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キャッシュフローが回らない…素人が手を出すとヤバイ中古アパートの罠

目次

不動産投資をするからには、できるだけ高利回りの物件を手に入れたいという方が多いと思います。

高利回り物件を探していくと必ず行き着くのが「中古アパート」です。

そこで本記事では、中古アパートに投資する際の注意点やポイントについて解説したいと思います。

中古アパートは「高利回り物件」で人気も高い

築浅物件の利回りが3~5%程度なのに対し、中古アパートについては都内だとしても10%以上の高利回りで、地方や郊外に行くと20%以上という破格の高利回り物件が見つかることも珍しくありません。

東日本大震災以降、建築関係に携わる多くの人材や資材が東北優先になっている関係で、新築物件の価格がここ数年で1~2割程度値上がりしてきました。そのため、新築物件に投資するとなると「ハイリスクローリターン」になってしまい、個人投資家が投資するにはリスキーな状態になっています。

対して中古アパートについては新築価格に比べて非常に割安なため、利回り計算すると高利回りになるので個人投資家の中には好んで投資する人も多いようです。

中古アパートが「割安」になるわけ

日本のアパートの多くは木造建築であり、法定耐用年数は22年と規定されています。

そのため、築年数が20年以上経過した中古アパートについては、ローンの貸付を行う金融機関や賃借人となるエンドユーザーからの評価が低くなるため、非常に安い金額で市場に出回るのです。

ただ、法定耐用年数が規定されたころの建築技術と今の最先端の技術には大きな差があるため、実際のところ22年以上経過した中古アパートでも問題なく人が住むことができます。

中古物件に見る日本と外国との違い

日本では築年数が古くなると物件価格が下がるというのが一般的ですが、欧米の不動産については築年数が古い物件の方が新しい物件よりも高値がつくことがよくあります。

日本人は昔から新築思考が強く、中古物件に対しては単に「古い」という印象しか持ちませんが、欧米の場合は築年数を「安心」や「信頼」の指標として捉えるのです。

例えば、築50年の中古物件があった場合、日本では法定耐用年数を過ぎた価値の低い物件としか評価されませんが、欧米では50年もの間問題なく居住できていた信頼できる建物、という評価の仕方をするので場合によっては価格が高くなることもあります。

このように、日本においては中古物件に対する価値観自体が低いため、中古物件の価格が世界的にみても割安になる傾向があるのです。

低価格ということは利回りが高くなるため、不動産投資家としては無視できない投資対象といえますが、中古アパートのメリットは高利回りというだけではなく、税金面についても他の物件とは違ったメリットがあります。

中古アパートの「節税効果」はデカイ

中古アパート投資の持つもう一つのメリット、それは「節税効果」です。

不動産投資自体、節税効果を売りにしている部分がありますが、中古アパート投資については他の物件に比べて短期間での節税効果が高いという特長があります。

節税のポイントとなる「減価償却」とは?

そもそも不動産投資が節税につながるのは、「減価償却」という経費計上の仕組みにあります。

減価償却とは資産を使用していくことで減っていく価値について、経費として計上する会計上の手続きのことです。

例えば、新築木造アパート(建物部分)を5,000万円で購入した場合に、いきなりその年の経費として5,000万円全額を計上すると帳簿上は大赤字になった上で翌年からは反対に大幅な黒字になるという非常にバランスの悪い状態になります。

そこで、購入価格である5,000万円を新築木造アパートの法定耐用年数である22年に分割して、年間で230万円ずつ経費として計上していくことで、本来の使用年数に合わせた会計処理をするようにしているのです。

このように減価償却によって計上する経費のことを「減価償却費」といいます。

減価償却費が節税につながる仕組みとは

購入時に一括で支出した金額について、毎年一定額を減価償却費として計上できるということは税務上も大きな意味があります。

不動産投資において所得税や住民税を節税するには、課税対象となる「不動産所得」をできる限り圧縮する必要があるため経費についてはとても重要です。

ただ、通常は経費を計上するとその分キャッシュアウトするため、いくら節税とはいえ過剰な設備投資などをして経費を捻出しても、結局は手元に残るキャッシュが減ってしまいます。

そんな中、減価償却費については購入時に一括で支出したものを会計上分割して経費化しているだけなので、減価償却費という経費を計上したとしてもその分キャッシュアウトしません。

キャッシュアウトなしで経費が計上できるので、会計上は不動産所得が赤字になったとしてもキャッシュフローについては黒字にすることができるのです。

中古アパートは減価償却期間が「短い」

中古アパートを購入して減価償却をする場合は、次のように法定耐用年数が新築よりも短い年数になります。

・法定耐用年数の全部を経過している物件

法定耐用年数の20%の年数

・法定耐用年数の一部を経過している物件

(法定耐用年数-築年数)+経過年数の20%の年数

例えば、築25年の中古木造アパートを購入した場合、法定耐用年数は4年という短い期間になります。建物価格が4,000万円だったとすると、1年で1,000万円もの経費を一気に計上できることになるのです。

このように、中古木造アパートは非常に短期間で減価償却費という経費を計上できるため、会計上4年間については帳簿上の大きな赤字を作り出すことができます。

不動産所得の赤字は給与所得と損益通算ができるので、会社員であれば源泉徴収されている税金が還付される可能性も出てくるのです。

キャッシュアウトせず税金まで還付されることから、中古アパートを節税対策の一つとして利用する方も多いのですが、実はここに知らないとヤバい大きな落とし穴があります。

いきなり大黒字で多額の税金が発生

中古木造アパートは短期間で高額な減価償却費を計上できるため、短期的な節税効果は非常に高いのですが、問題なのは減価償却期間が過ぎた後のことです。

先ほどの例でいうと、建物価格4,000万円を4年間で全部償却したとします。

毎年1,000万円という高額な経費を計上できていたおかげで、不動産所得はおそらく大赤字で申告していたはずです。

よって、所得税は発生せず会社員で源泉徴収されていた方については、不動産所得と給与所得の損益通算によって支払いすぎている分が還付されます。

中古アパート投資5年目の落とし穴

短期間で減価償却できるということは、その分減価償却が終わるタイミングも早く来ます。

4年間で減価償却が終わると、当然のことながら5年目については昨年まで1,000万円もあった減価償却費がすべてなくなるため、帳簿上は一気に黒字になってしまうのです。

このようなケースの場合、翌年から高額な所得税や住民税が課税されるようになるため、税引き後のキャッシュフローが一気に苦しくなります。

本来、黒字になるということはその分キャッシュも増えているはずなのですが、減価償却の終わりによって帳簿が黒字になっているだけなので税金が課税された分だけキャッシュフローがきつくなるのです。

高い利回りに飛びついて購入した初心者投資家の多くは、5年後に減価償却が終わるとどのような事態に陥るのかを理解していないため、突然税金が跳ね上がって困惑することになります。

追い打ちをかける多額の「コスト」

中古アパートに投資をする際に忘れてはならないのが、「修繕費用」に関するリスクです。

アパートの実質的な耐用年数は建築技術の進歩によって長くなってきてはいますが、適切にメンテナンスをすることが大前提になります。

中古アパートの場合、築20年以上が経過すると屋上防水や外壁、鉄部塗装などの劣化が見られるようになるため、必ずどこかのタイミングで改修工事をしなければなりません。

アパートの規模にもよりますが、これらの施工には数百万円から一千万円単位の費用がかかりキャッシュフローを強く圧迫する可能性がありますので、中古アパートを購入する際にはこれらの費用も見積もった上で利回り計算をすることがとても大切です。

室内設備の劣化による交換費用

アパートの室内設備についても築年数が古くなってくると交換が必要になります。

エアコン、給湯器、ガスキッチン、ウォシュレット、フローリングなどについては10年前後で交換が必要になってくるため、室外の改修工事と重なると非常に大きな出費が発生する可能性があるため注意が必要です。

特に、戸数が多い中古アパートを購入すると、同じようなタイミングで複数の部屋の設備が故障することがあるので、ますますコストがかかることになります。

このように中古アパートについては新築や築浅の物件を購入する場合と比較すると維持管理にかかるコストが高いということを事前によく理解しておきましょう。

中古アパートは「売るタイミング」が何より重要

中古アパートは4年で減価償却が終わることから、5年目以降高額な所得税や住民税が課税されキャッシュフローを圧迫することになります。

また、同じようなタイミングで修繕費用についてもかかる可能性があるため、何の対策もとっていないと5年目に資金不足に陥ってしまう可能性もあり得ます。

中古アパートに投資する際には、減価償却の終わりを見越して購入時点において「出口戦略」、つまり売却のタイミングを想定して投資することがとても大切です。

減価償却が終わるタイミングで売る

中古アパートの節税効果は短期間で発揮されるため、長期的に保有していても節税効果はありません。そのため、中古アパートを購入する際には購入時点において減価償却が終わるタイミングを確認し、その前後で売却することを考えたシミュレーションが大切になってきます。

例えば、6年で減価償却が終わる場合であれば、6年間で得られる賃料収入および節税効果を計算した上で、希望する利回りを6年目で確定させるためにはいくらで売れればよいのかを逆算するのです。

次に、同等の物件で築年数が6年程度古い物件の売却相場をみて、逆算した価格で6年後に売ることができそうかどうか調査して無理がなさそうであれば購入する、といった事前確認が必要になります。

初心者投資家のよくある失敗

減価償却についてよく理解しないまま中古アパートに投資すると、購入当初は減価償却費が高額になることから大きな節税効果を発揮します。ただ、それで節税に成功したと勘違いして放置してしまうと、減価償却が終わったとたんに一転して高額な税金が課税されてしまいます。

慌てて売りに出そうとしても築年数の古いアパートはそう簡単には売れませんし、焦って手放せば相場よりも安い値段で買取られるリスクも出てくるでしょう。

このように、行き当たりばったりの対応になってしまうと当初の減価償却によって受けられていた節税効果が出口戦略の失敗によって全部帳消しになってマイナスになってしまう可能性があります。

中古アパートは短期決戦だからこそ「出口戦略」が重要

中古アパート投資は節税の恩恵を受けられる期間が新築や築浅に比べて短いため、減価償却期間が終わった後の運用についてあらかじめ考えておく必要があります。

売却する場合

節税目的で投資したのであれば、減価償却が終わる1年程度前から動き出して早めに売買募集に出しておくことが重要です。

十分な募集期間があれば、こちらの希望する価格で買主が見つかる可能性が高まりますし、価格交渉をされたとしても期間に余裕があれば強気に対応することもできます。

そのまま保有する場合

減価償却が終わってもそのまま保有を考えている場合については、減価償却終了後に所得税や住民税が発生して税引き後キャッシュフローが悪化することは確定しているので、それを見越して減価償却をしている間に節税効果によって浮いたキャッシュを貯蓄しておくことが重要です。

ある程度キャッシュに余裕がある状態で減価償却が終了すれば、翌年から高額な税負担が発生したとしてもキャッシュフローの急激な悪化を食い止めることができます。

まとめ

中古アパート投資は高利回りで節税効果が高い点が大きなメリットですが、減価償却の仕組みについてよく理解しておかないと減価償却が終わった後の税引き後キャッシュフローが回らなくなる恐れがあります。

中古アパート投資で失敗しないためには、事前に税引き後キャッシュフローをシミュレーションした上で、売却のタイミングと価格を想定して出口戦略を組むことがとても重要です。

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著者紹介

不動産投資塾編集部
不動産投資塾編集部

投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾新聞社」を介し、公平な情報をお送りいたします。

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