石川貴康の超合理的不動産投資術
8,067 view
2018年8月29日(水)
不動産投資で成功するなら簿記、会計、税法の勉強は必須
不動産を継続して買うための勘どころの6番目は、簿記、会計、税法の勉強は必須ということです。ある意味、本当に長期的に不動産を買い続けるにあたって、もっとも必要なスキルは、簿記、会計、税法の知識かもしれません。
実は、不動産を買うことは誰でもできるのです。しかし、その買った不動産が収益を生むものなのか、キャッシュを残してくれるのか、といったことを判断するために簿記、会計、税法の知識が必須なのです。また、より収益を生むようにしたり、よりキャッシュを生むようにしたり改善するためにも、簿記、会計、税法の知識は助けになるのです。
継続して不動産を買い続けるには、不動産業者や金融機関の営業マンは大事ですが、投資の基礎は簿記、会計、税法の知識なのです。簿記、会計、税法は、不動産投資のゲームのルールといっても過言ではありません。ルールを知らずにゲームはできません。
簿記、会計、税法の知識がないと不動産投資は危険
不動産投資は大きな金額が動きます。数百万円から数億円のお金が動くことでしょう。ちょっとした間違いが致命的になるリスクをはらんでいるのが不動産投資です。
不動産投資はお金の動きがきちんと読めないと、非常に危険な投資になります。たとえば、家賃収入が月に100万円あっても、ローン支払いと利払いが月に90万円というケースは安心できません。月10万手残りがあるだろうと思っていても、修繕費の発生、固定資産税、保険などの費用がさらに出ていきます。
税金のインパクトは大きなものです。月10万しか手残りがないなかで、固定資産税が年に数十万かかるような物件では、どう考えても現金不足に陥ります。また、多くの場合、不動産購入後半年ほどでかかってくる不動産取得税などの経費も忘れられがちです。
不動産取得税は、土地の価格の3%(減額あり)、家屋部分についても、特例で減額があるものの家屋の価格の3%(居住用の場合、非居住用は4%)です。例えでいうと、居住用のマンションを1億円で買うと、だいたい180万くらい支払う感じです(昨年私が購入したRC1棟マンション約1億円のケースでだいたい180万円でした。これは、半年分の手残りが全部消えるほどの額です)。こうした流出していく費用に関して知識がないと、あっという間に現金不足に陥ります。
また、利益とキャッシュフローの違いも知らないと大変です。先ほどの家賃収入100万円のケースで、経費を引いて利益が90万だとしましょう。利益が90万残ればすごい利益率ですが、ここから、例のようにローン支払いが月に90万出れば、キャッシュはゼロ。つまり、黒字でも現金不足となるわけです。
「黒字でも現金不足」は深刻な状況を生み出します。税金が利益にかかるからです。先ほどの月90万の利益に税金がかかるのです。月90万の利益とすると、年間1,080万円の利益、仮に40%税金で持っていかれると、約432万円の税金を支払うことになります。既に、ローン支払いで手持ち現金ゼロですから、手持ち資金で432万円を払わなければなりません。深刻な現金不足に陥るわけです。
こうして、「現金手残りがあると思ったら実はなかった」、「利益があるのに現金不足」といった事態が簡単に起きてしまうのが不動産投資です。しかも、額が大きいので影響は計り知れません。
お金の動きをきちんと把握するために簿記、会計の知識が必須だというのは、こういう事態を避けるためなのです。しかし、簿記、会計だけでは不足で、必ず税金のインパクトを一緒に知らなければなりません。
簿記、会計、税法の知識を総動員して、利益とキャッシュフローを識別し、そもそもの購入時にキャッシュ不足に陥らない物件を選び、毎月、毎年、お金が残るようにコントロールをしなければならないのです。こうした知識がなく、収益と現金の動きが把握できない人は、本来不動産投資をするべきではないのです。
“税理士にまる投げ”では、なぜいけないのか
簿記、会計、税法など、自分でやっていないで税理士や会計士に任せればいいじゃないか、という人もいるでしょう。専門家なのだから、彼らに任せておけば問題ないのではないかと思うのかもしれません。
しかし、その考えは間違っています。税理士や会計士に簿記、会計、財務を頼んでいても、倒産する企業は後を絶ちません。それだけでも、“税理士にまる投げ”ではまったくダメであることに気づくでしょう。
そもそも、税理士や会計士は会計処理と税務申告を代行するのが仕事です。クライアントのビジネスそのものに責任は一切持ちません。要は、簿記、会計、税務の代行を請け負う専門家であって、それ以上でも、それ以下でもないのです。
キャッシュをひたすら食いつぶしていく不動産を買ってしまえば、税理士ではどうしようもありません。空室を埋めて、収入を増やせるわけでもなく、現金をどうやって手元に残すのかといったビジネス上の対策は不動産投資をしたオーナーの仕事なのです。
もちろん、「このままでは現金不足になる」という警告をしてくれる税理士もいるでしょう。しかし、そうした税理士は質の高い税理士です。一般には、帳簿をまとめて、帳簿を締めて、財務諸表を作り、納税額を計算するのが仕事です。それだけです。計算の正確さが彼らの売りであって、損失がでるとかでないとかは彼らのサービスの範疇外です。
実際、私は会計事務所に勤務していたことがありますが、仕事の大半はきちんと帳簿を作り、税金計算をすることでした。収益性、キャッシュフローというのは本来の仕事ではありませんでした。大口の顧客には、事前に納税資金を準備するための試算やアドバイスはしますが、あくまで大口顧客に対してだけでした。
会計事務所にとって、クライアントのビジネスはよく分からないし、そこまで責任は持てないのです。まして、大口でもない不動産投資家であれば、そんなクライアントに時間など使っていられません。
税理士や会計事務所は、会計と財務、税務のプロであって、投資は門外漢だと思った方が良いのです。実際、私が過去に出会った税理士、会計士、その職員たちは“計算”事務員というのが本音です。まれに、優れた人がいても報酬が高く、忙しく、相当な大口クライアントにならないと対応してくれないというのが感覚です。
どのようにして簿記、会計、税法の知識を身につけるのか
結局、自分の投資、ビジネスに責任を持つのは自分しかありません。簿記、会計、税法なんて分からないという人も多いでしょうが、それではだめです。
簿記、会計、税法は投資やビジネスを行うためのルールなのです。ルールが分からないと“カモ”になります。ルールが分からないようなゲームは、やってはいけません。最低限のルールが分からなければ勝てませんので、負けが確定します。不動産投資の最低限のルールは、簿記、会計、税法なのです。不動産が買えることが必要条件だとすると、収益とキャッシュを維持する簿記、会計、税法は十分条件になるでしょう。両方が揃わないと、必要十分になりません。
最低限は自分で勉強し、勘どころさえ押さえられれば、そのあとは税理士に委託しても良いでしょう。しかし、お金の流れを知るには、簿記、会計、税法は必須ですから、近道はありません。地味に勉強するべきというのが、私の持論です。
まず、簿記、会計ですが、最低限商業簿記3級で良いので、資格を取れるまで勉強しましょう。通信教育でも良いので会計科目の仕訳のし方を知り、損益計算書と貸借対照表を自分で作れるくらいのレベルになるべきです。
一般的な会計の本での勉強は勧めません。会計の勉強をする際、財務諸表から入って、指標分析ばかりやっている人がいますが、これではだめです。そもそも、どのような経済活動がどのような科目の増加につながっていて、ビジネス活動から費目への影響まで知ったうえで財務諸表にまとめられないと、本質を見失って、費目の改善のための活動は何がキーなのかを特定できなくなるからです。
たとえば、修繕費をかけ過ぎたらその年の経費にならず、税金が増えたなどといった失敗、PCを買ったが特例に当たらず一括償却ができなくて利益が増えて税金が増えたなどといった失敗は、何をすれば、どこに影響するかといった計算が頭の中でできないことが原因です。これは、取引から仕訳が頭の中で描けないと推定できません。財務諸表の分析から会計を勉強した人には、こうした考え方をすることは困難です。お金の動きから仕訳を行い、財務諸表のどこに、どういう影響があるのかを、税金計算を含めて推定できないと、役に立たないわけです。
簿記、会計は簿記3級くらいを勉強すれば必要最低限はクリアできます。では、税法はどうでしょうか。これは、実は、難しいのです。今更、税法の本で勉強するのは、税理士でも目指さなければ時間のムダです。通信教育等は税理士を目指す人向けなので、過剰です。
結局、個人の所得税でも、法人税でも、自分で計算して、税務申告を何度か行うしかありません。申告を自分で行うことで、どのような税金計算になっているかという基本が分かります。
大変かって? そうでもありません。私の88歳になる父でさえ、55歳くらいから自分で確定申告しています。私も3社の決算をしていて、最後の税務申告だけ税理士に頼んでいます。確定申告もやっています。結局、申告を自分で一度でもやらないと税の構造がわからなので、ここは我慢して申告書を作ってみるべきです。
ということで、自分でもある程度計算してみて、簿記、会計、税務を行って、実地で学びましょうというのが私の結論です。時間がないという人もいるでしょう。面倒だという人もいるでしょう。金で解決して、単なる計算だけでなく、きちんとしたアドバイスができる優秀な税理士、会計士を雇うというのも正しい答えでしょう。
しかし、簿記、会計、税法は投資を戦うためのルールなのです。ルールの理解を他人に頼りきりでは、ゲームで正しい采配が振るえません。是非、できるだけ簿記、会計、税法を学び、自由にお金をコントロールできるだけのスキルを身につけましょう。人に任せるのは、それからでも遅くないですし、それだけの果実が得られると思います。
投資用不動産業界に関する情報が毎週届く!
不動産投資塾新聞社メールマガジン登録はこちら
著者紹介
石川 貴康石川 貴康
外資系コンサルティング会社、シンクタンクに勤務し、現在は独立の経営コンサルタント。大手企業の改革支援を今も続ける。対製造業のコンサルタントでは業界第一人者の一人。会計事務所も経ており、経理、資産評価、相続対策にも詳しい。2002年から不動産投資を始め、現在は15棟153室ほか太陽光3箇所、借地8箇所を経営する。著書に『いますぐプライベートカンパニーを作りなさい! 、サラリーマンは自宅を買うな(東洋経済新報社)』『サラリーマン「ダブル収入」実現法 、100円ちゃりんちゃりん投資、(プレジデント社)』など