不動産投資の最新動向
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2020年1月25日(土)
まさに負の遺産…持っているだけでマイナスになるポンコツ物件
将来の年金不安などからワンルーム投資に興味を持つ若い世代の方が増えています。不動産投資というと、かつては一部の資産家や地主がするものというイメージでしたが、最近は一般的なサラリーマンの方でも気軽に始められる、敷居の低いイメージへと変わりつつあります。
ただし、不動産投資は単に物件を買えば儲かるというものではありません。中には持っているだけでマイナスになる「負の遺産」のような物件もあり、初心者の方が知らずに買ってしまって取り返しがつかなくなることもあるため注意が必要です。
そこで本記事では、絶対に買ってはいけない「負の遺産」となる物件の特徴について、実際にあった事例を紹介しながら詳しく解説します。
ワンルーム投資の光と影
不動産投資というとかつてはアパートやマンションを一棟建てて所有するいわゆる「一棟もの投資」が主流の時代がありました。
一棟ものは一度に多くの戸数を保有できるというメリットがある一方で、規模によっては億単位の投資が必要になることから、投資の中ではどうしても敷居が高いという位置づけでした。
そんな中、バブル経済下だった1980年代後半頃から、それまで主流だったファミリー向けの分譲マンションに代わって、投資用ワンルームマンションの供給が一気に増加したのです。
投資用ワンルームマンションはマンション一棟ではなく、一部屋に対して投資ができるため、投資額がおさえられ一般的な年収の方でもローンを組んで不動産投資がしやすくなりました。
特に中古ワンルームマンションについては、都内近郊でも場所によっては500万円以下で購入することも可能なため、高額なローンを組むという心理的なハードルが下がり初心者投資家の方が買うケースが増えたのです。
ただし、低価格で購入できる中古ワンルームマンションの中には、所有しているだけでキャッシュフローが悪化するポンコツ物件が紛れ込んでいるため注意が必要となります。
不動産がなぜ「負の遺産」になるのか
不動産という資産を所有することは、一般のサラリーマンからすると憧れでもあり、所有するだけでマイナスになる負の遺産といわれてもなかなかイメージが難しいでしょう。
そこでここからは実際にあった事例をもとに、不動産が負の遺産となる理由やリスクについてわかりやすく解説していきます。
200万円でワンルームマンションが買えたものの…
初心者投資家のXさんは自営業をしていて実績が浅かったことから、不動産投資をしたくてもなかなか金融機関の融資がおりませんでした。
そこで、現金一括で購入できる物件を数カ月かけて探していたところ、東急田園都市線つきみ野駅にある築30年、売買価格200万円のマンションYを見つけたのです。Xさんとしては、憧れのワンルームマンションをたった200万円で購入できるのなら、勉強もかねて新車を買ったつもりで投資してみようと思って購入しました。
このときのXさんは、
「200万円なら万が一失敗したとしても勉強代だと思える金額だから、チャレンジするつもりで買ってみよう」
と思ったそうです。
つまり、200万円の物件だから失敗したとしても200万円以内の損で済むだろうと軽く考えていたのです。ところがXさんの考えが甘かったことは、購入後すぐに発覚しました。
利回り24%を鵜呑みにした
XさんがマンションYの購入を決断した一番の理由は利回りです。
マンションYの募集図面には、次のように記載されていました。
家賃:4万円
年間家賃収入:48万円
表面利回り:24%
これを見たXさんは
「200万円で年間48万円収入があるなら、ほぼ4年で元は取れる」
と思って安心して購入を決めたそうです。
表面利回りと実質利回りの違いを知らなかった
不動産投資における利回りとは、「年間収益に対する物件購入価格の割合」のことをいい、利回りが高い方が収益性の高い物件ということになります。
最近の東京都心におけるワンルームマンションの利回りは4~6%程度なの24%というとかなりの高利回り物件ですが、あくまで「表面利回り」であって「実質利回り」ではないという点に注意しなければなりません。
表面利回りとは、家賃収入から管理費や修繕積立金といったランニングコストを控除せずに、家賃のみの単純計算で導き出した指標に過ぎないため、実際に手元に残る利回りではありません。
家賃収入からランニングコストを控除して計算した利回りのことを「実質利回り」といい、実際に手元に残る利回りは実質利回りを参考にする必要があります。
不動産会社は表面利回りとはいわず、単に利回りということが多いため、Xさんは利回り24%が実質利回りと勘違いして購入していたのです。
ランニングコストが家賃の半分以上
Xさんが最初に異変に気がついたのは、マンションYを購入後初回の管理費と修繕積立金の引き落としがあったときです。
ワンルームマンションなどの区分マンションについては、複数の人が共同で一棟のマンションを所有しているため、管理費や修繕積立金を床面積などの割合に従って按分して毎月負担しています。
Xさんが驚いたのは修繕積立金の金額です。
マンションYは数年後に大規模修繕工事を控えており、その財源とするために修繕積立金の金額が月額15,000円とワンルームとしては高い金額設定で、管理費5,000円と合わせると毎月のランニングコストは2万円になります。
家賃が8万円以上とれるような都心の築浅物件であれば、2万円のランニングコストでもなんとかやっていけますが、家賃4万円に対して2万円ですと手元には2万円しか残りません。
購入後にこの事実を知ったXさんですが、
「手取り2万円でも年間で24万円、予定よりも大分減るけれどそれでも利回りにすると12%はあるから問題ない」
そう思ったそうです。
ところが、不動産投資はそんなに甘くありません。
入居家賃と相場家賃の乖離に気づかず
XさんがマンションYを購入して数ヶ月後、入居者から連絡があり諸事情により退去することになりました。Xさんが管理会社に新規入居者の募集を依頼したところ、こんなことをいわれたそうです。
「現在、マンションYでは5部屋空室で募集中です。家賃についても一番安い部屋で3.5万円にて募集していて、それでも3ヶ月空室の状態なので3万円くらいで募集することをおすすめします」
Xさんは、マンションYで空室の部屋が複数あることと家賃相場が現在の家賃よりも1万円近く安いことをこの時点で知ったそうです。
家賃を3万円にしたとするとランニングコストを差し引いた手取りはたったの1万円。
もはや不動産投資というスケールのリターンではありません。
Xさんは家賃を値下げせず、4万円のまましばらく募集をする決断をしました。
負の遺産の本領発揮
家賃を値下げしなかったせいで、入居者が退去してもまだ次の入居者は決まりません。
Xさんとしては半分勉強代と考えて買った物件だから、焦らずゆっくり募集しようと考えていたようですが、その考えはすぐに変わることとなります。
空室になった途端家賃収入はゼロになり、そして何もないところからランニングコストの2万円が引き落とされたのです。
Xさんとしては、空室リスクというのは家賃が入ってこない、「ゼロになるリスク」だと思っていたようなのですが、実際はゼロになるのではなくランニングコストの分「マイナスになるというリスク」なのです。
空室=ゼロ
ではなく、
空室=マイナス
この真実をXさんはこの時点で初めて知ったのです。
キャッシュフローが火の車状態に
月々2万円のマイナスなら、一般的な会社員でも自らの給与収入で補填できるかもしれません。ところが、ランニングコストとして発生するのは管理費や修繕積立金だけではありません。
毎年1月1日時点の不動産所有者に対しては、固定資産税や都市計画税といった税金が課税されます。また、古い物件は退去した際の原状回復工事において、設備のリニューアルなどでそれなりに費用がかかるため、築浅物件に比べて修繕コストも割高です。
マンションYは原状回復工事において、古い電気コンロ・給湯器・エアコンの取り替え、壁紙の張り替えなどで総額25万円の工事費用がかかりました。
仮に家賃3万円で決まったとしても、月の手取りは1万円、年間で12万円なので工事費用を回収するだけでも2年以上かかる計算になりますし、2年間入居者が退去しないという保証もありません。
しかも次の入居者が決まるまでは毎月2万円のマイナスが続きます。
Xさんはこの時点でマンションYが、持っているだけでマイナスになる「負の遺産」だと感じたそうです。
負の遺産は売るに売れない
負の遺産だと気付いたXさんは、これ以上マイナスを増やさないためにすぐに売却することを決意し不動産会社に募集を依頼しました。
価格は購入時と同じ200万円で募集しましたが、数ヶ月経ってもほとんど問い合わせは入らず、入居者も決まらないため毎月2万円がただマイナスになっていく状態が続いたそうです。
低い家賃帯の物件は要注意
今回Xさんが投資したような低い家賃帯の物件については、いくら計算上の利回りがよかったとしても金額で考えると収益額は他の物件に比べて非常に低くなります。
ポイントは、ワンルーム投資において家賃とランニングコストは比例しないということです。
家賃が安くなるにつれてランニングコストも低くなればよいのですが、基本的に広さが同じワンルームであれば家賃相場に2倍の差があっても、維持管理にかかるコストはほぼ同じなので家賃帯が低い物件に投資する方が、キャッシュフローが出にくくなります。
マンションYのようにランニングコストが家賃の50%を超えてしまうような物件については、利益率が悪すぎるため他の出費も考慮すると持っているだけ損をする負の遺産になってしまうのです。
「売れない」は不動産投資における本当のリスク
結局マンションYは今もまだ売れておらず、Xさんは毎月2万円を払い続けているそうで、
いつまでこの状態が続くのか不安で仕方がないそうです。
何かの契約ごとであれば解約すればそれで終わりにすることができますが、不動産投資については所有物件を誰かに買ってもらわなければ終わりにすることができないのです。
いくら負の遺産だとしても、不動産は捨てることができないものなので建物が存在する以上はずっとランニングコストを負担し続けなければなりません。
マンションYのように、同マンション内で空室が多く家賃相場が4万円以下のマンションについては投資家自身にかなりの賃貸経営に関するノウハウがなければ、ただの負の遺産になってしまう可能性が高いです。
初心者の方が安いからといって安易に買ってしまうと、売るに売れず処分しようにも引き取ってさえもらえないという最悪の状況に陥る可能性がありますので、絶対に避けたほうがよいでしょう。
負の遺産はバブル全盛期に造られた?
今は負の遺産になっている物件も、新築当時は人気の物件だったというケースがよくあります。
そもそも築30年以上のワンルームマンションの多くは、前半でも解説した通りバブル全盛期の頃に建てているため、今は4万円程度の家賃しか取れない物件も、当時は6~7万円以上で決まっていたのです。
ところが、バブル崩壊や賃貸物件の供給過多、そして築年数の経過など様々なマイナス要因が重なって現在のような負の遺産になってしまったのです。
おそらくXさんが買ったマンションYは、バブル全盛期の不動産価格が高騰している時期に3,000万円程度で買った投資家が、家賃や不動産価格の下落、ランニングコストの値上がりなどの理由から処分するような価格で手放したと考えられます。
Xさんはバブル時代の負の遺産を知らぬ間に掴んでしまっていたのです。
まとめ
今回はXさんの失敗事例をもとに、負の遺産に誤って投資してしまうことのリスクや怖さについて解説してきました。Xさん最大の落ち度は、不動産を所有することのランニングコストに対する認識が非常に甘かったことです。
特に家賃が安い郊外のマンションについては、ランニングコストを差し引くとほとんど手元に残らないというケースが多いため、安いからといって安易に投資すると投資額以上のマイナスが生じる可能性があるため注意しなければなりません。
不動産投資初心者の方が中古物件に投資する際には、できるだけ家賃帯が8万円程度の物件を選んだほうがランニングコストとのバランスが取れてキャッシュフローも安定するためおすすめです。
・入居者の家賃と実際の家賃相場にどれくらいの差があるのか
・同じマンション内で複数の空室が発生しているか
・近隣の類似物件の成約事例はあるか
中古物件に投資する際には、最低でも上記3点についてよく確認してから判断しましょう。
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著者紹介
不動産投資塾編集部不動産投資塾編集部
投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾新聞社」を介し、公平な情報をお送りいたします。