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「サブリースもシェアハウスも、問題の根本は業界の構造にある」日本住宅性能検査協会/代表インタビュー(前編)

目次

日本住宅性能検査協会は、不動産をめぐるトラブルの解決を支援するNPO法人。協会の活動内容と発足の背景について、理事長の大谷昭二さんに話を伺った。

不動産投資塾新聞社インタビュー(前編)

大谷さんが理事長を務める日本住宅性能検査協会はどのような活動をしているのですか。

大谷昭二理事長(以下敬称略) ひとことで言えば、住宅の貸し借りや売買に関するよろず相談室のような役割で、NPO法人の立場から住生活のさまざまなトラブル解決を支援しています。

協会名に住宅性能検査と入っています。相談内容としては住宅の瑕疵や物件の性能などに関わることが多いのでしょうか。

大谷 物件オーナー側からはその分野の依頼が多いですね。アパート経営を例にすると、オーナーは施工会社などに物件の建築を依頼します。その物件の価値や質は、本来は第三者が検査することで検査の客観性が担保されるわけですが、実際は業者の関連会社が行っています。そのような環境の中で適切な取引を実現するためには、業界内の各企業、オーナー、金融機関、行政などと連絡を取りながらトラブル解決に取り組める団体が必要です。NPO法人はその1つで、トラブルの早期解決に貢献できると考えています。

協会はどのようにして発足したのですか。

大谷 きっかけとなったのは賃貸物件の敷金問題です。今から20数年前、私は賃貸物件の管理会社を経営していました。ある日、日々の管理業務としてアパートなどを回っていた時、たまたま居合わせた住民の女性に「部屋を見てくれ」と声をかけられました。その方は間もなく退去するということで、できるだけ多く敷金を戻してもらおうと部屋を綺麗に掃除していました。「千円でも多い方が助かります」「これくらい綺麗になったのですがどうですか」と私に意見を求めてきたわけです。

綺麗になれば敷金が多く戻りますね。

大谷 はい。ただ、そのころはまだ原状回復の概念が浸透しておらず、貸し手であるオーナー側に敷金は返さないと考える風潮がありました。オーナーの中には、敷金を返さないだけでなく、クロスの貼り替え費用などを追加で取るところもありました。私はそのような状況を理不尽だと思いました。オーナーに「敷金は戻りません」と言われ、借り手が何も言えなくなってしまうのは公正とは言えず、公平でもありません。社会に寄り添うという観点から見て、借り手に知識と経験の下駄を履かせ、同じ土俵に立てるようにする人が必要だろうと考え、それが協会発足につながっていったのです。

公正さと公平さが発足の原動力となったのですね。

大谷 そうです。建設、施工、賃貸、ローン契約などは知識と経験が足りない借り手が思わぬ不利益を被る場合があります。つまり、情報弱者が損をしやすいのです。そのような環境を健全化するために、公正で公平であることが重要です。オーナーの中には目先の数万円を取りたいと思う人もいますが、業界全体の将来的な成長を考えると、適正に処理した方が長い目で見て利益になるのです。

敷金に関しては、その後、法律やガイドラインが整備されました。

大谷 そうですね。賃貸契約は契約自由の原則がありますので、クロスの貼り替え費用は借り手負担といった特約をつけることができます。ただし、消費者契約法が制定されたことで、借り手は不利な契約から守られるようになりました。東京都で業者向けの条例やガイドラインができ、敷金清算をめぐる判例も積み重なってきたことで、かつて無法地帯だったこの分野は、現状では関東から名古屋くらいまでのエリアで大幅に改善されたと思います。

物件の借り手が守られるようになれば、健全な業界になりますね。

大谷 必ずしもそうとは限りません。そもそもの原因は知識や経験の差や、その差から生まれる力関係のアンバランスですので、物件の貸し手が不利になるケースもあります。サブリース問題がその例といえるでしょう。物件の貸し手であるオーナーには、地方で土地を持て余していた農家の高齢者などがいます。一方、サブリースの仕組みで一括で借り上げるのは大手企業ですし、その中には一部上場企業もあります。どちらの方が力が強いかは明らかです。

サブリースに関しては貸し手であるオーナーへの支援が必要となるわけですね。

大谷 そう思います。しかし、現状は逆で、法律がサブリース業者に有利になっている側面があります。例えば、賃貸借契約は借地借家法にひも付き、借地借家法の借り手の減額請求権を認めています。サブリースではサブリース業者が借り手ですので、家賃の支払いが厳しくなったサブリース業者が「家賃を安くしてくれ」とオーナーに言うことができます。力が強い上に減額請求権も発生する構図になっているのです。

サブリースの構造的な問題に着目したのはいつからですか。

大谷 敷金問題に取り組み、協会を作ったころからおかしいのではないかと思っていました。いまから15年ほど前のことです。きっかけは、「敷金礼金ゼロ」をアピールする大手企業のテレビCMを見たことでした。

どこに違和感を持ったのでしょうか。

大谷 賃貸物件は普通に暮らしていたとしても毀損、破損、汚損が発生します。オーナーは次の人に貸す前にそれら修復しますので、礼金なしはまだしも、敷金なしでどうやっているのだろうかと不思議に思ったのです。

敷金不要なら借り手のメリットは大きいですね。

大谷 問題はそこなのです。CMを見ると敷金がいらず、原状回復の費用がかからないという印象を受けます。ところが、実態はそうではありません。敷金として先に預けるお金はありませんが、退去するときにはしっかり原状回復の費用を取られるのです。

なるほど、敷金として先に預けるか、後で原状回復の実費を払うかという違いで、結局は費用がかかるのですね。

大谷 そうです。そのことがきっかけになりマンスリーマンションを手がけるサブリース物件を調べていったところ、借り手が退去する際にサブリース業者が原状回復していないケースがあることがわかってきました。経年劣化の修復はオーナーが費用を負担しますが、棄損、破損、汚損は借り手も負担します。そのガイドラインを適用していないというクレームが一定数発生していることがわかり、協会にも似たような内容の相談が寄せられるようになったのです。

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著者紹介

不動産投資塾編集部
不動産投資塾編集部

投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾新聞社」を介し、公平な情報をお送りいたします。

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