加藤隆が実際に体験した不動産投資の罠
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2019年5月20日(月)
個人と法人、どちらが不動産経営には有利?
不動産経営においては、個人(白色申告・青色申告・青色申告事業的規模(原則5棟10室以上))で経営する場合、法人で経営する場合と、色々な経営段階があります。
実際は個人経営と法人経営では、どちらが不動産経営において有利なのでしょうか?
各人・家庭の性格、ポリシー、年齢、職業、収支・資産状況にもよりますので、ケースバイケースではありますが、手間暇、諸経費、融資受け、税務対策などにおいて比較して、それぞれのメリット・デメリットについて考えてみましょう。
個人で不動産経営を行う場合のメリット・デメリット
個人で不動産経営を行う場合は、「白色申告」「青色申告」「青色申告事業的規模(原則5棟10室以上)」と、確定申告の方法で段階が分けられます。
また、融資の受けやすさや税金対策の方法、さらに、かかる手間や諸経費についても違いがあります。ここでいう手間とは、建物管理や賃貸管理、税務申告などです。
諸経費とは、建物管理費・賃貸管理費・修繕積立金以外にも、固定資産税・都市計画税、損害保険料、修理費・リフォーム費用、広告費や、建物管理・賃貸管理などを不動産会社へ業務委託する場合の管理費、税理士に税務申告を任せる場合の費用などのことを指します。
個人では、どんなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
白色申告の場合
一番簡単で、手間がかからないことが、最大のメリットといえるでしょう。自分で税金の申告もできますので、諸経費もかかりません。
法人の方が融資受けしやすい金融機関もありますが、融資受けも可能です。
そのかわり、節税するための方法は少なめです。白色申告でも家族への人件費として、年間50万円程度は控除できるといわれています。損失繰越(3年間)はできません。
また、青色申告控除(簡易:10万円、正規:64万円)は使えません。
その他については、基本的には、白色申告でも、程度の差はあれ、節税は可能です。法人化になると、もっと節税しやすくなります。
青色申告の場合
最初に、税務署宛に「青色申告届出」を提出する必要があります。しかし、確定申告の際に必要な手間はこれくらいで、諸経費もかかりません。
白色申告と同様に、融資受けも可能です。その代わり節税については、こちらも方法は少ないことがデメリットといえるかもしれません。
節税対策としては、青色申告控除が10万円使えます。(不動産所得が黒字の範囲内)
青色申告事業的規模(原則5棟10室以上)の場合
事業的規模(原則5棟10室以上)にする必要があるので、その分の手間や諸経費はかかりますが、税務申告自体は、手間・諸経費はかかりません。こちらも融資受けが可能です。節税については、徐々に節税の幅が広がってきます。
例えば、以下のような内容です。
①青色申告控除が、簡易の場合で10万円、複式簿記(簡易の簿記)で65万円使える。(不動産所得が黒字の範囲内)
②青色申告専従者控除が使える。
この青色申告専従者控除は、同居している15歳以上の家族が不動産経営に専従している場合に使えます。
専業主婦、リタイアした父母、などが該当するでしょう。共働き、学生などの場合は不可となります。
家族と同居している場合、電話当番、留守番、パソコンなどの事務処理、物件見回りなど、何かしら携わっているものです。
私がおすすめなのは、家族に対する不動産経営関連業務にかかる毎月の給与を月額8万円程度にし、年間100万円未満にしておくことです。そうすれば、住民税100万円、所得税103万円、社会保険料150万円などの壁にも引っかかることはありません。
世帯全体で節税のマインドを持つことが重要です。
ただし、公務員の場合は事業的規模になると、副業と見なされやすくなります。
対策として配偶者・お子さん名義で経営する、または法人化して配偶者などを代表者にしておくなどの対策をしておいた方が無難でしょう。
法人で不動産経営を行う場合のメリット・デメリット
続いて、法人化について、どのようなメリットやデメリットがあるのかを見ていきたいと思います。
個人と法人において、まず顕著に差が現れるところは、法人化するために相当な手間暇と経費がかかるという点です。
そして、法人化した後の法人決算が複雑なこと、さらには本業があれば個人としての決算も必要とあって、決算期ごとに毎回相当な手間と経費がかってしまいます。
ただし、法人の場合には個人の無限責任と違って、合名会社・合資会社ではなく、合同会社・株式会社などの場合であれば、有限責任にできます。連帯保証をすればこの限りではありません。
あとは、法人化すれば、良い意味でも悪い意味でも社会保険に加入することとなります。(社会保険(厚生年金など)を厚くしたい場合にはメリットですが、社会保険料を取られるます)。
さらに、相続を想定するならば、法人化したほうが継続しやすい点はメリットといえます。
融資受けについては金融機関によって異なってくるため、個人と法人でどちらが融資を受けやすいか、ということは一概には言えないところです。
個人のほうが受けやすい金融機関もあれば、法人の方が受けやすい金融機関もあります。
法人の場合には、原則として黒字を3年間以上(最低でも1年間)維持していること、といった基準がある場合もあります。
法人化の最大のメリットとしては、節税が挙げられます。
節税という観点からみると、法人化しておけば圧倒的に有利になります。
日本では法人税を高くした結果、企業が海外に行ってしまうような自体を防ぐため減税傾向にあります。かたや、税金を取りやすい個人へは増税の嵐です。
個人では累進課税で、最高税率55%です。
一方で、法人税はいくら所得が増えても実効税率37%程度です。
このことからもわかるように、所得が多くなるほど法人のほうが有利になってきます。
また、個人の累進課税を考慮すれば、法人から役員・従業員に対し、給与・賞与、法人・各個人と、所得を分散するほど、全体で節税することも可能です。
以下、法人の節税についてどのような利点があるかを具体的に見ていきましょう。
●従業員給与
青色申告事業的規模では、同居の家族で専従者のみですが、法人化の場合には制限はありません。
●福利厚生費
社内規程を整備しておくことにより、出張旅費日当も支給できます。ちなみに、これは従業員側で課税されません。また、スポーツクラブ会費、社内旅行費なども福利厚生費として経費算入可能です。
●生命保険料
個人の場合には、生命保険料は低額(8万円程度)しか控除できませんが、法人化すれば原則限度はなくなります。他にも、共済に加入すれば経費に計上でき、保険効果も享受できます。
●減価償却費
個人の場合には、減価償却費は調整不可能ですが、法人化の場合には損益調整可能です。利益が少ない時にはあまり減価償却費は計上しないで、利益が多い時に多く計上するなど損益調整することも可能です。
●支払金利
個人の場合は、支払金利のうち建物分は経費計上できますが、土地分は不動産所得が黒字の範囲内までしかできません。しかし、法人化すれば全額経費計上できます。
●その他経費
法人化すれば、その他経費についても経費計上しやすいといえます。個人の場合は、日常家事関連費と不動産関連経費の切り分けについて、明確に説得できるようにしておく必要があります。
しかし、法人化している場合には、法人名義で契約していれば経費計上しやすくなります。ただし、交際費に関してだけは、法人化すれば規模によっては、経費計上額に制限がかかります。
●譲渡税の損益通算
個人の場合には短期譲渡(5年以内)で約4割、長期譲渡(5年超)でも約2割の譲渡税を取られ、かつ、他の不動産所得や給与所得とは損益通算はできません。しかし、法人化すると他の不動産所得や法人内の他の所得と損益通産することが可能です。
●損失の繰り越し
青色申告事業的規模であれば、赤字の損失繰越は3年間ですが、法人化すると10年間繰り越すことができます。ただし、法人化すると赤字の場合でも、法人住民税として最低年7万円は取られてしまいます。
なお、法人化に当たっては、個人所有の物件を物件・賃貸管理委託する管理委託方式、法人に賃貸し法人が転貸する法人転貸方式、法人自体で物件所有する法人所有方式などがあります。
注意しておきたいのは、購入時諸経費は初年度だけ節税の効果が発揮されることです。
その後も、減価償却費の減少(昔の旧定率法選択の場合、器具備品などの定率法選択の場合、減価償却終了など)、支払金利の減少(借入金減少による支払金利分減少・元本返済分上昇、ローン終了)などもあって、徐々に薄れてくるものです。
私の場合も、昔の旧定率法選択の場合のもの・減価償却終了物件増加、支払金利分減少・ローン終了などによって、どんどん経費計上額が減ってきますので、その際には法人化も検討する段階にくるかな、と思っています。
私の不動産経営規模と取り組みについて
私の場合は、白色申告から始めて青色申告を経て、現在は青色申告事業的規模で個人経営を行なっています。
私も昔は、まずは区分所有マンション10室を目指し、早く事業規模として節税のメリットを大きくしたいと思ったものです。
現状では、所得税・住民税ゼロで、節税メリットは十分に受けており、これで充分だと感じているためです。
個人としての給与所得と、不動産経営の赤字を損益通算して、源泉徴収された所得税(130万円程度)を全額還付で受けているということも、個人の不動産経営を続けている理由です。
ちなみに、所得税を圧縮すれば翌年の住民税に反映されます(非課税)。
さらに、各種手当金、保育園料、奨学金などにも影響してきます。
各種手当金・奨学金は、年収制限があり、この年収は通常、確定申告後の年収となります。確定申告においては、不動産所得の赤字を給与所得と損益通算させ、節税することも可能です。
保育園料は、年収によって保育料が異なってきます。私の場合、通常(サラリーマンの給与所得)は、最高レベルの一人5万円のところ、確定申告後は、最低レベルの2,000円になりました。
私はサラリーマンの間は、給与所得と不動産所得のダブルで所得が多くなるので、早期節税を重視しています。
具体的には、不動産経営用物件の買い増し、特にあえて耐用年数の短い築古物件を購入して、減価償却費を多めに計上できるようにしています。
ただし将来、売却せざるを得なくなった際には、簿価が低くなっている分、数字上は売却益が出やすくなり(売却益=売却額―簿価(購入額ではない)―諸経費)、不動産譲渡税を多く取られるリスクはあります。
しかし、給与所得と不動産所得というダブルの所得がある時代には、早期に節税しておくことが重要だと考えています。
また、インフレを想定した場合や、将来の不景気・財政破綻などによる増税・税制改正なども考慮すれば、先のことは分かりませんので、早期に節税しておいたほうが安全ではないでしょうか。
手間暇・経費をかけたくなければ個人、節税を強化したければ法人化を
不動産経営においては、白色申告からすぐに青色申告にしたほうが何かと便利です。その後は、原則5棟10室以上の事業的規模にすると、さらに節税しやすくなります。
この段階までは、手間・経費はそう変わりません。手間や経費を余計にかけず、節税効果を期待するのであれば、この段階で充分でしょう。
手間・経費(法人化費用、例年最低法人住民税7万円、税理士費用など)がかかっても、さらに節税したい場合には、法人化も視野に入れます。
なお、融資受けに関しては、金融機関によって、個人のみが対象(団体信用生命保険の関係など)となるところもあれば、法人のほうが信用力があり、融資受けしやすいところもあります。
こちらの立場からすれば、連帯保証しなければ有限責任にとどめることもできますし、法人に死亡は無いので、相続後も事業継続はしやすいというメリットもあります。
要は、各人の年齢、性格、ポリシー、職業、収入・資産、目的(節税・融資受け・相続対策など)によって、使い分ければよいと考えます。
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著者紹介
加藤 隆加藤 隆
サラリーマンのままで、経済的・時間的・精神的自由を目標に、預貯金・外国為替・貴金属・株等の資産運用を経て、不動産経営歴31年。数々の失敗・バブル崩壊を生き抜き、リスク分散をモットーに、東京・博多・札幌・名古屋・京都・小樽・千葉に、区分所有マンション・一棟物アパート・一棟物マンション・戸建等、物件108戸を運営。総資産7億円・借入5億円・自己資本2億円、年間家賃収入4,100百万円・借入金返済3,100万円・キャッシュフロー1,600万円。節税で、所得税・住民税ゼロ。