石川貴康の超合理的不動産投資術
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2018年11月13日(火)
民泊ビジネスをお勧めする理由と私は手を出さない理由
日本政府が海外旅行客を積極的に呼び込み、インバウンド需要が急激に増えています。そこでブームになっているのが民泊です。一時は空き部屋を有効利用できることで話題になった民泊ビジネスですが、徐々に法整備が進んで気軽な参入が難しくなっている現状があります。今回は民泊について、私の所感とともに解説してみたいと思います。
民泊は必然的に広がっていく「アイドル・エコノミー」の世界
エアビーアンドビー(以降、エアビー)が登場して、日本でも民泊が急速に広がっていきました。海外でエアビー体験をしている友人もたくさんいて、便利さや安さはよく聞いていました。
日本に訪れる外国人旅行者も増える一方でした。一時期、仕事で大阪に行っても宿が取れない時期もあり、海外旅行者の増加を吸収できるだけの宿泊キャパシティーがないことが問題になりました。
もともとは空いている自分の部屋を貸し出すことで、現地の生活に触れられる素晴らしい宿泊形態として紹介されたエアビーでしたが、目ざとい人たちがアパートやマンション、空き家を貸し出すことでビジネスチャンスになると気付き、飛びつきました。時を同じくして、ウーバーが個人の自動車をタクシーのように呼び出して移動に使えるサービスを始めました。
空いている部屋・家や空いている自動車という資産を有効に活用することでビジネスにするということです。大前研一さんも「アイドル・エコノミー」と名付けました。遊休(アイドル)状態の資産(リソース)を使うビジネスということです。
世界中には、稼働率の低い遊休資産が溢れています。ITの進展によりこうした遊休資産を有効活用することでビジネスチャンスにしていくトレンドは、今後も続くでしょう。まして、訪日外国人を増やそうとする日本では、民泊は必然的に広がっていくはずです。
2018年上半期だけでも、訪日外国人は1,500万人を突破し、過去最高を記録しています。既存ホテル、旅館だけではさば切きれないのですから、民泊は進めざるを得ないはずなのです。
下町の長屋風民家でエアビーアンドビーを始めた知人の話
さて、ここから私の知人たちの実際の例をお伝えします。まず、最初は下町の長屋を買い取ってエアビーにした人の例です。
こちらは大成功で、今も相当の稼働率を誇っています。特に桜の季節は満員です。月のうち数日の宿泊があれば、ローンが支払えて、それ以上ならキャッシュが残る状態です。
外国人には下町は人気です。私が住む谷根千は毎日外国人でごった返しています。インバウンド需要は旺盛で、谷根千地区は以前から日本の古い旅館が大人気でしたが、今は民泊も大人気です。
私の知人はリフォームをしっかりし、近隣にも気を配り、しょっちゅう仕事帰りに掃除に立ち寄る働き者です。近所づきあいに気を配るので、近隣からのクレームもありません。また、ホストとしての評価も高く、エアビーのスーパーホストに認定されています。
人気の下町で長屋をリフォームし、近隣と宿泊者に気を配ることで、大人気のエアビーになっています。
分譲マンションのペントハウスでエアビーアンドビーを始めた知人の話
もうひとかたは、分譲マンションのペントハウスを買い取ってエアビーを始めました。部屋数も多く、ベッドルームが3つとれて、大きなリビングとキッチンがあります。最上階のため景色が良く、都心の夜景が見える素晴らしい物件でした。
購入後知人は相当のリフォームを行い、豪華な内装にしました。エアビー登録後は大家族やグループ旅行者が押し掛けましたが、その後、住民とのトラブルになりました。見知らぬ外国人が入れ替わり立ち替わり来て、大きな声でしゃべるので住民から管理組合に訴えがなされたのです。
管理組合では、規約に反すると散々責められました。エアビーに、急きょ予約キャンセルを伝えてると、こちらもトラブル化しました。エアビーの運営は絶望的になりました。
エアビーの運営費、トラブルの保証、管理委託料金を考えると運営中も儲からなかったでしょう。高い投資をして、結局エアビーにできず、なんとか収益を上げようと努力しましたが、努力の半ばでこの物件は転売となりました。もちろん、購入費用、リフォーム代、途中の運営費などを考えると大きなマイナスだったでしょう。
知人は分譲マンションでエアビー運営が問題化するタイミングの、まさにそのトレンドの中にいたのです。それでも、売却ができて、トラブルを脱することができたので、経済的に打撃はあっても、それでもよかったという感じではないでしょうか。
実家の空き屋で簡易宿泊所を始めた
別の知り合いは世界的に有名な観光地近くにある実家を最近簡易宿泊所にしました。エアビーで旅館業法や消防法上のトラブルに遭うくらいなら、きちんと簡易宿泊所として正式に事業にしようと考えたのです。
実家は既に両親が他界し、空き家でした。田舎なので大きな家です。処分するのももったいない日本家屋だったので、最初はエアビーにしてみたのです。ですが、継続的な宿泊が見込めるし、変に中途半端な規制を受けるくらいならきちんとした宿泊施設として事業化しようと判断し、簡易宿泊所にしたのです。成果はこれからですが、今後のインバウンド需要では、相当の訪日観光客が見込める地域ですので問題がないでしょう。
旅館業法に触れるエアビーと規制の網の強化
エアビーについては、様々な規制の網がかけられ始めています。こうなると、当初の自宅の空いている部屋を貸し出すといった牧歌的なアイドル・エコノミーではなく、事業としての扱いになってしまいました。
訪日外国人を増やすという掛け声があるにも関わらず、残念ながら抑制の方向に動いてしまいました。もう、アイドル・エコノミーではないし、事業としての運営になるので、不動産投資の対象というよりも、もはや旅館業、ホテル業、簡易宿泊業といった状況になりつつあります。
そもそも民泊やエアビーは不動産投資ではありません。空き部屋を貸す程度ならまだしも、わざわざ整備したマンションや一軒家を貸すとなると、旅館業、ホテル業といった事業になってしまいます。
不動産投資は既に書いたように管理委託することで、委託する力を借りて楽ちんに投資回収するモデルです。こうなると、そもそも形態が違うのです。
私は別に、旅館業やホテル業をやりたいわけではなく、不動産投資を賃貸事業としてやりたいだけです。不動産賃貸業をしたいなら、民泊やエアビーは勧められません。
しかし、民泊やエアビーを宿泊施設・サービスを提供する事業としてやりたいなら、悪くない事業投資だと思います。
旅館業をしていた我が実家の話
なぜ、私は民泊やエアビーをやらないかというと、まず、不動産投資とは別に本業があるので、民泊やエアビーの手間に時間を使えないということがあります。
さらに言うと、実は我が実家はかつて旅館業をしていて、その大変さを知っているからです。手間がかかるし、その割には儲けが少ないといった実態を見ています。
清掃や整理整頓で人件費がかかり、タオルやシーツなどのリネン代、夜中の宿泊客への対応など一筋縄ではいきません。規制対応もありますし、クレーム処理など大変です。まして、泥酔、喧嘩、事故、盗難、火事(ボヤ)、果ては自殺なども起き得ます。そういう実態も見てきました。
とても片手間ではできませんし、時間と管理の手間を相当つぎ込まなければならないというのが、実家の旅館業を見ていて思ったことでした。ですから、私は旅館業やホテル業としての覚悟がない限り、おいそれと民泊には手を出せないと思っているのです。
事業として行う覚悟があれば民泊は良い
もちろん、仕組み化し、人手をできるだけ省いて、委託サービスを上手に使うことで事業として行うことも可能でしょう。人気の観光地のそばや、施設そのものが人気になれば、十分事業として回ります。
最初に紹介した下町の長屋を改造した知人の例は、まさに成功例の典型でしょう。知人は、おそらくサービス業向きなのでしょう。
事業として行う覚悟があれば、民泊は大きなリターンをもたらしてくれるでしょう。しかし、私のような賃貸業で回す不動産投資家の場合は、そこまでの手間と時間をかけられず、やっていられないのでやりません。
さて、皆さんは、どう判断するでしょうか?不動産投資ではなく、事業として、どう見るでしょうか?事業として見るならお勧めするのもありですが、私は手が出せないというのが正直な気持ちです。
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著者紹介
石川 貴康石川 貴康
外資系コンサルティング会社、シンクタンクに勤務し、現在は独立の経営コンサルタント。大手企業の改革支援を今も続ける。対製造業のコンサルタントでは業界第一人者の一人。会計事務所も経ており、経理、資産評価、相続対策にも詳しい。2002年から不動産投資を始め、現在は15棟153室ほか太陽光3箇所、借地8箇所を経営する。著書に『いますぐプライベートカンパニーを作りなさい! 、サラリーマンは自宅を買うな(東洋経済新報社)』『サラリーマン「ダブル収入」実現法 、100円ちゃりんちゃりん投資、(プレジデント社)』など