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竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所

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孤独死が起きた場合の対処方法について

目次

人口の高齢化が進む中で、1人暮らしの高齢者が居室内で人知れずに亡くなり、長期間発見されないという孤独死が社会問題化しています。

それでは、所有するアパートで入居者が孤独死して発見が遅れた場合、どのようなことに注意が必要でしょうか。場合によっては室内や建物のリフォームが必要になったり、他の部屋にも退去者が出たり、その後部屋に借り手がつかないなどの損害が出ることも考えられます。オーナーとしてはどのように備えをしておく必要があるでしょうか。

なお、本稿では「孤独死」を「1人暮らしの賃借人が居室内で病死し、かつ、遺体が一定期間発見されなかったこと」と定義して解説いたします。自殺や他殺による居室内での死亡の場合は、本稿の解説の場合には該当しませんのでご注意ください。

孤独死があった場合の法律関係

建物を借りている賃借人が孤独死した場合、賃貸借契約はどうなるのでしょうか。一般的に賃貸借契約は一方当事者の死亡により、当然に終了するわけではなく相続の対象となります。

これは孤独死の場合でも例外ではなく、賃借人が死亡しても賃貸借契約は当然には終了しません。すなわち、死亡した賃借人の相続人が賃借人としての地位を相続することになります。

したがって、オーナーとしては賃貸借契約を賃借人の相続人との間で合意解約し、原状回復や未払い賃料の清算の交渉を行うことになります。

なお、賃貸借契約に連帯保証人が付いている場合でも、連帯保証人が保証しているのはあくまで賃借人の債務なので、賃貸借契約の終了を連帯保証人に通知をしても法的には何の意味もありません。

相続人は誰か

オーナーが交渉を行うべき相続人とは誰なのでしょうか。通常は、亡くなった入居者の親族が亡くなっている入居者を発見するでしょうから、まずは親族の方と話し合いを行うことになるでしょう。

ただし、入居者の子が何人かいるなど相続人が複数いる場合には、その全員に対して賃貸借契約の終了を通知する必要がありますので注意が必要です。

また、入居者の方が多額の借金を抱えていたような場合には、相続放棄を検討している相続人がいることもあります。そうすると、相続人が少なくとも相続放棄をするかどうかを検討している間は、賃貸借契約を終了させることができません。その間の賃料の支払も宙ぶらりんとなってしまうでしょう。

さらに、相続人全員が相続放棄をした場合、相続人がいないという事態になってしまいます。この場合に賃貸借契約を終了させるためには、家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を求めなくてはなりません。

また、家庭裁判所への申立の費用だけでなく、未払いの賃料や原状回復費用も全てオーナーの負担となってしまいますので、非常に大きなリスクとなります(なお、未払いの賃料や原状回復費用は連帯保証人に請求することができます)。

原状回復について

物件内で孤独死があった場合、最も頭を悩ませるのは原状回復ではないでしょうか。しかし、居室内に残されたものは入居者の遺産となりますので、オーナーが勝手に部屋を片付けてしまうことはできません。
入居者の親族などの相続人には、できるだけ早く対応してもらうように依頼する必要があります。

また、賃借人の遺体の発見が遅れると、居室内の状態もどんどん悪くなり、フローリングや壁紙の張り替えなど、特別な清掃が必要になることがあります。その際、オーナーは相続人や連帯保証人に対し、特別な清掃費用まで請求することができるのでしょうか。

居住用建物において賃借人が退去時に原状回復を行う範囲については、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗及び賃借物の経年変化を除き、賃借人の故意または過失によって生じた損耗であると考えられています。

そこで、孤独死による居室内の汚損が、賃借人の故意または過失によって生じた通常の使用収益の結果を越えるものであると言えるかが問題となります。

多くの場合、賃借人は自然死したものであり、そこに賃借人の故意や過失は存在しません。また、死後長期の間発見されなかったことにも、賃借人に落ち度はありません。このため、原状回復のために特別な費用が必要になったとしても、賃借人側がその費用を負担する必要はないと考えられています。

オーナーとしては、清掃の遅れによる損害の拡大を回避するためにも、必要最低限の清掃については早めに着手すべきであると言えるでしょう。

損害賠償について

居室内で孤独死があった場合、次の入居者の募集に影響が出ることが考えられます。すなわち、周囲で噂が広まり、なかなか次の入居者が見つからなかったり、賃料を減額しなくてはならなくなったりするケースです。

このような場合、オーナーから賃借人の相続人や連帯保証人に対して、次の入居者が見つからなかった期間の賃料相当額や減額された家賃相当額を、損害賠償として請求することができるでしょうか。

損害賠償請求が認められるには、その損害が賃借人の故意または過失によって生じたものである必要があります。しかし、原状回復の項でも述べたとおり、賃借人が死亡したことについて、賃借人に故意や過失はありません。

したがって、賃借人の相続人や連帯保証人に対する損害賠償請求は認められないのが一般的です。

告知義務について

オーナーとしては、できるだけ早く次の入居者を見つけたいと思っていることでしょう。それでは、次の入居者を募集する際に、居室内で孤独死があったことを伝えなくてはならないのでしょうか。

この点、建物賃貸借においては、貸主には「建物を借りるかどうかの判断に重要な影響を及ぼす事項」については、借主に告知をしなくてはならない義務、いわゆる告知義務があるとされています。

例えば居室内で凄惨な殺人事件があったような場合には、機能的には何ら問題のない建物であったとしても、心理的に嫌悪されるものであり、建物を借りるかどうかの判断に影響を与えるものとして、一定期間の告知義務があるとされています。なお、このように建物について心理的に住み心地を欠く状態を「心理的瑕疵」といいます。

それでは、老衰や病気による孤独死の場合はどうでしょうか。

人は必ず死亡するものであり、また居住用の建物は賃借人の生活の拠点である以上、居室内で老衰や病気により死亡することは当然に想定されるものです。

したがって、どのような場合であっても居室内で孤独死があったことを、新しい賃借人に告知をしなくてはならないというわけではないと考えられます。
例えば、賃借人が死亡してから数日で遺体が発見され、特に問題もなく明け渡しが済んだような場合には告知義務は否定される傾向が高いでしょう。

しかし発見が遅れ、遺体が腐乱していたような場合、その建物に住むことに抵抗を覚える人は多いと考えられます。そのような場合には、オーナーには孤独死についての告知義務があるといえるでしょう。

では、どの程度の期間までオーナーには告知義務があるとされるのでしょうか。あまりに長期間告知義務があるとされると、オーナーの賃貸経営は大きな打撃を受けます。

この点、心理的瑕疵は時間の経過と共に治癒されるものと考えられています。したがって、オーナーが未来永劫、孤独死があったことを告知しなくてはならないわけではありません。
ただし「何を」「いつまで」という明確な定めはありませんので、ケースバイケースで判断することになります。
 
このように、孤独死はオーナーにとって、賃貸経営の大きなリスク要因となります。現在は孤独死に対応した保険商品も多くありますので、利用を検討するのも良いでしょう。

著者紹介

竹村 鮎子
竹村 鮎子

弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
http://www.fudousan-bengoshi.jp/

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