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税理士・不動産鑑定士小林千秋の プロが教える資産の守り方

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不動産投資の収益構造と相続対策

目次

過熱する不動産投資と相続対策が行われた昭和の終わりから平成にかけてのバブル期があったことが忘れ去られようとしています。バブルがはじけた反動で多くの銀行が不良債権の処理に追われて統廃合を繰り返し、失われた20年と呼ばれるほど景気が低迷しました。しかしその時代も遠くなりました。おそらく現在の銀行の、当時の行名を正確に言える人はほとんどいないと思います。

近年、再び不動産投資が流行し、相続対策の必要性が叫ばれるようになっていますが、そこにはいくつかの落とし穴があることに注意が必要です。

不動産投資を勧める側は、「建物を建築することにより土地が貸家建付地となり、資産を現金預金で保有することよりも貸家建付地として、すなわち不動産として取得することができるので相続税が少なくなり、かつ借入金として債務控除を受けることによりさらに相続税が減少しますよ!」ということがうたい文句になっています。しかし、そんなうたい文句の通りに進むとは限りません。不動産投資は長期にわたるものであるから、投資物件の購入には細心の注意を払って下さい。本コラムでお伝えする以下の点には十分検討をする必要があります。

利回りついて―3種類の利回りを検討しよう

表面利回り

表面利回り=年間家賃収入÷物件取得価格×100
最も簡単に計算できる利回り。

実質利回り

実質利回り=実質収入金額÷(物件取得価格+購入時諸経費)×100です。

実質収入金額とは、家賃収入から経費を差し引いたものです。購入時には仲介手数料、登録免許税、不動産取得税と、購入価格以外にかなりの経費がかかります。購入する場合、一応の目安として、立地条件にもよりますが表面利回りは物件価格の6~10%前後が購入目安です。実質利回りはそれから2%前後低く、利回り仲介手数料等は当然購入金額に加算されるため実質利回りはかなり下がるのが一般的です。

空室想定利回り

物件を購入する場合、空室想定利回りを考慮しましょう。

空室率は立地条件、建物の古さ、部屋の間取り等に左右されます。予定していた収入が予定通りに入ってこない空室問題は避けて通ることができません。日本の賃貸市場における構造的な問題です。少子化等による賃貸需要の減少や「入居中」にもかかわらず「家賃滞納者」が急増しているからです。その辺をしっかり調査して購入しましょう。

利回りは借入の返済を見越して高めの水準が必要です。投資物件の価格が低い程、利回りは高くなります。投資物件を購入する場合、値引きを交渉して返済金を低く押えるようにしてください。

アパート・マンションの家賃について―長期の返済計画では物件価値の下落を検討すること

共同住宅の場合、家賃は借入金の返済の原資であるため重要な要素になります。ハウスメーカー等が作成した収支計算表を見ていると、家賃はほぼ一定の水準で入ってきている事になり、返済計画に対し築年数が古くなっても同じ収入が入ることになっています。そこに大きな落とし穴があるのです。新築間もない頃は家賃水準もそんなに下がらないのですが、建物が古くなったり、近隣に新築物件が建築されたりすると、物件同士が比較され、急速に家賃水準が下がるという事が多々あります。

借入金の返済は長期にわたるため、十分余裕を持った返済計画が必要となります。そのため、上記のように家賃が下がること自体も想定しておくべきなのです。

空室率について―中古物件は要注意

物件が古くなればなるほど空室率が高くなります。特に中古物件を購入する場合、相当賃料を下げるなどしないと空室が埋まらないのが実情です。確定申告していればよくわかります。

私の知り合いで、ある大手メーカーの言うとおりにアパートを3棟建築しましたが、ローンの返済に比較して空室率が多いため、借入金の返済が追い付かず年金までローン支払いの原資となってしまったケースもあります。また、空室が多いと利回りが低いため売却も困難になります。

修繕費について―1年分の家賃収入がかかることも

年数が経過すると外壁の修理や共用部分のリフォームが必要になるのが実情です。木造アパートでも空室が出て、新たに建物を修繕し入居者を募集する場合、おおよそ60万円位かかるのが普通です。2LDKや3LDKのファミリータイプでは100万円位かかります。内部のトイレやキッチンを変えるとさらに経費が掛かり、1年分の家賃収入がなくなるケースも多々あります。共同住宅を購入する場合、新築物件はともかく中古物件は特に修繕費に注意が必要です。

借入金について―返済計画はあらゆる事態を想定して余裕のある計画を組むこと

借入金は元利均等払いが多いため、借りた期間20年間一定額を支払い続けなければならない為、全室入居を想定せず、家賃についても下がることを見越して余裕のある返済計画を組みましょう。

RC(鉄筋コンクリート構造)と木造について―解体費用というRCのデメリットに注意すること

RCは、定期的に掛かるメンテナンスや固定資産税が多額になります。木造アパートは仮に全室空室になっても、取壊して更地化するのは容易です。しかし、RC造りになると更地化は解体するのに巨額の費用が掛かるため、オーナーチェンジによる売却しかありません。空室が多いと、建物を取り壊して更地になった価格から、取壊し費用を差し引いた価格になるケースもあります。

家賃保証の落とし穴・家主業のリスク―業者の甘い言葉に騙されてはなりません

最近、S銀行が融資した物件のシェアハウスを、家賃保証を前提に購入し、保証会社から一方的に家賃が支払われなくなったため、ローンだけが残り訴えを起こしたケースが新聞に掲載されました。

家賃保証は十分注意して下さい。内容を良く検討してみて、

① 家賃保証期間はどの位か
② 保証する会社の経営や信頼性は大丈夫か

上記2点を十分吟味して購入しましょう。業者の言いなりになって購入すると失敗するケースが多いはずです。

家賃保証という甘い言葉に騙されてはいけません。何年保証してくれるか、古くなった場合にはどうなのかなど、確認すべき点は多々あります。一般的には建築業者は家賃保証という甘い言葉によって勧誘するケースが多く、例えば家賃を30年間保証するかのような広告が言葉巧みになされているケースもありますが、それは絶対に信用してはいけません。古くなればなるほど家賃は下がることを肝に銘じてください。

家主業は世間でいうほど気楽な商売ではありません。

不動産投資での法人化と相続対策について―それぞれのスキームのメリット・デメリットを検討すること

不動産投資をする場合、個人のままやっていくか法人を設立するか決めなくてはなりません。

法人を設立する場合

所有法人にするか管理型法人にするかを決めなければなりません。また、法人を設立する場合には個人でやっていくよりも節税になるメリットや、逆に赤字でも住民税を払わなければならないといったデメリットがあるため、それらを十分検討する必要があります。

また、自分が所有する不動産を管理する法人を設立する際、管理を委託する不動産管理法人にするなら、不当に高額な管理手数料は税務上否認されることに注意しましょう。管理手数料については、高ければ高いほど課税所得が減るので節税になるのですが、その点を十分に検討する必要があるでしょう。また、サブリース法人を設立して家賃保証方式で節税するスキームもありますが、保証家賃は一般の相場家賃より当然低くなりますので、借入金返済期間とのバランスも考えて検討する必要があります。

相続対策と個人・法人所有について

収益物件を購入する場合、年齢によって個人・法人所有のどちらがメリットになるか、「所得税」・「法人税」・「相続税」の3点について十分検討するべきです。
私は原則として、70歳以上になったら借入金で投資物件を購入する場合には個人所有を勧めています。なぜなら個人所有の場合、借入金は債務控除となるため相続税が少なく済むのです。法人所有の場合は株式に反映されるため、個人所有とした方が相続対策上有利でしょう。

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著者紹介

小林 千秋
小林 千秋

税理士・不動産鑑定士
有限会社横浜総合コンサルティング代表取締役
昭和25年、長岡市に生まれる。明治大学大学院卒業後、一般社団法人日本不動産研究所、会計事務所を経て、平成元年4月、税理士・不動産鑑定士として独立開業する。
財産評価に精通しており、現在、両資格を活かして相続対策、相続税の申告業務、事業承継対策、株式評価、不動産の鑑定評価、広大地評価等特殊な案件を担当すると同時に、財産評価に精通する税理士・不動産鑑定士として各種セミナーの講師を務めている。
URL:http://yokohamaconsul.com/

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