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世間を騒がせた「シェアハウス問題」…解決へどこまで進んでいるのか【後編】

目次

「かぼちゃの馬車」への投資被害で話題となったシェアハウス問題だが、いまだ具体的な解決に至っていない。当事者である債務者(投資家)、金融機関は今どのような状態に置かれているのか。前回に引き続き、「シェアハウス等ADR総合対策室」を通じてトラブルの全容解明に取り組む大谷昭二さんに、問題の背景と構造を聞く。

不利益を被ったり、騙されたりする可能性がある人を支援する

――NPO法人日本住宅性能検査協会は、不動産ADR(裁判外紛争解決手続)によるシェアハウス問題の解決を支援しています。当初はADRで解決を図るという点について銀行とも方向性が一致していましたが、現状はその流れが変わりつつあります。

大谷 そうですね。解決に向けたスキームを銀行側で作りたいという話が生まれ、銀行が投資家との個人面談を通じて個別に事情を聞くことになりました。

また、銀行のヒアリングに応じるにしても、個人と金融機関の担当者の間には知識差があります。質問の方法や内容によって投資家が不利になる可能性があります。

それを防ぐため、以前は話し合いの場などに調査人が同席し、銀行側もそれを了解していました。しかし、今回のヒアリングに関しては調査人や投資家側の弁護人の同席を拒否しています。

結果、ヒアリングに出席する投資家は孤立しますし、そもそもそれを狙っているようにも見えます。

また、この5月にスルガ銀行が「元本一部カット基準の概要について」を公表していますが、その中に、「ローン契約締結時に当社の不正行為があり、その不正行為とお客様の投資判断との間に相当因果関係が認められ場合が対象となります」とあるのですが、未だに「因果関係」や「関与度合い」等の基準や具体的な提示がなされてなく、また、スルガ銀行が、この判断出来るエビデンスを提供するのか不明です。

全く核心部分に触れられない状況です。調査の中で分かってきたことですが、かなりひどい例があり販社(チャネル)等も「刑事事件」として扱わざるを得ない事案もでてきています。

――これらの動きにどのように対応していくのですか。

大谷 ヒアリングのやり方や調査人の同席を拒否している点については銀行に意見書を出すなどして改善を求めています。

併せ金融庁にも相談しています。ADRに関しては従来どおり、トラブル相談センターを通じて債務者の相談に乗り、融資や投資に至る過程に不正行為があったかどうか検証し、投資家の事業再生案の作成なども支援します。

――この問題(シェアハウス問題)に関しては一貫して投資家側を支援しているのですか?

大谷 現状としては投資家側の支援者に見えると思います。また、銀行側も私のこれまでの取り組みが投資家側に立っていると見ているようで、当事者と利害関係のある人がADRの手続きなどを実施するのはふさわしくないのではないかという指摘をしています。

ただ、実際には特定の誰かを支援しているわけではなく、公正な立場で問題と向き合っています。強いていうならば、情報や知識の差によって不利益を被ったり、騙されたりする可能性がある人を支援する立場です。

――いわゆる情報弱者と呼ばれる人たちを支えているわけですね。

大谷 はい。実は私自身、最初にこの問題を知った時は投資家の自己責任の範疇ではないかと考えました。我々が行ったアンケートにおいても、書類等の改ざんの疑いがあると聞いていた人が過半数におよんだため、彼らは騙されたのではなく、自分でリスクをとったのだと思ったのです。

「問題の背景」を次世代に伝えることが大事なワケ

――認識が変わったのはどうしてですか。

大谷 トラブルの背景や構造を調べていくうちに、このスキームを作った銀行側が知っていて、投資家側が知らない情報があるように思えたのです。

第三者委員会などの報告にも、銀行がチャネラーなどに対して指導的立場にあったと書かれています。そうであるならば、銀行にもスキームを作った側としての責任があります。

また、今回のトラブルとは直接的には関係のない投資家にも、トラブルの背景などについて伝える必要があると思いました。シェアハウス投資では数多くの投資家が苦い経験をしました。

彼らの再建を支えることは大事なのですが、失敗したという事実は変えられません。それなら、今後せめて似たような失敗をする投資家が減らせるように、これらを学びの材料にし、生かすことが大切です。将来のために生かさなければ、失敗の意味もなくなってしまうと思います。

――トラブルの背景などを明らかにし、次世代の投資家に伝えるのですね。

大谷 はい。不動産に投資する人の中には初めて投資するという人も多くいます。詳しい人に話などを聞けば、過去にどんな人が、どんな失敗をしたかも分かるのですが、忙しくて調べる時間がない人もいますし、そもそもどうやって調べれば良いのか分からない人もいます。そういう人が今回のような問題の背景や解決策を知れば、失敗の予防になるでしょう。

――問題の風化を防ぐことにもつながりますね。

大谷 そう思います。新しいニュースは次々に流れてきますので、この問題も放っておけば風化するでしょう。原因が分からず、債務者たちが結局どうなったのか分からないまま、世間で騒がれた記憶だけ残るニュースになります。そのような結末を防ぐことも重要だと思います。

古今東西繰り返される投資の「失敗パターン」

――投資を検討する人の中には「おいしい話」に飛びつき、失敗する人もいます。そういう人にもこの取り組みは警鐘を鳴らす役目を果たすと思います。

大谷 そうなると良いですね。不動産トラブルという大きな枠組みのなかで見れば、今回の問題はごく一部分にすぎません。

しかし、事例として伝えていけば、次世代の投資家の役に立つこともあるはずです。そもそも金融システム自体は人が作ったものですから、どこかに抜け穴があります。

抜け穴を探す人もいます。そこを手当てする意味でも、事例として残し、伝えることは重要だと思います。

――事例が次世代の投資家の役に立つということは、失敗する背景には時代を超えて似たパターンがあるともいえそうですね。

大谷 あると思います。例えば、古今東西、「儲かりそう」と思い、よく調べずにお金を出し、失敗するというパターンが何度も繰り返されています。

ただ、人間には欲がありますから「儲かりそう」と思ってしまうのは仕方がないと思っています。話を持ちかける方も商売ですから、甘く聞こえるように、儲かりそうだと思うように話をするでしょう。

初心者の場合はとくに、そのような話を疑ってかかるのは難しいのです。だからこそ、常に第三者が警鐘を鳴らす必要があります。

勉強しなかった人が悪い、騙される人が悪いという自己責任論もありますが、それも過去からずっといわれて続けていることで、それでも失敗は繰り返されています。人間は賢い生き物ですが、忘れる生き物でもあります。過去を忘れるから、失敗を繰り返すわけです。

――これから投資を始める人にはどんなことを伝えたいですか。

人間はそれほど偉い生き物ではなく、昔の経験を忘れます。社会問題になるくらい大きなトラブルになっても、自分には関係のないと捉える人もいます。

しかし、今回のような問題は不動産業界の構造的な問題に起因する部分もあるため、投資をする人全員に関係あると思った方が良い。そのことを頭の片隅に置いておいてほしいと思っています。

また、過去の失敗の繰り返しを少しでも減らせるように、今後もこの問題の動向を詳細に伝えていきたいと思っています。

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著者紹介

不動産投資塾編集部
不動産投資塾編集部

投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾新聞社」を介し、公平な情報をお送りいたします。

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