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『融資地獄』連載

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【第15回】金融機関のエゲツない手口に騙されるな! 無知が引き起こす融資地獄 

目次

負動産+身の丈に合わない借金=「生き地獄への片道切符」

サラリーマン大家として不動産投資を始める場合、ほとんどの人が金融機関から融資を受けるだろうと思います。
 
融資は、手元の資金(自己資金)が不足している人が「稼ぐマシーン」である物件を買い、効率よく収益を得るための手段ですので、その仕組み自体に問題があるわけではありません。ただし、注意しなければならないことがあります。融資は簡単に言えば借金であり、返済しなければならないお金ですので、返済能力以上の融資を受けてはいけないということです。
 
では、融資の金額はどのように決まるのでしょうか。計算の基準となるのは、融資を受けて買う「物件の評価」と、融資を受ける人の「個人の評価(=属性)」の組み合わせです。
 
また、物件の評価には積算評価(土地の価格と建物の価格を足した評価)と、収益還元評価(その物件がどれくらいの利益を生み出すか算出する評価)があります。
 
スルガ銀行の問題は、個人の評価と物件の収益還元評価の比重が大きかったことです。結果、物件そのものの価値(積算評価)よりも大きな額の融資が出てしまい、物件の買い手であり、お金の借主でもあるオーナーが多大な返済負担を背負うことになりました。
 
逆にいうと、個人の評価と物件の収益還元評価の比重が小さく、積算評価を重視して融資額を算出すれば、スルガ銀行のようなトラブルが起きる可能性は抑えられるということです。ただし、それでも返済能力以上の融資が出てしまうこともあります。
 
例えば、地方の国道沿いにある大規模なRC造物件などは積算評価が高くなる傾向があります。しかし、オーナー側から見ると、RC造物件はメンテナンスや修繕費用が高くなりますし、大規模な物件ほど固定資産税も高くなります。つまり、物件の評価が良くても稼ぐマシーンとして優秀とは限らず、期待したほど利益が出ないこともあるのです。
 
そのようなリスクを抑えるためにも、融資には慎重にならなければなりません。限度額一杯まで借りるのは危険です。融資を受ける際には、物件の価値と収益性をしっかり確認し、物件の実力以上の評価になっていないか確認する必要があります。融資で失敗する人たちは、スルガ銀行で借りたから失敗したのではありません。自分と物件の返済能力を超えて融資を受けてしまったからなのです。

キャッシュのないサラリーマンに「不動産事業」はできるのか?

融資の金額が大きくても、その額の算出基準が適正であればトラブルになる可能性は小さいはずです。適正かどうかの判断は物件の価値や借主の属性によって変わります。

例えばサラリーマン大家で、頭金を最低でも1割から3割ほど準備していれば、物件購入後に家賃が下落しても、空室が続いても、修繕費がかかったとしても、資金繰りの面で行き詰まる可能性は小さくなります。

市場や景気は変化しますので、儲けが出ない時期もやってくるでしょうが、お金がしっかり回っていれば賃貸事業は続けられます。重要なのは長く継続することで、その実績が金融機関からの信用になり、次の融資につながっていくのです。
 
一方、手元の資金がない人はちょっとした景気の変動によっても簡単に事業が行き詰まってしまいます。「かぼちゃの馬車」で問題になった人も不正融資を受けた人も、ほとんどが資金がない人であり、そういう人たちが多額の融資を受けたことがそもそもの問題です。
 
サラリーマン大家や、彼らを対象とする融資が増えたことで、億単位のお金を簡単に借りられるようになりました。しかし、不動産投資は本来、先祖代々の土地を引き継ぐ地主や、事業で成功し、手元に余っている資金を有効活用したい資産家などが行うものでした。

融資を受け、事業として行う場合でも、融資元の金融機関と長年の付き合いがあり、信用を積み重ねてきた人が行うものだったのです。

そう考えると、キャッシュがないサラリーマンが大家業をやることがいかに難しいことかわかると思います。サラリーマン大家向けの融資が増えた背景には、日銀の方針や、マイナス金利によって金融機関が利益を出せなくなったという事情があります。しかし「借りられるから借りて良い」わけではありません。あくまでも原則は「返せる人が借りて良い人」なのです。

「第三者委員会 調査報告書」に明示されたエゲツない商売

融資について重要なのは、返済能力以上の融資を受けないことです。これは自己防衛の手段として重要ですし、そもそも返済能力以上の融資を受けた時点で、不動産投資で稼ぐというビジネスモデルは成立しません。
 
趣味として物件を買うなら構いませんが、事業のために、稼ぐマシーンとして買うのであれば、着実に収益を生み出すことが重要です。長く、安定的に事業を続けていく必要もあります。それを根幹から揺るがすのが返済能力以上の融資を受けることなのです。
 
融資についてもう1つ押さえておきたいのは、金融機関を信用しすぎないということです。金融機関は真面目で悪いことをしないというイメージを持っている人もいるかもしれませんが、決してそうではないことはスルガ銀行の問題を見ても明らかでしょう。
 
金融機関もビジネスとして融資しますので、稼ぐためにさまざまな施策を考えます。その取り組みが時に一線を超えて、通常ではありえないゆるい融資基準を作ったり、法律に触れる行為を生み出すことがあるのです。
 
スルガ銀行についてどんな不正があったかを知るためには、ざっくりとでも良いので第三者委員会が作った調査報告書に目を通してみると良いと思います。
 
そのなかには、融資を受けるオーナーの自己資金確認資料の偽装や、その根拠となる収入関係資料の偽装の実態が書かれています。また、このような偽装によって借り手の属性を実態より高く見せている一方、レントロール、物件概要書、入居状況の偽装により、物件の価値も実態より良く見せていたことがわかります。
 
スルガ銀行の問題は、借り手であるオーナー側もこのような偽装を承知していたか、黙認したか、あるいは面倒くさがって確認しなかったため、さらに大きな問題に発展していきました。
 
誰が、どんな風に、どんな手口によってトラブルを抱えたか知るためにも、調査報告書や関係資料などを読み、融資を取り巻く実態をしっかり勉強することが大切です。
 
次回は、報告書の内容に踏み込んで、スルガ銀行問題の実態に迫ります。

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著者紹介

不動産投資塾編集部
不動産投資塾編集部

投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾新聞社」を介し、公平な情報をお送りいたします。

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