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竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所

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認知症の売主から不動産を購入するために知っておきたい法律と制度

目次

今後、超高齢社会が進んでいく日本において、認知症の方が所有する不動産を売買する機会が増えていくと考えられます。そのような場合、不動産投資家として知っておかなければならないのが、法律上の意思能力と行為能力、そして後見制度についてです。今回は認知症の方から不動産を購入すると仮定した場合の、知っておきたい法律知識と制度について解説いたします。

【モデルケース】

Aさんは新しく投資用マンションの1室を購入しようと、様々な物件を検討しています。最近になってようやくAさんの理想どおりの物件が見つかったので、Aさんは、是非このマンションを購入したいと思っています。しかし、不動産会社によれば、物件のオーナーBさんは非常に高齢で、重い認知症のために施設に入居しているようです。

不動産会社の営業マンからは、「Bさんの息子さんであるCさんはマンションの売却は問題ないと言っている」と聞かされています。また、実際に価格の交渉などはCさんが窓口となっているようです。とはいえ、AさんはBさんが後から「マンションを売る契約などしていない」などと言い出したりしないか不安です。

Aさんは希望どおり、マンションを購入することができるのでしょうか。

法律上の意思能力と行為能力について

どのような契約でも、それが有効であるには、契約当事者に意思能力及び行為能力があることが必要とされています。
 
意思能力及び行為能力の概念を、分かりやすく説明するのは非常に難しいのですが、「意思能力」は売買や賃貸借などの法律行為について、正確な判断ができる能力、「行為能力」は特定の法律行為をするための能力と考えられています。
 
行為能力を欠く人については、法律上、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人と区分されており、それぞれ、単独でできる法律行為とできない法律行為(正確には単独で行った場合に取り消しうる行為)が規定されています。

また、意思能力のない人が行った法律行為は無効、行為能力がない人が行った行為は取り消しうるとされています。

例えば、0歳の赤ちゃんが不動産売買契約を行ったとしても、0歳児にはそれがどんな契約か理解することはできない、すなわち意思能力がないので、その契約は無効となります。

他方で17歳の高校生が同じように不動産売買契約を行った場合、さすがに高校生ですから、それがどのような契約であるかは理解できる(=意思能力はある)でしょう。したがって、契約は一応有効ですが、後から未成年者の契約である、すなわち行為能力がないことを理由に、取り消すことができるということです。

モデルケースの場合

それではAさんの場合で考えてみましょう。

Bさんは重い認知症で施設に入居しているということですから、自分が所有する不動産を売却することについて、正しく理解をしているとは言い難い状態でしょう。そうだとすると、Bさんの意思能力には問題があると言えます。したがって、BさんがAさんとの間でマンションの売買契約を行った場合、それは意思能力のない人が行った法律行為であるとして、原則として契約は無効になります。

しかし、本件ではBさんの息子であるCさんが「マンションの売買には問題ない」と不動産会社に話しているようです。それではCさんがBさんの代理人として、マンションを売却することはできるのでしょうか。

この点について、CさんがBさんの正式な代理人であれば、CさんがBさんに代わって、マンションの売却をすることができます。それには、Bさんが「マンションの売却についてCさんを代理人とする」という意思を、あらかじめ、委任状などで示しておく必要があります。

しかし、重い認知症であるBさんは、Cさんを「代理人とする」という法律行為の意味も判断できないでしょう。したがって、BさんはCさんを代理人とすることができない、すなわち、CさんがBさんに代わってマンションの売却の手続きをとることはできないということになります。

つまり、今のままでは、Bさん名義のマンションを売却することはできないのです。

成年後見制度を利用しよう

それでは、AさんはBさん名義のマンション購入を諦めなくてはならないのでしょうか。
 
そこで利用すべき制度が、「成年後見制度(せいねんこうけんせいど)」です。これは、行為能力が加齢などで衰えた人を保護する制度であり、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。

「法定後見制度」とは、家庭裁判所が選任した成年後見人などが、本人の利益のために本人に代わって契約などの法律行為を行うことができる制度です。Bさんの場合、この制度を利用すれば、家庭裁判所から選任された成年後見人など(Bさんの認知症の程度によって、成年後見人・保佐人・補助人のいずれかが選任されます)が、Bさんに代わって、マンションの売買など、財産管理を行うことができます。

一方、「任意後見制度」とは、本人がまだ十分な判断能力がある場合に、あらかじめ任意後見人を選任し、任意後見契約を公正証書にしておくことで、本人の意思能力に問題が生じた際、任意後見人が任意後見契約に基づいて、本人に代わって契約など、財産の管理を行うことができる制度です。

Bさんの場合に利用できるのは法定後見制度

Bさんの場合、認知症を発症しており、物事の善悪を判断する能力がない状態なので、任意後見制度を利用することはできません。したがって、Bさんが不動産の売買や、賃貸経営などの財産管理を行うためには、法定後見制度を利用する必要があります。

まず、法定後見制度を利用するためには、Bさんが住んでいる場所を管轄する家庭裁判所に、後見開始の審判を申し立てます。しかし、申立をすることができるのは、本人、配偶者、4親等以内の親族等ですので、Aさんは審判の申立をすることはできません。この場合、AさんはBさんの息子であるCさんに依頼して、家庭裁判所に後見開始の審判の申立をしてもらうことになるでしょう。 

申立書で、Cさんは「自分が成年後見人にふさわしいから選任してもらいたい」と、裁判所に伝えることができます。とはいえ、必ずしもCさんが成年後見人になる必要はありませんし、また、裁判所からCさんが選ばれるとも限りません。例えばBさんの財産をめぐって、Cさんや他の家族とトラブルがあるような場合には、弁護士が後見人に選任されることもあります。

後見開始の審判の申立がなされると、家庭裁判所で審理を行います。審理では、Bさんの認知症の程度について、医師の意見を聴取したり、誰が成年後見人になるのにふさわしいかなどを判断します。

そして、裁判所の審理を経て、ようやく成年後見人が選任されることになります。一般には家庭裁判所に申立をしてから、成年後見人が選任されるまで、3か月から半年はかかると言われています。

また、成年後見人が選任された後も、Aさんが購入を希望するマンションが、Bさんが今住んでいる、または今は住んでいないけれど今後住む可能性のある居住用マンションである場合は、売買の前に家庭裁判所の許可が必要となります。

成年後見制度を利用しなかった場合のリスク

成年後見制度は、申立から後見人が選任されるまで、半年近くかかることもあり、スピード感が要求される不動産投資の現場では、迂遠な方法であると思われることもあるかと思います。

本件でも、Bさんの息子のCさんがマンションを売ると言っているのだし、わざわざ時間をかけて成年後見人を選任しなくても、マンションを買うことはできないかとAさんは考えています。

それでは仮に、成年後見人を選任しないまま、マンションの売買契約を行った場合、どうなるでしょうか。
 
成年後見人を選任しないままマンションの売買契約を行ったとしても、そのことを理由に、Aさんが刑事罰を受けることはありません。

しかし、マンションの売買契約は、意思能力のないBさんが行ったもので、本来無効ですから、例えばBさんの娘のDさんが、「兄のCは勝手に父親の不動産を売って、自分の借金の返済に充てている」「Aさんとの間のマンションの売買契約は、兄が勝手にしたものだ。父親の意思に基づくものではないので無効だ」などと主張してきた場合、Aさんに勝ち目はないでしょう。このリスクは、不動産投資において、看過できないものがあります。

また、不動産売買契約の実務では、司法書士の先生による本人確認及び意思確認が厳格になされています。したがって、Bさんが成年後見人を選任しないままマンションを売却するのは、ほぼ不可能であると言えるでしょう。

著者紹介

竹村 鮎子
竹村 鮎子

弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。2015年に田島総合法律事務所(現 田島・寺西法律事務所)に合流し、現在に至る。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
http://www.fudousan-bengoshi.jp/

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