止になったのは法人です。所得税では25年間取られ続けます。今後、所得税は増税されます。控除はどんどん縮小されています。相対的に、法人での投資が有利だと思います。

法人での投資の他のメリットは、欠損金の10年間の繰り越し(2016年の改正前は9年で、さらに2008年の改正前は7年)です。個人事業では3年間でしたが、法人は10年間で損失を相殺できます。

また、専従者給与などといった制限はなく、家族であろうとも、働いた人にきちんと給与を支払って、すべて経費にできます。家族でもきちんと働いたなら、その分の給与は、当然全額経費なのです。

また、所得税との大きな違いは損益通算です。損益通算とは、ある事業でのマイナスを他の事業のプラスと相殺して、利益を減らし、その分税金が減るというものです。

所得税の場合は、おかしな制限があって、不動産投資の損失のうち、土地分の借入金に関わる支払利息は他の事業の利益と相殺できないという異常な規制があります。本来、一経済主体が事業で得た損益は相殺するのが当然で、法人ではそんな制限はないのですが、所得税側では所得に壁を設けて、所得間の損益通算を制限しているのです。

こうしたよくわからない所得税上の制限が、法人税ではありません。当たり前です。ビジネスを営んでいれば、ある事業での損失とある事業での利益、つまり、失敗と成功の両方があるのですから。

損は補填させない、儲かった分は必ず課税、では誰もリスクがとれなくなります。これでは、事業ポートフォリオの意味を成しません。所得税にある変な制限がない分、法人税の方がまだまともなので、それだけメリットがあります。

また、法人は有限責任である点、最近の傾向として事業主保証(要は連帯保証)に対する懸念も表明されてきています。起業を促し、破たんによる再起不能を極力なくすための施策が今後は普通になるでしょう。その点でも、法人投資の方が、メリットが出てくると思います。

法人投資に切り替えるタイミング

法人税率が23.2%ですから、所得税の税率が23%を超えるのが695万円超の課税所得なので、一つの目安になるでしょう。

以前私なりに試算した時は、個人所得の課税所得が700万円を超えるあたり、総所得では1,200万円を超えるあたりで、法人不動産投資に切り替えるのが良いタイミングだと思います。しかし、これはかなりざっくりした計算で、実際の正しい金額はよくわかりません。住民税といった地方税の関係もあるので、だいたいこの辺と推定したのです。

とはいえ、もし、最初から法人投資ができるなら、その方が良いと思います。こんな計算が不要なくらい、最初から法人化した方が、先に書いたようないろいろにメリットがあるのですから。

法人投資についての今後

私は株式会社2社、有限会社1社を持っています。家族4人が個人事業主でもあります。不動産投資については、今後は法人での投資しかしないでしょう。物件がもっと増えたら、どんどん法人を設立していきます。今は、合同会社という簡易に設立できる法人があるので、そのメリットも享受したいと思います。

一時流行った「一法人一物件」という投資はしないでしょう。大規模不動産を買う予定もありませんし、「一法人一物件」では、法人の管理の手間が増えていやなので、この手法は使わないでしょう。

もちろん、それぞれの考え方です。大型物件を購入し、「一法人一物件」でもメリットがあるなら、それも手です。あくまでケースバイケースです。

いずれにせよ、今後個人は増税モード、相対的に法人が優位です。国も法人優遇を志向しています。私は今後も法人での投資をしていきます。

もちろん、最初から法人での投資のハードルが高い方は個人で購入することが悪いわけではありません。いずれにせよ、事業として不動産投資を眺め、税引き後のキャッシュフロー最大化を狙って、どんどん投資をしていきましょう。

投資用不動産業界に関する情報が毎週届く!
不動産投資塾新聞社メールマガジン登録はこちら

著者紹介

石川 貴康
石川 貴康

外資系コンサルティング会社、シンクタンクに勤務し、現在は独立の経営コンサルタント。大手企業の改革支援を今も続ける。対製造業のコンサルタントでは業界第一人者の一人。会計事務所も経ており、経理、資産評価、相続対策にも詳しい。2002年から不動産投資を始め、現在は15棟153室ほか太陽光3箇所、借地8箇所を経営する。著書に『いますぐプライベートカンパニーを作りなさい! 、サラリーマンは自宅を買うな(東洋経済新報社)』『サラリーマン「ダブル収入」実現法 、100円ちゃりんちゃりん投資、(プレジデント社)』など

関連記事

石川貴康が考える、「初めて大家になったらするべきこと」

大家連載コラム石川貴康の超合理的不動産投資術

1,329 view

石川貴康が考える、「初めて大家になったらするべきこと」

生産緑地の2022年問題とは?不動産市場・価格に及ぼす影響を解説します

「アパート・マンション経営の専門家」大長伸吉の不動産投資、成功の法則

1,834 view

生産緑地の2022年問題とは?不動産市場・価格に及ぼす影響を解説します

悪徳不動産業者に注意! 収益物件を売却するときのポイントとは?

不動産投資の最新動向

498 view

悪徳不動産業者に注意! 収益物件を売却するときのポイントとは?