不動産投資の最新動向
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2018年6月29日(金)
家賃保証のような魅力的なサービスこそ投資家にとって最大のリスク
不動産投資はリスクを伴います。地価は常に変動しますし、空き家になる可能性もあります。そのようなリスクについて、これから不動産投資を始めようと考えている人はおそらく入念に考えているはずです。現在物件を持つ人も、買う際には真剣に考えたことでしょう。今回は、リスクに対する考え方についてご説明します。
オーナーになるとなぜかリスクに目が向かなくなる
ところが、実際に物件を買い、入居者が入るようになるにつれ、徐々にそのような意識が薄れます。
「トラブルもないし、うまくいっている」
「安定的に家賃が入っているから問題ない」
そんな気持ちが生まれ、リスクに対する警戒心や危機感が薄れていってしまうものなのです。よく考えると、これは不思議な現象です。
購入前も購入後も、地価は変動していますし、空き家になる可能性も変わっていません。リスクが変わっていないにもかかわらず、「現状としてうまく行っている」という理由だけで、リスクの意識だけが一方的に薄れていってしまっているのです。
このような慢心や油断が、オーナーの思わぬ落とし穴となる可能性があります。今回はその視点から、オーナーになってから考えたいリスク対策について考えて見ましょう。
収益計画は確定要素と不確定要素に分けて考える
まず確認したいのが、中長期的な収益計画です。収益に関する確定要素としては、まず月々の賃料収入があります。賃料はほぼ固定されていますし、短期で急激に変わることもないでしょう。中には家賃を払わない人もいますが、その場合は保証人に払ってもらうことができますので、収入となる金額は確定している要素として捉えて良いと思います。
支出の面では、月々のランニングコストが確定要素といえるでしょう。ランニングコストは、例えば管理会社にはらう管理費や税金などで、この総額が家賃収入より低ければ月々の収支はプラスになります。
しかし、プラスになっているからといって安心するのは危険です。
というのは、将来的には物件の修繕費がかかるはずで、その金額も確定要素として含めなければならないからです。
「収支が安定しているから大丈夫」
そう考える人も多いのですが、それはあくまで短期で見た場合の収支で、不動産投資は中長期で考える必要があります。仮に10年後に大きなリフォームが必要になるとして、そのための費用は準備できるでしょうか。
土地の価格はその時々の経済状況などによって上下しますが、建物は確実に劣化します。建物の設備などが新しいときにうまく事業が回るのは当たり前で、将来的に修繕費用は発生しますし、そのお金は大家の負担です。
そのことを頭に入れておかないと、大きな出費が発生し、一気に赤字になる可能性があります。
現時点での売却価格をこまめに把握することがリスクヘッジになる
次に、所有する不動産の現時点の価格を確認しましょう。つまり「今売却したらいくらになるか」です。
なぜ今の価格が大事かというと、前述した通り不動産投資にはリスクが伴うからです。今は収支が安定していても、来年はどうなるかわかりません。急に資金が必要になり、物件を売却しなければならないこともあります。
そのような可能性も考えて、不動産投資の「出口」となる売却価格を把握しておくことが、不動産投資で失敗しないための重要なポイントになるのです。実は、大家の中には、今の価格を知らない人がたくさんいます。
「長く持つ」「中長期で家賃を得る」という考えが強く、急いで売る必要性に迫られていないため、今の価格に対して目が向かないのです。
しかし、そもそもの話として、物件は自分の所有物です。大金を投じている資産ですから、価格変動によって資産の総額も大きく変わります。
そう考えれば、調べない方がおかしいとも言えるでしょう。価格を知る方法は簡単で、不動産業者に見てもらえばすぐに価格が出るはずです。市場には常に物件を求めている人がいますので、あいみつも取れますし、ほとんどの場合、無料で査定してくれます。
地価は常に変わりますので、目安としては3ヶ月に1回のペースで調べるとよいでしょう。「長く持つ」と計画していても、計画通りに進むとは限りません。将来のことを正確に予想することはできないのです。
ちなみに、現時点の価格も確定要素の1つです。
リスクは不確定要素から生まれるものですから、今の価格を知り、確定要素を増やすこともリスクを抑えることに繫がります。
家賃保証は決して確定保証でも安心材料でもない
もう1つ確認したいのが、所有する不動産にくっついて(くっつけて)いる契約についてです。その中でも注意したいのが家賃保証の契約です。
不動産市場の昨今の傾向として、物件(土地・建物)そのものではなく、付加価値となるサービスをつけて売るケースが増えました。家賃保証をウリにするサブリースはその一例で、他にも、修繕費をセットにするサービスなどもあります。
サブリース契約を例にすると、空室になっても賃料の8割が支払われるといった契約は大家側の安心材料に見えます。
「空き家になっても一定の収入が見込める」
「収益が安定する」
そう考える人もいるかもしれません。しかし、実態は違います。話題となったシェアハウスの問題で、サブリース契約が解除されたり、保証されるはずの賃料が支払われなかった例からも、そのことが良くわかるでしょう。なぜそのようなことが起きるかというと、不動産の売買や契約の根幹となる「借地借家法」が関係しています。
借地借家法の重要なポイントは、貸し手よりも借り手の方が強いということです。
衣食住は人間の生活のベースとなるため、安易に住む場所を追い出されるようなことがあっては困ります。そのような観点で、借地借家法では借り手が手厚く保護されています。
そのため、貸し手である大家が出ていってほしいと思っても、かなり正当性のある理由がなければ立ち退いてもらうことはできません。家賃の減額交渉でも借り手が強く、その他あらゆる面において、借り手が有利になった判例はたくさんあります。
サブリースも同じで、サブリース会社が借り手である以上、貸し手側である大家は常に不利な状態になります。「賃料の8割を保証する」という契約を交わしていたとしても、それは後々簡単にくつがえるかもしれない約束事の1つにすぎません。「30年にわたって月々8万円の家賃を保証する」といった契約も、現実的には何の保証にもならないのです。
家賃保証は、保証という言葉の響きもあり、必ず家賃が払われるという確定要素のように聞こえます。シェアハウスの問題でも、サブリース会社の支払いが止まるまで、ほとんどの購入者が安心で魅力的なサービスだと思っていました。
しかし、実際は確定要素ではなく、完全な不確定要素です。その他の付属的な契約についても同じで、付加価値としてくっついている契約が多いほど、不確定要素が増え、リスクが大きくなるのです。
家賃保証のようなサービスが増えるほどリスクは大きくなる
そのようなリスク対策として、まずは借地借家法の概要を知っておくことが大事です。売買とは直接的に関係ない契約も増やさない方が良いですし、すでにそういう契約をしている場合は、解除できるものから解除した方がよいといえます。
また、家賃保証のような付加価値が乗っている物件は、物件そのものの価格も本来の価値より高くなっている可能性があります。新築物件の価格に「新築プレミアム」が乗っかっているのと同じで、市場価格より高い価格で購入しているケースがあるということです。
新築物件の場合、買った瞬間に新築ではなくなり、「新築プレミアム」が消えます。つまり、購入する時点で市場価格との差が開いているため、新築プレミアムの分だけマイナスになります。
家賃保証などのサービスが付いている物件も、購入価格の中にはそのサービスの分が含まれています。家賃保証がなくなったり、サブリース会社が破綻したりすれば、付加価値の部分がなくなりますので、物件の売却価格も安くなるはずです。
そのような失敗を防ぐためにも、あらかじめ物件の市場価格を調べてみることが大事です。魅力的に見えるサービスだったとしても、大家業の安定や安心を約束するものではなく、むしろ収益を悪化させるかもしれないリスクとして捉える必要があるのです。
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著者紹介
小島 拓小島 拓
一般社団法人首都圏小規模住宅協会 代表理事
大学卒業後に不動産会社の営業職に従事し、以来10年以上にわたって、不動産投資のプロとして個人投資家の資産形成をサポートしてきました。しかし不動産投資の初心者を狙った悪質な業者の話を耳にすることや、自身が勉強不足なまま、先行き不安な物件に投資しようとする人を目の当たりにするにつれ、投資用不動産業界をもっとクリーンで、多くの人が正確な知識を持って安全に投資できるようにする必要があるという思いが募り、2018年度より、不動産業者としての立場に一旦区切りをつけ、投資用不動産業界の健全化を目的とした「一般社団法人首都圏小規模住宅協会」を発足しました。不動産投資による被害や失敗を減らしていく取り組みを随時行ってまいります。