不動産投資の最新動向
3,903 view
2019年10月31日(木)
世間を騒がせた「シェアハウス問題」…解決へどこまで進んでいるのか【前編】
「かぼちゃの馬車」への投資被害で話題となったシェアハウス問題だが、いまだ具体的な解決に至っていない。当事者である債務者(投資家)、金融機関は今どのような状態に置かれているのか。ADR(裁判外紛争解決手続)による解決を目指し、「シェアハウス等ADR総合対策室」を運営する大谷昭二さんに現状をうかがった。
債務者を救済するための不動産「ADR」とは?
――NPO法人日本住宅性能検査協会は、シェアハウス投資を巡るトラブル相談センターを設立しています。その概要を教えてください。
大谷昭二理事長(以下敬称略) 相談センターは、シェアハウス投資の主な融資元であるスルガ銀行や監督庁である金融庁とのやりとりを通じ、投資家からのトラブル相談受付や再建に向けた支援を行っています。
投資した個人への具体的な対応としては、融資や投資に至るまでの間にスルガ銀行第三者委員会や金融庁が指摘した不正行為があったかどうかの検証や、不正があった場合の関与度の調査を行うとともに、投資家の事業再生案の作成などを行います。
このような検証を踏まえた上で、不動産ADR(裁判外紛争解決手続)でトラブルを解決することを目指しています。
――ADRは簡単にいえば調停のような手続きです。スルガ銀行とはどのような点について話し合いをしているのですか。
大谷 元本一部カット、金利の減免、返済計画のリスケジュールなどです。
中には、第三者委員会の報告書によると、スルガ銀行営業職員が、不動産関連業者(チャネル)に対して不正行為を能動的に働きかけて改ざんを促す事例や、自ら改ざんを行った事例もあるとしています。
たとえば、賃料や入居率について、実勢よりも高く想定し、もしくは、実績値よりも高い数値に改ざんして、収益還元法で不動産を評価することにより、割り増された不動産価格が算出されています。
元本一部カットや金利の減免の場合、これらの不正行為を反映した決め方が求められます。
このためには事実関係を精査した上で「調査書」に纏めなければなりません。
これは依頼を受けた「相談センター」が行っています。ここでは事業再生するためにあらゆる方法を検討していきます。
――トラブルを抱えている投資家にはどんなメリットがあるのでしょうか。
大谷 まず対等な立場で銀行と話し合いができる機会を持てます。また、ADR調停に入った場合は債権の強制執行のような法的処置はとらないという回答をもらっています。
ただ、シェアハウス問題に関しては過去に投資経験がない人が多いため、相談センター等を利用することで、ADR調停の場で銀行と話し合う際の知識などのレベル差を埋める手段になります。
また、債務者側としては最も避けたいのは強制執行や、その結果として自己破産をすることです。債務者がローンを返済できない状態に陥っていれば、銀行側は期限の利益が喪失と判断し、残金の一括返済を求めることになるでしょう。
自宅を担保に入れていれば自宅がなくなり、子どもを連帯保証人にしていれば借金を肩代わりすることになる可能性があります。
いずれにしても信用事故として扱われ、債務者がブラックリストに載ってしまいます。その道を回避するうえでもADRは重要な役割を果たします。
債務者が「大家業」を再開できれば返済も可能になる
――ADR調整の調査書はどのような点に重点を置いて作成するのですか。
大谷 一言でいえば、債務者の今後の生活です。ADRには「大岡裁き」のような役目があり、法律を基礎としつつも、業界の慣習や関係者の感情などを考慮しながら作成していきます。
――つまり債務を正しく処理しつつ、債務者の大家業再開や事業の再建も実現するということですか。
大谷 そうです。投資家が賃貸経営を再開することができれば、債務の返済も再開できます。
問題となっている物件はレントロールが相場より高いものが多く、仲介業者に敬遠されることもあるのですが、一方の市場環境として、インバウンド需要や海外からの労働者に向けた施設が不足しているという実態もあります。
国内においても公共団体がDVなどによる被害者に一時的に非難してもらうための施設を求めています。そのような需要も広く取り込みながら大家業を再開できれば、賃料収入が生まれ、返済も可能になります。
――現状のADRはどれくらいまで進んでいるのですか。
大谷 やっとスルガ銀行の体制が整い、2019年9月からADR調停の作業が開始されました。
銀行側から回答がくるまでに2ヶ月程度はかかるだろうと見ていますが、1件目が解決に至れば、それが元本一部カット、金利の減免、返済計画のリスケジュールといった点を話し合う前例となり、2件目以降の解決も進みやすくなると思います。
――まずは合意、解決のモデルケースを作るわけですね。
大谷 はい。昨年度は銀行側も我々の提案の方向性に合意してくれるところがあり、トラブル解決に向けて一歩ずつ前進していました。ところが、現在は少し事情が変わっています。
当時やりとりしていた銀行側の弁護団が変わったことで、それまでの流れと違う方向に向けて動き出そうとしているのです。
銀行が「事務的、短期的」に片付けようとする思惑
――具体的にはどう変わってきているのですか。
大谷 まず解決策のスキームを銀行側で作りたいということで、いったん我々が提出した事前会議において決まった案を取り下げてほしいという流れになりました。
また、スキームを作るために投資家から事情を聞く個人面談の窓口を作り、解決に向けた「前さばき」として個別に事情を聞くことになったのです。この問題は返済トラブルを抱えている個人が多いため、各案件を個別に処理していくと時間と手間がかかります。
その点から見れば、スキームを作って合理的に、効率よく処理したいという考えは分かります。ただ、前述のとおり、個人と金融機関の担当者とでは「知識差」があります。
銀行主導のインタビュー形式で元本カットや金利の減免などを決めていくと、債務者である投資家に不利になる可能性があります。そもそも元本カットや金利の減免などは、投資家の再建計画を踏まえていることが大事です。
昨年度の事前会議においても、物件を持ち続けるのであれば、5年間の事業再建計画書を基本にして元本カットや金利の減免を行うと決まっていました。
――銀行が考えたスキームは、その部分が抜けているわけですね。
大谷 はい。これは私の想像ですが、銀行としてはこの問題を早く片付けたいのだと思います。
自分たちで元本カットの可否や負担割合などの結論を出してしまえば、それをADRに持ち込むことによって手早く問題を解決できますが、本来はスルガ銀行が決めるのではなく、この問題が金融政策に影響を及ぼす程大きな出来事になっている以上第三者機関が「可否や負担割合い」の基準を決めるべきです。
この基準化はこの問題の核心部分です。また、「不法行為」「不正行為」を反映した基準作りになりますので、一層の客観性が求められているのです。
すでに銀行はこの問題から生じる損失を貸倒引当金として予算化していますから、事務的にその執行を早めたいだけのように私には見えるのです。
――確かに、銀行としてはこの問題が長引いてもメリットはありません。
大谷 そのとおりです。借り手の事情について情緒的に考えるより、事務的に進めた方がいいという判断につながっているように見えます。
もちろん、銀行もビジネスですし、株主や他の噂されるファンドグループなどとの関係もありますので、そう考える理屈は分かります。しかし、直前までは中期の事業再建計画を基本にしてADRで解決していこうという流れで進めてきました。
その流れを一方的に覆すのは不誠実ですし、自分たちで決めた客観性のない解決案をADRに持ち込むやり方は、ADRを一種のアリバイ工作として利用しているだけのように思えるのです。
投資用不動産業界に関する情報が毎週届く!
不動産投資塾新聞社メールマガジン登録はこちら
著者紹介
不動産投資塾編集部不動産投資塾編集部
投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾新聞社」を介し、公平な情報をお送りいたします。