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竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所

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家賃を値上げしようとする際、もしくは値下げを求められた際の注意点

目次

長く不動産を経営していると、景気の変動などで家賃の相場が変わっていくことがあります。そんな時、所有する物件がある地域の相場に合わせて、家賃を値上げしたり、または借主が値下げを求めたりすることはできるのでしょうか。今回は家賃の値上げと値下げについて、法律的な観点から解説いたします。

【モデルケース】
Aさんは所有する土地上に1棟のマンションを建築し、複数の入居者に貸しています。賃借人の多くは更新を繰り返しながら長い間建物を借り続けており、家賃の滞納や近隣トラブルなどもなく、Aさんとも関係は良好です。このため、Aさんは家賃を入居時から据え置いてきました。

しかし、Aさんは、大家仲間の会合で、同じく大家であるBさんから家賃が安すぎるのではないかと言われてしまいました。Bさんによれば、Bさんも同じエリアでマンションを所有していますが、もっと高い家賃で募集をかけても、すぐに入居者は見つかるとのことです。

そこで、インターネットで周囲の不動産の募集広告を調べてみたところ、Aさんが所有するマンションの付近は、最近新しい駅ができて利便性が上がった影響か、周囲の同規模の居室も、Aさんのマンションよりも高い家賃で募集を出しているようです。

そこでAさんは、自分のマンションの家賃もできることならば、周囲と同じ水準に引き上げられないか考えています。

家賃は値上げできるのか?

そもそも契約期間中、家賃を値上げすることはできるでしょうか。これについて、借地借家法には「賃料増減請求権」(第11条、第32条)が定められています。

これは、固定資産税等の負担が増減したり、地価や建物の価格が増減するなど、経済事情が変動したり、付近の同種建物の家賃と比較しても大きな開きが出てきたりした場合には、家賃の値上げや値下げが請求できるという規定です。

したがって、家賃が安すぎる場合には、貸主は借主に対して、家賃の値上げを求めることができます。また、同様に、家賃が高すぎる場合にも、借主が貸主に対して、家賃の値下げを請求することもできます。

適正な家賃とは?

それでは、Aさんが新しく請求できる適正な家賃とはいくらくらいなのでしょうか。確かに、周囲のマンションの家賃と比較して、Aさんのマンションの家賃は安いようです。そうだとしたら、Aさんは、借主に対して、周囲のマンションの家賃と同じくらいの家賃への値上げを請求できるのでしょうか。

この点、家賃には法律上、「新規賃料」と「継続賃料」という2つの家賃があると考えられています。「新規賃料」とは、新たに賃貸借契約を締結する場合の家賃を指します。不動産屋さんの店頭などで出ている家賃は、新しく部屋を借りる場合の家賃ですので、「新規賃料」です。

しかし、今回の場合、Aさんのマンションに入居している借主は、みな、長い間、同じ家賃で入居しています。この場合には、「新規賃料」は適用されず、「継続賃料」が適用されます。

「継続賃料」とは、「継続にかかる特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料」と定義づけられています。

それでは、継続賃料とはどのようにして決められるのでしょうか。この点、「特定の当事者間において成立するであろう経済価値」ということがポイントとなります。すなわち、継続賃料は、単に「景気が良くなったから」とか、「建物の固定資産税が上がったから」というような一般的な事情だけでなく、これまでの貸主・借主間の個別的な事情まで考慮して決定する必要があるのです。

それでは継続賃料の算定方法はどのようなものでしょうか。

一般に、不動産鑑定における継続賃料の算定方法は、①差額配分法(新規賃料との差額に着目する手法)、②利回り法(元本価格と利回りに着目する手法)、③スライド法(経済情勢の変化に着目する手法)、④賃貸事例比較法(類似の事例に着目する手法)などの方法によって算定されます。

とはいえ、継続賃料の算定は、貸主と借主の個別的な事情にまで踏み込んだ判断が必要になるため、不動産鑑定士の先生でも頭を悩ませるほど難しいものであると言われています。Aさんの場合では、これまで家賃が長期間据え置きだったという事情も、継続賃料の算定においては重要な要素となってくるでしょう。どういうことかというと、「新規賃料の相場は20万円だけど、Aさんはこれまで10万円しか請求しておらず、特に問題もなかったのだから、倍額にするのは高すぎる」という判断がなされやすいということです。

Aさんがネット上で調べた家賃というのは、「新規賃料」のことであると思われます。しかし、必ずしも「継続賃料」は「新規賃料」とは一致しないこと、また、賃料増額請求の場合の継続賃料は、一般的には新規賃料よりも低額になる傾向があることに注意が必要です。

つまり、周囲のマンションが入居者の募集をかけている家賃が、Aさんの場合でも適正であるといえるとは限りません。

これがどういうことかというと、後述するように調停や裁判の費用をかけて賃料増額請求を行ったとしても、思うような家賃額に引き上げられないこともあるということです。したがって、Aさんが賃料増額請求を行うかどうかについては、慎重な判断が必要です。

賃料増額請求の手続きは?

Aさんは不動産鑑定士の先生に相談して、継続賃料を算定してもらったところ、やはり現在の家賃は安すぎると考え、テナントに対して賃料増額請求をしようと決めました。Aさんは具体的にどのような手続きを取るべきでしょうか。

①交渉の開始

まずは家賃の値上げについて、借主と交渉を開始しましょう。賃料増額請求の効果は、その意思表示が相手方に到達したときから発生します。つまり、借主に家賃の値上げを求めたとき以降から、家賃の値上げを求めることができるのです(なお、過去に遡っての増額請求は認められません)。

このため、いつ、家賃の値上げを請求したか客観的に明らかにするために、家賃の値上げを求める内容を記載した内容証明郵便を相手方に発送するのが良いでしょう。

②調停の開始

話し合いが決裂した場合には、裁判所で調停を行います。調停とは、裁判所で裁判官や調停委員(賃料増額請求の調停の場合には、不動産の専門家であることが多いです)を交えて、話し合いによって解決を図る手段です。第三者が間に入ることで、当事者だけで行っていた交渉よりも、スムーズに進むことも期待されますが、あくまで話し合いですので、当事者が合意できなければ、調停は不成立となります。

なお、賃料増額請求は、法律上、訴訟を起こす前に必ず調停を行わなければならないとされています。このことを、調停前置主義(ちょうていぜんちしゅぎ)といいます(民事調停法第24条の2)。調停前置が求められているのは、当事者の長期間にわたる信頼関係が重要である賃貸借契約における争いごとについては、まずは話し合いで解決することが望ましいと考えられているためです。

③訴訟の提起

調停を行っても、借主との間で合意ができない場合、訴訟を行うことになります。訴訟では、多くの場合、裁判所が選任した不動産鑑定士による継続賃料の鑑定が行われ、その結果に基づいて適正な家賃額が判断されます。この場合、鑑定費用も当事者の負担となります。鑑定費用がいくらくらいになるかはケースバイケースですが、物件によっては100万円以上もの費用が掛かる場合もあります。

賃料増額が認められるまでの家賃額は?

賃料増額請求の効果は、賃料増額の意思表示が借主に送達されてから、すなわち、一般的には内容証明郵便が借主に届いてからであることはご説明しました。それでは、交渉から始めて、裁判で判決が出るまでの間の家賃はどうなるのでしょうか。

これについては、借地借家法で、賃料増額請求があった場合でも、借主は、従前どおりの家賃を支払えば足りると規定されています(借地借家法32条2項など)。すなわち、借主は従前どおりの家賃を支払っていれば、家賃未払いとなることはありません。

しかし、裁判で賃料増額を認める判決が出た場合、借主はこれまで支払っていた家賃との差額については、年1割の利息を付けて支払いをしなくてはなりません。

Aさんの場合で言えば、家賃の値上げについて合意ができるまでは、借主にはこれまでどおりの家賃しか請求できません。

借主から家賃の値下げを求められた場合

それでは設例のBさんが、借主から家賃が相場よりも高いとして、値下げの請求をされた場合はどうなるでしょうか。

交渉や調停、訴訟の流れは賃料増額の場合と同様です。また、交渉から新家賃が決定されるまでの家賃について、貸主は賃料減額請求がなされても、従前どおりの家賃を請求することができます。

しかし、家賃の値下げを認める判決が出た場合には、貰い過ぎた家賃に年1割の利息を付けて、借主に返還しなくてはなりません。

著者紹介

竹村 鮎子
竹村 鮎子

弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。2015年に田島総合法律事務所(現 田島・寺西法律事務所)に合流し、現在に至る。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
http://www.fudousan-bengoshi.jp/

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