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不動産売却前に知っておこう! 売主の責任を追及される「瑕疵担保責任」とは?

目次

不動産売却においてトラブルにつながりやすい要素が、「瑕疵(かし)担保責任」です。

「瑕疵」とは、キズや欠陥、欠点のこと。不動産の瑕疵が売却後に発覚した場合、その状況によっては売主の責任として損害賠償を払わなければならない可能性があります。

このほど2020年4月、約120年ぶりの民法改正によって、瑕疵担保責任の要件が変わりました。

民法のどのような点が改正されたのか、売主が注意すべきポイントについて解説します。

不動産売買における「瑕疵」と「瑕疵担保責任」とは?

不動産売買における「瑕疵」とは、住宅の雨漏りやシロアリ被害、給排水管トラブルなどをいいます。

不動産取引の瑕疵には大きく分けて4種類あります。「物理的瑕疵」「心理的瑕疵」「環境的瑕疵」「法律的瑕疵」です。

「物理的瑕疵」
建物や土地に重大な欠陥があるケースです。

具体的には、前述した住宅の雨漏りやシロアリ被害のほか、耐震強度の不足や水害などの災害による床下浸水も物理的瑕疵にあたります。

土地の場合は、地中のゴミなどの障害物や埋設物が該当します。

「心理的瑕疵」
過去にあった忌まわしい事件や事故、自殺などのトラブルが発生した物件を指します。一般的に「事故物件」と呼ばれるものです。

「環境的瑕疵」
近隣の騒音、異臭問題など、居住した際に不快や嫌悪を感じる物件を指します。

「法律的瑕疵」
建築基準法や消防法、都市計画法などの法律に抵触した物件のことです。

建物の構造上の安全基準や容積率、建蔽率が法基準に違反している、もしくは基準に達していない物件を指します。

くわえて、買主が通常の注意を払ったにもかかわらず発見できなかった場合でも、瑕疵とされてしまうため、安心できません。

一方、中古物件に多く見られる経年劣化による破損や腐敗は、瑕疵にはあたりません。

「瑕疵担保責任」とは?

「瑕疵担保責任」とは、法律上、不動産の瑕疵について売主が負う責任のこと。

一見わかりづらい「隠れた瑕疵」が物件引き渡し後に発見された場合、これまでは「買主は売主に対して、発見後1年間は損害賠償請求および契約解除を求めることができる」と民法上で原則が定められていました。

このような買主側の一方的な請求権に対して、売買当事者の合意があれば瑕疵担保責任を免除されたり、期間等を変更できたりする、売主の立場を考えた措置もとられていました。

たとえば、「個人が戸建て住宅やマンションを売却するときは、瑕疵担保責任を抱える期間を3ヶ月程度に限定する」、あるいは「全部免責として売主の責任を軽減できる」というものです。

ただし、民法が改正されたことで、これらが認められなくなり、売主にとって不利な制度へと様変わりしてしまったのです。

120年ぶりの民放改正で瑕疵担保責任の考え方が変わった!?

約120年ぶりに改正された新民法では、「瑕疵担保責任」という言葉が廃止されました。

「瑕疵」という言葉が日常生活で使われるケースが少なく、漢字が難しくて読めない人が多いことが、廃止の理由の一つです。

ただし、言葉が変わっただけで、物件の欠陥に責任追及できる買主側の請求権の概念は残っています。

そこで新たに生まれたのが、「契約不適合責任」です。

詳細は後述しますが、この概念によって、売主の責任追及の度合いがより重くなったこと、簡単にいえば、買主側が売主側に建物の欠陥を責任追及できる範囲が広くなったことには、注意が必要です。

新たに誕生した「契約不適合責任」では、隠れた瑕疵であるかどうかは関係なく、契約の内容と物件の状態が異なった時点で、売主の責任が追及されるようになったのです。

旧民法では、裁判等で瑕疵が「隠れた瑕疵」だったかどうかを立証するのが難しいという問題を解決するために、このような言葉が生まれました。

瑕疵担保責任より重くなった! 契約不適合責任によるペナルティとは

新民法施行前の瑕疵担保責任では、買主の請求できる権利として、「損害賠償請求」と「契約解除」の2つの権利がありました。

「契約不適合責任」と名を変えてからは、さらに「追完請求」と「代金減額請求」がくわわり、合計4つの請求権が買主に生じます。

「追完請求」は売主が知らない不具合でも責任追及される

「追完請求」もしくは「補修請求」とは、売買契約時にはなかった建物の不具合が発覚したときに売主に対して修理を請求できる権利です。

瑕疵担保責任では、請求が認められるのは建物の不具合の事実を売主が隠していたケースに限られていました。

しかし、新民法ではより幅広い状況で、追完請求が認められるようになっています。

補修代金を負担しなければならない「代金減額請求」

「代金減額請求」とは、追完請求しても売主が期限内に補修しない、もしくは補修ができなかったときに、買主が購入代金の一部を減額請求できる権利です。

さらに、欠陥について売主が無過失だったとしても、追完請求同様に請求が認められます。

「契約解除」は買主側に有利に働く

売主が追完請求や代金減額請求に応じない場合は、「契約解除」ができます。

瑕疵担保責任では、契約の目的が達成されないときに限って契約解除できました。しかし契約不適合責任では、請求を催告して売主が応じないときでも契約解除ができるようになっています。

催告しても応じる意思がないのが明らかと判断された場合は、無勧告で契約解除することも可能です。

追完請求や代金減額請求と合わせて契約解除も請求できるようになりました。そのため、売主の責任がかなり重くなっていることがわかります。

「損害賠償請求」は責任追及の範囲が広がった

くわえて、契約解除が行なわれた場合、売主から買主に「損害賠償請求」できる可能性があります。

損害賠償請求についても、新民法では以前と少し内容が変わっています。

これまでは「信頼利益」の範囲に限って損害賠償請求ができましたが、契約不適合責任では「履行利益」も含まれるようになったのです。

信頼利益とは、「契約が有効だと信じたせいで発生した費用」のことで、簡単にいえば、瑕疵がないことを前提に出費したお金です。契約無効となったことで、登記費用や引っ越し費用を請求されることがあります。

履行利益とは、「契約が完全に履行された場合に得られた利益」のことで、たとえば瑕疵がなかった際に得られた転売利益などが考えられます。

売主は契約内容をより明確に

契約不適合責任では、瑕疵担保責任よりも明らかに売主側の責任が重くなっています。

不利な状況に陥らないためにも、売主は不動産売却時により注意深く契約内容や書類情報を固める必要があります。

特に、次の4つの重要ポイントに注意して契約を取り交わすようにチェックしましょう。

① 契約内容には、物件の破損部分も含めすべて明確に記載
② 付帯設備表と告知書には、不具合状況や瑕疵をしっかりと記載
③ 不動産会社が作成した売買契約書を確認し、引渡し方法まで明確に記載
④ 瑕疵担保保険を利用する前提で計画を立てる

オーナーしか知らない物件の詳細まで、漏れなく買主に伝えなければいけません。

万が一、後から契約不適合責任を追及されたときに、泣きを見るのは売主自身です。

なお、瑕疵担保保険とは、瑕疵担保責任にまつわる損害が生じた際に補償が出る保険です。

売主側が加入することはあまりメジャーではありませんでしたが、新民法が施行されてからは、注目度が急速に高まっているリスク対策の一つです。

不動産売却では不動産会社に正直に瑕疵を伝えよう

売却する物件に対する売主の責任は、非常に大きいです。

宅地建物取引業法では、取引相手に対し、「瑕疵の告知義務」が定められています。オーナー自身が、売ろうとしている物件については瑕疵を隠さず、将来生まれる瑕疵の可能性までしっかり把握して、買主に説明する必要があります。

なお、不動産取引業者に頼めば、ホームインスペクションという建物状況調査で瑕疵を調査してもらえます。

不動産会社によってはサービスで対応してくれる場合もあるので、ぜひ相談してみましょう。

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著者紹介

不動産投資塾編集部
不動産投資塾編集部

投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾新聞社」を介し、公平な情報をお送りいたします。

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