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税理士・不動産鑑定士小林千秋の プロが教える資産の守り方

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不動産投資における消費税還付を利用して利回りを向上させよう

目次

不動産取得時には、多額の消費税が発生します。不動産投資家は、何もしなければこの消費税をまるまる支払うしかありませんが、課税事業者となることで、消費税還付を申請することができます。不動産投資における消費税還付をどのように行えばいいか、ご紹介します。

かつて流行した自動販売機設置スキーム

消費税の還付ブームの火付け役となったのが自動販売機設置スキームでした。

消費税は、売上の消費税から、仕入先に支払った消費税を差し引いて納めるのがルールとなっています。もし支払った消費税のほうが多ければ、差額を還付してもらうことができます。

ところが不動産投資の場合、マンションなどの不動産の建築費用には多額の消費税が発生する一方で、家賃収入は非課税であるため、消費税の申告義務が発生せず、還付を受けることができませんでした。

そこで自動販売機を設置して課税売上をつくることで、建築費用にかかった消費税を還付させるという自動販売機設置スキームが流行しました。自動販売機の売上はすべて課税売上であるため、自身が消費税課税事業者となることができ、簡単に消費税の還付を受けることができたのです。

また還付金の割合は課税売上と非課税売上の按分で決まります。全売上に占める課税売上の割合が50%であれば、還付の対象となる消費税も50%です。

しかし例えば物件の受け取りを12月末にして、1月から入居者を認めるようにし、その間の売上を自動販売機による課税売上のみにすることで、還付金を100%にすることもできました。

国はこの状況が面白くないため平成22年および28年に消費税還付スキームを封じ込めるための税制改正を行いましたが、いくつかの条件を満たすことにより現在でも消費税の還付が可能です。

消費税還付の条件①課税事業者になる

消費税の還付を受けるための条件について、確認していきましょう。

まず、還付を受けることができるのは、原則課税している「課税事業者」に限ります。

課税事業者になる方法は次のようになります。

イ 消費税課税事業者選択届出書を税務署に提出。
ロ 基準期間(届出書提出の前々年度)の課税売上が1,000万円を超えること。

消費税のかかる取引、かからない取引

次に、納税義務が発生する課税売上と、発生しない非課税売上を知っておきましょう。

消費税を納める義務があるのは、課税売上のある事業者に限られます。建物を建築する場合「課税」の売上を見込める建物を選択しなければなりません。

課税・非課税については下記の表を参考にして下さい。

  課税 非課税
家賃 事務所・倉庫・店舗の賃料 居住用家賃
店舗併用住宅の家賃 店舗部分(床面積で按分) 住宅部分
共益費 事務所・倉庫・店舗賃料に付帯 居住用家賃の付帯

不動産投資をして消費税還付が受けられる場合

① 新設法人を設立し、その法人で不動産を購入予定の人
② 事業を行っており、課税売上がある個人事業主
③ すでに事業を開始して課税売上がある法人

不動産の所有者が個人のままであると、消費税還付は受けられません。そのため、不動産を入手する前に、個人事業主になるか法人を設立する必要があります。

平成30年現在の消費税は8%ですが、平成31(2019)年10月からは10%に増税されます。もし2億円の建物を購入した場合、消費税は最大1,600万円から2,000万円になりますので、この消費税還付を知っているかいないかでは、その後の利回り計算などで大きな違いになります。

簡易課税適用者は「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する

簡易課税制度を適用している事業者は、消費税の還付を受けられないため注意が必要です。簡易課税制度は、中小企業の事務負担を軽減するために、消費税の課税についての計算を簡易にすることができる制度です。

もし倉庫等の建物を購入する場合に消費税還付を申請したいと思ったときは、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する必要があります。

消費税還付のデメリットとは

消費税還付にもデメリットはあります。
まず、法改正によって物件取得から3年間は納税義務が発生し、課税売上と非課税売上の按分を3年間の通算にしなければならなくなりました。

つまり、初年度は100%の還付を受けたとしても、2年目と3年目の按分が2~3%になったら、初年度の還付金の大部分を再び納税しなければなりません。この差が50%以上の場合に返納の義務が発生するので、これを防ぐためには、マンションの1階や2階をテナントにして、課税売上の配分を高める必要があります。

また、3年間の通算ということは、よほどのことがない限り3年間は物件を売却しないほうがいいということになります。売却したら、その年以降は0%になってしまうため、初年度の還付金を全額返納しなければならなくなるのです。

また、新しく法人化する際に登録免許税仲介業者が介入した場合の仲介手数料や、消費税還付の申告を自分でできる人は別として税理士に任せる場合はその手数料などを払う必要があります。

還付金を得られる反面、新たに出て行く経費もありますので、十分考慮して決定して下さい。

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著者紹介

小林 千秋
小林 千秋

税理士・不動産鑑定士
有限会社横浜総合コンサルティング代表取締役
昭和25年、長岡市に生まれる。明治大学大学院卒業後、一般社団法人日本不動産研究所、会計事務所を経て、平成元年4月、税理士・不動産鑑定士として独立開業する。
財産評価に精通しており、現在、両資格を活かして相続対策、相続税の申告業務、事業承継対策、株式評価、不動産の鑑定評価、広大地評価等特殊な案件を担当すると同時に、財産評価に精通する税理士・不動産鑑定士として各種セミナーの講師を務めている。
URL:http://yokohamaconsul.com/

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