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「アパート・マンション経営の専門家」大長伸吉の不動産投資、成功の法則

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生産緑地の2022年問題とは?不動産市場・価格に及ぼす影響を解説します

目次

今後不動産販売価格は、下がるのか?それとも上がるのか?自宅の購入や収益不動産の取得をしようとしている人は、できるだけ不動産相場が下がってから買いたいと考えるものです。相場を押し下げる要素があるなら、不動産取得のタイミングには慎重になるのではないでしょうか。

最近では、不動産価格が下がる要素としては、消費税増税、オリンピック後の景気低迷、人口減少、不動産の供給過多などが挙がっています。

そしてもう一つの懸念要素が話題となっています。それが「不動産市場の2022年問題」です。これは、2022年に「生産緑地」の指定が解除されることから話題となっている問題です。1991年に改正された法令どおりに実行された場合は、市場に大量の住宅用地が出回ることになり、不動産市場に大きな影響を及ぼすことになります。その実態を事前に認識しておくことが有効です。

生産緑地とは:規模と問題点

はじめに、2022年問題における生産緑地について、その規模と問題点を確認しておきましょう。

生産緑地は、生産緑地法にて定められており、市街化区域内にある農地等で、市町村が都市計画の中で定める土地です。市街区での緑地の保全や、将来の公共施設用の土地として活用するために一定の広さの緑地を保全するべく定められました。そのため、生産緑地では建築物の新築・増改築や宅地造成等の行為が制限されます。

生産緑地として指定されるための要件は、500m²以上の面積であること、生産緑地法第三条第一項に指定された農地又は森林です。

国土交通省の「平成27年都市計画現況調査」では、全国で13,442ヘクタール、東京都では3,296ヘクタールで、全国の約25%を占めていると発表されています。この東京都内の生産緑地は、山手線の内側の面積の半分に相当します。また、サッカーグラウンド(7,140m²)の4,615倍に相当します。さらに、23区内の生産緑地は437ヘクタールです。
(参照:国土交通省「都市計画区域、市街化区域、地域地区の決定状況」
(参照:東京都「緑確保の総合的な方針」

都心を含めて、大量に存在する生産緑地ですが、生産緑地法は1991年の改正により、1992年から2022年の30年間に限り生産緑地の指定を受けられることとなっていました。つまり反対にいうと、2022年以降は生産緑地の指定を受けられなくなるということになります。
生産緑地の指定が解除される要件は、指定がされた後30年を経過すること、または所有者の相続の発生時です。

2022年に生産緑地の指定を解除されると生産緑地の所有者は固定資産税の減税措置や相続税猶予の優遇を受けられなくなってしまいます。今までのように農地として活用した利益だけでは土地の維持管理ができなくなることが予想されます。

そのため、生産緑地の所有者の中には、2022年を待たずに農地としての利用をやめ、住宅用地として売却をしてしまう所有者もいました。

この動きが一般的なものであると仮定すると、生産緑地の指定が一斉に解除される2022年を超えると、全国の生産緑地に相当する13,442ヘクタールもの大量の住宅用地が一気に供給されることになり、不動産市場の需要と供給のバランスが崩れてしまうことが予想されています。これが「不動産の2022年問題」です。

生産緑地の指定解除による所有者のメリット、デメリット

生産緑地問題を把握するために、今までの経緯について、知っておいてもらいたいと思います。

もともと生産緑地法は、1974年に公布され、当時は住宅の供給が足りない状態であったこともあり、宅地を増やす政策をとっていました。そこで、都市の一部の自治体では市街化区域内での生産緑地でも宅地と同様の固定資産税額となっていました。このため、都市部の生産緑地では、所有者の負担が多いこともあり、生産緑地を宅地として活用し、またはハウスメーカーなどに売却しため、多くの農地が宅地に変わりました。

しかし、その後、宅地が増え、また農地を維持する方針に政策が変更し、1992年の生産緑地法の改正によって、自治体が指定した生産緑地では、市街化区域内でも農地と同様に固定資産税が軽減されることになりました。さらに、相続税の納税猶予が受けられることになりました。

ここで1992年から施行されている現在の生産緑地法のメリットとデメリットを整理します。

メリット 1 固定資産税が農地と同様の課税率となる

生産緑地の固定資産税は、同じ面積の市街化調整区域内の農地と同様の課税額となる。近隣の宅地の固定資産税よりも、何百分の1に軽減されるケースもあります。例えば、世田谷区では、1,000m²の宅地の評価が3億円と評価される場合でも、生産緑地の指定を受けている場合は、その土地の課税評価額は調整区域の農地と同様に50万円と評価される場合もあります。

メリット 2 相続税の納税の猶予制度が利用でき、免除となる場合もあります

生産緑地の所有者の相続のときに、納税猶予を申請することができ、その土地の評価額のほとんどで納税が猶予となり、その土地を相続した人が終身にわたり農業を営むことにより、その相続税の猶予金額は免除となります。この事例では、数億円の相続税の納税額が、数十万円程度にまで軽減するというメリットがあります。

デメリット 1 農業を営めない理由だけでは、生産緑地を解除できない

生産緑地を解除するためには、次の3つのいずれかの要件が必要となります。
(1)生産緑地指定から30年後、(2)病気などの理由で主たる従事者が農業を営むことが困難になったとき、(3)主たる従事者が死亡し、相続人等が農業を営まないとき

デメリット 2 相続税の納税猶予がされず、相続時にさかのぼり課税する必要がある

生産緑地を解除した場合、納税が猶予されず、免除となることもなく、相続時にさかのぼって課税されます。

デメリット 3 生産緑地では農業を営まなければならない

生産緑地では農業を営むなど行為が制限されています。そのため、自由に土地活用はできません。生産緑地として指定を受けるとメリットがありますが、生産緑地の指定が解除されると固定資産税額の納税負担増加など所有者に対して大きな負担となります。

現行法令の中でも、生産緑地の指定を解除した所有者もいました。そして、生産緑地の指定が2022年に解除されると、大量の生産緑地が宅地となることが予想されていました。
(参照:農林水産省「農地の保有に対する税金」

2017年の生産緑地の法改正による問題の先延ばし

生産緑地の2022年問題により、不動産市場の急激な変化をなくすことなどを目的として、2017年に「都市緑地法等の一部を改正する法律案」が施工されることとなりました。
(参照:国土交通省「生産緑地法等の改正について」

この法改正では、
① 生産緑地の指定が30年間で解除されるところを、特定生産緑地に指定されることで10年間延期される
② ①にて延期された後は、10年ごとに所有者の意向を前提としてさらに10年ごとに延期が可能となる
③ 生産緑地地区の500m²以上の面積要件を、条例で300m²以上(政令で規定)まで引下げ可能となる
④ 生産緑地地区に設置可能な建築物として、農産物等加工施設、農産物等直売所、農家レストランが追加される

この法改正後に国土交通省が農家に調査を行った結果として、生産緑地を所有している農家の80%が生産緑地の指定を延長することを希望しているとのことです。
(参照:日本農業新聞「国土交通省の農家調査結果」

この法改正により、世の中で騒がれていました不動産業界の2022年問題の実態として、ひとまず大きな問題とはならないと予想されています。

まだ残っている生産緑地問題の潜在的な課題

2017年の法改定で2022年の不動産市場で一気に大量の宅地が供給されるという事態は避けられる見込みとなりましたが、この問題は完全には解決していません。

実際、現行法令でも、所有者は生産緑地を選択せずに宅地となっているケースもあります。
所有者により、生産緑地の買い取り申し出から売却という選択をした場合、その土地は建売業者などが競い合って購入しています。

他にその土地が売れ残った場合は、土地の価格が大幅に下がってしまい、近隣の住宅地域の販売価格に大きな影響を及ぼすこともあります。

または、生産緑地を宅地としてアパートを建てて、収益を得ようとする所有者もいます。
このような事例があり、2017年の法改正で生産緑地指定期間の延長を希望しない所有者もいます。

このため、2022年を機に生産緑地の買い取りを希望する所有者が増加し、住宅供給量が増えることが予想されます。その規模を予想することは難しいですが、場合によっては住宅相場が値下りする可能性が潜在的に残されています。

まとめ

戸建てやマンションなどの住宅や収益物件をこれから取得しようとしている人は、今後の不動産販売価格がどのように変動するのかを見極めておくことが有効です。

不動産価格は、需要と供給のバランスによって左右されます。その中で、不動産市場の2022年問題を知っておくべきです。都心部を含めて、市場には13,442ヘクタールもの大量の生産緑地が残されていて、2022年に大量に供給されることが問題となっていましたが、2017年の生産緑地法の改正により、2022年に一気に供給されるリスクが低減される見込みとなりました。

しかしながら、この生産緑地問題の課題は解決されてはいません。都心部でも練馬区や世田谷区では今後も生産緑地が宅地として市場に供給される可能性が十分に残されています。生産緑地があるエリアでは、住宅供給量が増えることが予想されます。そして、住宅相場は値下りする可能性が潜在的に残されています。

その他にも、消費税の増税、オリンピック後の景気低迷、そして人口減少などの課題があります。その結果、利便が悪く、人気がないエリアは今後も不動産の価値が低下する恐れがあります。

住宅や収益物件はとても高額ですので、不動産の売買にて失敗をしないように注意してください。将来の資産価値を見極めて、市場情報や法令や経済の変化を慎重に確認することが有効です。

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著者紹介

大長 伸吉
大長 伸吉

ランガルハウス株式会社 代表、年金大家会 主宰。
生涯所得の1/3ほどの住まいにかかる出費をゼロにするために、賃貸併用住宅を活用して、サラリーマンや事業主をサポート。
千葉大学大学院工学研究科卒、新築及び中古1Rマンション、中古アパート、世田谷/北関東/多摩新築アパートなど各種の不動産賃貸業の経験をもとに、主にサラリーマンのアパート経営の支援。建築サポート実績127棟。通算2050人の聴講者と2450回を超える相談会にてサポートを継続中。著書に『サラリーマン大家の「クズ土地」アパート経営術』『王道アパート経営で「マイ年金」づくり』など
所持資格:宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、FP2級技能士

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