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竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所

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悪徳業者に騙された!そんなとき、返金を求めることはできるのか!?

目次

本ウェブサイトにおいて、大家さんが連載しているコラムの中でも、特にリスクとされているのが、「業者に騙される」こと。それではなぜ、「業者に騙される」ことがリスクと言えるのか、法律的な側面からモデルケースを用いてご説明いたします。


【モデルケース】
Aさんの場合
 不動産投資初心者のAさん。不動産業者に相談したところ、郊外のワンルームマンションを紹介されました。業者によれば「このマンションの立地は、今は不便だが、将来的には都心の大学が移転して、地下鉄の駅ができる予定である。そうなれば学生が住むためのマンションの需要があるし、マンションの価値自体もあがる」とのことでした。
 
 Aさんは不動産業者の言葉を信じて、勧められた不動産を購入しましたが、後から都心の大学が移転する計画はあくまで噂レベルのもので、全く具体的になっていないことが判明しました。

 Aさんの場合、業者のセールストークにまんまと乗せられた形になります。Aさんは、大学が移転しないのならば、マンションの購入を取り消したいと思っています。さあ、Aさんはどのような手段を取ることができるでしょうか。

法律上取りうる、3つの手段について

⑴ Aさんのようなケースが当てはまりそうな法律の規定は、①民法上の錯誤無効(民法95条)、②民法上の詐欺取消(民法96条1項)、③消費者契約法上の取消(消費者契約法4条)などが考えられます。

それでは1つ1つ法律の要件を検討していきましょう。

⑵ 錯誤無効

錯誤とは、内心と表示が異なっていることを、表意者が意識していないことと言われています。難しい概念ですが、例えば、買主がりんごを買いたいのに、間違えて「みかんをください」と言ってしまったような場合がこれに当てはまります。民法上、法律行為の要素(重要な部分)に錯誤があった場合には、表意者(Aさん)に重大な過失がない限り、その法律行為は無効になるとされています。契約が無効とされれば、最初からその契約はなかったことになるので、Aさんは返金を求めることができます。

しかし、Aさんの場合、りんご(内心)とみかん(表示)を間違えたのではなく、マンションを買いたくてマンションを買ったのですから、内心と表示の不一致はありません。

Aさんの場合、「大学が移転して地下鉄の駅もできるから」と思ったからマンションを購入したのに、実際には大学の移転の話などなかったというものですから、マンションを購入する動機に錯誤があったといえます。動機の錯誤の場合も、裁判例では、「動機が相手方に表示されていること」を条件に、売買契約を無効にすることが認められています。

具体的にどういうことかといえば、Aさんの「大学が移転して地下鉄の駅もできるから購入する」という動機が、売主に対しても伝えられており、また、それが契約の重要な部分であることが認められれば、契約を無効にできるということです。

⑶ 詐欺取消

業者に騙されたと思った人がまず考えるのは「これは詐欺ではないか」ということかと思います。確かに、民法上、詐欺による意思表示は取り消すことができるとされています。つまり、詐欺によって不動産を購入した場合には、これを取り消すことができるということです。

仮に、業者がAさんを最初から騙して不動産を買わせるつもりで、「大学が移転する」などとうそをついた場合、詐欺が成立しそうです。

⑷ 消費者契約法上の取消

消費者契約法とは、消費者と事業者との間の契約について、消費者の保護を図るために制定された法律です。消費者契約法には、消費者が契約について勧誘された際に、①重要事項について事実と異なることを告げられたこと、②将来の変動が不確実な事項について断定的判断が提供されたこと、③重要事項について不利益となる事実が告げられなかったこと、④勧誘の場所から事業者が退去しないまたは自らの退去を妨げられたことの事情がある場合には、契約を取り消すことができる旨、定められています。

しかしAさんは「不動産投資家」であり、「消費者」ではないので、消費者契約法上の規定は適用されないことが原則です。

錯誤行為や詐欺取消を主張する場合の立証の壁

⑴ Aさんは錯誤無効と詐欺取消ならば裁判でも認められると思い、売主である不動産業者を相手に裁判を起こすことにしました。さて、この場合、どのような問題があるでしょうか。

⑵ 錯誤無効の場合

不動産購入の動機が『近い将来大学が移転する予定があること』であることを業者に伝えていた場合、錯誤無効が認められる余地があることは、前述のとおりです。

しかし、仮に裁判になった場合、「不動産購入の動機を伝えたこと」については、Aさん側が証明しなくてはなりません。営業マンのセールストークの流れで大学の移転などの話が出ただけのような場合には、言った言わないの水掛け論になってしまいがちです。

証拠がないと負けてしまうのが裁判です。したがって、少なくとも「大学が移転して地下鉄の駅ができるから買う」ということ伝えた証拠として、業者とのやりとりのメールなどを証拠とする必要があります。そのような証拠が何もない場合、Aさんは裁判で負けてしまうおそれが高いです。
 

⑶ 詐欺取消の場合

法律上、「詐欺」と言えるには、「業者が最初からだまそうと思って」「Aさんを騙し」「その結果、Aさんが騙されて」「不動産を買った」ということが必要です。そして裁判になった場合、これらのことはAさんが証明しなくてはなりません。

「業者が最初からだまそうと思って」という部分の証明は、非常に難しいものです。なぜなら、業者が「大学の移転計画なんてないけれど、不動産を買わせたいから嘘をつこう」と、売買契約の当時から思っていたことを、Aさんが証明しなくてはならないからです。

もし、業者側が「自分も大学の移転計画は本当だと思っていた。だますつもりなどなかった」と反論してきたら、Aさんが「本当は移転計画などないことは最初から知っていただろう」「最初から騙して不動産を買わせるつもりだっただろう」と言ったところで、Aさんが業者の内心まで証明できる術は、ほぼないと言ってよいでしょう。
   
このように、「詐欺」を証明することは非常に難しいため、Aさんの勝訴の見込みは低いものといえるでしょう。

勝訴しても立ちはだかる執行の壁

⑴ それでもAさんが困難を乗り越えて裁判に勝訴した場合、Aさんはすぐにマンション購入代金を返してもらえるでしょうか。

⑵ 裁判に勝ったとしても、自動的に業者からお金が支払われるわけではありません。Aさんが自ら業者の財産に強制執行をかけて、マンション代金を回収しなければなりません。
具体的には、Aさんが業者の預金口座を差し押さえたり、業者名義の不動産を競売にかけたりする必要がありますが、業者名義の口座や不動産はAさんが調査して、特定しなくてはなりません。

このように、Aさんが業者の預金や不動産などの財産を把握していない限り、裁判に勝ったとしても代金の回収は難しいのです。

また、仮にAさんが業者名義の預金口座を見つけることができたとしても、口座にお金が入っていなければ全くの無駄骨になります。

裁判で生じる時間の壁

⑴ Aさんの主張を裏付ける証拠が十分で、また、業者も大手であり、売買代金の回収も見込める場合でも、裁判には長い時間がかかることに注意が必要です。

⑵ 裁判を起こして判決が出るまでには1年以上の時間がかかることも珍しくありません。Aさんはすでにマンションを購入している状態はありますから、「判決が出るまでローンの支払を待ってほしい」という言い分は金融機関には通用しないでしょう。

したがって、裁判期間中、Aさんは賃料収入をローンの支払いに充てる必要があるならば、マンションを誰かに貸す必要があると言えるでしょう。しかし、判決が出て、マンションの購入の無効や取消ができた場合、借主との関係はどうなるでしょうか。

そもそも、マンションを人に貸すという行為は、売買契約が有効であることを前提とした行為であるといえます。そのような状態で、Aさんが無効や取消を主張することは矛盾しないのでしょうか。

Aさんが仮に判決が出るまでの間、マンションを人に貸すことは慎重に検討し、場合によっては人に貸すことは控えなくてはなりません。

詐欺罪で立件したくても、刑事手続の壁はかなり厚い

⑴ 民事手続はリスクが大きすぎるため、あきらめたAさん。しかし、どうしても納得がいかないので、警察に業者を詐欺で刑事告訴しようかとも考えています。

⑵ しかし、刑事手続は国家権力が一個人に対して身体を拘束したり、刑罰を与えるものなので、民事手続以上に証拠が重要なものとなります。したがって「詐欺罪」として立件する場合は、民事手続以上にハードルが高いものといえます。
   
このように、業者のセールストークに乗せられて不動産を購入した場合、買主が売買代金の返金を求めることは難しく、多くの場合、泣き寝入りをするしかないのが現実です。

物件購入の際は、業者のセールストークを鵜呑みにせず、慎重に判断をすることが重要です。

著者紹介

竹村 鮎子
竹村 鮎子

弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。2015年に田島総合法律事務所(現 田島・寺西法律事務所)に合流し、現在に至る。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
http://www.fudousan-bengoshi.jp/

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