不動産投資の最新動向
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2019年12月27日(金)
解除ができない…サブリース契約の大きな落とし穴
不動産投資家にとって、空室や滞納などにより家賃収入が途絶えることは大きなリスクになることから、対策として不動産会社と「サブリース契約」を結ぶことがあります。
サブリースによって一定の家賃が毎月保証されるので収益を安定させられますが、昨今の「レオパレス」や「かぼちゃの馬車」の騒動の一件で明らかになったように、サブリースには不動産投資家の方が気づいていない大きなリスクが潜んでいます。
そこで本記事では、不動産会社から教えてもらえない「サブリース契約の闇」について徹底的に解説したいと思います。
不動産投資でサブリース契約を検討している方や、すでにサブリース契約をしていて不動産会社とトラブルになっている方は是非参考にしてください。
サブリース契約を「解除したい」オーナーが多いわけ
不動産会社とサブリース契約を結べば、期間中の家賃については一定額で保証されるため安心だと考えている不動産投資家の方がたくさんいます。しかし、サブリースによって保証される保証家賃の金額は徐々に下落していくケースが非常に多いです。
そのため、新築購入時にサブリース契約を結んだものの保証家賃が思った以上にどんどん値下がりすることから契約解除を検討するオーナーも多くいます。
では、なぜ保証家賃は下落するのでしょうか。
そもそもサブリース契約とは、不動産会社が不動産投資家からアパートやマンションを一括で借り上げる契約で、不動産投資家には空室かどうかに関係なく毎月一定の「保証家賃」が不動産会社から支払われる契約のことです。
通常の賃貸借契約の場合、不動産投資家はエンドユーザーである賃借人と直接契約を結ぶため、部屋が空室になったり家賃が滞納したりすれば収益が落ち込むことになります。
一方、サブリース契約であれば不動産会社が借り上げたうえで、エンドユーザーに転貸(又貸し)をする契約になるため、たとえ部屋が空室だったとしても保証家賃については不動産会社から支払われ続けるのです。
保証家賃の金額については、賃借人に直接賃貸した場合の想定家賃の90%前後となることが一般的で、例えば想定家賃80,000円の物件だとすれば保証家賃は72,000円程度になります。(※80,000円-72,000円=8,000円が不動産会社の利益となります)
毎月受け取る金額自体は低くなりますが、空室や滞納によって一時的に家賃収入が途絶えることがなくなるため、不動産投資の初心者でもキャッシュフローが安定するというメリットがあるのがサブリース契約の特長です。
そもそも当初の保証家賃の設定額が「高い」
保証家賃が値下がりしていく一番の原因は、新築当初の設定金額が高すぎることに起因します。
もともとサブリースという仕組みは、「空室リスク」や「滞納リスク」を打ち消すことで、これらを懸念している投資家に投資物件を売りやすくすることを目的につくられた一種の営業ツールです。
投資物件を投資家に売るためには、それなりに高い保証家賃を提示しなければ利回りの見栄えが悪いため、通常は相場家賃の90%程度が目安となるところを95%以上の高い金額で保証することを条件に、なかば強引に売買契約を締結してしまうのです。
このようにして「営業ツール」として用いられたサブリース契約は、新築後数年以内にほころびが出てくることがほとんどです。
新築後、最初に入居する入居者の家賃については、「新築」というアドバンテージがあることから相場より高い家賃でも概ね決まるため、保証家賃が高くても特段問題は生じずそのまま保証が続きます。
ところが、数年後に最初の入居者が退去すると新築というアドバンテージが失われるため、通常相場の金額に家賃を修正せざるを得なくなるのです。
不動産会社としては家賃を下げようにも新築当初に高い金額で保証家賃を設定しているため、単に家賃を下げてしまうと不動産会社の収益がほとんどなくなってしまうことから、このタイミングで投資家に対して保証家賃の値下げについて切り出してきます。
簡単にまとめると保証家賃が値下がりする原因は、投資家に投資物件を買わせるため強引に設定した「当初の高すぎる保証家賃の金額設定」にあるのです。
「30年一括借り上げ」の真実
サブリース契約を扱っている不動産会社の中には、「30年一括借り上げ」など長期間の借り上げ家賃保証を安心材料に投資物件を売るケースがあります。
契約期間は30年に設定されるため、一見すると30年間安泰のように感じるかもしれませんが、サブリース契約書の条文をよく見ると契約期間とは別に「保証家賃の見直し期間」が規定されていることがほとんどです。
条文例:保証家賃の金額は、1年ごとに見直しするものとする
このような条文が記載されていると、たとえサブリース契約期間が30年だとしても1年後には保証家賃が値下がりする可能性があります。
不動産投資家の方の中には、サブリース契約期間中は保証家賃が変わらないと誤解している方が多いため非常に危険です。
値下げに反対しても一方的に下げられる現実
保証家賃の値下げを打診された投資家としては、当然反対することと思います。
保証家賃を変更するためには、原則として「双方の同意」が必要になるため不動産会社が一方的に保証家賃を値下げすることはできません。
ところが、不動産会社の中にはいつまで待っても投資家が同意しない場合、一方的に保証家賃の値下げを決定して通知してくることがあるのです。
一方的な変更は本来許されないのですが、不動産会社としても利益をほとんど生まない物件をいつまでも借り上げておくわけにはいかないため、場合によっては強行手段に出られてしまう可能性があります。
保証家賃を支払うのはあくまで不動産会社なので、一方的に値下げした金額で振り込まれてしまうと、納得はいかないものの裁判でも起こさない限り泣き寝入りせざるを得ないのが実情です。
売却に立ちはだかる「解除不能」問題
保証家賃を一方的に値下げされると、当初予定していた利回りから大きく下がってしまうためローンの返済が苦しくなってきます。
値下がり幅が大きいと、保証家賃でローンが支払いきれず、毎月自身の給与などから持ち出しになってしまうケースも少なくありません。
このような状況に陥ると、投資家としては最後の手段として物件を売却していわゆる「損切」を検討しますが、ここでもまた大きな問題にぶつかることになります。
サブリース契約を締結している物件を売却しようと複数の不動産会社で買取査定をとってみると、ほぼ必ず買取の条件として「サブリース契約の解除」を提示されます。
ここまで読んでいただければわかる通り、サブリース契約は所有者にとってリスクが高いので、その契約を解除しなければ買い取ってもらえないことが多いのです。
売却するためにはサブリース契約を解除する必要がありますが、不動産会社にその旨を伝えると解除を拒否されることがあります。
不動産会社としては、よほど人気のない物件でもない限り、サブリース契約を解除されると管理物件を失うことになるので全力で拒否してくるのです。
「拒否されても一方的に解除通知を出せばよいのでは」と思うかもしれませんが、実はサブリース契約は不動産会社が応じないと解除できない可能性があります。
サブリース契約が解除できない「法的根拠」とは
そもそもサブリース契約という名称は商品名のようなもので、法的な性質としては投資家を賃貸人、不動産会社を賃借人とする賃貸借契約であり、特約で「転貸(又貸し)」を許可していること以外は通常の賃貸借契約と同じです。
つまり、投資家からサブリース契約の解除を申し出るということは、大家が賃借人を一方的に追い出すことと法的には同じ意味合いになってきます。
賃貸借契約について規定している借地借家法では、賃貸借契約の賃貸人からの解除について次のように規定しています。
借地借家法 第28条
「建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、「正当の事由」があると認められる場合でなければ、することができない」
このように賃貸借契約を賃貸人からの申し出によって解除するためには、「正当事由」が必要になります。
正当事由と聞くと、
・保証家賃が低くてキャッシュフローが苦しい
・不動産を売却するため
・自分自身で部屋を使いたい
といった事情であれば認められると思うかもしれませんが、ここでいうところの正当事由はそんなに甘いものではありません。
正当事由を争った「過去の裁判」の傾向
賃貸人からの賃貸借契約解除による明け渡し請求については過去に複数の裁判例がありますが、多くのケースで賃貸人が具備していなければならない正当事由が認められないと判断されています。
正当事由については、建物が老朽化していて危険な場合や、賃貸人がどうしてもその部屋を使わなければならない差し迫った事情がある場合、そして賃借人に対して立退料などの給付がされているか、といった事情を総合的に考慮して判断されるのです。
借地借家法は基本的に「賃借人を守るための法律」なので、正当事由についてはなかなか認められないのが実情のため、不動産会社はこれを知った上でサブリース契約の解除を拒否してくるのです。
サブリース契約の中には長期ではなく、2年ごとに更新となっているものもあります。
では、更新のタイミングで更新をせずに契約を終了することはできるのでしょうか。
結論からいうと、不動産会社が解除に応じてくれれば終了できますが、拒否されると現実的に解除は難しくなります。
賃貸人からの契約解除については、契約期間中でも契約期間満了でもどちらのケースにおいても「正当事由」が必要なことに変わりはありません。賃借人である不動産会社が応じなければたとえ契約期間満了のタイミングでも終了できず自動更新になってしまうのです。
契約解除に応じてもらえるかどうかはケースバイケース
サブリース契約は管理委託契約とは違い借地借家法の適用があることから、解除をする際にはこのように深刻な問題が生じます。
ただし、すべての不動産会社がサブリース契約の解除に応じないわけではありません。
不動産会社によっては一定の違約金を支払うことで解除に応じてくれる場合もありますので、事前に確認することが重要です。
確認をせずに先行して不動産売買契約を締結してしまうと、万が一解除に応じてもらえなかった場合に買主との間でトラブルになる可能性がありますので十分注意しましょう。
不動産会社がサブリース契約の解除にどうしても応じてくれない場合は、残念ながらご自身の力だけで解除することは極めて難しいので専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すると、通常は内容証明郵便で解除通知を出すことが一般的です。
不動産会社によっては弁護士が関与してきた時点で諦めて解除に応じる場合もあるため、まずは一度弁護士名で書面を送ってみるとよいでしょう。
さらに自社の仲介で不動産を売却した時のみ、サブリース契約の解除に応じるというスタンスをとっていることがあります。
利回りが悪くてどうしても売りたいという場合は、サブリース契約を締結している不動産会社に売買の仲介を依頼すれば、契約を解除した上で売却できる可能性がありますので、一度不動産会社に聞いてみるとよいかもしれません。
まとめ
サブリース契約は多くの不動産投資家の方が利用していると思いますが、入居率が悪くなってくると思った以上に保証家賃が下がってくる可能性があるため、当初の設定金額を鵜呑みにするのはとても危険です。
また、サブリース契約を結んでいる不動産会社の経営状態が悪くなると、周辺相場が変動していなかったとしても強引に保証家賃の値下げを打診してくるケースもあります。
「家賃保証」というと聞こえはいいですが、実際は保証家賃の下落や解除拒否など様々なリスクがありますので、サブリース契約を利用する際には今回指摘した問題点について事前に不動産会社に確認してから契約することをおすすめします。
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著者紹介
不動産投資塾編集部不動産投資塾編集部
投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾新聞社」を介し、公平な情報をお送りいたします。