竹村鮎子弁護士の学んで防ぐ!不動産投資の法律相談所
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2019年6月10日(月)
弁護士が勉強方法を伝授! 不動産オーナーが知っておくべき法律とは?
賃貸経営を行うオーナーの方は、不動産に関する法律についてどの程度の知識をお持ちでしょうか。
賃貸経営を行うオーナーは、事業者として不動産経営のプロであると位置づけられています。このため、何かトラブルがあったとき、「法律を知らなかった」という言い分は通りません。
それでは、オーナーはどの程度の知識を持っているべきなのでしょうか。
もちろん、弁護士と同じようなレベルまでは必要ありません。しかし、最低限の知識がないと管理会社の言いなりになる賃貸経営しかできません。
そこで本稿では、オーナーさんが賃貸経営をするに当たって必要な法律知識をどのように勉強したら良いかについて、私なりの意見をお伝えします。
すべての法律を学ぶ必要はなし。ポイントを理解した勉強を
ひと口に「法律」といっても範囲が広く、具体的にどんな勉強をすれば良いのかわからない方も多いのではないでしょうか。
現在、日本には2,000を超える法律があります。
不動産オーナーだからといって、日本の法律をすべて勉強したり、六法全書を覚えたりする必要はありません。
賃貸経営に必要な法律は、まず「民法」、そして「借地借家法」になります。
この2つの法律をきちんと勉強しておけば、賃貸経営に必要な知識を、おおよそカバーできます。
また、法律を勉強する上でのポイントを理解しておくことで、民法や借地借家法以外の知識を問われても、ちんぷんかんぷんでパニックになることはまずありません。
そこでまずは「民法」と「借地借家法」について勉強していきましょう。
法律の知識習得の目安はどのくらい?
オーナーとして必要な知識に達したとされる目安は、宅地建物取引士の試験で出題される「民法」と「借地借家法」(いわゆる「権利関係」の分野)の問題が7割程度解けるレベルと言えるでしょう。
宅地建物取引士の試験では、民法などの権利関係以外にも宅建業法などの知識が問われますが、宅建業法は賃貸経営に限っていえば必要性は乏しいので、特に勉強をしなくても良いかもしれません。
また、宅地建物取引士の試験範囲である「都市計画法」や「建築基準法」などの「法令制限」分野は、不動産を取り扱うには非常に興味深い分野ですが、不動産売買時のトラブルや賃貸借契約上のトラブルとはあまり関係ありません。
オーナーは、民法や借地借家法の知識レベルとしては、宅地建物取引士の試験に適応できる程度のものがあることが望ましいですが、必ずしも宅地建物取引士の試験の合格を目指す必要はありません。
具体的な勉強方法とは?
それでは、具体的にどのように勉強をしていくのが良いのでしょう。
不動産オーナーは、宅地建物取引士の合格を目指すわけではないので、宅地建物取引士試験の過去問を繰り返して解くといった、試験対策に特化した勉強は必要ありません。
知識として必要なのは、「民法」と「借地借家法」です。
まずは、宅地建物取引士の試験テキストで民法と借地借家法について勉強していきましょう。
それから簡単なもので良いので、民法と借地借家法の条文が掲載された「六法」を用意してください。テキストに「民法177条」などの条文が出てくるので、その都度六法で条文を確認しましょう。
最も大切なのは、「丸暗記をしない」ということです。丸暗記ではなく、「理解する」のが法律の勉強です。
「民法177条」を例に、法律を“理解する”勉強について考えてみよう
ここで、宅地建物取引士試験に頻出している、民法177条について考えてみましょう。
民法177条は、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」という規定です。
条文の規定は分かりにくいのですが、「不動産に対する所有権移転や抵当権設定などの物権を変動することは、登記をしなければその権利を第三者に主張できない」という意味です。
これは不動産の対抗要件について定めた条文であり、宅地建物取引士の試験では、例えば以下のように出題されます。
「Bは平成31年4月1日にAから土地を購入したが、所有権移転登記を行わなかった。その後、Aは同年4月15日に、同じ土地をCに売却し、同日、同土地について、AからCへ所有権が移転したことを内容とする所有権移転登記を行った。BはCに対して、『自分が先に土地について売買契約を締結した』ということを理由に、自分が所有権者であると主張できるか」
この問題は、まさに民法177条が適用される場面です。
民法177条によれば、所有権は売買契約をしても、不動産についての登記を移転させていなければ、第三者に対して、その権利を主張できません。
問題では、Bは売買契約後、土地についての所有権移転登記を行っておらず、先に土地についての所有権移転登記を備えたのはCのほうです。すなわち、民放177条により、BはCに対して「自分が土地の所有者である」ということを主張できません。
……というのは「丸暗記」のやり方です。
オーナーは、「なぜ、売買契約の先後ではなく、所有権移転登記を行ったか否かによって、所有権が主張できるかそうでないかが決められるのか」という点にまで踏み込んで理解することが必要です。
すなわち、条文の趣旨まで理解するべきなのです。
なぜ第三者に所有権を主張するには、登記を備えている必要があるのでしょうか。
仮に、民法177条が「所有権の移転は契約をすることによって第三者に対抗できる」という条文であったとします。
この場合、BはCより先にAから土地を買ったので、所有権移転登記を行っていなくても、後から同じ土地をAから買ったCに対して、「自分が真の所有者だ」ということを主張できます。
しかし、AとBとの間で本当に売買契約があったかどうかは、Cからは分かりません。そもそもAの立場からすれば、わざわざCに対して「本当はBにすでに土地を売っている」などと言う訳がありません。
このため、Cにしてみれば、Aから土地を買ったはずなのに、突然Bが出てきて、「土地は自分のものだ」と言われ、土地を奪われるのですから、土地を買ったとしても安心できません。
誰が真の所有者であるか分かる手段は事実上ないため、もう土地を買うことをはやめようとすら思うかもしれません。
そのような法律が適用される社会では、不動産取引が停滞してしまいます。
こういった事態を回避するため、誰にでも閲覧することができる「不動産登記」によって不動産に対する権利を主張できることにしたのです。
すなわち、民法177条の趣旨は、「不動産取引の安全を保護する」ためのものなのです。
条文の趣旨を理解しておけば、その条文をより正確に適用することができます。
また民法177条には、「登記をしなければ第三者に対抗できないとする『第三者』に登記がないことを知りながら、真の権利者を害する意図を持った背信的悪意者は含まれるか」という典型的な問題点があります。
民法177条の趣旨が「不動産取引の安全を保護する」ものだと分かっていれば、上記の問題点について「答え」を暗記していなかったとしても、自ずと「民法177条は、真の権利者を害する意思を持った人まで保護する趣旨の条文ではない」として、答えにたどり着くことができるでしょう。
そもそも法律は、突飛なことを定めたものではありません。人々が社会で暮らすためのルールを調整したものなのです。
したがって、自分の社会常識と照らし合わせて筋道を立てて考えていけば、きちんと正しい答えにたどり着きます。ですから、法律の勉強は覚えることばかりで難しいというのは誤りです。
民法や借地借家法の勉強をしようと思っているオーナーは、法律の趣旨をきちんと分かりやすく解説しているテキストを選んでみてください。
法律の趣旨をきちんと理解し、それを使いこなせるようになれば、法律は賃貸経営の強い味方になってくれるでしょう。
まとめ
不動産経営のオーナーとして、必要な知識に達したとされる目安は、宅地建物取引士の試験で出題される「民法」と「借地借家法」(いわゆる「権利関係」の分野)の問題が7割程度解けるレベルです。法律の勉強は、丸暗記するのではなく、「理解する」というスタンスで勉強することが大切です。
法律の勉強は難しいイメージがありますが、社会常識を鑑みて筋道を立てて考えていけば、おのずと正解が導き出せるようになっています。法律の趣旨と本質をきちんと理解し、使えるように学ぶことで、ご自身の賃貸経営に役立ててください。
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著者紹介
竹村 鮎子竹村 鮎子
弁護士。東京弁護士会所属。
2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。
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