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2019年12月28日(土)
ハズレくじは意外に多い、買ってはいけない違反建築物件~後編
中古物件投資における違反建築物のリスクについて考えるうえで避けて通れないのが、昨年から大きな話題になっている「レオパレス問題」です。
前回のコラムでも若干触れましたが、レオパレスで発覚した違反建築物は非常に悪質なものが多く、中古物件を中心に投資をしている方にとってはとても不安になったことと思います。
そこで今回は、レオパレス問題に焦点を当てながら中古物件に投資する際に注意すべきポイントについて考えていきましょう。
レオパレス問題で有名になった「界壁」とは
レオパレスに関連する一連の問題の中でいくつかの建築基準法違反が指摘されていますが、中でも最も衝撃的だったのが「界壁」に関する違反です。
界壁と聞いてピンとこなかった人も多いかもしれませんが、簡単にいうと「壁」のことです。
ただ、壁というと部屋の中にある壁だけをイメージするかもしれませんが、建築基準法でいうところの界壁とは目に見える部分の壁だけではなく、小屋根裏など普段の生活では目に見えない部分まで含みます。
賃貸物件でいうところの界壁とは、隣の部屋との境界線にあたる部分の壁のことで、快適で安全な住環境を確保するために建築基準法では一定の基準をクリアすることが規定されているのです。
界壁に求められている基準
賃貸物件における界壁は、大きく分けて次の2つの性能を有することが建築基準法で義務付けられています。
火災の延焼をおさえる防火性能
賃貸物件で火災が発生した場合に隣の部屋へ燃え広がることを防ぐために、隣の部屋との境界線になっている界壁について、次のような耐火構造や準耐火構造にすることが義務付けられています。
耐火構造:火の高温にさらされても、構造上ある程度耐えうる強度を持つもの
準耐火構造:火の高温にさらされたとき、すぐには構造上の耐久力を失わないもの
要するに界壁に使用する素材については、一定の耐火性能を有するものを使用しなければなりません。耐火性能は住人の命にかかわる非常に重要な部分なので、絶対に違反があってはならないのです。
騒音問題を防ぐ遮音性能
界壁のもう一つの役割は遮音性能です。
アパートなどの共同住宅は界壁で隣の部屋と区切っているため、界壁の遮音性が一定以上でないと音漏れのひどい物件になってしまいます。
遮音性能については、建築基準法において次のような基準が示されています。
振動数125Hz:透過損失が25dB
振動数500Hz:透過損失が40dB
振動数2,000Hz:透過損失が50dB
レオパレス物件というと、話声やくしゃみの音が聞こえてくるなど防音性能に問題があるという指摘が利用者から度々あったようですが、今回の一連の問題発覚で、その理由がはっきりとわかりました。
このように界壁は防火性能と遮音性能という2つの性能を一定基準で満たしている必要があります。ところが、レオパレスの界壁は両方の性能を満たしていない悪質な違反をしていたのです。
世にも怖い界壁違反のパターン
レオパレスで発覚した界壁の違反は、大きく分けて2つのパターンがあります。
界壁が存在しない
界壁は室内で目に見えている部分以外に、天井裏、軒裏、小屋根裏(最上階の天井と屋根の間の空間)まで達するように設置しなければなりません。そうすることで、建物のどこで火災が発生したとしても、火災の延焼スピードを遅らせることができます。
ところが、違反が発覚したレオパレス物件の多くでこれらの箇所に界壁自体が存在しないことが発覚しました。
界壁の一部に不備がある
必要な箇所に界壁が存在しているものの、一部に不備がある物件も見つかっています。
本来、界壁は隙間なく隣との境界を形成していなければならないところ、界壁の一部に隙間や穴が開いている部分があったのです。このような施工不備は通常発生しないため、かなりの手抜き工事をしていたことがわかります。
界壁以外の違反も次々と発覚
調査が進むにつれて界壁に関する違反以外に、外壁内部や天井にも次のような違反が見つかりました。
外壁の内部にも問題が発覚
建設省告示第1827号第2の2によると、「下地等を有する壁の構造方法」について次のように規定されています。
・壁の厚さが10センチ以上
・内部に厚さ2.5センチ以上のグラスウールまたはロックウールを張ったもの
上記基準を満たすことで一定の防火性能と遮音性能が担保できるわけですが、レオパレス物件の一部ではグラスウールではなく、発泡ウレタンを使用していたことが分かったのです。
発泡ウレタンはグラスウールよりも低価格で仕入れられるため、コスト削減のために使用したと考えられます。
天井のボードの不備
図面上では天井の石膏ボードは二重に設置することになっていたにも関わらず、実際の天井を開けてみると、石膏ボードが1枚しかない物件が複数見つかりました。
天井が石膏ボード1枚で界壁もないとなると、隣の生活音はほとんど丸聞こえの状態になると考えられます。
完了検査でなぜ気が付かなかったのか
そもそも界壁が存在しないなど、非常にひどい違反があったわけですが、本来こういった違反については建物が完成した後に行う完了検査によって発覚するはずです。
ひと昔前は完了検査を受けない物件が非常に多かったのですが、最近では9割以上の建物がきちんと完了検査を受けています。問題となっているレオパレス物件についても完了検査を受けており検査済証も発行されていました。
写真のみで確認か
これらの違反建築物になぜ検査済証が交付されてしまったのでしょうか。
もともと、界壁など建物が完成すると直接目視で確認することができない部分については、施工中の写真などによって完了検査をするそうです。
実際にどのような検査が行われたのかは定かではありませんが、完了検査体制のずさんさが、今回のレオパレス問題で大きく浮き彫りになりました。
不動産投資家としては、中古物件を購入する際に売主が持っている検査済証を信頼して購入するわけなので、検査済証が信頼できないとなると、中古物件を購入する際には違反建築物を買ってしまわないよう、自分自身で物件を確認するなど注意を払わなければなりません。
誰が払うの?多額の補修工事費用
違反が発覚した場合は建築基準法の基準を満たすように補修工事をしなければなりません。ただ、レオパレス問題で発覚した界壁などの違反については、新たに界壁を設置するとかなり大掛かりな工事になるため、状況によっては数百万円から数千万円という多額の工事費用がかかることとなります。
レオパレスのホームページによれば、界壁の補修工事費用についてはレオパレス側の責任と負担において実施すると記載されていますが、違反が確認されている件数を考えると所有者としてはきちんと負担してもらえるのか不安なことでしょう。
既存入居者の立ち退き費用はどうなる?
小屋根裏の界壁を施工するためには、入居中の部屋の天井を切り開いて数日〜数週間かけて工事をしなければならないため、入居者には一旦部屋を退去してもらう必要が出てきます。
通常、家主の都合で入居者に退去してもらう際には、次の住まいの契約金や引越し代として一定の立ち退き費用を支払うケースが一般的です。
レオパレスのホームページによると、解約時違約金や基本清掃費、原状回復費などについては免除するほか、レオパレス管理物件への住み替えに対して初期費用の免除や引越し費用などについてレオパレスが負担するとしています。
レオパレス問題から違反建築物のリスクを学ぶ
レオパレスが大手不動産会社であったことから、オーナーの負担が最小限に食い止められそうな状況ですが、もしもこれが地方にある小さな工務店が施工したアパートだったらどうなるでしょうか。
法的には施工した業者側に責任があるにしても、現実的に補修費用や立ち退き費用を負担するだけの資力がなければ、事実上所有者自身で負担せざるをえません。
特に入居者の立ち退き費用については、入居者からすると賃貸借契約の相手方は所有者(サブリースの場合は不動産会社)なので、たとえ不動産会社が支払いに応じない場合でも所有者が入居者に支払うことになります。
また、これらの費用を全て不動産会社が負担したからといってそれで物事が解決するわけではありません。補修工事をしている間は家賃が発生しないため収益を生まないのです。
補修期間中の家賃保証についてどこまで所有者に保証されるのか明確にわかりませんが、現在のレオパレスのおかれている状況を考えると手放しで安心できる状況ではないでしょう。
まとめると、所有物件で建築基準法違反が発覚した場合、次のような損害が発生する可能性があります。
・補修工事費用
・立ち退き費用
・家賃収入の損失
・資産価値の低下
レオパレスオーナーの中には、レオパレスという会社自体に損害賠償請求訴訟を起こそうという動きもあるようですが、一方で会社を存続させて家賃保証を継続するためにも損害賠償請求は自粛すべきとの声もあり、オーナーの中でも意見が割れているようです。
何れにしても、問題が全て解決するまでにはしばらく時間がかかるでしょう。
違法界壁物件を買わないために
界壁の施工不良には大きなリスクがあることが、レオパレス問題を通してお分かりいただけたかと思います。では、中古物件投資において界壁の施工不良を見抜くためには具体的にどのような対策をとればよいのでしょうか。
天井裏が簡単に見える場所
界壁の施工状況を確認するためには、目視で天井裏や小屋根裏を確認する必要があります。
ただ、界壁の状況を確認するためにその都度天井に穴を開けるわけにはいきません。そこで手っ取り早く界壁の状況を確認する方法として有効なのが「ユニットバスの点検口」です。
賃貸物件の多くはユニットタイプのバスルームを導入しているケースが多く、ユニットバスの天井についている点検口から天井裏を直接確認することができます。
ユニットバスの天井を見ると四角い切れ目が入っているので、そこを両手で上へ押し上げるとそのまま蓋が空いて天井裏を見ることができるのです。
界壁が目視で確認できればよいのですが、界壁がなかったり、ところどころ隙間が空いていたりするような場合については違反建築物の可能性がありますので購入は見送った方がよいでしょう。
界壁以外に注意すべき違反について
今回はレオパレス問題に端を発した界壁の違反について解説してきましたが、中古物件に投資する際には界壁以外にも注意すべき違反があります。
人気のロフト物件にも違法の罠が
ワンルーム物件で非常に人気があるのが「ロフト付き物件」です。
ロフトは建築基準法において次のような規定があります。
・ロフト部分の床面積が、ロフトがある階の床面積の1/2未満
・ロフトの天井高は、最も高い部分で1.4m以下
ロフトの規定を満たしていれば、法定延床面積から除外されるためロフト部分の面積については固定資産税が課税されません。ところが古いロフト付物件の中には上記規定のうち、天井高が1.4mを超えているケースがよくあるため注意が必要です。
ロフトの天井高については、仮に1.4mを超えていたとしても天井を下げることでどうにか対処が可能です。ところが、天井高をオーバーしている物件の多くが、建物全体の高さ制限もオーバーしている可能性があることに注意しなければなりません。
建物の高さについては、地域ごとに上限が定められていますが、ロフトの天井高をオーバーしている物件については建物全体として高さがオーバーしている可能性があるのです。
万が一高さ制限に違反していると、現実的には補修工事で改善することができないため、絶対に買わないことをおすすめします。
まとめ
全2回にわたって建築基準法に違反している、違反建築物のリスクについて解説してきました。
築浅や新築の物件についてはある程度信頼性がありますが、建物完成後の完了検査が4割程度しか実施されていなかった2000年以前に建てられた物件については、レオパレス物件のように界壁不良の可能性があります。
特に大手ハウスメーカーではなく、小規模な工務店が建てた物件についてはコスト削減を優先して、見えない部分について基準を満たしていない可能性がありますので十分注意しましょう。
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著者紹介
不動産投資塾編集部不動産投資塾編集部
投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾新聞社」を介し、公平な情報をお送りいたします。